世界資源戦争 57 多極化時代の「世界資源戦争」の新たな局面 | 世界資源戦争 56 実用レベルに近づいたCO2回収・貯蔵技術 | 世界資源戦争 55 欧州のエネルギー政策 次世代バイオ燃料 | 世界資源戦争 54 欧州のエネルギー政策 バイオマス発電 | 世界資源戦争 53 欧州のエネルギー政策 太陽光発電 | 世界資源戦争 52 欧州のエネルギー政策 産業競争力を高める環境対策 | 世界資源戦争 51 米国のエネルギー政策 石炭回帰 | 世界資源戦争 50 米国のエネルギー政策 再び脚光をあびる石炭 | 世界資源戦争 49 食料自給率のアップと関税の撤廃 | 世界資源戦争 48 水不足がもたらす危機と水資源戦争 | 世界資源戦争 47 京都議定書の大きなリスク | 世界資源戦争 46 京都議定書は「世界資源戦争」のひとつの側面 | 世界資源戦争 45 食料以外の有機物を原料とするバイオエネルギー | 世界資源戦争 44 課題の多いバイオエネルギー | 世界資源戦争 43 廃資源を買い漁る中国の環境問題 | 世界資源戦争 42 「都市鉱山」と資源リサイクル | 世界資源戦争 41 国によって異なる化石燃料代替エネルギー | 世界資源戦争 40 排出権ビジネスとクリーンエネルギー | 世界資源戦争 39 原子力発電とクリーンエネルギー | 世界資源戦争 38 世界で原発施設を売り歩く日本企業 | 世界資源戦争 37 日本、米国、フランス企業がしのぎを削る原子力事業 | 世界資源戦争 36 資源メジャー側にまわる大手商社 | 世界資源戦争 35 資源高で高収益の大手商社 | 世界資源戦争 34 大手資源グループの攻防 | 世界資源戦争 33 地球温暖化と原子力銘柄の相関関係 | 世界資源戦争 32 レアメタル市場 | 世界資源戦争 31 銅やアルミなど非鉄金属資源高騰の背景 | 世界資源戦争 30 金属資源高騰の背景 中国が牽引する鉄鉱石市場 | 世界資源戦争 29 新興産油国・石油企業の躍進  PEMEX(メキシコ石油公社)の攻防 | 世界資源戦争 28 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドのパイプライン建設攻防 | 世界資源戦争 27 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドをめぐるメジャーの攻防 | 世界資源戦争 26 新興産油国・石油企業の躍進  オイルサンドに活路を見出すカナダ | 世界資源戦争 25 新興産油国・石油企業の躍進  中国、日本に影響を及ぼすインドの躍進 | 世界資源戦争 24 新興産油国・石油企業の躍進  インド・リライアンス財閥 | 世界資源戦争 23 新興産油国・石油企業の躍進 ベトナムの国営石油ガス会社ペトロベトナム | 世界資源戦争 22 新興産油国・石油企業の躍進 PTT(タイ石油公社)とPTTEP(タイ石油開発公社) | 世界資源戦争 21 新興産油国・石油企業の躍進 ペトロナスの躍進とインドネシア国営企業プルタミナの攻防 | 世界資源戦争 20 新興産油国・石油企業の躍進 マレーシア国営企業ペトロナス | 世界資源戦争 19 新興産油国・石油企業の躍進 中国海洋の原油・天然ガス生産地域と外資の導入 | 世界資源戦争18 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の油田・ガス田開発 | 世界資源戦争17 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の躍進と政府の狙い | 世界資源戦争16 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業 | 世界資源戦争15 新興産油国・石油企業の躍進 ベネズエラのエネルギー外交 | 世界資源戦争14 新興産油国・石油企業の躍進 ラテンアメリカの資源ナショナリズム | 世界資源戦争 13 新興産油国・石油企業の躍進 ノルウェーと北海油田 | 世界資源戦争 12 新興産油国・石油企業の躍進 セブンシスターズとOPECの衰退 | 世界資源戦争 11 石油開発の歴史 アフリカ産油国をめぐる資源戦争の歴史 | 世界資源戦争 10 石油開発の歴史 中国の資源外交とアフリカの産油国 | 世界資源戦争 9 石油開発の歴史 ロシア・サハリンプロジェクトの進展と中国の動向 | 世界資源戦争 8 石油開発の歴史 ロシア・サハリンプロジェクトの推移 | 世界資源戦争 7 石油開発の歴史 WTIの登場と湾岸戦争 | 世界資源戦争 6 石油開発の歴史 イラン・イラク革命とOPEC諸国・非OPEC諸国の動向 | 世界資源戦争 5 石油開発の歴史 第四次中東戦争とオイルショック | 世界資源戦争 4 石油開発の歴史 OPEC誕生とアラブ産油国の反撃 | 世界資源戦争 3 石油開発の歴史 エネルギー革命 | 世界資源戦争 2 石油開発の歴史 石油ビジネスのはじまり | 世界資源戦争 1 はじめに |

世界資源戦争 57 多極化時代の「世界資源戦争」の新たな局面

大気中に排出されたCO2を科学技術によって回収し、海洋や地中に貯蔵する技術。これが実用化されれば、世界が直面している温暖化の最良の方策となるとされている。しかし課題も多い。まず、実施するために化石燃料の使用量が増える可能性があることだ。つまりCO2を回収・貯蔵するために新たなCO2を排出するという矛盾が生じるのである。


もうひとつの大きな課題はコストだ。石炭火力発電所から分離・回収する二酸化炭素を枯渇したガス田に貯蔵する実証実験が、福島県で2011年まで実施される。その分離・回収施設が実用化されるまでにかかる費用は5000億円とのことだ。国と一般企業が協同で事業を進めている。


一方、イギリスでは石油大手BP社が2004年からアルジェリアで実証実験を進めているほか、リオ・ティントと共同でオーストラリア西部の発電所でも実用化を探るための実験を続けている。海外では、すでに商業化を目前としているといわれている。カナダのワイバーン油田でも2000年9月から、CO2圧入の実証実験が始まっている。325キロ離れた米国の石炭ガス化工場で発生したCO2をパイプラインで輸送し、年間100万トン規模で20年間、総量2000万トンの圧入を計画しているという。


この分野は研究を始めて日が浅いこともあり、その効果や環境に及ぼす影響などまだ不明な点が多い。しかし、逸早く商業化した国や企業が大きな利益を得ることになるため、「世界資源戦争」の新たな局面であることだけは確かだ。


一方、今後の資源争奪戦を握るであろうと想像できる水素エネルギーはすでに実用化に入っている。冬季の暖房費に多くのコストを要する北欧やドイツでは、石油にかわる燃料として水素エネルギーを推奨している。


天然資源に乏しく、自給率も低い日本が「世界資源戦争」に生き残る道は、省エネ技術の開発とその技術を活かすプラント建設に尽きるだろう。前述したCO2分離・回収技術の開発では、日本はトップグループにいる。これを実用化し、海外に技術移転できれば、太陽電池同様、大きな市場を確保できる。


また、CO2排出量が増大しつづけている中国とインドなどは、日本が1960~70年代に体験した、経済成長の負の側面である公害に直面している。日本の環境技術は、大いに役立つはずだ。砂漠の緑化技術や海水の淡水化技術は、アフリカや中東、中国、インドが欲している技術だ。これも日本のメーカーや商社が海外で実績を挙げている。


このように「世界資源戦争」の未来を見ていくと、ロシアやカナダ、オーストラリアといった「資源大国」と日本や韓国のような「非資源大国」という座標軸のほかに、「技術大国」と「非技術国」、「技術輸出国」と「技術輸入国」という座標軸があることがわかる。


日本では近年、都市に眠る「都市鉱山」が脚光をあびている。日本人が廃棄するクルマや家電、パソコンや携帯電話は、レアメタルを有する宝の山だ。見方を変えれば、日本はレアメタルの資源大国となる。大切なのは、スクラップから貴重な資源を回収し、再利用できるようにする技術だ。しかも、石油を使わずして回収、再加工する方法が求められている。借金をしても続ける大量生産大量消費によって、世界の消費をリードしてきたアメリカ経済が低迷している現在、世界経済に影響力をもつ国は、ロシアやEU、中国、サウジアラビア、ブラジル、シンガポールなど多極化している。


「世界資源戦争」は、多極化する時代にどんな進展を見せるのだろうか。渦中にありながらも客観的な視点で今後もその変遷を見続けていきたい。 (完)


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 56 実用レベルに近づいたCO2回収・貯蔵技術

大気中に排出されたCO2を科学技術によって回収し、海洋や地中に貯蔵する技術の研究開発が世界各国で活発化している。コストダウンが可能になり、どの国でも実用化できるようになれば、技術の特許を擁する企業が莫大な利益を得ることになる。


CO2回収・貯蔵技術を逸早く活用したいと計画しているのは、火力発電所や大規模工場などCO2排出量の多い施設と温室効果ガスの排出量の多い国だ。それらの電力会社や国は近い将来、数億円から数兆円のコストを使って排出権を購入せざるを得ない立場にある。京都議定書で温室効果ガスの削減目標を課せられた先進国は、自国でのCO2回収・貯蔵技術開発に数億円規模の国家予算を使っている。


一方、民間企業も独自にCO2回収・貯蔵技術を開発し、ビジネスチャンスを広げようとしている。世界で最も早く実用化にこぎつけたのは、意外なことに石油大手のシェルである。同社は2006年、発電所から排出されるCO2を回収してノルウェー沖の油田とガス田に貯蔵する計画を発表した。2010~2012年にかけて段階的に実施される予定で、現時点では世界最大規模の事業だ。計画どおりに進めば、年間200万~250万トンのCO2の回収・貯蔵ができるという。


ノルウェーの石油大手スタットオイルと共同で実施する同プロジェクトは、ノルウェー中部の発電所およびメタノール製造施設で発生するCO2を回収し、海洋の油田とガス田に貯蔵するというものだ。CO2を回収する発電所の電力を海洋油田・ガス田に供給するため、石油・ガス採掘に伴うCO2排出量をほぼゼロにできるという。この計画のポイントは、石油の回収率を向上できることにある。シェルは1970年代からCO2を使って石油の回収率を向上させる技術開発を進めてきた。一方のスタットオイルは北海やアルジェリアなどでCO2貯蔵プロジェクトを手がけた実績がある。


日本企業もCO2回収・貯蔵技術の開発を積極的に進めている。民間では三菱重工業、東芝、IHI(旧石川島播磨工業)、中部電力、関西電力、中国電力などが活発に展開しており、政府機関では地球環境産業技術研究機構や産業技術総合研究所が大きなプロジェクトに関与している。


たとえば三菱重工業は関西電力と共同で排ガス中に含まれるCO2を特殊な吸収液を用いて分離・回収する技術を開発し、同技術を使ったプラントの初号機を1999年にマレーシアの尿素肥料工場に納入している。この工場では回収したCO2をアンモニアと合成し、尿素を生産しているという。ほかにインド最大の尿素肥料会社、アラブ首長国連邦の企業、バーレーンの石油化学会社などにCO2回収技術を提供している。


2008年11月には、IHI、Jパワー、三井物産、オーストラリア石炭協会、オーストラリア州営電力会社などオーストラリアと日本の企業が共同で、オーストラリアリアの石炭火力発電所でCO2回収・貯蔵技術実証プロジェクトを始動すると発表した。


一方、国としてCO2回収・貯蔵技術の開発に取り組んでいるのがイギリスだ。同国は中国やインドなど経済成長が続く国の石炭火力発電に着目し、火力発電とCO2削減が両立する方策としてCO2回収・貯蔵技術の実用化を進めている。またノルウェーと協力して北海におけるCO2の輸送と貯蔵を検討中だ。


この背景には、EUが2020年以降建設されるすべての化石燃料発電所にCO2回収・貯蔵技術を導入することに合意していることが挙げられる。イギリスの強みは、北海の海底にCO2を貯蔵できるポテンシャルがあることだ。イギリスは温暖化をビジネスチャンスと捉え、CO2回収・貯蔵技術において一気に国際的なリーダーになろうとしているようだ。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 55 欧州のエネルギー政策 次世代バイオ燃料

EUはバイオ燃料が大規模に拡大する時期を2020~2030年と予想している。2010年までを従来型バイオ燃料の技術の向上期間、次世代バイオ燃料の研究開発期間と定め、2010年~2020年を次世代燃料生産技術の展開時期と位置づけている。


次世代バイオ燃料には、次のような種類がある。バイオエタノール分野ではセルロース系バイオエタノール、合成バイオ燃料分野では、ガス化合成液体燃(BTL)、FT軽油、合成軽油、バイオエタノール、混合アルコール、バイオDME、バイオディーゼル分野では水素化処理バイオディーゼル、バイオガス分野ではSNG(合成天然ガス)、そしてバイオ水素だ。ひとつずつ説明していこう。


セルロース系バイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシといった食用バイオマスでなく、食用に供さない植物の茎や葉といったバイオマスに含まれるセルロース類(植物の繊維質の主成分)から製造するアルコール燃料。既存の技術では、植物からセルロース類を分離する工程で副次的に生成される醗酵阻害物質が糖をアルコールに変換する微生物の働きを妨げ、エタノールの収率が極めて低かった。しかし糖をアルコールに変換する微生物を用いることで、エタノールの製造が容易になってきた。


ガス化合成液体燃(BTL)は、バイオマスをガス化し、液体燃料に転換したもの。軽油に比べて二酸化炭素排出量を約 90%削減し、食糧供給と競合しない合成バイオ燃料として、ドイツではBTL に大きな期待をかけている。シェル、ダイムラーベンツやフォルクスワーゲンがプロジェクトを支援している。実証プラントで生産されたBTLは、ダイムラーやフォルクスワーゲンの車両でもテストされ、排出低減や燃焼特性の点でも良好であることが証明されている。


FT軽油と合成軽油は、ガスを液体燃料に転換する技術をGTL(Gas To Liquid)から生まれた燃料で、天然ガスを灯軽油やメタノール、DMEと呼ばれる燃料が製造されている。EU全域に普及するには至っていないが、石油に代わる燃料になると期待されている。


一方、ディーゼル車向けのバイオマス燃料は、植物油にメタノールを添加してエステル化したバイオディーゼル燃料(FAME)の実証実験が計画されている。しかし中長期的に見ると、バイオマス液化燃料(BTL)や植物性の油脂を水素化処理して得られるバイオディーゼル燃料のほうが有望といわれている。水素化処理バイオディーゼル燃料は、軽油よりセタン価が高く、硫黄分やアロマ分をほとんど含まないといった長所があり、植物油からのディーゼル燃料製造法としては最も優れているとされている。

SNG(合成天然ガス)は「代替天然ガス」とも呼ばれ、人工的に製造するカロリーの高いガスのこと。炭化水素や石炭ニッケルを原料とし、触媒下で水、酸素、水素と反応させ、水蒸気改質、部分燃焼、水素添加分解によりガス化し、メタン合成、脱炭酸などの処理を施す。

これらのバイオ燃料は、生物学や化学、エネルギー工学など専門的な知識と技術を複合して研究開発しなければ効果があがらない。そこでEUでは、域内で協同して技術開発と需要の拡大に努めようとしているのだ。中でもEUとして統一して進めているガソリン車の排ガス規制は、欧州におけるガソリン車を排除し、バイオ燃料カーを普及させるための政治的な手段となっている。ガソリン車の税金が高く、またガソリンが高騰すればするほどガソリン車離れは進む。


そう考えると、日本の基幹産業である自動車産業の輸出台数と売上げが2008年にピタリと止まり、各社が大きな下方修正をした要因は、サブプライムローンに端を発した世界同時株安だけではないだろう。EではUガソリン車の製造自体がすでに時代遅れになっているのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 54 欧州のエネルギー政策 バイオマス発電

EUでは太陽光や風力などエネルギー利用を積極的に進めているが、バイオマスのエネルギー利用が主要な位置を占めるようになってきている。バイオマスを中心とした自然エネルギーで約1億トンのCO2削減を目指しており、CO2削減のための研究開発費でもバイオマスがトップに立っている。全エネルギーに占めるバイオマスの割合を2010年までに4%から8%まで引き上げる計画だ。


日本ではバイオマス発電は話題にならないが、スウェーデンやフランスでは政策に組み込まれている。バイオマス先進国のスウェーデンは、全エネルギーにおけるバイオマスの割合が20%を占めている。その要因は、高率の炭素税や硫黄税の導入が行なわれた一方で、バイオマスエネルギー開発の税を免除する制度が採用されたからだ。バイオマスエネルギーが価格競争の面で有利になり、工場残材や森林伐採の残材の利用が急速に伸びた。利用が進んだことでコストが下がり、価格面で有利になる。こうして好循環が生まれる。


原発大国フランスでもバイオマス発電の導入が促進されている。間伐材や木材の廃材・端材などを燃やした熱で蒸気をつくり、その蒸気の圧力でタービンを回して電気をつくるのがバイオマス発電だ。促進するために、バイオマスを利用した発電所には電力の買取にあたり優遇価格が適応される。


EUには、2020年までに再生可能エネルギーの割合を20%以上にするという目標がある。フランスでは2010年までに稼動するバイオマス発電所における発電量が原子炉1基の発電量の3分の1に相当する。また、熱量は石油45万トンに相当する。バイオマス発電が歓迎される背景には、カーボンニュートラルという考え方がある。


発電所では発電時に燃焼によるCO2が排出されるが、森林のCO2吸収量とほぼ同程度となるため、トータルのCO2排出量は従来の発電方式と比べ微量か、あるいは収支ゼロとなる。また伐採された森林に新たに植林を行なうことで再生可能エネルギーが実現できる。つまり、森林を資源とみなし、「林業」と「発電」を一体化させたのがバイオマス発電なのだ。森林資源に恵まれた国は、バイオマス発電大国になれる可能性がある。

日本の森林資源は、じつは面積から見ればスウェーデンとそれほど変わりない。大きく異なるのは、木材生産量がスウェーデンの約3分の1に過ぎないことだ。日本は森林大国でありながら、世界一の木材輸入国である。矛盾を感じる人は多いだろう。日本の森林の利用率がすこぶる悪く、輸入材に押されているということだ。スウェーデンやフランスでは廃材は発電用のチップにして運び出されるが、日本では廃棄される。廃棄にはコストがかかるため、国産材は高価になり、価格競争に負け、結果として森林が荒れていく。バイオマス発電は、間伐材や廃材の有効利用という側面を持っている。

バイオマス発電が太陽光発電や風力発電と大きく異なるのは、年間稼働率だ。太陽光も風力も天候に左右され、稼動時間が制限される。しかしバイオマス発電は常時発電が可能だ。よって太陽光や風力と比べ稼働率が格段に高くなる。稼働率が高ければ投資額に対する発電量が大きくなる。つまり、少ない投資額で大きな効果が得られるのだ。EUの首脳陣は、そういう構造を把握しているのだろう。

日本は戦後、エネルギー政策として原子力発電の普及を選択した。石油が採れないフランスやドイツも同様の政策を進めた。しかしドイツのように脱原子力に向かう国もフランスのような原発推進国も、バイオマス発電の促進に大きな期待を寄せている。バイオマス発電は、カナダやスウェーデンといった森林大国が有利であることは明白だ。じつは日本も森林という資源を有している。視点を変えれば、森林に囲まれた日本は資源大国なのである。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 53 欧州のエネルギー政策 太陽光発電

「地球の全陸地の約1%にあたる面積に太陽電池を敷きつめれば、全人類のエネルギー需要量に匹敵する発電量が得られる」という試算がある。その試算が正しければ、石炭を燃料とする火力発電は必要なくなり、石油に依存しないクリーンエネルギーが世界を満たすことになる。


太陽電池を使って太陽エネルギーを直接電力に変換する太陽光発電は、燃料を運んだり、購入したりする調達コストがかからず、温室効果ガスの排出量が少ないことから、石油の代替エネルギーの本命とみなされている。それを裏づけるかのように、普及を促進する政策や発電にかかるコストの低減化によって商業化が加速し、世界各国で大型の太陽光発電所が相次いで建設されている。


欧州で進んでいるのがドイツ、スペイン、イタリアだ。EU各国は域内の再生エネルギー利用率の割合を2010年までに12%に高める目標を掲げており、再生エネルギー発電の導入を政策面で支援している。


ドイツは2000年、太陽光、風力、水力、バイオマス、廃棄物埋め立て地や下水処理施設から発生するメタンガスなど、再生可能エネルギーの普及を促進する法律「再生可能エネルギー法」を制定した。再生可能なエネルギーによって生産された電力を電力会社が20年間にわたり市場価格より高い固定価格で買い取ることを義務づけている。2004年の改正では、総電力供給に占める再生エネルギーの割合を2010年までに12.5%、2020年までに20%以上にすることが定められた。この先駆的な法律が先進国に与えた影響は大きい。

電力の固定価格買い取り制度は、市場の成長を大きく促進した。事業所や家庭が太陽電池で発電した電力を、電力会社が市場価格より高く買い取るよう義務づけたもので、太陽光による発電分は通常の電力価格の2~3倍で買い取られる。毎年5%ずつ引き下げられるが、20年間は買い取りが保証され、約10年で 初期費用が回収できる計算だ。


この法律の施行により、ドイツでは風力発電所が相次いで建設され、自宅の屋根に太陽光発電システムを取りつける人が急増した。また、確実に利益があがることがわかった投資家が発電事業に投資するようになった。潤沢な資金を得たエネルギー企業は大型施設の建設が可能になった。国際競争力を養うことも容易になった。こうしてドイツは、再生可能エネルギー施設が生みだす電力生産量世界第1位の国となった。

スペインでは2006年に大型太陽光発電事業への優遇制度が施行されたことを受け、太陽光発電所の建設が相次いでいる。欧州における太陽光発電設備の設置容量は現在ドイツに次ぐ第2位だ。特に大規模な太陽電池設置による太陽光発電では世界をリードする存在になっている。この太陽光発電や太陽熱発電、風力発電をスペインの主力産業のひとつに育て上げようという動きもある。


もともとスペインは雨が少なく日光が差す日が多いため、太陽光発電にはうってつけの国。それが太陽光発電などの再生可能エネルギーの開発を促進する一因にもなった。太陽電池のニーズは極めて大きく、スペインは太陽電池の出荷数で世界有数の量を誇っている。今後はこれから成長を続けるであろう発展途上国に向けた輸出に力を注いでいくだろう。


事実、太陽電池の世界需要の成長率は40%を超えている。牽引するドイツの累積導入量は2005年に日本を抜いて世界首位となり、2006年の市場規模は日本の約3倍に急拡大した。ドイツ、スペインでの普及が拡大し、全世界における2007年の新エネルギーへの投融資は850億ドルと前年より20%上回った。

「世界資源戦争」は地下資源の有無だけでなく、再生可能エネルギーの技術開発力にまで及んでいる。本来はシャープやサンヨーなどの日本企業が世界をリードする立場にあったはず。それがドイツ、スペインの後塵を拝することになるとは誰が想像しただろうか。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 52 欧州のエネルギー政策 産業競争力を高める環境対策

EUは2005年、温室効果ガスの排出権取引制度を主要国に先駆け導入した。「企業活動が制約され、競争力が低下する」と反発する産業界の声もあったが、欧州委員会環境局は「むしろ企業のメリットは大きい」と説明してきた。環境政策がEUの国際競争力を高めると見込んでいるのだ。

その推進力となったのが、エネルギーの安全確保である。EUは石油と天然ガスの供給源とルートをロシアに依存しているため、危機感が高まっていた。そこで、2007年3月に開催されたEU首脳会議で次ぎのような目標が掲げられた。


1.EU27カ国の温室効果ガスの排出を2020年までに90年比で20%削減する。

2.エネルギー消費に占める再生可能エネルギー(風力、水力、太陽エネルギー、バイオマス)の割合を2020年までに20%引き上げる。


ポイントは、温暖化対策を掲げつつも、国際競争力のアップとエネルギーの安定確保が両立することにある。


さらに2008年1月、欧州委員会は欧州会議の目標を実現するため、具体的な施策案を発表した。温室効果ガス排出権取引制度の改正、再生可能エネルギー利用促進指令やCO2回収貯蓄指令、バイオ燃料使用の数値目標などだ。ひとつずつ解説していこう。


排出権取引では、対象が主要な工業排出源に拡大され、EUの単一炭素市場を強化することになった。また、建設、農業、廃棄物処理など対象外部門での加盟国の排出削減目標が定められ、法的拘束力のある数値目標が提案された。バイオ燃料使用については、EU運輸部門を対象に2020年までにバイオ燃料混合率を10%引き上げる数値目標を掲げた。これらの包括的提案は、2009年春までの承認を目指している。


これらのことがどうして国際競争力のアップにつながるのかといえば、たとえば排ガス規制をすることで、水素ガス自動車やバイオ燃料を使う自動車の普及に加速がつく。世界に先駆けてバイオエタノールや水素ガスステーションの設置をシステム化することで、アメリカや日本、韓国、中国にリードできる。ハイブリッド車の生産では、日本車を駆逐できる。太陽光発電施設を設備する企業の売電事業を認めることで、太陽電池産業は日本や韓国の追随を許さず、先行者利益を確保できる。事実、太陽光発電に関しては日本でなく、ドイツやスペインが一歩リードしている。

また、EUはいち早く排出権取引市場の確立を成し遂げた。2006年度の排出権取引金額は312億ドルだったが、2007年度には640億ドルとなり、2008年度はその倍まで広がると見られている。その取引の中心地がEUだ。そこには金融商品の巨大な取引市場が誕生した。アメリカと日本は、明らかに出遅れた格好だ。排出権市場に詳しい識者は、「2050年にCO2を半減させるという長期目標がある以上、規制はどんどん厳しくなる。だから排出権の値段は現在の2倍まで上がるだろう」と予測している。2倍まで高騰すれば、当然EUが儲かるしくみができあがっている。

EUが世界のルールメーカーになれば、黙っていても自らの利益につながるという目論見がそこにある。世界最大のCO2排出国となった中国や、いずれ第2位になるかもしれないインドなどは、今から戦々恐々としているのではないだろうか。中国とインドはもちろん、京都議定書による排出削減義務を負ってはいない。しかし、政治・経済の両面で存在感を高める両国が、将来にわたって温暖化対策のコストを背負わないわけにはいかないだろう。そのとき、中国とインドは数兆円にも及ぶ排出権をどこの国から購入するのか。EUを筆頭にロシア、カナダといったところが順当だろう。EUの先行者利益とは、そこまで見込んだものだと考えられる。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 51 米国のエネルギー政策 石炭回帰

2008年7月に原油価格が1バレル147ドルの最高値を記録したのは、まだ記憶に新しい。その裏で密かに熱い視線を集めていたのが石炭だ。石炭は150年以上の埋蔵量があり、石油や天然ガスと比べて安価だ。アメリカやロシア、中国、オーストラリアなど政情の安定している国の埋蔵量が多いため、価格も安定している。


コスト面での優位性により石炭を発電燃料・産業燃料として用いている国は少なくない。たとえばアメリカ、中国、ドイツだ。アメリカとドイツの発電燃料は石炭が首位。中国でも全エネルギーのうち7割以上を石炭が占めている。中国で原子力発電が進まないのは、石炭依存が高いからである。

2004年から始まった資源高。多くの人が原油価格の高騰に目を奪われていた頃、製造業と大手商社に「石炭回帰」の動きが静かに進行していた。石油代替エネルギーとしての石炭の旺盛な需要を反映し、日本は世界最大の石炭の輸入国となった。中国は石炭の生産大国でありながら、国内消費が伸びたことで、2007年中に石炭の純輸入国に転じたのではないかと予想される。中国と並び経済成長が続くインドでも、石炭の消費量が増大、中国同様に世界各地からの石炭調達の動きを加速させている。こうして「黒いダイヤ」「燃えるダイヤ」と呼ばれる石炭の争奪戦が始まったのである。

石炭のメリットは豊富な埋蔵量と価格だが、デメリットもある。カロリー(発熱量)の低さ、採掘・運搬・貯蔵にかかるコスト、燃焼した際のCO2排出量の多さである。

しかし、乱高下する原油価格に右往左往されるより、安定して低価格な石炭のほうが魅力的だ。さらに石炭が燃焼する際のCO2排出量を削減できる技術や、石炭液化やガス化の技術も進んだ。これらの技術開発は日本が先行している。

石炭液化技術とは、石炭を分解して液体の炭化水素、すなわち石油製品に変える技術だ。取り扱いにくい固体で、しかもカロリーが低く、炭種によって灰分やカロリーのばらつきがある石炭の欠点は消え去り、扱いやすくカロリーの高い液化油に転換することで、輸送や貯蔵がしやすくなり、CO2排出量も少なくなる。一方の石炭のガス化とは、石炭をガス化炉でガス化し、燃料ガスにかえてガスタービンをまわして発電する際に使われる。この場合、ガスを燃料とすることで熱効率がグンと上がる。熱効率が上がるということは、石炭と比較しCO2排出量の発生が減るということだ。

アメリカが石炭の環境負荷を低くして燃料として使う「クリーンコール」事業に本腰を入れ始めたのは、環境がビジネスになることをブッシュ大統領がようやく気づいたからであろう。あるいは石炭会社からの圧力があったのかもしれない。石炭の需要を伸ばすには、資源高は格好の追い風となった。

石炭利権はもともと共和党の縄張りであった。石炭生産量の多い州は、ワイオミング、ウェストヴァージニア、ケンタッキー、テキサス、モンタナなど2000年の大統領選挙でブッシュが勝利した州ばかりである。ブッシュ政権下で石炭回帰が起こったことは、当然の結果ともいえる。


前述したような技術が実用化され、導入されれば、世界最大の石炭埋蔵量を誇るアメリカは、エネルギーを自給自足できるようになる。現在は経済が低迷しているが、先進国で唯一人口が増加している国であり、燃料としての可能性を秘めた石炭を有している。そのポテンシャルはすこぶる高いといえる。

世界のトレンドとしては、代替エネルギーは燃料電池とガスだ。アメリカは両者の開発に巨額の予算を計上している。それと同時に、クリーンコール発電にも大きな期待を寄せている。それは温暖化対策というより雇用対策の色合いが強いようにも思われる。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 50 米国のエネルギー政策 再び脚光をあびる石炭

当初、温室効果ガス排出抑制に消極的だったブッシュ政権に対し、アメリカの大企業は新エネルギー源開発の視点から積極派に転じた。伝統的に大企業にとっての利益になることを最重視する米政府は、原子力発電を見直し、原子炉建設を進める方向に傾くなど方向転換を余儀なくされた。


資源高の予兆をつかんでいた米国政府は、外国産エネルギーへの依存度を低め、自国での自給率をアップするという方針で固まった。仮に民主党政権になっても、その方針は継続していくだろう。


しかし、サブプライムローン問題がカウンターパンチとなって、米国経済がリセッションに入るようだと、米国民のエネルギー消費量はグンと下がっていくという見方もある。その際に大いに活用されると予測されるのが、省エネ関連製品と新エネルギーである。石油を湯水のごとくジャブジャブ使っていた米国は、大きな転換期にさしかかっているのだ。


米国のエネルギー消費を調べると、2004年度統計では、石油40%、天然ガス23%、石炭23%、原子力8%、再生可能エネルギー(太陽、風力など)6%という割合だ。その後、2005年に「エネルギー政策法」が可決。そこには、次のような政策が記してある。主要な項目だけピックアップしておく。


●連邦政府に再生可能資源の調達率を2007年度で最低3%とし、2013年度までにこれを7.5%まで増大するよう義務付ける。
●2012年までに、連邦政府の年間電力消費量の少なくとも7.5%を再生可能エネルギーにする。
●ソーラー、風力、地熱、海洋、クローズドループ型バイオマスおよび埋立地ガスと家畜由来メタン利用のエネルギー生産を推進するインセンティブを認可する。
●内務省・商務省・農務省に、実行可能な限りでハイブリッド車やその他の高燃費自動車の使用を義務付ける。
●大統領のクリーンコール発電イニシアティブに2006年度から年間2億ドル、9年間で18億ドルを認可。この内、70%を石炭ガス化技術に、残りの30%をその他のクリーンコールプロジェクトに配分する。
●次世代原子力発電所プロジェクトに2006年度から10年間で13億ドルを認可。
●既存原子力発電所で水素を製造する実証プロジェクト2件に1億ドルを認可。
●ハイブリッド自動車や先進ディーゼル車の国内生産を推進するDOEプログラムを設置する。
●水素と燃料電池プログラムに2006年度から5年間で33億ドルを認可。

このうち興味深いのが、クリーンコール発電だ。世界の石炭分布を見ると米国、ロシア、中国、インド、オーストラリアという大国に集中していることがわかる。そのうち最も多くの石炭を有しているのが、じつは米国なのだ。


石炭は「燃やすとCO2を大量に排出する、前近代的な資源」あるいは「石炭は枯渇したのではないか」と考えがちだが、枯渇したのは日本市場であって米国のことではない。クリーンコール発電とは、既存の石炭火力発電所に比べて発電効率が1~2割高く、CO2排出量が少ない発電のことだ。米国や中国、インドなど石炭火力に依存する割合が高い国では、CO2排出抑制効果が期待されており、再び石炭に注目が集まっている。


日本国内でもクリーンコール発電の実証実験は行なわれている。東京電力など電力会社10社が共同出資するクリーンコールパワー研究所(福島県いわき市)の石炭ガス化複合発電実証プラントだ。これは国内需要を目的としたものでなく、石炭依存の高い米国や中国、インドに向けた輸出向けプラントの実証実験である。そこで、かつて文字通り「産業のエンジン」役を担った石炭に注目してみたい。世界資源戦争は、この「燃えるダイヤ」をめぐっても激しい争奪戦が続いているのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 49 食料自給率のアップと関税の撤廃

2007年下半期から2008年上半期にかけて日本を揺るがせた穀物価格の高騰は、「資源戦争」のひとつの側面であった。2007年までの好景気で資金を蓄えた投機マネーが穀物相場に流れ込んだことや、中国やインドなど新興国の成長による資源需要の急増、アジア諸国の人口増大、さらに最大の生産国であるアメリカが国策としてバイオエタノールの製造を本格的に始めたことに穀物大国のオーストラリアの干ばつが加わり、一時期穀物不足がささやかれ、一気に高値へ向かった。


中国では大豆が高騰し、大豆を肥料とする豚肉の価格が20%以上はね上がった。米国の大豆生産者が収益拡大を狙い、生産品目をトウモロコシに切り替えたことで起こった現象である。もちろん、鼻の利くヘッジファンドもトウモロコシの先物相場に資金を投じた。


洞爺湖サミットでも穀物価格の高騰は議題にあがった。アメリカやカナダなど穀物自給率100%の大国にとっては、痛くもかゆくもないことだろうが、穀物自給率の低い日本にとっては大きな痛手となった。小麦粉やマヨネーズのように資源高を価格に転嫁して値上げに踏み切った大手メーカーがいる反面、価格に反映すると売れ行きが落ちると懸念されることから、値上げに踏み切れないメーカーも多くあったと想像できる。原価が増えても売価は同じということは、収益悪化である。


一方、中国産食品の安全性が揺らいでいることから、日本国内では自給率のアップを図る運動も盛んになってきた。いわゆる地産地消である。政府も自給率の上昇をアナウンスしているものの、実態は大きく異なるようだ。


日本政府は、「国際貿易機構(WTO)の多角的貿易体制を補完するもの」と位置づけ、自由貿易協定(ETA)を重視している。世界の国々は、円滑な貿易によって互いに経済的利益を得るため、特定の国や地域間でいろんな国際協定を結んでいるが、その代表的なものが経済連携協定 (EPA)だ。これは関税や数量制限など貿易の障害を取り除くことを目的とした協定である。原材料や食料の調達を輸入に頼り、原材料を加工・製品化して輸出する日本にとって、自由貿易はとても重要だ。円滑な貿易を進めるために相手国と間に交わされる協定は、貿易をするうえで強い味方となる。


日本政府は、アジアを中心にFTA とEPAの締結を推進している。これまで8カ国とEPAを締結し、さらに数カ国と交渉中だ。
さらに2008年4月には、日本とASEAN10カ国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)。日本が電気機器や機械類を輸出したい国ばかりだ。


との間で日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)が署名された。これにより日本と各国との2国間貿易のみならず、日本を含めた11カ国間の三角貿易も自由化となり、地域内の貿易の促進が期待されている。


しかし、それらの諸国との貿易で関税がゼロになれば、国産品よりずいぶん安い農産物が大量に輸入されることになる。市場を自由化して競争すれば自給率が上がるという意見がある一方で、競争力がつく前に日本の農業は価格競争に負け、廃業せざるを得なくなるのではないか、という見方も強い。関税を撤廃しても農家に補助金を直接支払えばよいという政治家もいるが、その財源は税金である。税金で特定の産業を保護するのか、という批判も出るだろう。


しかし、住宅と住宅価格の高騰を担保に金を借り、日本の家電や自動車を購入してくれていたアメリカの消費が落ち込んでいる今日、政府はアジアの新興国に家電や自動車を販売したいと考えていることは確か。このように「資源戦争」は、貿易というもうひとつの側面を持ち合わせている。食料を「資源」と置き換えるなら、資源に乏しい日本が、ある程度の輸入に依存しなければいけないことは事実。工業製品を買ってもらうバーターとしてオーストラリアやアジア諸国の農作物を輸入せざるを得ない日本の苦悩はまだ続くだろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 48 水不足がもたらす危機と水資源戦争

日本人は長い間「水と空気はタダ」と考えてきた。しかし、これからは石油のように高値で売買される時代が到来するかもしれない。特に水は貴重な資源として経済原理にゆだねられ、市場で取引される可能性が出てきている。
現在、世界の11億人が淡水の不足に直面しているといわれている。飲み水の不足や衛生状態の悪化による健康被害、かんがい用水の不足による農業の危機、国同士の水資源の奪い合いが各地で広がっている。


深刻なのは、アフリカ、中央アジア、中南米の農村地だ。パレスチナやスーダンでは水不足によって紛争が激化した。南アフリカの一部の地域では、汚染水を飲んだ住民の間でコレラが発生している。WHOの推計によれば、飲料水と衛生設備の欠如による死者は年間150万人にものぼる。


水不足の最大の要因は、人口増加だ。水の量が以前のままでも人口が増えれば、必然的に飲み水は足りなくなる。次にライフスタイルの変化と乱開発が要因として挙げられる。トイレの水洗化により大量の水が必要になった。また、都市化と工業化が進んだことで、大量の水が飲食店や工場で消費されるようになった。食肉や穀物の需要が高まったことも大きく影響している。小麦1キロを生産するには約1000リットル、100グラムの牛肉にはペットボトル3000本もの水が使われているという。


乱開発には、リゾート開発や森林伐採に加え、誤った農法による土地の砂漠化がある。アフリカ、アジア、オーストラリア、南アフリカなどの地域で砂漠化が進んでいるが、その要因は人為的なものが多い。中東では、誤った農法によって土壌が枯れ、灌漑によって農地に塩分が蓄積し、植物が育たなくなった。南アフリカでは、過剰な焼畑農業が行われ、土地の回復が追いつかなくなった。北朝鮮も誤った農法によって畑が荒廃し、食料不足に陥った。保水能力の高い森林や畑がなくなると、その土地から水もなくなる。その結果、食料不足と水不足に見舞われているのだ。


最後に気候変動による水不足も挙げておこう。氷河や雪を淡水の供給源としていた地域では、温暖化によって淡水が供給しづらくなり、土地の乾燥が進んだ。すると農業にも壊滅的な打撃を与える。


アジアやアメリカ中西部、サウジアラビア、イランなとどでは、地下水位が急速に下がっている。多くの井戸が掘削されて地下水がどんどん汲み上げられ、地下水が枯渇してきたからだとされている。


こういった水不足と無関係の国もある。カナダとロシアの二つの大国だ。ロシアは石油、天然ガスに続いて、水も輸出して利益を上げようとしている。ひとり当たりの水使用量が世界一のカナダでは、枯渇することがないため、自国の水に価格をつけて市場取引をすべきだという意見が出ている。すでにペットボトルの水は、先進国ではどの国のスーパーでも販売されている。物価が異なるので一概にはいえないが、同量のコカ・コーラより水のほうが高い値段がつけられているケースが多い。


一方、日本をはじめドイツやインドで開発が進められているのが、海水の淡水化装置と水の浄化装置だ。水問題を抱える台湾政府は、民間の工場に対して「使用する工場用水の85%以上を回収して再利用すべし」と要請している。


そういう事態に市場を見つけた日本のメーカーがある。中空糸膜(濾過機能を持つ中が空洞のストロー状の繊維)メーカーのクラレは新規事業として、台湾の化学工場として初めて純水に再利用できる設備を納品した。工場で使用した水は中水道としてトイレなどに再利用できるほか、さらにバージョンアップすれば純水にも戻せるという。中空糸膜を用いることでコストアップにはなるが、水のリサイクルというメリットが生まれる。


また、日本の技術者が取り組んでいる「持続可能な砂漠緑化」にも注目したい。緑化にはまず水が必要。海に近い地域では、太陽光発電によって海水を淡水化し、それを緑化に利用する。山岳地では、日中と夜の温度差を利用して、大気中の湿分から水を集める。発電施設や造水と砂漠緑化をセットで考えることで、より地域の復興に貢献できるプロジェクトに発展する。「世界資源戦争」は遂に水資源の奪い合いにまで発展しつつある。水不足がもたらす危機を救うのは、水の消費量を減らすことではなく、淡水をつくる技術なのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 47 京都議定書の大きなリスク

京都議定書には、「京都メカニズム」と呼ばれる制度が採用された。それが、排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズムなどである。それぞれ複雑なシステムになっているのでしくみを伝えるには多くの説明を要するが、共通しているのは、その国が実際に二酸化炭素を削減することができなくても、なんらかの行為をすることによって「削減した」とみなされる逃げ道である。


たとえば、二酸化炭素の削減枠のない途上国で、EUや日本などの国が事業によって二酸化炭素を削減した場合、その量を自国の削減量に含めるといった制度。あるいは、温室効果ガスの排出枠を超えた国と排出枠に余裕のある国が、排出枠を「1トン6ドル」といった金額に換算して売買できる排出権取引。これらは「借金の肩代わり」のような制度にも思えるが、じつはかつて存在しなかった新たな市場を生み出すきっかけとなった。


二酸化炭素の削減という目に見えないものを数値化し、削減量を金額に置き換え、その排出権取引を行なう。その取引は、本来のエコロジーとはまったくジャンルの異なる「金融商品」の売買につながった。先行しているEUでは、すでに域内の大量排出企業を対象に排出枠が割り当てられ、取引市場が誕生している。


もともと科学の領域で扱われていた地球温暖化という課題が、政治問題にすり替わり、金融商品を生み出したのである。金融業界は、新たな商品の誕生を歓迎したであろう。「地球のため」という大義があるので、世界に向けて堂々と商品を販売できるし、資産家の寄付も集めやすい商品だからである。


ヨーロッパは、1980年代から温暖化と金融商品を結びつける研究を進めてきた。特にイギリスとドイツが大きくリードしていた。一方、日本はバブル崩壊による銀行の破綻、不良債権の処理に追われ、地球温暖化は二の次であった。日本は環境より金融業界を救済することが先決だったのだ。山一證券ほか数社の証券会社、生命保険会社が破綻したが、政府は特定の銀行の破綻を防ぐため、公的資金を投入した。政府のエネルギーは、金融危機を防ぐことに注がれた。


だから日本政府は、環境問題の主導権を握ることができないまま、挽回のチャンスを京都会議に求めた。しかし、すでに京都議定書の基準年を1990年とすることは、各国が合意していた。イギリスとドイツは優位に立ち、日本とアメリカは劣勢となった。アメリカは「署名するが、国会では批准しない」というシナリオを用意していた。当時、副大統領を務めていたゴアの支持基盤である民主党も、アメリカに与えられた二酸化探査の削減目標を認めないことでまとまった。そして京都議定書から離脱することになった。


イギリスやドイツは、そうなることを予測していたのであろう。アメリカは離脱し、カナダは履行断念を表明。経済成長を続ける中国とインドには削減の義務は負わせず、日本だけが不利になるというシナリオは、その通りとなった。排出権取引は、日本の経済発展を将来阻止できるばかりでなく、イギリスやドイツの産業に有利になる。日本は「マイナス6%」を世界に約束し、産業の発展と二酸化炭素の削減という矛盾する課題を同時にクリアせざるを得なくなった。ところが、領域全体で「マイナス8%」を承諾したEUは、「域内再分配」という名のもとに、国同士が二酸化炭素の削減枠を融通し、帳尻が合うようになっていた。


削減目標をクリアすることが難しい日本は、いやがおうでも排出権を外国から購入せざるを得なくなる。その額は1兆円とも2兆円ともいわれている。それはまるで「赤字国債」を発効するようなもので、のちのち日本の財政に大きな「負の遺産」になることは目に見えている。このように日本だけが大きなリスクを負うことになった京都議定書を疑わずに締結したことは、日本にとって本当に正しい選択だったのか、じっくり検証しておく必要があるだろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 46 京都議定書は「世界資源戦争」のひとつの側面

1997年に議決された京都議定書は、欧州の先進国とアメリカ、ロシア、カナダ、そして日本の資源・エネルギー戦略と政治が複雑に絡まって採択されたものだ。当然のことながら、どの国も自国にとってのメリットを最優先する。「自国だけ損をしてもいいから地球温暖化を阻止したい」と考える政治家はいないだろう。


政治家は、むしろ「環境問題は金になる」「環境問題によって、自国に新たな産業を育成できる」「温暖化対策の面で自国に利益をもたらすしくみを先に考え、実行すれば、環境問題に関しては世界のリーダーになれる」などと考え、国際条約に締結するはず。もちろん、政治家が無能なら、ある国にとっては「不平等条約」になることもある。


では、京都議定書の場合、どの国にどんな利益がもたらされ、どの国が損をしたのだろうか?


まず、京都議定書が採択された1997年時点での世界の二酸化炭素排出量を見てみよう。242億トンのうち、先進国が59%、発展途上国が41%、アメリカ23%、 欧州18%、ロシア・東欧13%、日本は全体の5%を占めていた。ちなみに中国は15%だったが、途上国ということで参考の数値とされた。


削減目標はEUがマイナス8%、アメリカがマイナス7%、日本とカナダがマイナス6%削減と決まり、ロシアは増えも減りもしない0%となった。計算の基準年は1990年、削減目標となる年は2008年~2012年だ。


ところで、国際条約は各国の首脳が国際会議で調印したのちに、自国の議会の承認を得て初めて成立する。これを「批准」という。アメリカは2001年、上院が反対して京都議定書から離脱。EUと日本は2002年、ロシアは2004年に批准した。京都議定書の発効には、55カ国以上が議定書に参加することや、批准した国の二酸化炭素の排出量の合計が削減義務の合計の55%以上になることといった条件がついていた。最後にロシアが批准したことで、その条件が整い、京都議定書は発効されたのである。またEUは、複数の国がグループとして全体で削減目標を達成することになった。


京都議定書の計算の基準となる1990年を見てみよう。その年の温室効果ガスの排出量は、日本が11.9億トン、アメリカが61.3億トン、イギリスが7.4億トン、ドイツが12.5億トンだった。そして京都議定書会議が開かれた時点で、2000年の排出量は、日本13.4億トン、アメリカ70.4億トン、イギリス6.5億トン、ドイツ10.1億トンと予測された。イギリスは13%、ドイツは19%の削減がすでにできるという状態だったのだ。つまり、条約を結ぶ時にすでにイギリスとドイツは目標を達成していたのである。


一方、アメリカと日本は条約を結ぶ時点ですでに基準となる年から、大きくオーバーしていた。日本の削減率は「マイナス6%」だが、2000年の時点ですでに13%も超過しているのだから、合わせて19%もの実質削減率を課せられたことになる。すでに省エネを推進してきた日本にとって、乾いたタオルをさらに絞る必要が生まれた。これ以上減量できないボクサーと同じ状態だったのである。要するに、日本はもともと不利な条件で約束できそうにないことを約束したということになる。


マイナス7%削減が課せられたアメリカは、実質的には22%の削減が求められることになった。石油業界からの圧力もあり、アメリカは京都議定書に締結することで経済成長にブレーキがかかることを見越し、脱退した。削減する必要のないイギリスとドイツは、自国に有利な国際条約であることを知り、京都議定書に批准した。見方を変えれば、EUの権益を守るための条約であったともいえる。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 45 食料以外の有機物を原料とするバイオエネルギー

アメリカは、年間に3億トン以上の穀物を生産している農業国である。そのうち国内消費は2億5000万トンだから、輸出余力は高い。余剰となっているトウモロコシをバイオエタノールに転換できれば、トウモロコシの需要は安定し、食料価格は高値で留まる。世界で最も大きな穀物相場はアメリカにある。すなわち、穀物の価格決定権はアメリカが持っているということだ。
このような状況で、穀物が不作になれば、どうなるか。穀物価格もバイオエタノールの価格も大幅に高騰する。「食料をエネルギーにする」という発想は、どちらの相場にも深く関係している。

日本でもバイオエネルギーの研究や開発は進められている。日本の場合は、余剰穀物はないので、廃油や木材、下水の汚泥などが原料となる。たとえば、日本の産業廃棄物のおよそ半分を占める汚泥を"資源"とみなし、エネルギーとして利用しようという動きが活発になっている。汚泥とは、水処理場の処理過程や、工場の廃液処理過程などで生じる泥状の物質。その排出量は、年間約1億9000万トンにも及ぶ。排出者に処理が義務づけられ、廃棄するにもコストがかかることから産業界の厄介者となっている。

下水や下水汚泥は、「資源とエネルギーの宝庫」という見方がある。たとえば、日本下水道事業団は、下水からリン資源を回収する技術開発に取り組んでいる。日本は工業原料のリン鉱石を外国からの輸入に頼っているが、1年間に下水処理場に流入するリンの量は年間輸入量の10~20%を占めるという。発想を転換すれば、日本の下水処理場は「リンの鉱脈」ということになる。

国土交通省がすすめる「ロータスプロジェクト」は、下水処理の過程で生じる汚泥を低コストで資源化する先端技術誘導プロジェクトだ。下水汚泥からメタンガスや電気エネルギーを回収する技術開発が期待されてきたが、そのエネルギー回収に大量の電力を要するという矛盾を抱えてきた。同プロジェクトは、それを低コストで実現することを開発目標としている。いくつかの技術を紹介しよう。

「消化ガス発電システム」は、汚泥が発酵する際に発生するガス(消化ガス)を増加させ、ガス発電を行なう技術。実用化すれば、下水処理に必要な消費電力の50%以上を自給できるようになる。「メタン発酵発電システム」は、下水処理場が生ごみなど有機物の廃棄物を受け入れ、下水汚泥と混合してメタン発酵させ、メタンガスを回収する技術。メタンガスも消化ガス同様、発電に利用できる。

一方、家畜の糞尿や生ごみなどの動植物を発酵させて得られる「バイオガス」が、産業廃棄物の有効利用法として、また石油の代替エネルギー源として注目を集めている。先行している国は、ドイツとスウェーデンだ。ドイツには2000近くのバイオガス工場があり、汚水処理場や埋立てゴミ、家畜糞尿などから発生するガスを使って、電力や熱エネルギーを生産している。

日本でも2008年1月、バイオガスの回収・精製・流通の実用化を推進する合同会社が設立され、日本初の本格的なバイオガス事業化に乗り出した。バイオガスの発生源である産廃処理施設、下水処理場、食品工場、畜産農家などを結ぶネットワークづくりをめざし、ゆくゆくは会社や家庭で使用するガスや自動車の燃料として流通させるという。

このように廃棄物を有効活用する技術力は、日本とドイツが世界で群を抜いている。「チームマイナス6%」の帳尻を合わすために、ロシアから1兆円で排出権を購入する前に、「日本の新エネルギー開発技術とプラントをセットで海外に輸出し、それによって削減できる温室効果ガスを、日本の削減分として換算する」といった提案を日本の政治家が「環境サミット」で公言しない限り、アメリカやロシア、ドイツ、フランスといった国とは互角に戦えないのではないだろうか。資源のない国は、自国の技術を高く売るしかない。世界資源戦争は、環境分野を大きなビジネスとしていこうと考える各国の思惑が混じりあい、さらに混沌としている。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 44 課題の多いバイオエネルギー

トウモロコシ、サトウキビ、食用油、木材、ふん尿など、バイオマス(生物体)を原料にしてつくる燃料を総称して「バイオエネルギー」という。その代表がバイオエタノールとバイオディーゼル燃料だ。燃やしても二酸化炭素を排出しない、もしくは排出量が少ないため、太陽光や風力と並ぶ再生可能エネルギーの代表である。京都議定書の発効により二酸化炭素の削減義務を負うことになった17カ国がバイオエネルギーに着目したのはいうまでもない。


8%の削減を目指すEUでは、「自動車用バイオ燃料導入促進にかかわる指令」を発令し、運輸部門で販売される燃料に占めるバイオ燃料のシェアを2010年までに5.75%とすることに決めた。フランスやスペインでは、バイオエタノールを利用したETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)を5%配合した混合ガソリンが、スウェーデンではエタノール10%混合ガソリンが販売された。フランスでは15%までETBEをガソリンに混合することが法律で認められた。バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールのことだ。


一方、アメリカでは大気汚染を削減する効果のあるとしてMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)が普及した。しかし、地中に埋めたガソリンタンクから漏れ出した、地下水を汚染したことから、使用が敬遠された。そこで、トウモロコシを原料とするバイオエタノールが注目されるようになる。そして2001年に発表された「国家エネルギー政策」においてバイオエタノール導入促進が決まった。トウモロコシ・エタノールの生産量は、2000年には16億ガロンだったが、 2005年には40ガロンに拡大し、アメリカはブラジルを抜いて世界最大のエタノール生産国へと躍進した。2006年は51億ガロン、2007年は60億ガロンを突破した。


2006年11月、アメリカ農務省は、2016年にはトウモロコシ・エタノール生産量は120億ガロンまで増えるという見解を発表。そして2007年1月、ブッシュ大統領の一般教科書演説で、2016年の予想生産量が120億ガロンから一気に350億ガロンに引き上げられたと発表。

これによって原材料のトウモロコシのエタノール向け需要も、2001年以降一貫して増加した。2006~2007年度のトウモロコシの需要のうち、18%がエタノール向けだった。これは米国が海外に輸出している量に匹敵する。また、ブッシュの一般教科書演説以降、他の農作物からトウモロコシへの転作が相次いだ。米国ではトウモロコシ需要におけるエタノールのシェアが18%から30%に上昇する見込みだ。そうすると、アメリカのトウモロコシは内需だけで9割が消費され、輸出にまわるのは残りの1割になってしまう。

2004年に始まった原油高、それに続く資源高によって穀物価格が急騰したのは周知のごとく。また、サブプライムローン問題で行き場を失った投機マネーがレアメタルや穀物市場に注がれたことも大きな影響を与えた。日本では、トウモロコシは家畜の飼料として利用されている。トウモロコシの輸入価格が上がると、肉や牛肉、卵、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリームの価格に大きな影響が生まれる。そして事実、2007年末から日本では乳製品が値上げされた。中国は穀物相場の高騰を理由に、バイオ燃料の導入計画を見直す方針を打ち出している。

しかし、トウモロコシ相場が上昇することで、最も大きな影響を受けるのは、地球全体の人口の7割以上を占める貧困層だ。世界各国で穀物の奪い合いが起こり、穀物生産に必要な水資源の奪い合いにもつながる。トウモロコシを原料にして地球にやさしい燃料をつくりだすことが、アフリカやアジアの発展途上国にはやさしくない結果となっている。これも「世界資源戦争」の側面である。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 43 廃資源を買い漁る中国の環境問題

廃棄処分される家電や通信機器、プラスチック、非金属スクラップ、古紙などを日本で買いつけ、大量に輸入している中国。経済成長によって資源不足に直面した中国は、資源の輸入と並行して産業廃棄物をリサイクルして国内で資源をつくることを考えた。中国での資源リサイクルは、ひとつの産業にもなりつつある。金属スクラップの輸入量だけでも年間推定で2,000万トン以上に及び、中国は、世界中のスクラップが集結した巨大なリサイクル市場になっている。


しかし、中国国内では有効活用できず、水銀などリサイクルに高度な技術を必要とし、途上国での処理が難しい資源もある。途上国への有害廃棄物輸出を禁じるバーゼル条約など、国境を越えたリサイクル資源の移動には障壁も多いが、中国はブローカーを通じて日本国内の資源を買い漁り、タンカーで中国国内に輸入してきた。


それと同時に、中国国内には解体業者が集まる町が生まれ、そこから排出される汚染された水が川に流され、田畑が汚染されるという公害が多発している。工場排水による河川汚染、輸入された電子廃棄による環境破壊や健康被害など、経済成長に環境対策が追いついていないのが現状だ。回収精度が低いため、資源が十分回収されないまま廃棄物として放置され、あちこちに「ゴミの山」が誕生しているとも聞く。これも「世界資源戦争」の横顔といえよう。


そこで、近年、進出しているのが、ドイツ、日本、韓国などのリサイクル技術を持った企業だ。具体的には、産業廃棄物からレアメタルを取り出す技術、水処理技術、空気清浄技術などだ。日本産業機械工業会の調査によれば、2006年度に日本から中国に輸出されたゴミ処理装置の総額は約86億円、大気汚染防止装置と水室汚濁防止装置はともに28億円だ。騒音振動防止装置を含めると、中国への環境装置の輸出額は年間142億円だ。


これは中国側のニーズとも合致している。中国にはリサイクル技術が蓄積されていない。現在の省エネ・環境分野における中国のニーズはどんどん広がっている。廃棄物の処理技術、環境装置のみならず、新エネルギーや燃料電池の開発、エコタウンのシステムづくりやリサイクルの促進に関するシステムづくりなど、ソフトの需要も高まっている。


しかし、その一方で、日本企業の技術や装置は高額なので、中国企業から「この機器だけ欲しい」といった要望が増えている。コアの技術は日本が進んでいるから買いたいが、他のものは自国でも調達できるかもしれないと考えているようだ。こういったケースでは、部分だけ購入しても全体の省エネ、環境問題の解決に十分な効果はあがらないのが現状。たとえば廃水処理は、特殊な膜だけ購入すれば、すべて解決するわけではない。装置を含めたシステムが必要だ。


さらに、日本企業が懸念していることがある。技術流出問題だ。中国人は、特許や知的財産、登録商標という概念が極めて低い。模倣品の数の多さがそれを物語っている。


技術流出を防ぐためには、大切な部分はブラックボックス化すること、特許の取得、模造品の製造の禁止など契約できちっと記すことなどが必要だ。法制度が整いつつあるので、知的財産権さえ、きちんと抑えれば不安は解消されるだろう。中国には、日本語を話せるは弁護士が多くいるので、活用しない手はない。


視点を変えるなら、技術流出の心配から日本企業が中国で環境装置を販売できないのなら、中国企業はドイツや韓国などの企業から技術を買うことになる。何年か先に次の技術が登場すると、現在の技術は古くなる。価値のあるうちに既存技術をどんどん販売し、その資金で次の研究をするほうが建設的だともいえる。「世界資源戦争」は、資源の売買と並行して、環境技術の売買という側面も持っている。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 42 「都市鉱山」と資源リサイクル

鉱物資源や金属資源に乏しい日本は、安く輸入した資材や原材料を付加価値の高い製品に加工して海外に輸出している。いいかえれば、世界屈指の資源輸入大国だ。2007年から2008年にかけて多くの資源が高騰し、製造業は打撃を受けた。小麦粉や食用油ように原価アップ分を売値に転嫁して値上げのできる商品ばかりではない。業種によっては、値上げにより客離れが起こり、自らの首を絞めることにつながるケースもある。


昨今の資源高で脚光を集めたのが資源リサイクルだ。「資源に乏しい日本は、じつは世界有数の資源大国」とする逆転の発想がある。都市で大量に廃棄されるパソコンや携帯電話など電子機器のなかに希少価値の高い資源が鉱山のように眠っている。それらの電子機器は「都市鉱山」と呼ばれている。


独立行政法人「物資・材料研究機構」の公表データによれば、日本の「都市鉱山」には全世界の埋蔵量の1割を超える希少金属、いわゆるレアメタルが存在するという。その総額を試算すると、約41兆円。そこから「日本は世界有数の資源大国」という見方が、あながち間違いでないことがわかる。


たとえば携帯電話の部品には、金、ニッケル、カリウム、リチウム、ネオジムなど多くのレアメタルが使われている。最もわかりやすいのが金だ。1台から0.03グラムの金が抽出できる。日本国内には、約1億5000万台の携帯電話が存在する。1万台回収できれば、約300グラムの金が抽出できることになる。自然の金鉱山の鉱石から採れる金は、1トンあたり5グラム程度しかないことを比較すれば、「都市鉱山」は、自然の鉱山より良質の「宝の山」ということがいえる。


廃棄された製品の部品から効率よくレアメタルを回収できれば、他の製品の部品に再利用することもできる。また、安いコストでリサイクルできれば、経済効率性が高まる。課題は、廃電子機器の回収の方法と、部品に少量しか使われないレアメタルを効率よく抽出する技術だ。NTTドコモは、販売店やコンビニに携帯電話の回収ボックスを設置しているが、効果はあがっていない。一部の消費者からは「資源高の折、レアメタルを含む携帯電話をタダであげるのはおかしい」という声もあがっている。提供する側にもメリットのある回収システムが求められている。


一方、廃棄処分される家電や通信機器を日本から買い取っている国がある。中国だ。レアメタル以外にプラスチックやペットボトル、古紙も、中国企業や日本の商社が日本から中国へタンカーで資源ゴミとして運んでいる。まだ記憶に新しい、製紙メーカー各社の再生紙偽装。


その背景には、日本の古紙を中国企業が高値で買い集め、日本の製紙会社が「買い負ける」という資源争奪戦の実態があった。値段の上がった古紙を購入すれば、製紙メーカーは利益が出ない。モラルより経済原理が優先したひとつの例だ。さらにペットボトルなどの資源ゴミも中国への流出が加速し、日本の再商品化業者が相次いで倒産している。


資源に乏しい日本だが、皮肉なことに資源ゴミの排出量は世界屈指だ。これらがリサイクルできるなら、日本は「資源国」といえなくもない。中国は低賃金による人海戦術と最新の技術導入によって、リサイクルビジネスの先進国になっている。中国では経済成長にともない、とにかく資源が不足している。

たとえばプラスチック製品の原料として、日本で廃プラスチックを回収して中国に輸出する中国系企業があるが、同社の2006年の年商は53億円、2007年には63億円に達している。1年間で10億円も売上を伸ばしている。中国国内では、廃棄された家電や通信機器を専門に扱う町やプラスチックを専門に扱う町が存在している。日本から届いた資源ゴミを選別したり粉砕したりすることが彼らの仕事だという。


このように「世界資源戦争」は、資源ゴミをも争奪する局面を迎えている。それは中国のみならず、東南アジアの国々にも広がっている。日本はアジアにおける「資源ゴミの輸出大国」になりつつある。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 41 国によって異なる化石燃料代替エネルギー

現在、おもなエネルギー資源として全世界で利用されている石油や石炭、天然ガスは、燃やすと二酸化炭素やメタンを排出し、温暖化を促進するといわれている。しかもそれらの化石燃料は、いずれ枯渇することから、温室効果ガスを排出しない再生可能なエネルギーへの転化が始まっている。化石燃料代替エネルギーの本命は、いちはやく実用化された太陽電池か、それとも開発中の水素エネルギーか、あるいはバイオエタノールやバイオガスなどバイオ燃料か? 


その答えはまだ明確になっておらず、また国によってまったく異なる。なぜ異なるのかといえば、その国にどんな資源とどんな技術があるのかによって、政府の進めるエネルギー対策が異なるからだ。たとえば資源大国のロシアは、アメリカに原油と天然ガスを輸出しているが、反対にアメリカから穀物を輸入している。


ロシアは寒冷地にあるため、穀物の栽培に適していないから、輸入せざるを得ないのだ。じつは穀物も多くの産業の「資源」となっている。家畜の飼料である。だから穀物価格が高騰すれば、牛肉や豚肉、牛乳、チーズ、バターの価格、あらゆる乳製品の価格が上がる。世界一の穀物生産高を誇るアメリカは、再生可能な「資源」を保有しているというわけだ。


一方、アメリカは電力の確保は原子力発電を、ガソリンはバイオエタノールを推進している。じつはアメリカの発電所は石炭を燃やす火力発電所が主流で、米国の発電量の半分をまかなっている。原子力発電はまだ少数派に過ぎない。その火力発電所だが、2007年には建設中止に追い込まれた石炭火力発電所の数が59カ所に上っている。

地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量が特に多いとして、州政府が建設許可を出さなかったことなどが理由で、金融機関も融資に消極的になっている。2006年度の米国の総発電量に占める石炭の比率も1980年以来最低の49%となり、この年に米国の石炭依存は転機を迎えたと判断できる。

一方、石油資源に乏しいドイツとスウェーデンでは、家畜の糞尿や生ごみ、木材などの動植物を発酵させて得られる「バイオガス」が、産業廃棄物の有効利用法として、また石油の代替エネルギー源として注目を集めている。ドイツには2000近くのバイオガス工場があり、汚水処理場や埋立てゴミ、家畜糞尿などから発生するガスを使って、電力や熱エネルギーを生産している。


スウェーデンでは、バイオガス自動車に優遇措置がとられ、燃料費はガソリンの15%ほど安く設定されている。また、自治体によってはバイオガス自動車の駐車料金が無料になるケースもある。反対にガソリン車には、炭素税が課せられ、維持するのに負担がかかるようになっている。

スウェーデンは、国土の約半分を森林が占める森の国。自動車や工場の燃料に用いられるバイオマス燃料は、森林を伐採した後に残される樹木の枝や製材に使われない樹木の先端部分、樹皮、端材など、いわば「森のゴミ」を使って熱と電気を作り出しているというわけだ。スウェーデンは生活水準が高いと同時にエネルギー消費量も多い。この点は、日本、ドイツ、韓国にも共通する要素だ。


スウェーデンは寒冷な気候のため、エネルギーの4分の1は暖房に用いられている。1970年頃には、国内消費エネルギーの約4分の3を輸入原油が担っていた。しかし、1970年代の2度の石油ショックをきっかけに、エネルギー需要の抑制と輸入原油への依存を減らしエネルギー源の多様化を図る方向にエネルギー政策を大きく転換した。


この結果、1970年から現在までエネルギーの総需要量はほとんど変わらない一方で、原子力発電の開発を見直し1990年から税制改革の一環として、化石燃料に対する炭素税や硫黄税、窒素酸化物税等の環境税が導入された。その反対に、バイオマス燃料に関しては、これらのすべての課税が免除されたのだ。このため、バイオマス燃料を用いることは経済的にも有利になるようなしくみになっているのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 40 排出権ビジネスとクリーンエネルギー

排出権取引は、各国に温室効果ガス削減の数値目標が定められた「京都議定書」で採択された制度のひとつだ。温室効果ガスの排出枠を超えた国と排出枠に余裕のある国が、排出枠を「1トン6ドル」といった金額に換算して売買できるしくみである。排出権取引で先行しているEUでは、すでに域内の大量排出企業を対象に排出枠が割り当てられ、取引市場が誕生している。2007年の世界の排出権取引額は、約6兆4600億円。取引総量は27億トン。金額、量とも急激に増加している。


温暖化対策に「温室効果ガスをたくさん出すと損失が増える」「排出枠に余裕が出れば売却益が得られる」という市場原理が導入されたことで、温室効果ガスの削減が進むことが期待されている。しかし、その反面、排出権が金融商品として投資対象となることを危惧する声もあがっている。


国内でも何社かの信託銀行が、排出権を証券化した信託商品を販売。1000トンから数万トン単位の小口の排出権を求める企業に向け、信託受益権の形で排出権を提供する。また、一部の証券会社は、排出権を株式や債権と同じように取引している。


さて、京都議定書の締結国の日本は、1990年の排出量を基準にして2010年には6%削減することを約束し、「チームマイナス6%」を掲げて石油代替え燃料の開発やクールビズなど、様々な取り組みを続けているが、産業界は依然燃料を石油に依存しており、6%削減どころか14%も超過しそうな気配だ。そこで、日本がロシアから2億円の排出権を購入するのではないかという噂が出ている。ロシアは二酸化炭素の削減に余裕がある国で、日本に公式にアプローチしているというのだ。


一方、EUのなかで二酸化炭素排出削減において好成績をあげているのが、スウェーデンとドイツだ。ドイツは1990年、二酸化炭素排量12億トンだったが、現在は10億トンを下回っている。それを成し遂げた要因のひとつは、1991年に太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの利用を促進する法律「再生可能エネルギー法」をいち早く施行したことだ。再生電力の買い取り制度によって投資を促すもので、再生可能なエネルギーによって生産された電力を20年間にわたり市場価格より高い固定価格で電力会社が買い取ることが義務づけられている。


これにより自宅の屋根に太陽光発電システムを取りつけ人が増え、数年間で需要は拡大した。太陽電池の生産国にもかかわらず、日本ではコストが高くて導入しない家庭が多いのに対して、ドイツでは個人が電力会社に売電して「儲ける」ことも可能なのである。こういった政策を背景に、2008年春、シャープを抜き、太陽電池の売上高で世界最大のメーカーになったのが、ドイツの「Qセル」だ。


ところで、太陽電池と資源高は密接につながっている。太陽光発電の需要が伸びたことで、太陽光発電システムに欠かせない主原料の多結晶シリコンが半導体材料としての需要増もあって品薄となり、シリコンの価格が高騰。その結果、2006年に住宅用太陽電池は一度値上がりしている。シリコンの主要生産国5カ国は、中国、ロシア、ウクライナ、ノルエ-、ブラジルだ。


近年の原油高で新エネルギー発電への期待が高まるなか、太陽光発電は、火力発電や原子力発電、あるいは風力発電などと共存できるのだろうか。それとも水素やバイオ燃料など新しいエネルギーが浸透するのだろうか。決め手は、製造コストと競争力である。たとえば時代に逆行するようだが、燃料として石炭が安ければ、競合することになる。「世界資源戦争」は国や企業のみならず、石油を使う発電と石油を使わない発電といったエネルギー間の競争にも発展しているようだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 39 原子力発電とクリーンエネルギー

原子力発電と太陽光発電、風力発電など自然エネルギーを燃料とする発電は、発電する際に温室効果ガスの排出が少ないという一点において共通している。温室効果ガスの排出量の多い発電方式は、1.石炭を燃料とする火力発電  2.石油を燃料とする火力発電 3.太陽光発電 4.風力発電 5.原子力発電の順だ。ただし、ウラン濃縮のための電力を加算すると原子力発電の排出量は多くなる。


日本もアメリカも原子力発電を推進する国だが、一方で温室効果ガスの排出量の少ないクリーンエネルギーの開発推進にも力を入れている。日本のクリーンエネルギー事業といえば、太陽光発電に欠かせない太陽電池の製造だ。しかし、国別の太陽光発電の累積導入量は、1位ドイツ、2位日本、3位アメリカといった順位となっている。ドイツは原発を放棄しており、風力発電も盛ん。


シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機といった太陽電池の製造メーカーは、国内需要より輸出に力を入れている。これは日本の制度の問題が大きくかかわっている。日本には、民間企業や個人が電力会社に売電する歴史が浅く、また売電事業で大きな利益が出ないしくみになっているからだ。ドイツの場合は、1991年に太陽光発電、風力発電などの買い取り制度によって投資を促す法律が施行されたことが、太陽光発電拡大の大きな要因となった。


一方、アメリカにおけるクリーンエネルギーといえば、原子力とバイオエタノールやバイオディーゼルなどバイオ燃料だ。しかし、ガソリンの代替燃料としてブッシュ大統領が事業を推進したバイオエタノールは、予想しなかった局面で「世界資源戦争」に首を突っ込むことになった。これは国策として進めているブラジルも同様である。


原油高騰によって負の連鎖が起こり、資源高、穀物高が発生した。サブプライムローンの焦げ付きにより、ファンドの投機マネーが穀物相場に流れた。また、近年の不作が重なり、バイオ燃料の原料となるサトウキビやトウモロコシ、小麦など穀物価格が高騰した。結果、日本ではこれらを原料とする食品、あるいは飼料とする畜産品が値上がりした。アメリカやブラジルでは、多くの農家がサトウキビやトウモロコシ、小麦などの作物に転作した結果、従来生産していた作物が不足し、バイオ燃料とは関係のない作物も高騰してしまった。


そもそも穀物の耕作面積は、急には増えない。現状の生産量の一部、あるいは大部分がバイオ燃料の原料用に使われたとすれば、つまり全体の生産量が同じで需要だけ伸びたのだとすれば、穀物の価格は上がって当然だ。バイオ燃料と農作物が競合状態となり、結果、穀物のみならず農作物全般が高騰することになる。ガソリンの代替燃料としてのバイオエタノール事業は、一方で他の産業と競合することになるということだ。


しかも他国で不作が続けば、世界の食用の穀物量は絶対的に不足し、社会問題に発展する。事実、2008年に入ってから、アフリカではコートジポワール、ブルキナファソ、セネガル、アジアではフィリピン、バングラディシュで資源高、穀物価格高騰を原因とする暴動やデモが発生している。


そして産業界が燃料を化石燃料から電力に切り替えるとすれば、どうなるか? 電力会社の株は上がるだろう。その際に原子力や太陽光発電による電力であれば、温室効果化ガスの排出量が少ないので、排出権を購入する必要はなくなる。反対に既存の自動車メーカーは、排出権を購入しなければいけなくなるので、同じ売上をキープしたとしても支出だけは増え続けることになる。世界資源戦争は、クリーンエネルギーという新たな局面にも発展している。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 38 世界で原発施設を売り歩く日本企業

原子力業界を牽引する三つのグループ、つまり1.東芝と米国ウエスチングハウス(WH) 2.三菱重工とアレバ(仏) 3.日立と米国ゼネラル・エレクトリック(GE)は、世界各国で原発施設の建設に動いている。東芝は米国を中心に原子炉建設の受注件数を増やしている。ライバルの三菱重工は、2007年2月テキサス州ダラス郊外のコマンチェピーク原発に増設される2基の受注が内定し、勢いをつけた。プラントは加圧水型軽水炉の最新型で、出力170万キロワットという大型の原子力発電所だ。日本企業が米国で原発を単独受注するのは初めてで、独自開発した原子炉の海外輸出としても最初のケースとなる。


さらに2008年2月、欧州の新規原子力発電プラント市場へ参入することが決まった。日本メーカーによる欧州の大型炉市場への参入はこれが初めて。そして2008年7月、三菱重工業とアレバの合弁会社であるATMEA社は、同社が開発を進めている新型第3世代原子炉「ATMEA1」の安全設計概念について、国際原子力機関(IAEA)による審査が完了したことを公表した。ATMEA1の基本設計は順調に進捗しており、許認可申請準備は2009年末までに完了する予定だ。ATMEA社は、新型原子炉ATMEA1の開発・販売を目的に三菱重工とアレバが2007年11月、パリに設立した合弁会社で、世界の中型原子炉市場で主導的なポジションを狙う。


欧州では地球温暖化防止や原油価格の高騰を背景に、原子力発電の再評価の機運が高まっており、2030年頃までに新設プラント数10基の需要が見込まれている。三菱重工は今後、欧州市場へ積極的な営業を続けていくという。


原発の市場規模なら中国が最大だと思いがちだが、中国では電力供給に占める原子力の割合が2030年までにわずか4%にしか達しない見通しだ。それでも、三菱重工業は2008年2月、中国山東省の山東核電有限公司から同省海陽に新たに建設される海陽原子力発電所向けのタービン発電機パッケージを受注。同原発は2015年までに運転を開始する計画だ。三菱重工業は2007年にも浙江省の三門原子力発電所で同様の設備を受注している。


経済成長を続けるインドはといえば、2050年まで原子力発電量を年率9%以上の割合で増加させる計画だ。インドは近年、慢性的な電力不足に陥っており、また原油の輸入大国にもなっている。


インド政府は、電力の需要急増に対応するため、現在9基の原子炉のほかに新たに原子力発電18基の建設を計画している。


インド原子力発電公社にアプローチしているのはアレバだ。フランス・サルコジ大統領自らトップセールスをかけ、アレバの受注を援護射撃している。


一方、2008年6月、ウラン生産最大手のカメコ(カナダ)と共同で提携すると発表した日立とGEは、2008年7月、原子炉の受注戦略を見直したことを明らかにした。両社は2007年に原子力事業を統合し、世界の電力会社に対して新型原子炉を売り込んでいた。しかし原子炉をめぐる受注競争が激化していることから、すでに稼働実績がある既存の原子炉を優先する戦略に転換したのだ。


日立-GEグループの既存の原子炉は、1997年から受注を開始し、GEと合わせた受注は8基(日本6基、中国2基)で、このうち4基がすでに稼働している。


日立-GEグループは戦略転換の第1弾として、両社の米合弁会社、日立GEニュークリア・エナジー(GEH)内に、改良型沸騰水型軽水炉を提案するための新組織を発足させ、受注活動に乗り出した。日立とGE は原子力事業で2015年に年間5000億円の売上高を目指している。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 37 日本、米国、フランス企業がしのぎを削る原子力事業

先に開かれた「洞爺湖サミット」でブッシュ大統領や仏サルコジ大統領がしきりに「地球温暖化対策には、温室効果化ガスを排出しない原子力発電が最適」と発言したので、原子力銘柄が勢いを増している。


現在、原子力業界は大きく三つのグループに分けられる。1.東芝と米国ウエスチングハウス(WH) 2.三菱重工とアレバ(仏) 3.日立と米国ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。すべてのグループに日本企業が名を連ねているのは偶然ではない。資源のない日本は、安い原料を輸入し、それを高い技術で加工して付加価値をつけ、海外に輸出することで外貨を得ている。


高度なスキルが必要な原子力事業は、太陽電池同様、日本企業が得意とする分野だ。海外の原子力メジャーと組んで、中国やインドなど新興国にプラントを販売する戦略は、半ば日本の国策ともいえよう。資源が乏しく、かつ世界屈指の資源消費国である日本が、「世界資源戦争」で生き抜くには、資源消費国に技術を販売するのが得策。その技術は様々な装置に形をかえ、エネルギー分野と環境分野で花開いている。


では、原子力業界の話を進めよう。2004年から始まった原油価格の高騰により火力発電に対する原子力発電の優位性が高まった。また、京都議定書で定められた各国の温室効果ガスの排出枠が、「1トン6ドル」といった金額に換算して排出権取引されるようになったことも大きく影響している。


温室効果ガスの排出枠を超過すると損益が生まれるのだから、化石燃料を燃やして温暖化を促進する火力発電所は立場がない。しかも売電事業で得た利益は排出権取引によって減ることになる。一方の原子力発電は、プラント建設の際に石油を使うものの、火力発電所と比べると、温室効果ガスの排出量が少ない発電施設だ。放射能もれのリスクはあるが、温暖化防止をプライオリティーとするなら、国や企業の大義名分も立つ。


東芝が英国核燃料会社(BNFL)の傘下にあったWHの全株式を取得したのは2006年のこと。買収額は約6000億円だった。WHは2006年時点、米国を含め世界34ケ所に技術・販売拠点を持ち、原発の建設実績は98基。従業員約9000人、売上高約18億ドル(約2100億円)だった。当時、その買収金額は「高い買い物」だと指摘された。三菱重工、GEを抑えて東芝が買収できた要因には、示金額のほか中国への原発ビジネスなどで東芝がWH経営陣の方針を尊重すると判断したことなどが挙げられた。


原子力ビジネスには、燃料となるウランの売買、発電所建設、売電ビジネスなどいくつかの側面がある。東芝はプラントメーカーとして実績がある。東京電力が運営する柏崎刈羽原子力発電所や、日本原子力発電が運営する敦賀発電所など約30施設にプラントを納品している。


2007年6月、東芝は初の海外での原発建設契約の内定にこぎつけた。米国電力大手NRGエナジーによる米テキサス州建設予定の原子力発電所建設だ。2015年に稼働予定。そして2008年3月、東芝はNRGエナジーの原子力発電プラント2基の主契約者に正式に選定されたと発表した。東芝は受注金額について明らかにしていないが、原発2基の建設にかかる事業費は8000億円規模とみられる。東芝はまた、NRGエナジーが2月に設立した改良型沸騰水型原子炉の事業開発会社に3米ドル(約300億円)、12%分を出資することも併せて発表。東芝は、今回受注した2基以外にも原子炉の受注獲得を狙っている。


米国はブッシュ政権が原子力発電推進に方向を転換したことで、原発建設申請が相次いでいる。米国市場が大きく成長することは明白で、米国でのシェアの半分を東芝・WHが取るのではないかといわれている。東芝にとってWHの買収額約6000億円は、今となっては「安い買い物だった」ということになる。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 36 資源メジャー側にまわる大手商社

大手商社が単独で海外の鉱山など資源開発に出資する先駆けとなったのが、住友商事のバツ・ヒジャウ鉱山(インドネシア)だ。住友商事は1996年に権益を取得したが、2001~2003年、銅価は低迷した。それでも、銅価はいずれ上昇すると判断し、権益を手放さなかった。この結果、現在では91億円の持ち分利益をもたらす事業に成長した。


伊藤忠商事が1994年代に権益を取得したアゼルバイジャンの油田は、2007年度に334億円の利益を同社にもたらした。アゼルバイジャンのカスピ海海域に位置するACG鉱区は、アゼリ油田、チラグ油田、グナシリ油田の3油田により構成される。可採埋蔵量は54億バレルだ。そのグナシリ油田深海部からの原油生産が2008年4月からスタートしたので、伊藤忠商事は次の決算で再び大きな利益を得るはずだ。さらに伊藤忠商事は2008年2月、メキシコ湾の油田の50%権益の取得に成功している。


もともと100%権益を持つ米中堅石油開発会社が単独で開発する予定だったが、サブプライム問題に伴う信用収縮の影響で資金調達が厳しくなり、伊藤忠に資金拠出の声がかかったのだ。日本の商社は、サブプライム問題で損失はあったが、副産物も多かったようだ。一方、丸紅は2008年4月、総額2000億円という、単独では同社最大となるチリの銅鉱山への投資に踏み切った。


世界経済は1970年代から2000年まで、ほぼ3%のペースで成長を続けてきたが、中国、インド、ブラジルなどの新興国が世界経済に組み込まれた結果、2002年から5%成長に加速した。これが世界の資源価格を押し上げた。日本の鉄鋼会社や銅精錬所、電力・ガス会社などへの原料供給を手掛けてきた大手商社は、資源価格が低迷していた90年代後半から、上昇し始めた2000年代初頭にかけて、少額出資から一歩踏み込み、リスクをとって大口の権益獲得に乗り出した。これが現在の好調な業績の土台となった。


いまや鉄鉱石の貿易に占める世界シェアでは、三井物産は約5%、三菱商事は石炭で15%と、BHPビリトン(オーストラリア)やリオ・ティント・グループ(英国、オーストラリア)などの世界の資源メジャーに比肩する存在となっている。


商社のたくましさは、タワシからミサイルまで、売れるとなればどんなアイテムでも輸出入することにあるが、資源価格の高騰で需要が拡大した鉱山開発向けの建設機械、タイヤや貨車、油田用の鋼管など、資源・エネルギーの周辺市場を取り込んだことも見逃せない。資源の開発と生産には、重機やパイプライン、道路などインフラ整備は欠かせない。日本の「コマツ」が製造する建設機械が海外で広く求められていることが、それを証明している。商社は新興国の経済成長をインフラ整備から支え、売上を積み重ねているのだ。

発電所、鉄道、水処理設備など、2002年以降、日本からのプラント輸出は毎年2兆円を超える水準で推移している。大手商社6社の機械部門の純利益は2004年3月期に1000億円に満たなかったが、2008年3月期には約2400億円にまで拡大した。4年間で2.4倍にもふくれあがったのだ。特に北京オリンピックを控えた中国向けの輸出は大きい。

商社の事業投資も軌道に乗り始めている。丸紅は1990年代に入って発電事業そのものに参入。現在では世界各国で持ち分発電量6600メガワットの発電事業を運営。民間の独立発電事業体では世界4位の規模となり、2008年3月期は純利益110億円を稼ぎ出した。


石炭や石油のように枯渇資源でなく、再生可能なエネルギー。すなわち、風力や太陽光を利用した自然エネルギーによる電力事業や原子力事業に参入するプラントメーカーも登場している。資源高でもうけた商社は、次にエネルギー産業に進出しようとしているのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 35 資源高で高収益の大手商社

2008年7月15日、燃料高騰にあえぐ日本全国の漁師たちが「スト」に打って出た。漁船の燃料の重油が3年間で3倍近く高騰したことで、「出漁すれば赤字」という状態が続き、各地の漁業者からは「廃業してしまうしかない」と抗議の声があがっている。しかし、その一方で、資源高の恩恵をこうむり、売上が急増している業界がある。資源会社と資源を輸出入する商社だ。


2008年3月期決算で、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商など大手6社がそろって最高益を更新した。権益を持つ資源価格がまんべんなく大きく値上がりしたからだ。大手6社そろっての最高益更新は3年連続。6社合計の当期利益は、4年前の約2200億円から約7倍の1兆5千億円まではね上がった。この4年間で、売上でなく、利益が7倍も増えた業界は少ないだろう。


たとえば三菱商事は海外に鉄鋼原料用石炭(原料炭の)権益、三井物産は鉄鉱石の権益を所有している。原料炭と鉄鉱石をめぐる鉄鋼会社との価格交渉が、ここ数年いずれも大幅な値上げで妥結し、利益を上乗せしてきたのだ。商社は世界のシンクタンクやアナリストを通じて、資源が高騰することを知っていたのではないか。そう疑いたくなる理由は、資源価格の高騰が始まる前に、各商社が鉱山や油田の権益に手を打ってきたからだ。


2007年3月期決算で、三菱商事に1081億円の持ち分利益をもたらしたオーストラリアの鉄鋼原料用石炭事業は、2001年にオーストラリアの資源メジャーBHPビリトンから約1000億円で権益を取得したものだ。そのBHPビリトンは2007年まで4年連続で史上最高益を更新中だ。鉄鉱石や原料炭の価格は1970年代から80年代にかけて長期間低迷し、90年代には鉱山会社の再編が相次いだ。三菱商事は割安なうちに資源の川上に権益を取得する「川上投資」に打って出たのだ。


三井物産も「川上投資」に成功した。2003年に、ブラジルに本社を構える世界最大の鉄鉱石生産会社「コンパニア・バーレ・ド・リオドセ」(現ヴァーレ)へ15%の間接出資をしたのが今になって非常に効いている。国営企業だった「リオドセ」は1997年に民営化されたが、持ち株会社である「バレパール」(ブラジル)の大株主だった現地の投資銀行は2003年、長く低迷する鉄鉱石価格に嫌気が差し、保有する「バレパール」株15%の売却を三井物産に打診した。同社が1000億円規模のバレパール株取得に踏み切ったのは、鉄鉱石の権益を取得できる、願ってもない機会だったからだ。


当時のリオドセの純利益は6億ドル、約630億円程度。これが5年間で今や約1兆500億円を超える優良企業に成長した。株価も順調に推移しており、2007年末の株式時価総額は約17兆円で、これはトヨタ自動車と肩を並べる規模だ。日本の最大手「新日本製鉄」や韓国最大の鉄鋼メーカー「ポスコ」は、このヴァーレから鉄鉱石を購入している。2008年の鉄鉱石価格は2007年と比べ65%引き上げられた。それでも合意せざるを得ないのは、鉄鉱石は売り手市場だからだ。そして2008年6月、ヴァーレの株式増資に対し、三井物産は追加出資を決定した。拠出金額は約750億円の見込み。それほどの出資をしても十分"元が取れる"ということを物語っている。


資源高に苦しめられる業界のその隣で、資源メジャーと商社は我が代の春を謳歌している。これが「世界資源戦争」の実態である。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 34 大手資源グループの攻防

世界のウラン生産と価格をコントロールしているのは5社。すなわちカメコ(カナダ)、アレヴァ(フランス)、多国籍グループのリオ・ティント・グループ(英国、オーストラリア)、カザトムプロム(カザフスタン)、TVEL(ロシア)。


世界中で資源生産を続けるリオ・ティントは、多国籍の鉱山・資源グループだ。出身母体を同じくする「リオ・ティント・ジンク・コーポレーション」(イギリス)とRTZ Ltd(オーストラリア)の合併によって誕生したRTZ-CRAが持株会社となり、1997年に設立。非鉄金属、鉄鉱石などの金属鉱業に加え、工業原料、石炭、ダイヤモンドなどを扱う総合資源グループとして君臨している。


起源は、ロンドンとパリの両ロスチャイルド家、銀行家、投資家が1873年、赤字経営の続くスペイン国営リオ・ティント鉱山を買収したことに始まる。ロスチャイルド資本が投入され、鉱山開発、製練事業を展開するとともに、鉱石運搬を目的とした鉄道経営にも乗り出す。1905年までにロスチャイルドの出資比率は30%を超えた。これが英国リオ・ティント社の本流だ。同社は1954年にはスペインの権益を処分し、カナダとアフリカ・ナミビアのウラン鉱山経営、南アフリカでの銅鉱山経営に転換した。


一方、1905年、オーストラリアに亜鉛鉱石の採掘を行なう「コンソリデッド・ジンク」が誕生。1962年、英国リオ・ティント社とコンソリデッド・ジンクが合併。両社の事業を整理・再編して、オーストラリアを本拠とする亜鉛生産業のCRA社と、イギリスを拠点に銅・石炭・ウランを対象とするRTZ社が誕生。CRA社は子会社を通じてアルミニウム事業にも進出した。この2社の株主は1995年、両社の株式のすべてを保有する持株会社RTZ-CRA社を設立し、「リオ・ティント・グループ」が誕生したのである。その後、CRA社は「リオ・ティント・ピーエルシー」、RTZ社は「リオ・ティント・リミテッド」と社名を改めた。

リオ・ティント・グループは、鉄鉱石分野では西オーストラリア州に多くの鉄鉱山を保有し、中国企業とも提携。鉄鉱石産出の世界第2位となっている。銅は、オーストラリア、インドネシア、南アフリカ、チリなどで産出。また、カナダに投資し、ウラン鉱山を確保。権益を増やし、ウラン生産でも業績を伸ばしてきた。この背景には、イギリス政府がアメリカの影響を受けないウラン供給源を求めていたことがある。つまり、政府の意向でリオ・ティント・グループはカナダでのウラン確保に動いたということだ。これは何を物語っているのか。一方、ダイヤモンド事業は、西オーストラリア州アーガイル鉱山で産出されるピンク・ダイヤモンドで知られている。同鉱山は世界のピンク・ダイヤモンドの総供給量の90%を占めている。

この大手グループが新たな動きを見せている。原油価格の高騰や中国、インドの破竹の経済成長が続き、世界の資源争奪戦が激化する渦中、リオ・ティント・グループは2007年12月、カナダのアルミ最大手「アルキャン」を 買収することで合意したと発表。買収額は381億ドル(4兆6500億円)。買収が成立すれば、世界の鉱業金属業界における史上最大のM&Aになる。そして両社のアルミ地金生産量は合計で420万トン強に達し、統合後は世界首位に躍り出る。これを機に世界の資源大手の再編が加速する可能性が出てきた。米アルミニウム大手「アルコア」もアルキャンに288億ドル超で買収を仕掛けていたが、アルキャン側は拒否していた。



リオ・ティント・グループは、アルキャンの発行済み普通株すべてを1株101ドルの現金で買い取る計画だ。最低3分の2の株式取得を成立の条件としてTOBを実施し、買収に成功すれば両社のアルミ部門を統合し、「リオ・ティント・アルキャン」を設立するという。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 33 地球温暖化と原子力銘柄の相関関係

原油価格の高騰と同時に地球温暖化対策の急務が叫ばれるようになった頃、原子力発電を見直すトレンドが浮上した。化石燃料を燃やす火力発電と比べ、CO2を排出しない原子力発電はエコロジカルだという展開になったのだ。口火を切ったのは、電力のほぼ100%を原発でまかない、隣国に電力を販売してきたフランスだ。「CO2を排出しない地球に変えよう。京都議定書を順守しよう」という政治的なメッセージは、原発を推進するフランスの経済的なメリットを見越したしたたかな戦略である。そしていま、原発事業がCO2削減と利益追求を同時にできる有力なビジネスであると判断した投資家が動いたからだろう、2007年から原子力銘柄がブームとなっている。


原子力産業のすそ野は広い。川上に位置するのがウラン鉱山会社だ。原子力発電コストに占めるウラン価格の割合は2~3%と小さかったが、2003年以降、ウラン価格が高騰。今後原発建設が加速すればさらに上昇し、発電コストにも大きく影響するだろう。増える需要をまかなうには新規鉱山開発が欠かせない。資源量は十分あっても、生産段階まで持っていくには5~10年かかるため、莫大な資金が必要だ。供給が追いつかなければ、ウラン価格は跳ね上がる。


ウランは金や石油、小麦のように取引市場が国際的に広がっていない。原子力発電所のある国が限定されているため、生産国との直接交渉がほとんどだ。世界の天然ウラン生産量の多い順をあげると、カナダ(26%)、オーストラリア(20%)、カザフスタン(14%)、ニジェール(9%)となる。


ロシアのチェルノブイリと米国スリーマイル島の原発事故のマイナスイメージから2000年以降、閉山する鉱山や廃業する原子力関連企業が相次ぎ、生産会社は淘汰された。その結果、現在はカメコ(カナダ)、アレヴァ(フランス)、多国籍グループのリオ・ティント(英国、オーストラリア)、カザトムプロム(カザフスタン)、TVEL(ロシア)など、わずか数社が世界のウラン生産と価格をコントロールしている。


カナダの「カメコ」はカナダ、アメリカでウランを採掘する世界最大手。近年ではウラン生産国カザフスタンにも進出し、国有原子力企業カザトムプロム社と組み、ウラン転換の新しい有限責任事業組合となる「ウルバ転換LLP」を設立した。日本の主なウラン調達先はオーストラリア、カナダ、アフリカのナミビアやニジェールなどだが、近年は官民一体となって、カザフスタンに急接近し、ウランをはじめとする原子力分野の協力関係を強化している。日本の電力会社(東京、中部、東北、九州)と東芝、丸紅は、カザトムプロム社やカナダのウラン鉱山開発会社と協力してカザフスタンのハラサン鉱山の新規開発・生産・ウラン販売をするプロジェクトに参画。2014年からフル生産を始める。約40年は生産できるという。


フランスの「アレヴァ」は、ウラン採掘のみならず、プラント建設、発電供給まで行なう原子力産業複合企業。フランスの原子力政策の転換によって誕生した持株会社だ。傘下に原子炉メーカー「アレヴァNP」、原料の調達と原子炉に燃料供給を行なう「アレヴァNC」、発電機供給と送電設備を担う「アレヴァT&D」などがある。アレヴァNPはドイツ・シーメンス社の原子力部門を買収して誕生した経緯から、66%の株式をアレヴァが、34%の株式をシーメンス社が保有している。


原発建設を凍結したドイツだが、ドイツを代表するシーメンス社は原子力産業最大手の大株主なのである。アレヴァNPは、フランス、ドイツ以外に中国での受注実績がある。三菱重工業の提携先としても知られている。またアレヴァNCは、カナダ、オーストラリア、カザフスタン、ナイジェリアにウラン採掘の権益を保有している。


フランスは、このアレヴァ・グループを全面的に支援するために「CO2を排出しない産業構造に転換しよう」というメッセージを世界に発したということだ。つまり国益を守るために「地球温暖化防止」に参加しているのである。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 32 レアメタル市場

レアメタルとは希少金属のことだ。プラチナ、ニッケル、クロム、コバルト、タングステン、マンガンなどが代表格で、鉄や銅、亜鉛、アルミニウムなどと異なり、天然に存在する量が少なく、生産量は限られている。これらレアメタルも2004年以降、急騰した。


プラチナの生産国の代表が、世界第1位の南アフリカと第2位のロシア。ともに資源によって潤っている国だ。プラチナは供給量が限られているうえ、自動車触媒、磁気記録媒体、液晶パネルなどハイテク産業用の需要増が見込まれている。日本はこれを輸入し、自動車やデジタル家電、産業機械の素材として大量に使用している。プラチナ消費大国だ。


ニッケルは、ニッケル鉱石として生産量され、地金に加工されて材料として使われる。主要鉱石生産国は、ロシア、カナダ、オーストラリア、インドネシア、ニューカレドニアだ。世界のニッケル地金生産量国は、ロシア、カナダ、日本、中国、オーストラリア。 世界のニッケル主要消費国は、中国、日本、米国、ドイツ、韓国だ。ニッケルは、中国・インド等の経済成長を主要因とする世界的な需要の拡大により2003年後半から価格が上昇に向い、特に2006年に入って価格が急騰した。


2006年に平均価格はトンあたり24,286ドルで、2001年平均価格と比べ4倍を超えた。2008年5月には、1トンあたり54,000ドルという過去最高値を記録。2007年1月と比べ3.5倍にも跳ね上がった。軒並み値上がりしているレアメタルのなかでも高騰率は著しい。ニッケルの主用途は、高級鋼材であるステンレス用。じつは中国のステンレス生産も5年間で5倍に急増している。ステンレスはで完全な先進国型商品とされており、中国の需要急増から国民の生活が向上していることがうかがえる。


クロムはクロム鉱石として採掘される。主要な生産国は、南アフリカ、 インド、カザフスタン、ジンバブエ、フィンランドなどだ。世界の生産量の 40 %以上を占める南アフリカの存在が圧倒的に大きく、レアメタル大国南アフリカは輸出で潤っている。クロムは「クロムメッキ」で知られるように、耐食性が高く、サビないことから、車両、機械、流し台、包丁などに用いられる。日本では産業上重要度が高いレアメタルのひとつだ。相場では、興味深い現象が起こっている。これまでステンレスの価格動向はニッケルの価格に左右されてきたが、2007年末からクロムの価格の高騰によりベース価格そのものが高騰しているのだ。つまり原料の値段が上がったので、ステンレスの値段も高騰しているのである。


タングステンは、膨張しにくく、硬質なのに容易に細い線に加工できることから、昔から電球のフィラメントに使われてきた。近年では鉄鉱石に混ぜて強度を上げ、金型や切削工具材料をつくる際に使用されている。本来、宝石、アクセサリーなどの高級ジュエリーに使われている金属で、やはり価格は高騰している。コバルトは超合金材に、マンガンは、乾電池に使われることで知られている。このほかにレアアース、カドミウム、インジウム、タリウム、シリコン、チタンなどレアメタルと呼ばれる金属は31種ある。


日本は、レアメタルを大量に輸入し、それを使って自動車や産業機械を製造し、輸出してきた国。不足した場合、日本経済の「アキレス腱」になりかねない。特定の素材だけは、民間と国が年間消費量の60日分を備蓄してきたとされている。はたして60日分でいいのか。日本の製造業の息の根を止めるには、レアメタルの不足が一番だ。そして価格が高騰し続ければ、危険信号が点滅する。素材の高騰分は製品に上乗せされる。技術は申し分なくても、価格競争では世界の競合に負ける可能性は高い。


By Master K/益田 慶



世界資源戦争 31 銅やアルミなど非鉄金属資源高騰の背景

高騰を続けているのは、原油と鉄鉱石だけではない。非鉄金属の高騰も著しい。たとえば銅地金。銅は耐食性が高く、古来貨幣の材料としても使われてきた。5円玉は黄銅製、10円玉は青銅製だ。銅は鉄に次ぐ最も重要な金属材料で、電気伝導性が高く、他の電気伝導性物質と比べコストが安いことから、現在、電線やケーブル、電気器具の配線、部品、回路などインフラ整備に欠かせない素材となっている。銅は銅鉱山で採掘された銅鉱石をコークスや石灰石などを加えて溶練炉で容融し、鉄分を除いて銅マットと呼ばれる中間製品に濃縮される。次に銅マットを精錬し、純銅に精製される。これを製造業が使いやすいように地金の形に加工したものが銅地金で、日本は銅地金生産の世界第3位だ。


銅鉱石の主要生産国は、チリ(38%)、米国(8%)、ペルー(7%)、インドネシア(7%)、オーストラリア(6%)、ロシア(5%)など。銅地金は2002年まで1トンあたり1500ドル台で推移していたが、2004年から上昇。2006年5月、8800ドルの史上最高値をつけた。その後、いったん5000ドルまで値を下げたたが、2007年7月に8300ドルを突破した。日本では2006年、銅地金の高騰により、住友軽金属工業が従来の定価制から銅建値連動制による価格設定に変更するなど緊急避難措置が取られた。


銅鉱石の世界の生産量は2004年1453万トン、銅地金の生産量は1575万トン。これが2006年には世界の銅の需要が1732万トンに拡大、2007年の合計はまだ出ていないが、1800万トンと推定されている。2004年から、銅の消費量が急増したのは中国の消費が拡大したからだ。GDPの成長に比例して原油、鉄鉱石、銅地金の消費が急増。ちょうど北京オリンピックに向けたインフラ整備、都市部での建設ラッシュ、住宅の増設にともない電線やケーブル、電気器具の需要が高まり、急激な需要増による国際的な価格高騰が発生したのだ。中国は現在も国内で鉄鉱石の生産をしているが、とうてい追いつかず、輸入に頼るしか方法はなくなった。


アルミ価格も高騰している。アルミは航空機や建材、自動車のパーツ、家電製品などに大量に使用される。かつて1トンあたり1300ドル台で推移していたアルミ地金は、2006年5月に3300ドルとなった。ロンドン金属取引所(LME)における2008年2月アルミ地金の始値は2660ドルなので、いったん落ち着いたようだ。それにしてもかつての倍の価格である。アルミ価格の高騰の要因も中国の消費量が伸びたからだ。2000年に332万トンだった年間消費量は、2007年には1072万トン、2008年には1231万トンまで増えると推定される。


アルミは、鉱石のボーキサイトを原料として生産される。世界の原産国は、オーストラリア、ブラジル、中国。ボーキサイトからアルミを精錬し、地金に加工したのがアルミ地金だ。こちらの生産国のベスト5は、中国、ロシア、カナダ、米国、オーストラリアの順。中国が世界の4分の1を占めている。アルミ地金は生産量同様、消費量も中国が第1位で、2位米国、3位日本、4位ドイツ、5位韓国と続く。生産・消費ともダントツで世界のトップを走る中国だが、アルミ地金の生産高は減少しているという。


中国政府の金融引締め強化や、原材料及び電力価格上昇のため、中国でのアルミ地金生産高が大きく減少、2008年1月の中国の生産高は前月比8%減となった。輸出アルミ地金に対する税率は10%ながらも、元高が続いているため、中国のアルミ製造社も輸出にはあまり積極的ではないようだ。さらにロシアの最大アルミ生産工場も輸出高を縮小している。これまで輸出を続けてきた中国での消費がさらに増え、輸入するようになれば、さらにアルミ価格は上昇していくだろう。「世界資源戦争」は、原料を消費し続け、経済成長を続けるための経済戦争という側面も見えてくる。しかし同時に、価格高騰により、特定の産業が低迷するという副作用もきちんと見極めなければ、うかつに投資できないのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 30 金属資源高騰の背景 中国が牽引する鉄鉱石市場

これまで石油の開発の歴史、OPEC諸国とメジャーの動向、資源ナショナリズムの影響による新興国の国営企業の発展などを見てきたが、「資源戦争」は石油や天然ガスだけに留まらない。近年、高騰している資源は原油だけではないことに注目してもらいたい。たとえば1980年代から2000年初めまで、トンあたり30ドル前後で推移していた鉄鉱石の国際価格もまた、2004年に突如37.9ドルに上昇、2008年2月には80ドル弱にまで高騰している。


鉄鉱石や石炭、銅、アルミなどはどれも原材料資源で、鉄鉱石は鉄鋼製品の原材料である。その鉄鉱石の国際価格が急に高騰したとは、いったいどういった世界情勢なのか。


世界の鉄鉱石市場の供給側のメンバーはほぼ固定している。鉄鉱石生産国ベスト5は、中国、ブラジル、オーストラリア、インド、ロシアだ。この5ヶ国が世界の鉄鉱石の生産の約7割を占めている。これに対して需要側のメンバーは大きく入れ替わっている。かつては米国、日本、欧州が主なプレーヤーだったが、近年、中国、日本、韓国の3ヶ国が世界の鉄鉱石輸入量の過半数を占めているのだ。中国は鉄鉱石の最大の生産国で最大の輸入国、加えて最大の消費国に急成長した。自動車やビル、家電向けの中国需要が急膨張した結果、鉄鉱石の国際価格は急騰し、2003年30%、2004年80%、2005年71・5%と驚くほどの値上がりを記録したのである。こうして中国が現在、鉄鉱石市場の価格を左右する最大のプレーヤーとなっている。


かつて鉄鉱石の国際価格は、3大メジャーと呼ばれるヴァーレ(ブラジル)、BHPビリトン(英/豪)、リオティント(英)と、世界の主要鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタル(ルクセンブルグ)、コーラス(英/オランダ)、ティッセン(ドイツ)、これに日本の企業グループ(新日本製鐵、JFEグループ)が加わり、相談して決定していた。日本の企業グループは、オーストラリアと中国を供給拠点とするBHPビリトンとリオティントと交渉してきた。ここ数年はメジャーと鉄鋼メーカーが個別に価格交渉を行ない、早く合意に至った価格が翌年の価格の標準となっていた。


ところが、需要側に中国・宝鋼グループ、韓国・ポスコが加わり、発言力を増すようになってきた。2000年以降、鉄鉱石の生産量は右肩上がりで増加を続けている。ご存知のように、世界の製造メーカーは安い人件費、安い生産コストを求めて生産拠点を次々と中国に移した。さらに2008年の「北京オリンピック」、2010年の「上海万博」など国家プロジェクトが続いている。中国はこの需要に追いつかなくなり、鉄鉱石を外国から輸入せざるを得なくなったのだ。現在、世界の鉄鉱石輸入量の約40%を中国が占めている。つまり、鉄鉱石の生産が中国の鋼材需要に追いつかなくなったことから鉄鉱石の価格が上がり、最も多くの鉄鉱石を消費する中国企業が国際価格決定権を握ったということだ。


2008年2月、新日本製鐵やJFEスチールなど鉄鋼大手各社は鉄鋼原料として仕入れる2008年度の鉄鉱石について、供給元の資源最大手ヴァーレと前年度比65%の値上げで合意した。1トン当たりの価格は80ドル弱となり、2007年度と比べ約30ドル上昇。鉄鉱石の値上げは6年連続だ。これは日本企業が招いたものでなく、中国の影響である。ちなみに鉄鉱石値上げによる国内鉄鋼メーカーの年間コスト負担増は年間約5000億円。


これで自動車や家電メーカーなどへの大幅な価格転嫁要請の機運が高まることは避けられないだろう。あるいは値上げを見送り、現在以上のコストダウンを試みるかもしれない。その場合、下請けにシワ寄せが集まる。鉄鋼大手各社と鉄を素材に製品をつくるメーカーは、厳しい状況に立たされる。


このように鉄鉱石市場をチェックしてみると、各国の経済動向や企業の思惑、悪戦苦闘ぶりが見えてくる。これも「資源戦争」のまぎれもない側面である。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 29 新興産油国・石油企業の躍進  PEMEX(メキシコ石油公社)の攻防

メキシコは原油生産量世界第5位の産油国だが、2005年まで原油埋蔵量は上位10カ国にランクインしていなかった。メキシコの生産量の60%を占めるカンタレル油田が斜陽化し、2006年より減退に向かうことから、2016年には石油の純輸入国になるのではないかと懸念するアナリストもいた。しかし、2004年、PEMEX(メキシコ石油公社)がメキシコ湾での3年におよぶ探査の結果、約540億バレルを埋蔵する新たな大油田を発見し、事態は変わった。メキシコは、サウジアラビア、イラン、イラクに次ぐ世界第4位の埋蔵量を有する国に浮上したのである。


PEMEXはメキシコ政府が100%出資する国営企業で、石油・ガス関連プロジェクトを一元的に実施する独占企業だ。1990年代を通して公的収入の約3割、対GDP比の約7%に達するなど国家経済に貢献してきた。しかしその反面、PEMEXは高い税率によって開発資金の調達がスムーズにできなかった。大水深域における油田開発の技術に乏しく、外資の参入が不可欠だとされてきたが、税率がネックになっていたので。そこに大油田の発見をきっかけに、税制改革が進められ、PEMEXに追い風が吹いた。


2007年9月、PEMEXに対する税財政改革が議会を通過し、従来79%だった税金が2008年度から74%に減税され、2009年~2011年の間に0.5%ずつ、2012年には1%減税され、最終的に71.5%となる。この減税によってPEMEXは2008年に約300億ペソ(約27億5000万ドル)、その後3~4年間は年間500~600億ペソ(約46~55億ドル)の追加資金を得ることになる。


この一連の法案が可決されたことで、メキシコはエネルギー改革に着手し、PEMEXと外国石油企業との技術提携を進めることに弾みがついた。まず、ロイヤル・ダッチ・シェル(英国/オランダ)がPEMEXと共同開発への参加を表明し、シェブロン(米国)も深海掘削のトレーニングプログラムに協力することを発表した。メキシコはこれまで外資の受け入れに消極的だった。ここで方向を転換したのは、前述したようにカンタレル油田が枯渇しつつあることで、政府が危機感に包まれていたからだ。


もうひとつ、メキシコ政府はエネルギー問題を抱えていた。メキシコは発電用に天然ガスを大量に消費している。電力の約7割が天然ガス発電で、年率約6%ずつ増えているという。2005年に発生した米国ハリケーンの影響から天然ガス輸入価格が高騰した。メキシコは天然ガスの全消費量の約2割を米国からの輸入に依存している。アメリカからすればメキシコは「裏庭」だが、メキシコ政府は米国からの輸入依存からの脱却を目指してきた。


一方、アメリカはメキシコから原油を購入している。メキシコは米国への原油供給で3位(カナダ、サウジアラビア、メキシコ、ベネズエラの順)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場にも大きな影響を与えている。たとえば2007年10月29日、ニューヨーク原油先物相場は、同日の時間外取引で過去最高値を更新し、初めて1バレル当たり93ドル台に乗せたが、これはメキシコ湾に暴風雨が接近していることから、メキシコが1日当たりの原油生産の約20%を停止したことが要因だった。米国からすれば「裏庭」の暴風雨がそのまま母屋に及んだ形だが、米国をはじめ外資系もメキシコ湾の石油開発に力を注いでいる。


2008年4月には、丸紅が100%出資する米国子会社マルベニ・オイル・アンド・ガス・ユーエスエー社を通じて権益を保有している米国メキシコ湾コディアック鉱区において原油の発見に成功したというニュースが飛び込んできた。メキシコ湾を中心とした米国、メキシコ、そしてメジャーの攻防から目が離せない。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 28 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドのパイプライン建設攻防

カナダのオイルサンドがメジャーに歓迎されたのは、石油開発会社にとって、むやみに掘削する地域が狭くてすみ、メキシコ湾やアフリカ沖の大深度の海底油田を掘り進む作業に比べればコストも危険度もずいぶん小さいことが挙げられる。中東や中南米、アフリカなどに比べ著しくカントリーリスクが少ないことも大きなメリットだ。そして何よりも、背後に米国市場という世界最大の石油消費マーケットが存在する意味は大きい。メジャーがカナダのオイルサンドを戦略的投資先として位置づけているのは、石油を大量消費し続ける米国に最も近い生産地だからだ。巨大なマーケットが生産地の隣の国にあることは、大きなメリットである。

長年、エネルギー調達先であるイランやイラクに代表される不安定な中東情勢に頭を抱えてきたブッシュ政権にとって、カナダは救世主であったに違いない。これまでカナダは米国に農産物と木材を届ける国だったが、エネルギー大国になったからには、ブッシュ政権の対応も異なってきている。米国にとっての最大のメリットは、地続きのカナダならパイプラインで輸送できるので、タンカーに比べて運搬のコストも時間も軽減できることが挙げられる。

ブッシュ政権がカナダを重視する前に、米国のメジャーは動いていた。エクソンモービルは2006年4月、カナダからメキシコ湾まで直結するパイプラインを完成させ、カナダ西部からテキサス州の製油所まで輸送するルートを確立した。これによりエクソンモービルは、米国最大の製油所地域に運びこむ原油ルートをひとつ追加することに成功したのだ。


また、カナダではコノコフィリップスや、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルなどメジャーと地元グループが主導する「マッケンジーバリー・ルートプロジェクト」も始動している。これはアルバータ州の既存のパイプラインと接続するガスのパイプラインだ。

一方で中国をはじめとするアジアからの需要拡大を背景に、壮大なパイプライン構想も浮上した。カナダの生産地アルバータからアジア向け輸出拠点となる西海岸までの輸送用に長距離のパイプラインを建設するという構想だ。パイプライン建設大手の「エンブリッジ」が、「ゲートウェイ」という名のプロジェクトを主導し、2012年頃に操業する見込みだ。石油開発各社はカナダ・アルバータ州のオイルサンドから抽出した原油を、州都エドモントンの製油所に集めている。パイプラインはエドモントンから西海岸まで全長1200キロをつなぐ計画で、そこからカリフォルニア州やアジアに海上輸送する。

この「ゲートウェイ」プロジェクトに中国はいち早く参加を決めた。2005年5月、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)とエンブリッジが合意したのだ。パイプラインが完成した後は、西海岸からタンカーを使い、カナダ産原油が中国に運ばれるのである。パイプラインは日量40万バレルの輸送が可能で、ペトロチャイナはその半分の量を獲得するといわれている。

米国では中国企業にエネルギー会社が買収されることに抵抗感があるが、カナダは外資を排除する空気は薄い。むしろ、米国だけでなく、中国やインドという石油消費国にもカナダの石油を購入してもらいたいと考えているようだ。もちろん、日本でも関心は高いが、いかんせんスタートダッシュに出遅れた。アルバータ州にある原油埋蔵量の多い土地は、すでにカナダの石油会社、欧米メジャー、そして世界の投資家に購入されている。

ノウハウのない日本企業が今後、オイルサンドの開発のみ参加するにはハードルは高い。今になって思えばカナダのオイルサンドへの投資は、原油調達先を中東一辺倒から脱却し、中東、ロシア、カナダと分散することで、万が一の確率で起こるかもしれない21世紀の「石油ショック」のリスクを大幅に軽減できるチャンスだったのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 27 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドをめぐるメジャーの攻防

油田に代わる原油の供給場所として注目を集めていているオイルサンド。中でもカナダのアルバータ州に広がる鉱床から抽出できる原油の生産量は、2010年までにカナダ全体の50%、北米の10%を占めると予測されている。こういった事情があり、石油消費国中国の国有石油企業が真っ先に、カナダ企業の買収や業務提携に動いた。そして2006年、KNOC(韓国石油公社)がアルバータ州のオイルサンド鉱区の権益を取得。2010年から生産開始の予定だ。インドも動き始めた。インド石油天然ガス公社(ONGC)の参入が確実視されている。


アジアの国営企業ばかりではない。世界のメジャーもカナダのオイルサンドに大きな投資をしている。この背景には、2004年から始まった原油価格の高騰によって世界の産油国が強気の姿勢に移り、メジャーにとって投資環境が悪化していたことが挙げられる。たとえばベネズエラではロイヤリテイ比率が16.67%から30%に引上げられ、各プロジェクトには国営石油会社PDVSAが51%以上の資本率で参加。おまけに外国企業の所得税が34%から50%に引上げられた。


ロシアでは地下資源にかかわる外資進出規制が働き、カザフスタン、ナイジェリア、アルジェリアとも国営石油企業の参加比率がアップした。ボリビアでは石油産業は完全に国有化され、ベネズエラがそれを巧みにコントロールしている。これらはすべて2004年以降の起こった顕著な変化で、しかもごく一部だ。こういった「資源ナショナリズム」の盛り上がりによって、メジャーは各国から権益を失い、新たな投資先を探さざるを得なくなっていた。


そこで北米の動向に目を向けたい。米国の原油輸入国の推移を見ると、数年前から輸入先の首位はサウジアラビアではなくカナダとなっている。2005年には217万バレルとなり、2位メキシコの164万バレル、3位サウジアラビアの152万バレルを大きく引き離している。このデータは、欧米のメジャーがカナダの開発に力を注ぐようになったことの証明ではないだろうか。そしてカナダ・ドルの動向に詳しい投資家ならご存知だろう。2007年9月20日、カナダ・ドルと米ドルが等価になった事実を。カナダの経済力が、グンとアップしたのである。


カナダ・アルバータ州のオイルサンド開発の歴史は意外に古く、地元カナダの「サンコールエナジー」が1967年に開発開始、同じく地元企業の「シンクルート」が1978年に開発に着手した。1960サン年創業のサンコールエナジーは「会社創設以来の大ギャンブル」と呼ばれる巨額投資を行なった。シンクルートにはエクソンモービル(米国)、コノコフィリップス(米国)の関連会社や新日本石油などが出資している。


そして1999年、ロイヤル・ダッチ・シェル(英・オランダ)、シェブロン(米国)、トタル(仏)がオイルサンド開発事業に参入した。技術開発が遅れていたアルバータ州が、メジャー各社に事業開発への支援を依頼したのだ。たとえばシェルは2003年、オイルサンドの発掘や原油抽出に関して、膨大な量の特許を出願している。それが将来、この分野での事業で先行利益を得るための準備であったことがよくわかる。


2005年にはトタルが地元のオペレーター企業を買収。コノコフィリップスもトタルと共同で保有していた鉱区を2005年に追加取得し、2006年から原油生産を開始している。同年には、ロイヤル・ダッチ・シェルの子会社シェル・カナダがカナダの石油企業を買収。シェブロンも同年、オイルサンド鉱区75000エーカーを7000万カナダ・ドルで取得している。


カナダでは、1996年~2004年の9年間にオイルサンド事業に340億ドルの投資が成されたが、2005年~2010年の6年間には450億ドルの投資が予想されている。プロジェクトはまだ拡大するということだ。そして2020年には、オイルサンドの石油生産に占める割合が82%まで高まるとも予想されている。労働力不足やパイプラインの輸送能力不足、環境問題などの課題は多いが、一方で膨大な埋蔵量は大きな魅力だ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 26 新興産油国・石油企業の躍進  オイルサンドに活路を見出すカナダ

「世界資源戦争」では、まだカナダの地下資源を紹介していなかったが、同国に地下資源が少ないからではない。カナダは石油の生産量が世界第7位、天然ガスの生産量は世界第3位の大国である。ただし、どちらも埋蔵量が少ないと見なされてきた。つまり、枯渇しているということだった。しかし、ここ数年で認識は一変した。カナダでは近年、アルバータ州に分布する「オイルサンド鉱床」から莫大な量の原油が抽出されており、世界中から注目を集めているのだ。


オイルサンドとは、粘性の高い鉱物油分を含む砂岩のこと。超重量の原油がしみ込んだサンド(砂)や岩でできた地層だと考えるとわかりやすい。オイルサンド鉱床から原油を抽出する方式は、二つに大別できる。ひとつは、表土をはがしてオイルサンドものものを搬出して、加熱して石油を抽出する方法。これが従来の「鉱山方式」と呼ばれるものだ。もうひとつは、蒸気を水平の井戸に送り込み、数メートル下に平行に掘られた井戸から生産する方法。こちらは「SAGD法」と呼ばれ、近年大きな効果をあげていることから主流になりつつあるのだ。


オイルサンドが注目を集めている理由は、将来いずれ枯渇するはずの原油に代わる石油燃料資源だからだ。従来は、オイルサンドから1バレルの原油を得るのに数トンの砂岩を採掘し、乾燥させる必要があり、また大量の産業廃棄物を発生させていたことから、採掘と抽出、産廃に莫大なコストがかかった。そこで長い間、不採算資源として放置されてきたのだ。


しかし、前出した「SAGD法」が従来の方法よりローコストで運営でき、かつ2004年から始まった原油価格の高騰により、利益が見込めるようになってきたことで状況は一変した。莫大な利益が得られるとわかると、世界の投資家はすぐに動く。オイルサンド鉱床の埋蔵地や発掘権の買収に多額の投機マネーが集まる。だからカナダのアルバータ州に広がるオイルサンド鉱床が、世界中から注目されるようになったというわけだ。


オイルサンド鉱床の価値を数百倍、数千倍まで引き上げようとする投資家が、子飼いのアナリストやジャーナリストを使って、石油はあと数十年で枯渇するという「ピーク・オイル論」を世界中にどんどん流している、という説もある。あくまでも業界通の情報だが、おそらくは本当だろう。


それでは、オイルサンドに活路を見出すカナダの現状を見ていこう。アルバータ州のオイルサンドには、1兆7000億バレルの重油の一種が含まれており、そのうちの1740億バレルは現在の技術によって抽出が可能だとされている。すでに同州の原油総生産量の58%はサンドオイルから抽出されたものだ。オイルサンドからの原油生産が加速すれば、アルバータ州の生産量は2010年までにカナダ全体の50%、北米の10%を占めると予測されている。こういう好条件があり、カナダのオイルサンドを買収しようという動きが活発になってきたので。


2005年以降の主な買収や提携を挙げておこう。2005年4月、中国海洋石油公司(CNOOC)が、カナダのMEGエナジーの16.69%の株式を取得。CNOOCは株式取得に1.5億カナダドル(約9.49億香港ドル)を支払っている。MEGエナジーはオイルサンドをメインに扱い、推定40億バレル以上の原油を含有するオイルサンドの採掘借地権を100%保有している企業だ。2005年5月には、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)が、カナダの大手パイプライン会社エンブリッジに事業参画することに合意。


同月、中国石油化工集団公司(シノペックグループ)の子会社シノペック・カナダが、カナダのシネンコ・エナジー社がアルバータ州のノーザンライツに保有するオイルサンドの採掘権のうち40%を買収。買収金額は1.05億カナダドル。ここに挙げたのは、中国の企業ばかりだが、オイルメジャーもカナダの石油企業の買収に走りまわっているのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 25 新興産油国・石油企業の躍進  中国、日本に影響を及ぼすインドの躍進

10億の人口を抱えるインドが2004年、カスピ海の油田開発に参加する意向を明らかにし、2005年には世界で最も多い潜在埋蔵量を保有するロシアの油田開発に参加することを公表したことで、極東における「世界資源戦争」は新たな局面に突入した。インドの石油・ガス事業を牽引しているのはリライアンス財閥だが、インド政府のバックアップを受けたインド国営石油ガス公社(ONGC)も積極的に海外進出している。


2008年、ONGCはロシアの国営「ロスネフチ」とコンソーシアムを作り、サハリン油田第3鉱区の共同開発を進めるとともに、インド南部マンガロールにあるガス田の共同開発とインド小売市場へのロスネフチの参入を柱とする協定に締結するという。インド政府は国内で大型油田を開発する一方で、高度成長を続ける経済のブレーキにならないよう、安定した石油の供給先を確保する必要性に迫られているようだ。


もともとサハリン油田は、日本政府と日本の商社が中東への依存度を軽減するために1990年代初めから集中営業をかけてきたエリアだ。また中国も「中国石油化学(シノペク)や中国石油天然気(ペトロチャイナ)などの有力石油会社を通じてカスピ海の油田に巨額を投資してきた。中国は、すでに解散した石油大手「ユーコス」の中核子会社である「ユガンスク」の買収にかかる60億ドルの資金をロスネフチに提供したと伝えられている。それはロスネフチが2010年まで4840万トンの原油を中国に提供することが条件であるらしい。


送油管の誘致に巨額を投じた日本は、シベリア送油管ルートの終着地を中国の大慶からロシア沿海州のナホトカに変えることに成功した。2008年4月、ロシアを訪問した福田総理は、難しい懸案の北方領土問題はなるべく避けながら、資源におけるロシアと日本のパートナーシップを強調して帰国したといわれている。


一方、インドはロシアに対し、極東のエネルギーを「日本や中国に売るより、インドに売った方が有利」と展開し、権益拡大を求めていた。すでに2001年には17億ドルを投資し、極東資源開発プロジェクト「サハリン1」権益のうち20%をONGCの子会社がロシア企業から購入している。


そしてさらなる権益拡大を検討しており、伊藤忠や丸紅などが参画する日本勢で構成する「サハリン石油ガス開発」が保有する30%の権益を買いに来ることは大いにあり得る。インドはロシアの石油・天然ガス部門に総額で250億ドル(約2兆7000億円)を投じる計画で、進行中の「サハリン3」については、外資規制の上限である49%の権益を要求している。石油関係者はインドの動向に「日本の極東におけるエネルギー戦略がインドに侵食される心配がある」と警戒を強めている。


「サハリン3」は、キリンスキー、ベニンスキー(ヴェーニン)、東オドプチンスキー、アヤシスキーの4鉱区で構成。原油の可採埋蔵量は6億トンを上回るとされる。このうち、ベニンスキー鉱区は国営天然ガス独占企業体「ガスプロム」が開発権を獲得。残り3鉱区についてロシアはインド企業の出資を誘致したいという意向を示している。


一方、インドはロシア政府に極東のエネルギー資源開発でインドの本格的な参加を認めてもらう代償に武器市場を提供しようとしている。インドの防衛装備をめぐっては、126機の多目的戦闘機を受注した米ボーイング社が優位に立っている。このためプーチン前大統領は、インドのシン首相との会談で、エネルギー協力を進める条件として、多目的輸送機の共同開発を提案し、インドが受け入れた経緯がある。


インドは陸軍110万人、海軍5.5万人、空軍16万人を擁する世界第3位の軍事大国(1位中国、2位アメリカ)。つまり大きな武器市場を抱えているということだ。プーチンの狙いは明確だ。ロシアはその市場に食い込みたいと考えているのだ。「世界資源戦争」は、武器マーケットとも深くつながっているという図式が見えてきた。


ともあれ、中国、日本といった世界の石油消費国に次いで、これまた世界の石油消費国になりつつあるインドがロシアに進出したことで、いろんな影響が出てくるだろう。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 24 新興産油国・石油企業の躍進  インド・リライアンス財閥

高い経済成長を背景に2006年のインドの石油需要は、日量240万バレル(前年対比3%増)と堅調に伸びている。特にガソリンは1998年以降毎年6%も需要が伸びている。かつてインドは石油製品の純輸入国だったが、インドの財閥系企業リライアンス・インダストリー社が1999年に世界最大級の製油所を建設して以降、2002年に東海岸沖合の深海で大規模ガス田を、2006年には同区内の深海鉱区で大規模な原油・ガス田を発見。2004年には西部ランジャスタン州で複数の油田が発見されるなど、インド全体の需要を上回る石油製品の生産能力を保有するようになり、今日では石油製品の純輸出国となっている。


リライアンス・インダストリー社を中核とするリライアンス・グループは、合成繊維、石油精製、石油化学など石油関連事業を包括的に行うインド最大の民間企業グループ。歴史はまだ新しく、1958年にディルバイ・ヒラチャンド・アムバニが設立した商社リライアンス・コマーシャル・コーポレーションが起源だ。以降30年ほどでインドの新興財閥に成長。現在では石油・エネルギー事業分野で一大帝国を築き、政府の全歳入の8%近くを税金として支払っているという。


リライアンス財閥創設者ディルバイのサクセスストーリーを紹介しておこう。1949年にイエメンに出稼ぎに行き、ガソリンスタンドに勤めた後、1958年にインドに戻り、香辛料や繊維を扱う貿易会社を資本金15000ルピーで創業。次いで1966年に資本金150万ルピーで繊維会社リライアンス・インダストリーズ社を設立。1977年に株式公開。ディルバイはそれまで機関投資家によって牛耳られていた証券市場に一般大衆投資家を呼び入れ、一大旋風を巻き起こした。インドで最も多くの株式を350万人もの一般投資家に開放したのである。


その後、リライアンス・インダストリーズ社はポリエステル繊維の生産で世界第2位、ポリマーの生産で世界第6位にランクイン。1992年には国際資本市場から約1.5億ドルの資金を調達。高い配当と無償増資を繰り返し、1993年にはインド企業で初めてユーロ転換社債を発行。2002年にディルバイが70歳で他界した際には、その死去を悼んでボンベイ証券取引所では2分間の黙祷が捧げられたという。


一代で新興財閥を立ち上げたディルバイの長年の夢が、世界最大級の製油所建設だったのである。欧米の先進技術を取り入れ、安価な重質原油を分解する能力を持ち、かつ大型の製品輸出タンクや桟橋を備えた国際競争力の高い設備が特徴で、この製油所から供給される石油製品の一部は、日本にも輸出されている。この精油所だけで全インドの石油精製能力の25%を賄っているというから驚くべき処理能力だ。


石油化学事業に乗り出したリライアンス財閥は、ディルバイの長男ムケッシュがグループの会長に就任し、次男のアニルがアニル・ディルバイ・アンバニーグループを運営している。2002年にはリライアンス・インダストリーズ社とリライアンス・ペトリウム社を合併させ、インド民間企業として初めて「フォーチュン500」に選ばれた。さらに近年、インド石油化学会社を買収し、傘下に収めた。


グループ企業は、石油・ガス田の発見によって相乗効果をあげている。従業員5500人を擁し、ムンバイやデリーなどの都市を中心に500万世帯に電力を供給する「リライアンス・エネルギー社」は巨大ガス田の発見によって、インドのガス生産の60%を賄えるようにまで成長した。さらに近年ではスーパーマーケット、コンビニエンスストア、専門店等を管理する子会社「リライアンス・リテール」を通して小売事業へ参入。


同じく子会社の「リライアンス・インフラストラクチャー」が経済特区の道路や建物など基盤施設を担うようになった。 インドは低コストで質の高い人材を入手でき、化学プロセス開発能力での実績に加え、早くからIT産業が発展したことや主な原料が国内で調達できることなど好条件が重なり、世界の投資家が注目する国。今後はエネルギー分野でも世界を席巻する日が来るかもしれない。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 23 新興産油国・石油企業の躍進 ベトナムの国営石油ガス会社ペトロベトナム

2000年以降の石油発見量を見ると、アジア太平洋地域で伸びているのはマレーシアとベトナムであることがわかる。ベトナムの石油生産は1986年に生産開始した大油田バクホー(Bach Ho)、新日本石油の石油開発部門である新日本石油開発が生産に携わっている1998年生産開始のランドン(Rang Dong)油田などが中心で、2000年までは目ぼしい発見はなかった。


2000年以降、ベトナムの石油発見量が増えたのは、米国コノコフィリップスや英国の石油探査会社SOCO Internationalがベトナムの国営石油ガス会社「ペトロベトナム」との共同で既存石油生産地域において次々と新規油田を発見したからだ。ベトナムは未探鉱地域の面積が広く、政府は近年探鉱鉱区入札の公開に力を入れてきた。こういう経緯があり、世界の石油関連会社がベトナムでの試掘に加わり、新たな海底油田を発見したのである。


2006年のベトナムの品目別輸出額を見ると、第1位は原油だ。金額にして82.64億ドル、輸出総額の20.8%を占めている。新興産油国ベトナムは東南アジアの原油輸出国で第4位にあり、石油・ガスセクターからの税収は毎年平均で国家歳入の25%にも上る。2008年第1四半期、ペトロベトナムグループの売上高は69兆3,900億ドン(約43億3,700万ドル)に達し、前年同期に比べ71%上昇した。納税額は30兆5,060億ドン(約19億700万ドル)となっている。第1四半期の生産量は石油換算で564万トン(原油377万トン、天然ガス18億7,000万m3)、備蓄量も石油換算で510万トンに引き上げている。


ベトナムの油田の特徴は、海洋油田が中心であることだ。海洋油田は陸上までパイプラインを整備する必要があるなど、陸上の油田よりも開発費や操業にかかるコストが高いことがネックだが、近年の原油価格の高騰により十分な利益が得られる環境が整ってきたといえよう。


近年毎年7~8%の経済成長が続き、電力需要が急速に拡大(前年比14%程度)しているベトナムだが、原子力発電所は建設されておらず、発電にはガスと石炭が利用されている。需要に比例して電力、石炭、石油・ガスは毎年10~14%の成長を続けている。原油は輸出し、天然ガスは主に国内の発電に使うという図式だ。


政府のエネルギー分野での課題は、もっぱら製油所の建設だ。自国内に石油精製設備を持たないため原油を全量輸出し、石油製品を輸入する状態が続いているのである。最初の大型製油所は2009年2月に完成予定だ。ペトロベトナム社から同国初となる大型製油所プロジェクトを受注したのが、プラントメーカーの日揮である。フランス、スペインの会社とジョイントベンチャーを形成し、丸紅や日本商社連合もバックアップしている。


そして2008年4月、ベトナム政府がベトナム初の原子力発電所の建設計画を明らかにした。計画によると、発電所は2か所でそれぞれ2基の原子炉(合計出力4000メガワット)を備える予定。総投資額は約60億米ドル(約6100億円)で、2015年の着工、2020年の操業開始を目指している。稼動後は全国の電力生産量の20%をまかなうことになる。


このようにエネルギー分野を見渡してみるだけでベトナムが経済成長を続けている様子が伝わってくる。高い成長率を牽引している要因には、工業生産高の伸びと投資の増加、安い労働力(賃金は中国の半分程度)などが挙げられる。ベトナム人の賃金は中国の半分程度という現状から「ポスト中国」を担う生産拠点化への期待が大きい。また、国土に占める生産・輸出拠点に適した沿岸部の割合の大きさと2007年1月にWTO加盟を実現したことも海外からの直接投資を拡大させる要因のひとつだ。今後は「ベトナム株」にも注目が集まるだろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 22 新興産油国・石油企業の躍進 PTT(タイ石油公社)とPTTEP(タイ石油開発公社)

アジア太平洋地域における2000年以降の新規石油発見件数で多かった国は、インドネシア、ベトナム、マレーシアで、それぞれ国営企業がオペレーションを進めている。それ以外の国の国営企業で元気なのが、新規ガス田開発によって収入の安定化を図り、近隣諸国でもオペレーション事業に投資しているPTT(タイ石油公社)だ。


2001年、タイ石油公団が株式会社に転換して誕生した企業で、タイ政府財務省による直接出資と政府が支援する基金を通じた間接出資分の合計が約7割を占める国営企業だ。フィリピンなど東南アジアの諸外国とも提携して石油・天然ガス関連の会社を経営しており、今日ではタイ証券取引所における取引の13%のシェアを占める最大級の大型企業として君臨。また傘下に数多くの子会社を抱え、単なるエネルギー企業としては収まりきらない規模にまで成長した。


天然ガスや石油の探鉱・開発・生産子会社として設立された子会社がPTTEP(タイ石油開発公社)だ。PTTによるPTTEP株式の所有比率は66.1%なので、PTTEPは法律上国営企業ということになる。同社の2006年の連結売上は1.2兆バーツ、総資産は7,510億バーツ。


PTTの収益の75%を占める天然ガス事業部門では、探鉱と生産、パイプラインによる輸送やガス分離と加工、下流の天然ガスやガス製品の販売を、石油部門では原油の探鉱と生産および輸送、精製と精製品の製造および販売などをカバーしている。2005年には中国海洋石油総公司(CNOOC)とその子会社である中国海洋石油有限公司(CNOOC Ltd)がPTTおよびPTTEPとの間で天然ガス田の探査・開発・生産に関する戦略的パートナーシップを謳った協定を結んでいる。


2006年時点でタイはエネルギー供給の62%を輸入に頼っており、そのほとんどは原油であった。原油高という背景があり、タイ政府は輸入エネルギーへの依存度を抑えるために国産エネルギーである天然ガスの優先的な利用を促したのである。こういった背景があり、天然ガスは主にタイ国内の発電に用いられている。


PTTEPは近隣・遠方にかかわらず積極的に海外進出を図っている。近隣諸国のガス資源開発は、ガス需要が増えつつある自国内市場に向けたガス供給源の拡充を目的としたもの。中東、北アフリカ、オセアニアなどへの進出は、異なる環境での操業経験や深海など高度な開発技術の経験ができる機会の創出だ。


2007年度にはバングラデシュ、エジプト、ニュージーランド、オーストラリア、バーレーンなどの国で探鉱に加わった。タイ経済の成長に伴って発電用ガスの需要は今後も中期的に増加する見込みであり、国産エネルギーを有効に活用する観点からPTTとPTTEPの重要性は一層増すものと考えられる。

PTTEPの所有する確認埋蔵量は天然ガスが中心で、2006年の生産量で計算した可採年数は13年と比較的長い。かつてはタイ最大のガス田であるボンコット・ガス田が総産出の約半分を占めていたが、新たに開発されたガス田の生産が本格化したことに伴って同ガス田への依存度は20%にまで低下している。2008年にはアーシット・ガス田の生産が始まる予定であり、同社の生産基盤はより広く分散化される見込みである。


PTTとPTTEPがアジアで大きな地位を占める可能性に満ちている二つの要因を挙げておこう。ひとつはタイ経済が堅調に成長する中で電力需要も安定的に伸びていること、もうひとつはタイ政府が国産エネルギーである天然ガスを有効に活用することを通じてエネルギーの輸入依存度を抑える方針を堅持していることだ。


現在タイ国内ではエネルギー取引の自由化が進行中だが、優良なガス田と長年に渡る実績を持つPTTEPは、自由化が進む中でも産業内における現在の地位を維持するものと予想される。PTTEPは今後も成長の機会を求めて海外の石油ガス田への投資を行なうだろう。今後中期的に中東や北アフリカといった地域における事業の比重が高まるのではないか、とアナリストは分析している。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 21 新興産油国・石油企業の躍進 ペトロナスの躍進とインドネシア国営企業プルタミナの攻防

エジプトは、英国「BGグループ」やマレーシア国営企業「ペトロナス」など中堅会社と組んでガス田の開発を進め、LNG輸出国の仲間入りを果たしたガス新興国だ。ペトロナスはこのエジプトでの開発に成功し、海外進出に弾みをつけた。ペトロナスが英国のBGグループとともに英国に建設を計画しているLNG液化事業基地は、もともとオランダの「ペトロプラス」が計画していたものだが、後にBGグループとペトロナスが参加を決め、この二社が半分ずつ使用することになったといういきさつがある。


BGグループは、英国最大手「ブリティッシュガス」から分割された会社で、ブリティッシュガスが展開していた海外業務を引き継ぎ、ガス田の開発や生産、LNG事業、パイプライン事業、発電事業などを行っている。すでにエジプトをはじめ、インド、カザフスタン、トリニダートトバゴ、ボリビアなどに進出している。英国内の都市ガス事業については、同じくブリティッシュガスから分割された「セントリカ」が「ブリティッシュガス」ブランドを使用して営業を行っている。ペトロナスはそのセントリカと契約を締結し、天然ガスの15年間供給を決定した。


ペトロナスは、イランでもLNGプロジェクトに参加を予定しており、トタール(仏)、イラン国営石油会社(NIOC)と共同で、合弁会社「パルスLNG」を設立した。イランでは、ペトロナスの参加する事業を含め、複数のLNG事業が計画されており、販売先として大規模なLNG需要が見込まれる中国とインドがターゲットにされている。ペトロナスとNIOCの狙いは、中国とインドに天然ガスを輸出するという点で合致したということだ。さらにペトロナスは、インドでの受入基地の計画にも参加しており、当初東岸のカキナダでの受入基地建設を予定していたが、この沖合で大規模ガス田が発見されたことから、より南の海岸に受入基地を建設することが検討されている。


意外なことだが、ペトロナスは世界最大のLNG輸出国インドネシアにも進出している。ジャワ島西部でガスが不足しており、受入基地の建設が検討されてきたが、同社がインドネシア国営電力(PLN)と受入基地の建設について覚書を締結し、現在調査を行っているというのだ。インドネシアには国営石油ガス会社Pertamina(プルタミナ)が君臨している。しかし、インドネシアには複雑な事情があった。プルタミナは2001年まで油ガス田の開発実権を握り、国内石油天然ガス産業を独占してきた。


しかし、同年制定された新石油ガス法によって独占的権限と油ガス田開発実施許可などを失い、民間企業と同列の国有企業となった。国内に自社オペレーション油ガス田を持たなかったため、石油天然ガス生産における位置づけが大きく後退したのである。


その間隙を縫って米国シェブロンがスマトラ島の有力油田をコントロールし、トタール(仏)、中国海洋石油総公司(CNOOC)などの海外企業の後塵を拝することになった。このような背景があり、プルタミナは、しばらく低迷を続けてきたが、2008年1月には原油価格高騰によって24億ドルの純利益をあげた。同社の中心となっているのは、「エクソン・モービル」との共同事業によるジャワ島中部のチェプ鉱区開発だ。


東南アジア最大の産油国インドネシアの国営企業でありながら、隣国マレーシアの後発企業であるペトロナスに遅れを取っていたプルタミナは巻き返しに必死だ。石油生産量が減少傾向にあることから、同社は厳しい経営環境に置かれているようだ。同社の投資にはインドネシア政府の承認が必要であるため迅速な対応ができないのが弱点。隣国のプルタミナがインドネシアに進出できたのもこのような状況にあったからであろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 20 新興産油国・石油企業の躍進 マレーシア国営企業ペトロナス

アジア太平洋地域は、ロシア、中東、アフリカに比べて大規模発見は少ないが、1996年~2005年の新規石油ガス発見量を地域別に見ると、発見量が世界で最も多い地域である。要因としてはライセンス付与や掘削数が多く、探鉱活動が活発であったことが挙げられる。アジア太平洋地域の2000年以降の新規石油発見で多かった国は、インドネシア、ベトナム、マレーシアだ。


マレーシアは、インドネシアと並ぶ伝統的な産油国で、1990年代半ば以降、生産量は横ばいだが、東マレーシア・サバ沖合海域で2002年から大規模発見が続き、インドネシアのカリマンタン島東沖合と並ぶ有望な深海油田地帯となった。2004年にはマレーシア国営企業の「ペトロナス」とオランダ「ロイヤル・ダッチ・シェル」をメインとする合弁企業「シェルマレーシア」が、パキスタンの「カリガリ石油」、米国の「コノコフィリップス」との共同事業として採掘中のサバ北西沖のガムス第1油田がマレーシア最大の原油埋蔵量を持つと発表した。


また、2007年半ばにマレーシア初の深海油田として生産を開始したキケー油田は、80%の権益を保有する米国「マーフィー石油」がオペレーターを務め、マレーシア国営企業ペトロナス子会社の「ペトロナスチャリガリ」が20%の権益を有する。2008年末には1日12万バレルの生産となる計画だ。マーフィー石油は、世界的な石油・ガス探鉱、生産会社で、米国と英国で精製、マーケティング事業を展開している会社で、現在、マレーシア以外では米国、エクアドル、カナダ西部、カナダ東岸、北海の英領海域、大西洋北縁海域を中心とし探鉱、生産事業を行っている。


さて、マレーシア国営企業ペトロナスだが、1974年にマレーシア政府によって設立され、国内の石油天然ガス資源の所有権をすべて保有、管理を行っている巨大企業だ。その事業領域は、石油・天然ガスの開発・生産から、石油精製、石油製品販売、ガス供給、LNG生産など多岐にわたる。 また、海外事業にも積極的で、現在では世界35カ国で事業を展開しており、他の国営石油会社のお手本とも言える存在となっている。クアラルンプールに建つ超高層ビル「ペトロナスツインタワー」(ハザマが建設した建築物世界第2位の高さ)に本社を置き、マレーシアの自動車メーカー「プロトン」の株主でもあることでも知られている。2007年には日本の潤滑油市場に参入を発表し、F1公式エンジンオイルであるSYNTIUMシリーズを発売した。


ペトロナス本体は現在も政府が100%所有する企業だが、グループ内には多くの合弁企業や上場企業を抱えている。液化天然ガス事業ではペトロナスがほとんどの株を握る「マレーシアLNG」を立ち上げ、サラワク沖のガス田で生産した天然ガスを日本向けに輸出してきた。この事業には三菱商事が参画している。1978年に第1プロジェクト、1992年に第2プロジェクトが、1995年に第3プロジェクトが稼働し、東京電力や東京ガス、大阪ガス、関西電力ら日本の大手ガス会社、電力会社が液化天然ガスを購入している。マレーシアLNG社から供給される液化天然ガスは日本の総輸入量の13%を占めている。マレーシアLNG社は、その拡大した生産量を背景に2003年の輸出量は1,520万トンになっている。これはインドネシア、アルジェリアに続く世界3位の規模である。


国内の液化天然ガス事業が軌道に乗った現在、ペトロナスは海外事業を積極化させている。海外事業を大きく飛躍させるきっかけとなったのが、エジプトでイタリアのエネルギー大手「エディソン」から大型のガス田とLNG液化事業を買収したことだ。これは「BGグループ」(英国)が中心となって進められているエジプト沖合のガス田開発とLNG液化事業の計画の一部で、このエジプトの液化天然ガスを輸出するために、ペトロナスはBGグループとともに英国にも受入基地の建設計画も進めている。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 19 新興産油国・石油企業の躍進 中国海洋の原油・天然ガス生産地域と外資の導入

中国海洋石油(CNOOC Ltd)は、次の4地域で原油・ガス田の探鉱・開発事業を行っている。 (1)渤海 (2)香港南東沖合(南シナ海東部) (3)香港南西の海南島沖合(南シナ海西部) (4)上海沖合(東シナ海)。このうち生産量が増えているのが渤海で、中国海洋の原油生産量の57.6%(2006年度)を占めている。渤海では1999年、コノコフィリップス中国石油公司によって大型の蓬莱油田が発見され、2002年から生産が始まっている。


コノコフィリップスは、米石油大手のフィリップス・ペトロリアムとコノコが2002年に合併して誕生した大手。米国ではエクソンモービル、シェブロンに続く規模だ。その現地法人がコノコフィリップス中国石油公司である。コノコフィリップス社は中国との海底油田共同開発に最も早く参加した外国企業だ。


中国政府は海域における石油開発で外資系企業約30社と契約を締結している。大手ではBP、シェブロン、ENI(イタリア)、デボン・エナジー(米国)などがある。デボン・エナジーは米国最大の独立系石油会社で、黄海南部と東シナ海西部で開発を手がけている。同油田で採掘した原油、ガスの所有権51%を保有し、探査・掘削にかかる費用は同社が負担するという条件だ。


ベネズエラやメキシコは強烈な資源ナショナリズムをふりかざし、欧米メジャーを排除してきたが、中国はある程度外資系企業を受けて入れている。それは国内に探鉱開発技術が蓄積されていなかったことを物語っている。


内陸部にも外資系企業はどんどん進出している。2004年に中国石油化工(Sinopec Corpo)とエクソンモービル、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが調印した福建省の製油化学コンビナート工事は、投資額30億ドルを超える。3社は世界規模の製油科学工業一体化生産施設を共同で開発し、石油製品の販売会社を合弁で設立し、福建省でガソリンスタンド600店を展開する予定だ。また2007年にはシェブロンが四川盆地のサワーガス田の開発権を取得している。


外資系企業が中国に進出する背景にはカントリーリスクが少ないことに加え、中国が石油の生産地にして同時に巨大な消費地であることが挙げられよう。近年の世界経済、特に先進国にとってひとつの課題は、巨額の外資を貯め込む中国にいかに金を使わせるかということであった。


つまり、経済成長を続けている中国という巨大な市場を相手に大きなビジネスをするということだ。世界の自動車産業などその典型的な例で、これから新たに自動車を大量に購入してくれるのは12億人が住む中国と定め、世界の自動車メーカーはこぞって中国市場に乗り込んだ。現在ほとんどの車はガソリンで走っている。中国で自動車販売数が急増したということは、それだけガソリンの消費量も増えたということだ。北京オリンピックを控え中国の環境問題がとやかく言われているが、皮肉なことに中国に石油を消費してもらわないと困る国や企業は少なくない。


では、ここ3年間に中国で実施された石油関連の主な税制改革を記しておこう。2005年、資源税引き上げ。2006年、石油製品輸出にかかわる増値税の還付再開。国産原油販売にかかわる「石油特別収入税」導入。石油製品の輸出にかかわる増値税の還付制度廃止。製品輸入関税引き下げ。原油輸出関税引き上げ。2007年、沖合で生産する外国企業に原油輸出関税導入。


ここ数年、国際原油価格の高騰に対応するため、中国政府は石油特別収入税など一連の税制改革を実行し、投資環境は以前と比べると厳しくなった。中国政府は2006年、国内石油企業に対して5%の原油輸出税を徴収すると決定していたが、中国沖合で操作する外国石油企業は、外資導入の促進という観点からこれまで輸出税は免除されていた。


しかし2007年8月1日以降、外国の石油企業についても国内石油開発企業同様の輸出税が適用されることとなった。ただし2007年8月1日以前に探鉱開発契約を締結している外国の石油開発企業の現行契約分については、2012年まで5年間の猶予期間が設けられている。中国は国内にない技術力を国外から導入するために、外資のハードルを低くしてきたが、今後はやや様子が変わっていきそうだ。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争18 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の油田・ガス田開発

中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区にある中国石油天然気集団公司(CNPC) 傘下の独山子石油化工分公司(独山子製油所)とカザフスタンの北カスピ堆積盆地を結ぶ総延長約3000キロに及ぶ「中国-カザフスタン石油パイプライン」が2005年、両国が30億ドルを共同出資して完成した。


ここに至るまで中国は約10年前から布石を打ってきた。CNPCは1996年にカザフスタン国営石油企業の株式60%を取得し、油田の権益を手に入れた。株式取得は国際入札で行われたが、欧米石油メジャーを抑えてCNPCが落札できた理由は、カザフスタン政府に対し、「中国-カザフスタン石油パイプライン」の建設を約束し、カザフスタンがそこに大きな利益を見出したからだ。カザフスタンからすれば、ロシア経由以外の輸出ルートを持つことができ、販路が広がったことになる。


CNPCはその後も2005年に、カナダに本社を置くペトロカザフスタン社を41.8億ドルで買収するなど、カザフスタンのガス田や油田権益を取得していった。この買収をロシアの石油大手ルクオイルが阻止しようとしたが、カナダの裁判所は訴えを却下した。ここでもCNPCは勝利をおさめたといえよう。


中国にとっての最大のメリットは、本パイプラインの最終の供給地である蘭州市や重慶市、鄭州市など内陸部に低コストで石油を輸送できることだ。これらの内陸部はインフラ整備が進んでいなかったため、国内周辺油田からの原油はこれまで鉄道やトラックで運ばれていた。それによって他の地域に比べ輸送コストが割高となっていた。人口320万人の蘭州市は、石油・鉄鋼が盛んな工業都市。大気汚染で知られる重慶市は自動車産業と軍事設備生産の拠点。人口は3144万人。人口698万人の鄭州市は新都市建設が進む古都。内陸部のこれらの都市だけで約4162万人もの人口があること自体驚きである。それは同時に石油を大量に消費していることを物語っている。


中国は大量に石油を使いながら、足元で油田・ガス田の開発投資を行っている。その結果、生産量とともに埋蔵量も増加している。1996年から2005年までのアジア太平洋における主要産油ガス国の発見埋蔵量は、中国が圧倒的に多い。2位オーストラリア、3位インドネシアと続くが、豪州の倍以上の発見埋蔵量だ。中国で発見埋蔵量が増えている理由は、試掘井削数が多いからである。本来、消費すれば埋蔵量は減るものだが、大型油田・ガス田を発見していけば、一気に埋蔵量は増える。


中国では2005年から2007年にかけて、渤海の極浅海域で「ナンプー油田」、内陸の四川盆地で「ロンガンガス田」など大型の油田・ガス田が発見されている。CNPCは渤海「ナンプー油田」の原油の予想埋蔵量を14億7600万バレル、天然ガスの埋蔵量を1401億立方メートルと発表した。中国では1990年代後半以降、既存の油田(重慶、勝利、遼河)の生産量の減退が顕著になっていた。増加しているのは、西部地域のジュンガル盆地、タリム盆地、オルドス盆地などだ。天然ガスは四川盆地が最大の生産地である。


中国政府は陸上における外国企業と石油契約を締結する権利をCNPCの民間子会社である中国石油天然気(ペトロチャイナ)と、中国石油化工集団公司(Sinopec Group)の民間子会社である中国石油化工(Sinopec Core)だけに与えている。中国海洋では主に「中国海洋石油」(CNOOC Ltd)が、原油・ガス田の探鉱・開発事業を行っている。その海洋における原油生産量は渤海を中心に伸びており、2006年には中国生産量全体の約15%に達したという。中国は陸上だけでなく、海洋の開発にも力を入れてきた。


まだ記憶に新しい事件だが、2004年3月、日本の固有領土である尖閣諸島に、中国人7人が上陸するという事件が発生した。明らかに不法滞在である。尖閣諸島周辺を含む東シナ海一帯には、豊富なガス・石油資源が存在していると見られている。中国が調査船を日本海まで派遣してくる目的はいろいろあるのだろうが、ひとつには原油・ガス田の探鉱・開発事業の視察であろう。中国は大型油ガス田の発見に血眼になっているようだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争17 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の躍進と政府の狙い

中国の石油関連企業が躍進している。国営の中国石油天然気集団(CNPC)は、パイプライン子会社の2008年の送油量が7000万トンを突破する見通しであることを発表した。2007年の送油量は6656万トンだったので、前年から345万トン増加することになる。同社は2001年から100億元(約1400億円)を投資し、西・中央アジア、北・西アフリカ、南米で石油開発を行い、アゼルバイジャン、オマーン、インドネシアなどで大型買収を実行してきた。これは国内の石油消費の増大に見合う国内の油田・ガス田の生産拡大が国難になったことを物語っている。中国には大慶油田という大型油田があるが、2000年を境に生産量が減少傾向にあり、労働環境がよくないことから労働者による大規模なデモも続いていた。またロシアに近い場所に位置することから輸送のコストや環境対策のコストが莫大にかかることから、中国は海外の油田に目を向けたのだろう。


国営の中国海洋石油総公司(CNOOC)は2002年にインドネシアの複数の油田権益を約600億円で一括購入して間もないが、今度はイラン北部のノースパースガス田の開発が決定したというニュースが入ってきた。イランはCNOOCが新設する天然ガスの陸揚げターミナル3カ所に1000万トンのガス供給を行うという。契約額は160億米ドルに達するとのことだ。


一方、CNPCの子会社で民営の中国石油天然気(ペトロチャイナ)は、新ガス田の発見に成功したことで、中国本土の天然ガスの生産量が今後10年のうちに2007年度の倍になると予測している。同社はシンガポールに数億ドル規模の製油所の建設を計画しているほかスーダン、トルクメニスタンに進出し、ガス田開発を、ロシア、ペルーでは油田開発を進めている。同社の2008年の投資額は1000億元(約1兆4000億円)を超えるという。


中国株に明るい投資家がペトロチャイナに注目したのは、2000年4月に香港(H株)、ニューヨーク(ADR)同時上場を果たしたのち、世界一の資産家である投資家ウォーレン・バフェットが経営する世界最大の投資持株会社パークシャー・ハサウェイが国外における筆頭株主となったことが引き金であった。「ウォーレン・バフェットが目をつけた銘柄なら安心だろう」と、多くの投資家がペトロチャイナに好感触を抱いたのだ。また、ペトロチャイナが社外取締役に外国人を起用し、顧問にキッシンジャー元米国国務長官を据えたことも投資家の心をくすぐった。同社の役員報酬が株価と連動することも知られている。そして2007年11月5日、上海株式市に上場し、同日、取引開始直後に新規公募価格(16.7元)を191%上回る48.62元をつけ、時価総額で世界最高を記録したこのように上場による資金調達が可能になったことで、中国石油企業はカントリーリスクの高い国へ投資するようになった。


中国は、ウズベキスタンからパイプラインを引いて天然ガスを買う計画を進めており、他の中央アジア諸国からも石油ガスを買っている。この動きが顕著になったのは、2001年10月に「上海協力機構」が設立してからだ。これはロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの6ヵ国による多国間協力組織で、第一回設立会議が上海で行われたことからそう呼ばれている。


中国とロシアは互いに警戒しつつも、中央アジアに対する欧米勢力の拡大を防ぐという点では利害が一致している。いわば「非米同盟」だ。ロシアの狙いはアラブ諸国や中国、ベネズエラなどの非米的な国々を連合して、エネルギーに関する新たな国際カルテルを作り、石油と天然ガスの世界的な利権を米英から奪うというものだろう。エネルギー消費国の中国には、エネルギー大国ロシアはもとより、中央アジアの石油・天然ガス産出国との関係を強化しておきたいという意図がある。


こういった背景を知っておれば、中国のウイグル自治区とカザフスタンを結ぶ全長962キロの「中国-カザフスタン石油パイプライン」が2006年に開通した意味が理解できるだろう。中国がパイプラインを通じて石油を輸入する初めてのケースで、パイプラインによる初期の年間輸送量は1000万トンだが、2010年には2000万トンに上昇するという。カザフスタンとロシアは現在、それぞれ50%の割合で石油を中国に提供している。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争16 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業

『フォーブス』企業ランキング200にランキングしている中国企業は数社ある。2007年度版で第41位に上昇したのが中国国営企業「中国石油天然気集団公司」(China National Petroleum Corporation 略称CNPC)だ。日本の新聞・雑誌媒体では「中国石油集団」と記されることが多い。中国企業はよく似た社名が多く、混同しやすいので、先にまとめておく。


■中国国内の国営石油企業ベスト3
〈1位〉中国石油天然気集団公司(英語名China National Petroleum  Corporation、 略称CNPC) 日本での略称「中国石油集団」
〈2位〉中国石油化工集団公司(英語名China Petrochemical Corporation (Sinopec Group)日本での略称「中石化集団」
〈3位〉中国海洋石油総公司(英語名 China National Offshore Oil Corporation、略称CNOOC) 日本での略称「中国海油」


■中国国内の民間石油企業2強
・中国石油天然気(英語名Petro China、日本では「ペトロチャイナ」と呼ばれる)
・中国石油化工(China Petroleum and Chemical Corporation、Sinopec) 日本での略称は「中国石化」


「中国二大国営石油企業」といった場合は、中国石油集団(CNPC)と中石化集団が該当する。国営3社のうち最初に設立されたのが、1982年、沖合の大陸棚の海底油田・ガス田開発のために設けられた中国海油(CNOOC)だ。同社は中国省庁に海底油田探索のための十分な技術がなく、外資と共同開発するための受け皿である。この時期、中国省庁の国営企業への分割化が進められ、1998年に中国石油集団と中石化集団が誕生した。

さらに中国石油集団は事業の再構築を進め、採算性の高い部門を民営化した。それが1999年創業の「中国石油天然気」(ペトロチャイナ)だ。原油採掘部門、原油精製部門、化学品製造部門、天然ガス部門の5部門からなり、採掘から石油化学製品の製造・販売まで、石油・天然ガス業界の川上から川下まで幅広く手がけている。2000年に香港証券市場とニューヨーク証券市場に上場し、投資家ウォーレン・バフェットが経営する世界最大の投資持株会社パークシャー・ハサウェイが国外での筆頭株主(88%を保有しているのはCNPC)となったことでも知られている。


中国株に詳しい人なら、ペトロチャイナが2007年9月、香港証券市場で史上最高値をつけたことを覚えているだろう。ニューヨーク証券取引所(NYX)ではペトロチャイナの米国預託証券の価格が過去3年間で3倍以上に上昇した。欧米のオイルメジャーを上回る実績に世界の投資家は着目した。


一方、中石化集団のうち油田・工場・販売などの部門を引き継いで発足した民間企業が「中国石油化工」である。こちらは2000年に香港、上海、ロンドン、ニューヨークの各証券取引所に上場している。石油化学製品の生産で中国1位、原油生産では2位である。「中国二大民間石油企業」といった場合は、ペトロチャイナと中国石化が該当する。


さらに中国海油(CNOOC)には、同社が株式の70%を保有する民間企業の子会社「中国海洋石油」(CNOOC Ltd)があり、実際の海中油田探査・採掘事業を行っている。こちらも香港、ニューヨーク証券取引所に上場している。


中国では、これら3国有企業と3民間企業が石油関連事業を分担する形になっている。事業区域ではペトロチャイナが中国北部、中国石化が中国南部とほぼ南北に分かれて担い、ペトロチャイナは採掘などの川上分野に強みがあり、中国石化は石油化学製品などの川下分野に強いという特徴がある。ガソリンスタンド事業はこの2社の独占状態。理由はこの2社だけが中国での新しいガソリンスタンドを開設する権利を得ているからだ。


1993年から石油輸入国に転じた中国は、国内生産に力を入れるのはもとより海外企業の買収や開発途上国への進出に大きなエネルギーを注いでいる。これよりしばらくは中国の石油開発を紹介していこう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争15 新興産油国・石油企業の躍進 ベネズエラのエネルギー外交

南米最大の産油国ベネズエラのすべての油田は現在、国営石油会社PDVSAもしくはその合弁会社の管理下となっており、2018年までに3000億ドル以上の増収が見込まれているとされる。ベネズエラ・チャベス大統領のエネルギー外交は、ロシア・プーチン大統領の手腕同様、潤沢な石油収入を背景にした強気でしたたかな外交だ。たとえばブラジルに30億ドルの予算でタンカーを発注し、その一方でブラジル石油公社Petrobras(ペトロブラス)と共同出資でブラジル北東部のペルナンブ州に石油精製設備を建設する。この精製所は「ブラジルで25年ぶりの新設プロジェクト」と呼ばれている。ブラジルに進出したPDVSAは、すでにブラジル東北部でのガソリンスタンド経営が認められている。


中南米の原油埋蔵量のベスト3は、メキシコ、ベネズエラ、ブラジルで、各国が国営石油会社を持っている。メキシコ石油公社PEMEXとベネズエラPDVSAの売上はほぼ同じで、ブラジル石油公社ペトロブラスは両社の約半分の売上高だ。一方、石油精製能力はブラジルが1位でベネズエラはメキシコに次いで3位。サトウキビを砂糖とアルコールに直接利用する世界屈指の国ブラジルは近年、石油精製、アルコールの生産が増大し、一大産業になっている。ベネズエラの石油精製能力は低い。その国内の処理能力不足を補うためにブラジルに石油精製設備を建設するということだ。このようにベネズエラとブラジルは足りない部分を互いに補って共栄共存するような関係を深めている。


ベネズエラは2005年、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイが加盟するメルコスル(南米南部共同市場)への正式加盟が承認された。メルコスルとは、域内の関税及び非関税障壁の撤廃などによる財、サービス、生産要素の自由な流通を図る「関税同盟」だ。見方によっては米国主導の米州自由貿易地域(FTAA)に対抗するグループといえる。さらにベネズエラは、ボリビア、キューバとの間で人民貿易協定(TCP)も締結している。これらのグループ化は、ラテンアメリカにおけるベネズエラの影響力の拡大を物語っている。南米最大の産油国で最大の天然ガス埋蔵量を誇るベネズエラの眼目は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイなどラテンアメリカ諸国に原油と天然ガスを自由に販売することだ。事実、メルコスルへの正式加盟後、PDVSAはアルゼンチン国営企業と合弁でガソリンスタンドを経営し、アルゼンチン国内のガソリンスタンド115店を支配下に置いた。


ブラジルやアルゼンチンのように天然ガスを他国からの輸入に依存するしかない国にとって、天然ガス供給国のベネズエラとボリビアは親密にしなければいけない国。そういう関係があり、ブラジル石油公社ペトロブラスがボリビアのエネルギー分野に15億ドルの投資をし、ボリビア最大の投資企業となっているのである。こういった資源をめぐる各国の関係性の見取り図を描いたのがチャベス大統領であったと見るべきであろう。


さらにチャベス大統領はアジアやアフリカ、中東などとの関係強化を目指して外交を続けている。その顕著な例が開発途上国と連携する油田開発だ。チャベス大統領は、国内からフランス・トタル社やイタリアENL、米エクソンモービルなど欧米メジャーを追い出した一方で、新興国企業とは合弁会社を築いている。パートナーに選んだ企業は、中国ペトロチャイナ、インドガス石油公社のオイル・アンド・ナチュラル・ガス社(ONGC)、イランの石油天然ガス企業ペトロパース(Petropars)などだ。


ベネズエラがこれらの企業をパートナーに選んだ理由はどこにあるのだろうか。イランは同じく反米派で、イランのアフマディーネジャード大統領とチャベス大統領は、ブッシュ米大統領を名指して批判する急先鋒だ。では、中国とインドはといえば、ベネズエラは世界第2位の石油消費国である中国、そしておそらく中国に次ぐ石油消費大国になると予想されるインドに原油を輸出することを念頭に置いて連携しているのではないだろうか。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争14 新興産油国・石油企業の躍進 ラテンアメリカの資源ナショナリズム

OPEC設立当初からの加盟国ベネズエラは当然のことながら新興産油国ではないが、今回はベネズエラの資源ナショナリズムの影響力の大きさと、オイルメジャーに迫る勢いを見せるベネズエラ国営石油企業「ペトロレス・デ・ベネズエラ」(PDVSA)についてふれてみたい。新興石油企業の躍進という観点からすれば、同社は1999年にチャベスがベネズエラの大統領に就任以降、またたく間に南米屈指の企業に成長した稀有な存在。今や反米国派のリーダーである。


ベネズエラが自国の石油開発を国有化し、PDVSAを立ち上げたのは1976年のこと。サウジアラビアの石油会社アラムコが国有化され、当時のエクソンやモービル、テキサコ、シェブロンなど米国オイルメジャーがサウジアラビアの権益を失ったのと同じ年である。サウジアラビア、ベネズエラという二つの産油国が資源ナショナリズムを発揮し、石油開発を国有化したことで、「世界資源戦争マップ」は大きく塗り替えられた。石油利権の多極化が始まったのである。


ベネズエラの反米外交政策は以前からあったが、チャベスは核兵器開発疑惑が持ち上がったイランを支持し、国際的な石油価格が上昇するにつれ、ブッシュ米国大統領を名指しで非難しはじめた。そして米国が提唱するFTAA(米州自由貿易園構想)を排除し、中南米の統合を掲げたのである。


先にエクソンモービルがベネズエラ政府に対して「事業撤退に追い込まれた」として補償を求めて提訴した事件についてふれておこう。ベネズエラは2007年、オリノコ川流域でメジャーが出資するプロジェクトの国有化を宣言し、PDVSAの出資比率を従来の半分以下から6割以上に引き上げた。ベネズエラ政府とエクソンモービルは国有化に伴う補償や利益配分の交渉をしたが、不調に終わった。


そこでエクソンモービルが訴訟に踏み切ったのだ。2008年2月初旬、米ニューヨーク連邦地裁、英国、オランダの裁判所は同社の主張を受け入れ、ベネズエラが支払いに応じなかった場合は、PDVSAが海外に保有する総額120億ドル(約1兆3000億円)の資産差し押さえを命じた。いわゆる海外資産凍結である。ベネズエラの資源ナショナリズムと国際石油資本の対立は今後、国際調停に入ると見られている。


大統領就任以降、チャベスは精力的に動いた。まずブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの三国共同出資によるプロジェクト「ペトロスル」創設を各国に呼びかけ、2005年にこれを設立。ペトロスルは南米各国のエネルギー企業を統括する任務を担い、石油を輸入に依存しているカリブ諸国にベネズエラから安定的な石油の供給を行うことを目的としている。チャベス大統領は中南米諸国とカリブ海諸国への影響力の拡大を目論んでいるのであろう。事実PDVSAはベネズエラ国外の中南米の販売拠点をアルゼンチンやブラジル、ボリビア、エクアドルにまで伸ばしている。


ベネズエラは2005年、カリブ海沿岸の13ヶ国との間でエネルギー協力協定「ペトロカリブ」を締結し、カリブ海諸国に安い価格(国際価格から40%ダウン)で石油供給を始めた。さらにペトロカリブ計画の下、石油を供給しているカリブ海諸国を対象に、各国輸入額の40%に関して長期融資を開始。また中南米各国の製油所建設にも積極的に乗り出し、ジョイントベンチャーを立ち上げる一方、パイプラインを建設し、天然ガスを供給する事業も開始した。


中南米の天然ガス埋蔵量は、ベネズエラが抜きん出ている(第2位のボリビアの約6倍)。この豊富な地下資源に目をつけ、天然ガスを隣国に供給するためのパイプライン建設に着手したのである。その最初のプロジェクトが、ベネズエラ最大の産油地帯であるマラカイボとコロンビアを結ぶ250キロのパイプラインだ。チャベス大統領の戦略は抜け目がない。ボリビアの天然ガス事業を国有化させ、外国企業は採掘業務しかできないように仕向け、採掘されるガスの管理、販売をPDVSAが担うように持ち込んだのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 13 新興産油国・石油企業の躍進 ノルウェーと北海油田

石油業界で「世界の3大メジャー」といえば、エクソンモービル(米)、BP(イギリス)、ロイヤル・ダッチ・シェル(オランダ)である。イギリス、アメリカ、オランダとも西側先進国で非OPEC加盟国だ。この3社の次にシェブロン(米)、トタル(フランス)、ENI(イタリア)が続く。欧州では、BPとロイヤル・ダッチ・シェルにトタル(フランス)を加え、「欧州3大メジャー」と呼んでいる。トタルは1924年にフランス石油会社(CFP)として設立し、改名、統合を繰り返して現代に至る。TOTAL、ELFブランドで展開する国際石油資本だ。現在この「欧州3大メジャー」に迫ろうとしているのが、EU非加盟国ノルウェーの国営石油・ガス企業Statoil Hydro (スタトイル・ハイドロ)だ。


ノルウェーはEUのみならずOPECにも加盟していないが、北海油田を有する世界の産油国のひとつだ。北海油田は北海にある油田で、イギリス、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、オランダの各経済水域にまたがり、大半の油田はイギリスとノルウェーの経済水域の境界線付近に存在する。1960年にイギリスが開発を開始し、次いでノルウェーが開発に着手した。1970年代のオイルショックを機に飛躍し、1980年中ごろには非OPEC原油の代表的存在となった。北海油田が発展したことでOPECの原油価格決定権が揺らいだと分析するアナリストも多い。イギリス経済水域の油田の採掘権益を持っている大手がBPやロイヤル・ダッチ・シェル。日本企業では三菱商事が英領北海北部の油田群権益を取得している。


一方のノルウェーは2004年、平均日量2,900万バレルの原油を輸出し、世界の原油輸出国の中では、サウジアラビア、ロシアに次いで3番目の大国となった。ノルウェー産原油の上位輸入国はイギリス、オランダ、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国なので、日本人にはなじみが薄いが、液化天然ガスを含む原油の総産出量は平均で日量3,000万バレル。ノルウェー政府は少なくともあと50年は石油の産出を続けることを目標にしている。日本企業では出光の関連会社が新規油田の開発権益を取得している。


同国はロシア、カナダについで世界第3位の天然ガス輸出国でもあり、欧州地域への輸出ではロシアについで第2 位である。ノルウェー沖の大陸棚で産出される天然ガスは、ヨーロッパ全体のガス消費量の15%を占めており、その割合は今後さらに増えると予想されている。2005年には、原油と天然ガスの総輸出額が4,330億ノルウェークローネとなり、これはノルウェーの輸出全体のおよそ52%、石油産業のGDPに占める割合は約25%だった。


そんなノルウェーを代表するのが、石油・ガス関連企業だ。ノルウェー最大の企業には近年までスタトイルとアルミの最大手Norsk Hydro(ノルスクハイドロ)社など、政府が最大株主になっている会社が存在した。いわば国営企業だ。スタトイル社はノルウェーの海底石油産業のほか、石油化学、石油精製および石油取引産業で支配的な地位を占めていた。そのスタトイルとノルスクハイドロの石油・ガス事業が統合されて誕生したのが、海洋油田からの原油生産では世界最大の企業「スタトイル・ハイドロ」で、ノルウェー政府が約62%出資する国営企業である。石油・ガス事業を切り離した「ノルスクハイドロ」は組織を「ノルスク」に改称し、アルミ事業に集中している。


いまノルウェーがエネルギー業界で注目を集めている背景には、スタトイル・ハイドロが進めているバレンツ海の石油・天然ガス開発がある。バレンツ海とは北極海の一部で、各国の主張は別にして法律上の領有権は存在しない。バレンツ海にはロシアのガスプロムが開発を進めるガス田があり、350メートルの海底からさらに2キロの深さに世界最大規模の海底ガス田が眠っていると推測されている。開発に拍車をかけたのが地球温暖化である。北極海の氷山が溶けだしたことで船の航路が生まれ、新たな輸送ルートが見えはじめたのだ。こうしてロシア、ノルウェー、イギリス、カナダなどの国が北極圏で資源争奪戦を始めたのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 12 新興産油国・石油企業の躍進 セブンシスターズとOPECの衰退

1970年初めまでは、エクソン、モービル、シェブロン、テキサコ、ガルフ、BP、ロイヤル・ダッチ・シェルといった「セブンシスターズ」と呼ばれた国際石油会社7社(オイルメジャー)が非公然の国際カルテルを形成し、石油市場を半世紀近く支配していた。エクソン、モービル、シェブロンの3社は、20世紀初頭の米国石油市場を事実上独占していたロックフェラー財閥の「スタンダード・トラスト」がルーツである。


国際カルテルの絶頂期であった1960年代にはセブンシスターズが世界の原油生産シェアの7割近くを占めていたが、70年代に産油国における資源ナショナリズムの高揚を受けて中東地域の油田資産のほとんどが国有化されてしまい、以降の原油生産シェアは全社合計しても1割台に過ぎない。


象徴的な出来事は1976年、世界最大の石油輸出国サウジアラビアの原油生産を一手に行っていた石油会社アラムコが国有化され、アラムコの大株主であるエクソン、モービル、テキサコ、シェブロンの4社とサウジアラビア政府との間で合意が成立したことだ。世界の石油市場を支配してきたオイルメジャーの最大の権益が失われたのである。それは文字通り「ドル箱」だった。その前後、世界最大の産油地帯である中東地域からメジャーは次々と追放された。


中東地域の権益を失ったセブンシスターズは大きく変貌した。1984年にガルフオイルと合併して誕生したシェブロンは2001年にはテキサコを吸収合併し、エクソンとモービルは1999年に合併し「エクソンモービル」となった。「セブンシスターズ」は遂に4姉妹になったのである。


1980年代の中頃までは、オイルメジャーに対抗して誕生したOPECの価格カルテルが原油価格を取り仕切っていた。しかし80年代以降、OPECの国際石油市場における生産シェアは40%弱で推移している。日本では中東湾岸の産油国が世界の大半の石油を生産しているように錯覚しがちだが、中東地域全体の原油産油量は世界の3割に過ぎない。さらに中東産油国の度重なる紛争を経てOPECの影響力は弱まっていった。


OPECは表面的には価格カルテルを形成しているかのように見えていたが、適正価格の維持を求める穏健派(サウジアラビア、クウェートなど)と、限られた原油をできるだけ高値で売りたい強硬派(ベネズエラ、ナイジェリアなど)の足並みが揃わず、生産調整を効果的に行える強力なカルテルを形成できなかったのだ。


一方、70年代以降に開発が進んだ北海などの地域では、それまで中東地域におけるセブンシスターズの国際カルテルに締め出されていた米国の地場産業的な石油会社やフランスのELF、イタリアのAGIP、ノルウェーのSTATOIL(スタットオイル)など欧州系国営企業がセブンシスターズと同じ土俵で事業展開できるようになった。


その結果、それら新興石油会社が90年代初めにはテキサコ、シェブロンといったオイルメジャーの下位企業と肩を並べるまでに至った。またメジャーの権利を国有化した産油国の国営企業(サウジアラビアのアラムコなど)の原油生産シェアも拡大し、原油生産量や保有埋蔵量ではオイルメジャーをはるかに凌ぐようになっていった。


さらに90年代後半、欧米石油技術サービス会社との合弁事業を通じて、西シベリア地域の既存油田地帯を復活させたロシアの躍進が始まった。ロシアは原油の埋蔵量もイラクを抜いてサウジアラビアに次ぐ第2位に躍り出たのだ。1993年設立のロシア国営企業「ロスチネフ」と「ガスプロム」の躍進は、そのままロシアが「エネルギー大国」として復活する原動力となった。


セブンシスターズとOPECの衰退は、セブンシスターズ以外の石油企業の躍進とOPEC以外の国の開発が進んだことを物語っている。それでは、現在どのような石油会社が、そして産油国が健闘しているのだろうか。そしてこれまでふれてこなかったベネゼエラやブラジルなど南米や、マレーシアに代表されるアジアの産油国の興亡はどのようになっているのだろうか。「世界資源戦争」はこれから新たな章を迎える。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 11 石油開発の歴史 アフリカ産油国をめぐる資源戦争の歴史

サハラ以南のアフリカ最大の産油国はOPEC加盟国のナイジェリアだ。2007年には日産300万バレルに達したと見られている。埋蔵量もリビアに次いで2番目だ。開発はナイジェリア国営石油会社(NNPC)が独占してきた。最大の出資企業はロイヤル・ダッチ・シェルで、エクソンモービルやシェブロンテキサコも進出していた。しかし2007年8月、ナイジェリア・ヤラドゥア大統領がNNPCの廃止を発表した。2008年2月までに同国石油部門を再編し、5つの新組織の設置することを決めたのだ。こうしてナイジェリア国内にも市場原理が持ち込まれたのである。


アフリカ第2位の原油生産量を誇るアルジェリアは、イタリアやドイツ、フランスなど西欧諸国へ輸出している。実は同国は天然ガスの世界第4位の輸出国でもある。現在、EU加盟国の消費の約12%を供給している。確認可採埋蔵量が最も多いリビアも西欧諸国に原油を輸出している。ENI(イタリア炭化水素公社)グループの石油会社アジップが逸早く進出し、開発してきた歴史があり、イタリアへの輸出が最も多い。


ナイジェリアに並ぶ産油国となると見られるアンゴラは1975年独立以来の長期にわたる内戦により経済は極度に疲弊した。しかし強みは、石油、ダイヤモンド等の鉱物資源に恵まれていることだ。2007年1月にはOPECに加盟した。


アルジェリアの隣国リビアもアフリカ最大級の産油国で、こちらもENI(イタリア炭化水素公社)グループの石油会社アジップをはじめ、イスラム社会主義革命前には米国オクシデンタル・ペトロリウムが油田開発に加わった。確認埋蔵量 391億バレルは世界第9位。2005年には「リビアにおける第2回新規石油鉱区」入札で日本企業5社が6鉱区を落札、2006年の第3回新規石油鉱区入札では、日本企業2社が2鉱区を落札した。


二つのコンゴ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、コンゴ共和国はともに地下資源が豊富な国だ。コンゴ民主共和国は、銅、コバルト、ダイヤモンドなどを産する世界トップクラスの鉱産資源国。にもかかわらず民族対立から生じた内戦が長引き、世界最貧国のひとつとなっている。一方のコンゴ共和国は産油国であり、天然ガス、カリ鉱石、鉛、亜鉛、ダイヤモンドなどの資源も存在するが、開発はあまり進んでいない。両国とも政局が安定すれば欧米や中ソなど大国が豊富な地下資源を求めて進出していくことだろう。


聞きなれない国名だが、アフリカ中央部にチャドという国がある。中国とは2006年8月、国交樹立した。チャドは1960年にフランスから独立。1997年8月から台湾と国交を交わし、中国との外交関係は断絶していた。


中国にとってチャドとの国交樹立は資源確保のためのアフリカ外交の一環であった。チャドの主な産業は綿花生産、牧畜だが、原油生産で同国南部には埋蔵量10億バレルの石油資源が存在するといわれる。2003年には、同国南部ドーバから隣国カメルーンのクリビ港に至る全長1070キロメートルの石油パイプラインが世界銀行の融資によって完成し、稼動を開始。日量10万バレルの石油の商業生産を開始しており、今後25年間にわたって年間20億ドルの石油収入が見込まれている。


アフリカに目をつけているのは中国だけではない。アメリカも産油国としてのアフリカに着目している。その理由は、まずアフリカの産油国がいずれも地理的に大西洋岸に面していて、米国に輸送するにはペルシャ湾岸やカスピ海の油田に比べてはるかに近く、かつ安全であることが挙げられる。第二に、いずれも若い油田であり、将来増産が見込まれることがある。アフリカ産の石油は今後10年間に、米国の全輸入量の25%に上ると予想されている。米国と中国という、世界の石油消費量の1位と2位がアフリカの天然資源を取り込もうとしているのである。



世界資源戦争 10 石油開発の歴史 中国の資源外交とアフリカの産油国

世界第2位の石油消費国・中国の国営石油企業の海外進出件数を調べてみると、中東産油国よりもアフリカ産油国への進出のほうが多くなっている。中国のアフリカへのエネルギー投資が始まったのは1995年。アフリカの新規油田開発が本格的に進められた頃だ。以降、中国がスーダン、アルジェリア、アンゴラ、ナイジェリアなどアフリカ14カ国で展開している大型石油・天然ガス協力プロジェクトの数は約30件にのぼっている。


「対外経済協力の約4割がアフリカ向け」といわれるのも納得できる。
中国は10年以上前に自国の急激な経済成長を見越し、アフリカや中南米に天然資源を求め、トップ外交を展開してきた。2006年には胡錦涛国家主席がアフリカ3カ国を、温首相が7カ国を訪問した。


温首相が訪問したのは、エジプト、ガーナ、コンゴ共和国、アンゴラ、南アフリカ、タンザニア、ウガンダだった。各国とも天然資源が豊富で、南アやタンザニアは金の生産が盛ん、コンゴ共和国、南ア、アンゴラ、ガーナではダイヤモンドが豊富に産出する。2008年初頭には、中国外首が、南アフリカ、コンゴ民主共和国、ブルンジ、エチオピアの4カ国を歴訪したばかりだ。


新規の油田開発が進められたことで、ナイジェリアやアンゴラなどの有力産油国で数十億バレルの埋蔵量を誇る油田が発見されている。また、大型の海底油田が発見されたモーリタニアで2006年から石油輸出が開始され、ウガンダでも2009年から石油商業生産が開始されるという。


中国の支援による油田開発によってアフリカ諸国の産油量も増加してきた。BP社の発表によると、1996年時におけるアフリカ諸国の1日当たりの平均産油量は744万バレルであったのに対し、2006年度には999万バレルに達している。およそ34.3%の伸びだ。2006年末時点のアフリカ諸国の原油確認埋蔵量は、10年前の742億バレルから1,172億バレルに拡大しているため、石油の枯渇を懸念する声も聞かれるが、アフリカは近年石油供給地としての存在感を強めてきた。


では、このようなアフリカの石油供給量拡大見通しが、近年の原油価格の高騰に結びついたのかといえば、実際のところ大きな影響はなかった。その理由は、アフリカで生産されている原油の多くは中国によって消化されているため、アフリカ諸国で生産された原油が中国以外の地域へ大量に供給されることは少なかったからである。BP社の発表によると、2002年当時、中国がアフリカ諸国から輸入する原油の量は1日あたり32万6,000バレルだったが、2006年には92万3,000バレルに増加し、中国のアフリカ産原油への輸入依存率は2002年当時の約16%から2006年には23.8%へと上昇している。 


もともとアフリカは欧州諸国が"自国の裏庭"として植民地支配を続けてきた大陸だ。イギリスとフランスがそうであったように、ダイヤモンドに代表される地下資源が豊富な領地の奪い合いを続けてきたのである。そこで利権をめぐって欧州諸国が談合して大陸を分割し、原住民族が統治しにくいような国境線を引いて独立させてきたという暗い歴史がアフリカ大陸には横たわっている。


あえて民族紛争や内戦が絶えないようにしくみをイギリスとフランスがつくったともいえる。国が独立してもなお各国の政治家は政治面でかつての主人に頼らざるをえないようにしたのである。経済面では世界銀行や欧米諸国からの融資がなければ自立できないという、実に不安定な状態が数十年も続いてきた。そんな混沌としたなかでアフリカ諸国に開発融資や建設事業の援助を申し出たのが中国だった。


ナイジェリアやコンゴ民主共和国のように紛争が頻発している国はカントリーリスクが高く、また政治家が融資資金や貿易の利益を搾取する傾向が強いことから欧米企業がアフリカ諸国への参入に消極的であったことも、中国の参入を比較的容易にした背景と考えられる。中国は大量に消費する石油の購入先として、さらに自国の安い人件費で製造した日用品などの販売先としてアフリカをターゲットにしたのである。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 9 石油開発の歴史 ロシア・サハリンプロジェクトの進展と中国の動向

ロシア政府がサハリンでの天然ガス・石油開発プロジェクト「サハリンⅡ」の開発中止令を発令した2006年末、同プロジェクトにロシアの国営ガス会社ガスプロムの参入が決定した。ロシア政府のゴリ押しとしか表現できない参入劇であった。結果、ガスプロム社はシェル・サハリン・ホールディングスB.V.(ロイヤル・ダッチ/シェルグループ子会社)、三井サハリン・ホールディングスB.V.(三井物産子会社)、ダイヤモンド・ガス・サハリンB.V.(三菱商事子会社)の合弁会社である「サハリン・エナジー・インベストメント社」の株式50%を取得。ロイヤル・ダッチ・シェルは55% から27.5%に激減、三井物産25%は12.5%へ、三菱商事は20%から10%に減った。


2007年7月、ロシア政府は国営ガスプロム社が株式の半分を占めるサハリン・エナジー・インベストメント社の環境是正計画を承認した。ロシア政府が国営企業の事業を認めないわけがない。スタート当初に主導権を握ったロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事はまんまとロシア政府の策略にはめられたかのようだ。ロシア進出を計画していた他の日本企業から「ロシアは政府主導で国益重視のビジネスを進める。ロシア進出は慎重に考える」といった声があがったのはこの頃だ。


ともあれ、このような過程を経て、2007年夏から「サハリンII」は新たなチームで開発を進めた。「サハリンII」プロジェクトは現在、日量約8万バレルの原油(夏季半年間)を生産し、現在、第2段階開発に入っている。建設完了後、日量約17万バレル(通年生産)の原油及び年間960万トンの液化天然ガス(LNG)を生産する予定だ。第2段階の工事進捗率は現時点で8割を超えており、今日までに約120億米ドルの資金が投下されている。建設には1万7千人以上を雇用しており、その約7割はロシア国籍。ロシア政府は石油開発と自国の雇用促進を同時にやってのけたのである。


天然ガスについては、LNG(液化天然ガス)に加工し、サハリン縦断パイプラインで輸送する計画で、LNGの生産開始見込みは2008年中頃を目指している。これがロシアから最初の極東アジア向けの天然ガスの供給となり、豊富な埋蔵量と需要地に近いというメリットを有することから、アジアにおける今後の天然ガスの供給安定性の向上に大きくかかわってくるだろう。


LNGの引き取りは、日本を中心として、韓国、北米などをマーケット対象とし、東京電力、東京ガスなどと長期引き取りに関する合意に達している。両社とも電力・ガスともに近い未来に輸入に頼らざるを得ない事態を想定したのだろう。他にも大阪ガスと広島ガスが2008年から20年間にわたって年間 20万トンのLNGの供給を契約、中部電力は2011年から15年間、年間約50万トンの契約を結んでいる。


「サハリンII」プロジェクトは、石油と天然ガスのアジア・太平洋マーケットが中国とインドの経済発展にともない拡大していることと無関係ではない。ロシア政府と日本企業はそこを見据えた投資である。一方、今後もエネルギー需要の増加が見込まれる中国とインドは、石油開発をはじめとした資源獲得に積極的だ。つまり資源外交である。

では、2003年以来、米国に次ぐ世界第2位の石油消費国であり、同じく現在世界第2位の原油輸入国であるの中国(1位米国、3位日本)は、原油をどの国から輸入しているのだろうか? やはり中東産油国からの輸入が大半を占めるが、近年輸入総量の約40%を占めているのがアフリカ諸国である。


中国の石油企業がアフリカ諸国とのエネルギー分野の建設と投資に参加、また双方向のチャンネルや中国アフリカ協力フォーラムを通じて中国政府はアフリカ諸国とのエネルギー協力を深める努力を続けてきた。さらに中国は2004年からベネズエラやコロンビアなどの中南米諸国とエネルギー開発協定を締結したのをはじめ、カザフスタンから中国への原油パイプライン建設に伴う両国提携など、政府による「資源外交」を活発に行っている。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 8 石油開発の歴史 ロシア・サハリンプロジェクトの推移

湾岸戦争が勃発した1991年、原油価格は瞬間的に40ドルを超える水準まで復活したが、停戦後は18ドル前後で推移。OPEC諸国は減産に合意しながらベネズエラやナイジェリアなど数カ国が抜け駆けるという繰り返しが続く。一方で石油メジャーはOPEC諸国以外の油田を開発していた。


ソ連が崩壊し、生まれ変わったばかりの大国ロシアが自国で石油開発に乗り出したのは90年代半ばである。ロシア・サハリン島沖における大規模な石油・ガス開発は、1995年にロシア政府が、エクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油メジャーが主体となったコンソーシアムと契約したことから始まった。

時代をさかのぼると、サハリン島で石油・ガスの鉱床が発見されたのは1970年代後半であった。約450億バレル相当の資源を有するといわれる新たな世界規模の石油・ガス開発地域がそこに広がっていたのである。しかし1980年代に入ると国際石油価格が低迷、80年代半ばには大幅に下落し、当時のソ連はサハリンプロジェクトを見送った。社会主義経済のもとでは西側諸国からの資本と技術の自由な移動は制限されていたし、ソ連はカピス海の油田開発以外、本格的な海洋開発の経験はなかったからだ。


1994年までにサハリン北東部の大陸棚では合計8つの石油・ガスの鉱床が発見された。湾岸戦争が勃発した1991年、崩壊直前のソ連がサハリンプロジェクトの一部を国債際入札すると公表。これがサハリンⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵと呼ばれる巨大プロジェクトに成長していく。現在開発が進んでいるのが「Ⅰ」と「Ⅱ」だ。どちらも日本企業が密接にかかわっている。


日本にとっての大きな意義は、日本から極めて近距離に位置する巨大エネルギー安定供給源の確保である。中東と日本の概算距離は6510マイル、一方のサハリンと日本の距離は960マイルだ。さらに中東産油国に原油供給を依存し、オイルショックを経験した教訓から原油の供給を中東だけに頼るのはリスクが高いという判断もあっただろう。


「サハリンI」プロジェクトは、エクソンモービルの子会社が開発の主体となる国際共同開発事業で、日本からは「サハリン石油ガス開発」が30%の権益を保有し、伊藤忠商事と丸紅も参加している。2001年12月に商業化宣言が行われ、2006年9月にデカストリに石油積出ターミナルが完成し、日本向けを含む石油の本格的輸出が開始された。天然ガスについては約200万トン(LNG換算)をロシアに供給している。「サハリンI」の特徴のひとつは天然ガスの輸送手段として海底パイプラインの敷設を念頭に置いていたことだ。そのサハリン東沖からサハリンを横断し、ロシアの不凍港デカストリを結ぶパイプラインはすでに完成している。次の展開は日本・中国両国のパイプラインによるガス供給のマーケティング活動だろう。


一方の「サハリンII」プロジェクトには少し複雑な経緯がある。1994年、ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の合弁であるサハリン・エナジー・インベストメント社が事業主体となりプロジェクトが進められた。開発にかかる総費用は当初200億ドルと見積もられた。1999年に第一段階の原油生産が行われ、2001年に全体計画がロシア政府に承認された。

ところが、2006年9月、ロシア政府は環境アセスメントの不備を指摘し、突然開発の中止命令を出したのだ。「サハリンII」は生産物分与協定(PSA)に基づき開発が行われており、ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の3株主がプロジェクトの建設資金を調達し、開発リスクを負い、原油及び天然ガスの販売収入から資金を回収する仕組みとなっていた。2006年末までに、約6億米ドルをロイヤリティーや税としてロシア政府に支払っていたことから、大きな問題に発展しそうな気配を漂わせていた。一方のロシア政府もサハリンの環境破壊に対し、損害賠償を請求するというニュースが各国を駆け巡った。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 7 石油開発の歴史 WTIの登場と湾岸戦争

80年代前半、OPECの盟主サウジアラビアが原油生産の調整役を買って出た。しかしOPEC加盟国のイランやベネズエラが逆に生産量を増やしてしまい、価格維持が困難になった。サウジアラビアは1986年、調整役を放棄し、再び原油生産のシェアを奪取するために増産を宣言。この影響で原油価格は一時10ドルを割り込むまで暴落した。


その3年前の1983年、二ューヨーク商品取引所にWTIが上場している。WTIはウエスト・テキサス・インターミディエートの略で、西テキサス地方で産出される、硫黄分が少なく、ガソリンを多く取り出せる高品質な原油のことだ。WTIの先物はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている。当初数年間の取引量はごくわずかだったが、サウジアラビアがOPEC の調整役を降りた1986年以降、その地位は飛躍的に高まっていく。


皆さんは先週のことなので生々しく覚えているだろう。現地時間の1月2日、二ューヨークのNYMEXでWTIが1バレル100ドルの大台に乗ったことを。今でこそ私たちは「原油市場」に大手石油会社や精製、卸売業者だけでなく、投資ファンドも広く取引に参加していることを知っているが、1983年までは投機マネーを注ぐ対象ではなかった。そしてWTI の相場が国際的な指標となったのが1986年ということだ。


予備知識として挙げておくと、原油価格の代表的な指標にはこのWTIのほか、欧州産の「北海ブレント」、中東産の「ドバイ」があり、これらが世界の3大原油指標と言われている。WTIが北米市場であるのに対し、アジア、ヨーロッパ市場においては、中東産ドバイ原油、北海ブレント先物(IPE:ロンドン国際石油取引所)の価格が指標として機能している。ドバイ原油は代表的な重質油、北海ブレントはWTI原油に似た軽質油であり、日本が消費する原油の90%近くはドバイに代表される中東産原油である。


これら3大原油指標の中でも、WTI原油先物は、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、市場の流動性や透明性が高いため、原油価格の指標にとどまらず、世界経済の動向を占う重要な経済指標のひとつにもなっている。


本題に戻ろう。1986年に巨大な「原油市場」が認知されたことで、世界の原油指標価格の決定権はOPECからニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に移った。原油はマーケットで自由に価格が決まる市況商品になったのである。


一方、中東ではまた戦争が起こる。1990年、イラクがクウェートに侵攻。翌年にはアメリカを中心とした国際連合が多国籍軍を派遣し、イラクを空爆したことで「湾岸戦争」が始まる。


当時のイラクはイラン・イラク戦争によって莫大な戦時債務を抱えていた。イラクが外貨を獲得する手段は石油輸出しかなかったが、当時の原油価格は1バーレル15ドル~16ドルで推移していた。その頃、サウジアラビアとクウェートは石油を増産していた。OPEC加盟国の割当量が完全に無視されたことで原油価格は値崩れを起し、石油価格は下落。石油輸出に依存していたイラク経済は打撃を受けていた。


当時、イラクのフセイン大統領はOPECに対して原油価格を1バーレル25ドルまで引き上げるよう要請し、アラブ連盟に対して「クウェートはイラクのルメイラ油田から石油を盗掘し、イラク領土内に軍事基地や農場、民間施設を建設した」との抗議文を提出した。そして石油盗掘による損失の賠償金として24億ドルをクウェート政府に要求した。


クウーイト政府は次のように反論した「クウェートはOPEC生産枠を順守しており、割当量以上の増産はしていない」、「ルメイラ油田盗掘は事実無根である。確かにルメイラ油田はイラクとクウェートの国境にまたがって存在しているが、クウェート領土内の同油田からの生産量はイラクの同油田からの生産量のわずか1%に過ぎない」、「クウェートは、イラク領土内に軍事基地、農場、民間施設を建設した事実はない。クウェートのような小国で平和を愛する国が、人口・軍事力などではるかに巨大な国を侵略できるわけはない」。

OPECはフセインを懐柔するために原油価格を18ドルから21ドルに引き上げたが、イラクはこれに応じず、遂にクウェート侵攻に動いた。


世界資源戦争 6 石油開発の歴史 イラン・イラク革命とOPEC諸国・非OPEC諸国の動向

1980年に勃発した「イラン・イラク戦争」は産油国の中東地域の不安定さを示す材料となった。しかし紛争の火種は「イスラム教内の各派の対立」という図式だけでは語り尽くせないほど複雑になっていた。イラン革命が起こるまでイランは長らく親米政権だったので軍備は米国製であったが、イラン革命の際にアメリカ人は国外退去していた。


イラン革命後、イラン国内では反米運動が起こった。アラブ諸国は王政・独裁制が多いのでイランのような革命が国内で勃発することを恐れ、イラクを支持し、米国や欧州、ソ連も積極的にイラク側についた。米国はイラクに武器を輸出し、ソ連は一方でアフガニスタンへの侵攻を開始した。ペルシャ湾をはさんでイランと向かい合うクウェートはイラクを全面的に支援し、資金と軍港を提供した。


こういった各国の思惑に石油が絡むと、さらに複雑になってくる。イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、オマーンに囲まれたペルシャ湾は巨大な油田地帯であり、石油輸送の重要な水路であるため、各国の紛争に巻き込まれると石油生産や輸送はストップする。たとえばクウェートは石油をタンカーで運ぶ際にイランの鼻先を通らなくてはいけないためタンカーにソ連の護衛をつけた。


米ソとクウェートの支援を受けたイラクは当初優勢だったが、イランは抵抗を続け、やがてイスラエルがイランの援助を始める。親米のイスラエルは米国の軍備を調達し、イランを支援。アラブ人の国シリアとイスラム教の国リビアはイランに味方した。イスラエル空軍がイラクに侵入したことで、イラクはイスラエル軍の防衛にも力を注がなければならなくなった。


1982年にはシリア経由のパイプラインが止められ、イラクは石油の輸出ができなくなる。イランが形勢を逆転し、イラク国内への攻勢を開始。イラク軍はイランのカーグ島石油基地を破壊し、イランも痛手を受けた。米国はイラクのサダム・フセインを公式に支援し、イランとイラクは応酬を繰り返した。イラク軍が反政府的なクルド人に化学兵器を使用したとされるのは、この時期である。米軍がペルシャ湾に出動すると、イランは米国のタンカーを攻撃した。


停戦は1988年。イランが国連決議を受諾したのである。この間、石油を取り巻く状況は大きく変わった。原油価格は1980年にスポットで1バレル40ドルの値をつけたのをピークに一転、下落基調に転じた。


その理由はいくつかある。二度にわたる石油ショックを受けて、ロシアやノルウェー、中国など非OPEC諸国にエネルギー資源開発が始まったこと、石油メジャーが非OPEC諸国に活路を求めたことに加え、石油ショックの影響で先進国の景気回復が遅れ、世界の石油消費量が伸び悩み、それに応じるようにOPEC諸国の原油生産量も減少していったのである。


この間、世界の原油生産量は小幅ながら増加しているということは、非OPEC諸国の供給能力が大幅に拡大したということだ。具体的にはメキシコ、アラスカ、北海などで進められていた油田開発がビジネスになってきたのである。OPECの生産シェアは79年に5割を切り、イラン・イラク戦争の勃発以降、世界の石油市場では供給過剰で原油がだぶつき、価格が下落に転じたのである。


70年代後半から80年代前半にOPECが生産量を減らした要因は、大きな戦争によって中東の産油国で原油の生産ができなくなったからではない。OPECは原油価格維持あるいは価格の安定のために生産量をコントロールしようとしたのである。加盟国の石油埋蔵量と生産能力は異なる。


またイラン対イラク、クウェートのように紛争を続ける不安定な国が多い。そこでOPECの盟主サウジアラビアは儒供に応じて自らの生産を拡大したり縮小したりする調整役を買って出たのである。同国は1日あたり1000万バレルの生産能力を有しながら、80年代前半の石油供給過剰時には生産量を3分の1にまで落として、価格の暴落を阻止しようとしたのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 5 石油開発の歴史 第四次中東戦争とオイルショック

1972年のジュネーブ協定、リヤド協定の締結によって石油産油国は発言力を増していった。そしてリヤド協定から10ヵ月後の1973年10月、第四次中東戦争が勃発した。エジプトとシリアの連合軍がイスラエルに武力攻撃を仕掛けたのである。アラブ諸国も参戦した。イラクはエジプトへ師団と戦車、戦闘機を派遣。サウジアラビアとクウェートは連合軍に金融支援を行い、サウジアラビアとヨルダンは師団をシリアに派遣。ほかにもアルジェリア、チェニジア、スーダン、モロッコが兵士を派遣した。


第四次中東戦争を受けてPOEC加盟のペルシャ湾岸産油6カ国は原油公示価格の21%引き上げと原油生産の削減、イスラエル支援国への禁輸を決定した。それまでは供給過剰の傾向にあったこともあり、非常に安価であった原油価格は最高で4倍まで高騰。石油禁輸の対象にならなかった国にも深刻な影響を受けた。これが「第一次オイルショック」である。


原油価格の高騰は、石油のほぼ100%近くを輸入している日本に大きな衝撃を与えた。燃料としての使用ばかりでなく、化学製品の原料として活用している重工業を中心に多くの企業が打撃を受けた。当時の日本は田中角栄が牽引する「列島改造ブーム」による地価高騰で急速なインフレが発生しており、オイルショックによって多くの便乗値上げが行われた。こうしてさらにインフレが加速し、国内の消費者物価指数は1974年に23%も上昇した。トイレットペーパーや洗剤などの買占めが起こり、テレビの深夜放送の休止が実施された。こうして日本の高度経済成長時代が実質的に終焉した。


第四次中東戦争は、米ソの仲裁によって16日間で停戦に至ったが、この戦争をきっかけに原油価格の管理権限を握ったOPECはさらなる値上げを実行する。 1973年末には翌年から原油価格を倍に引き上げることを宣言。1973年初頭に1バレルあたり2ドル台だった原油価格は1年後に11ドル台まで上昇した。


中東の産油国にとって第四次中東戦争は、アラブ諸国がイスラエルをこらしめただけでなく、OPECが原油価格決定権を石油メジャーから奪取したことに大きな意味がある。「世界資源戦争」の視点から見れば、第四次中東戦争はOPECが欧米の石油メジャーから原油価格決定の主導権を奪い返し、石油メジャーが非OPEC諸国に活路を求めるようになる分岐点であったといえよう。


さらにうがった見方をすれば、エジプトとイスラエルの和平成立後、エジプト産の原油がイスラエルへ輸出されるようになった。ご存知のようにイスラエルは石油と武器の輸入大国である。第四次中東戦争によって、エジプトはイスラエルという安定した原油の取引先を確保し、イスラエルは原油の供給国を得たのである。本来なら欧米の石油メジャーがイスラエルに原油を販売するところだが、アメリカもイギリスもそこまでは手出しできなかったということだ。


そして1979年、イランでイラン革命が起こり、シーア派指導者のホメイニーが王党派から政権を奪った。アメリカの支援を受けて近代化を進めていたイラン皇帝はエジプトに亡命し、イラン・イスラム共和国というイスラム国家が誕生する。この間、イランでの石油生産が中断したため、イランから大量の原油を輸入していた日本は再び逆境に立たされる。OPCEはイラン革命を予期していたかのように、1979年から原油価格を4段階に分けて、計14.5%値上げすることを発表。再び原油価格は高騰し、「第二次オイルショック」が到来した。日本に「省エネルギー」という言葉が定着したのはこの頃である。


日本同様、中東の石油に依存してきた先進国は、中東以外での新たな油田開発を積極的に行うようになり、また石油以外のエネルギー開発にも目を向けるようになる。


中東ではさらに紛争が続く。1980年、長年国境をめぐってイランと対立関係にあり、イラン革命の宗教的な影響を嫌った隣国のイラクがイランに侵攻し、「イラン・イラク戦争」が勃発したのである。この両国の国境にあたるシャトル・アラブ川の使用権をめぐる紛争は昔から衝突の原因だった。イラク側にある同川沿いの都市バスラは石油積み出し港である。イランの反撃により、イラクの産油地域は脅かされることになる。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 4 石油開発の歴史 OPEC誕生とアラブ産油国の反撃

第二次世界大戦後、石油の需要は急拡大した。さらに大規模な油田開発が相次ぎ、供給過剰に陥った。1952年、石油メジャーは産油国の了承なしに公示価格(2.08ドル/バレル)を段階的に1.80ドル/バレルまで引き下げる方針を発表した。産油国側は事前通告を石油メジャーに求めたが、メジャーはそれを無視しつづけた。


1960年、石油産出国の利益を守るために設立された組織がOPEC(石油輸出国機構)だ。石油生産を独占する石油メジャーへの対抗組織として誕生したのである。誕生当時の加盟国は、イラク、イラン、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国だった。その後、61年にカタール、62年にインドネシア、63年にエクアドル(93年に脱退)、67年にアラブ首長国連邦が順次加盟した。


OPEC設立から10年間は、世界の石油需給が緩和していたこともあって原油価格の引き上げはなく、メジャーによる国際カルテルが功を奏し、原油価格は1バレル2ドル前後で安定して推移した。日本はこの期間に原油価格が安定していたから高度経済成長が実現できたという見方もできるし、当時の西ドイツ、日本といった第二次世界大戦の敗戦国の復興と成長の要因に、石油を大量に使う製造業の拡大があったとも言えよう。


1970年代に入ると、自国に存在する資源を自国で管理・開発しようとする「資源ナショナリズム」の機運が強まり、石油メジャーと産油国の力関係が変化を見せ始める。資源の所有権という概念とイスラエルを支持する先進諸国に対するアラブ諸国の政策がリンクしたのである。当時イスラエルはシリア、レバノンに対して頻繁な軍事行動をとっていた。そのイスラエルを欧米諸国が認めていることに対するアラブ諸国の反発とナショナリズムが絶妙にミックスされ、欧米の石油メジャーへの対応が大きく変わっていく。つまり、国の大切な資源である石油は先進国の要望に応じて販売するものではなく、先進国との外交交渉、政治の重要なカードになっていったのである。


1970年、まずリビアが原油公示価格と所得税率の引き上げに踏み切った。日本や旧西ドイツなどの重厚長大産業の飛躍的な成長によって石油の需給が増え続けていた矢先、シリアで石油パイプラインの一部が破壊され、一時的に原油の供給がストップした。このタイミングにリビアの革命政権は同国で操作中の米石油大手「オキシデンタル・ペトロリアム」に対して原油価格と所得税の引き上げを行ったのである。


リビアのこの対応を踏襲し、ペルシャ湾岸諸国が1バレルあたり9セントの引き上げを実行。そして翌1971年、「テヘラン協定」でペルシャ湾岸原油公示価格を一律1バレルあたり35セント引き上げ、以降毎年2.5%+5セント引き上げていくことが決定した。これに加え、石油メジャーが産油国に支払う所得税率が50%から55%に引き上げられた。


産油国の石油収入は、多くの場合、産油国と石油会社との問で締結される石油利権契約に基づき、当時も現在もドル建てで行われている。公示価格を算定基準として利権料(ロイヤリティ)及び所得税を計算し、石油収入とするシステムだ。そのためにドルの価値が下がると、産油国がせっかく原油価格を値上げしてもその効果は相殺されてしまう。そこでドル減価分に応じた値上げを取り決めたのが、72年の「ジュネーブ協定」である。この協定には伏線がある。71年8月の「ニクソンショック」以降、ドルの価値は下がり続けていたのである。


また、同年に締結された「リヤド協定」では、サウジアラビア、アブダビと両国に利権を持つ石油メジャーの間で産油国の参加を規定した協定が決まり、石油メジャーから産油国への段階的な石油採掘事業利権の譲渡が合意される。これは産油国側は当初25%の石油利権を強制的に石油会社から買い取り、78年から81年まではその利権の割合を1年に5%ずつ引き上げていき、最終的に5割のシェアを取ろうというものであった。一方、急進派産油国のイラクは石油の国有化をめざしていた。アラブの産油国はそれぞれ石油資源の主権の確立を進めていった。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 3 石油開発の歴史 エネルギー革命

エネルギーの観点から歴史をひもといてみると、19世紀から20世紀半ばにかけては主要燃料が石炭から石油へ移り変わった時期といえよう。いわゆる「エネルギー革命」である。石油の大量産出によって安価な石油はエネルギーの主力となっていったのである。
顕著だったのは西側先進国である。石油が重宝されるようになった背景には、大量の石油を生産するための採掘・精油技術の向上だけでなく、製造業・工業にも石油普及を促す技術革新が続いたことがある。


石油を需要と供給を加速させた技術革新とは、内部で燃料を燃焼させて動力を生み出す内燃機関の発明である。ガスタービンエンジンやピストンエンジンが実用化されたことで、自動車や機械を製造する側にも利用する側にもパラダイムチェンジが起こったのである。19世紀末の自動車の商業実用化、20世紀初めの飛行機の発明はガソリンエンジンの普及と切り離せない。船舶も重油をボイラーの燃料にするようになった。安価な石油を燃料とすることで産業の工業化が進み、人類は交通手段と物流手段を手に入れたのである。


石油が燃料の主役の座に上った理由はそれだけではない。石油は戦車、軍用機、軍艦などの燃料として欠かせないものになっていた。第一次世界大戦、第二次世界大戦を含め、20世紀半ばから後半にかけて石油は死活的な戦略資源となった。戦争では大量の石油が消費される。戦車や戦闘機を製造しても石油がなければ動かせない。そうすると「大量の石油を確保している国が戦争に勝てる」という図式が生まれてくる。日本はその法則には当てはまらなかったわけだが、皮肉なことに、その石油を奪うために石油で動く武器を開発したという見方さえできるほど、石油は戦争や軍事産業と切り離せない関係となっていく。こうして各国の軍事産業と石油財閥は深くかかわっていくことになる。戦争が勃発すれば石油の消費は増えるし、武器の製造量も増える。そこに大きな市場が生まれたのである。


第二次大戦後は、石油の新たな用途として、すでに戦前に登場した化学繊維やプラスチックがあらゆる工業製品の素材として利用されるようになった。また、発電所の燃料としても石油が利用された。工業や化学分野での新たな産業の誕生が石油の需要と供給を増やしていったのである。


石油の探査には莫大な経費と高い技術が必要となるが、成功時の見返りもまた莫大である。必然的に石油産業では企業の巨大化が進んだ。いわゆる「石油メジャー」はどんどん膨張し、第一次世界大戦の前後に中東における石油利権の独占体制を確保するに至った。独自に採掘する技術と資本を持たない国では、巨大資本を持った欧米の少数の石油会社に独占採掘権を売り渡した。これによって石油開発の集中化はさらに進み、巨大な多国籍企業=「石油メジャー」が誕生したのである。


1932年にペルシャ湾上のバハレーンで石油が発見されると、その対岸のサウジアラビアにも油田発見の可能性が広がり、1933年に米国石油メジャーの「スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア」(SOCAL、現シェブロン)が油田の開発権をアブドルアジース初代国王から取得した。SOCALは当時の「テキサコ」と共同で、1938年にペルシャ湾岸のダンマームやホバルから約10~15km内陸のダハラーン(別名ダーラン)で石油を発見。続いて、その北方で1940年にブカイク(別名アブー・カイク)油田が、1948年にはガワール油田(面積4360平方kmに及ぶ世界最大級の油田)が発見された。その後も、サファニーヤやクウェートとの中立地帯、ペルシャ湾の海底などで油田の発見が続いた。


第二次大戦後にも中東では大規模な油田が発見された。「エクソン」や「モービル」も加わってアラブアメリカンカンパニー(ARAMCO、のちに国有化され現在はサウジ・アラムコ)が設立され、本格的な石油の生産と輸出を開始した。
当時の石油メジャーは各社で販売シェアを固定し、国際カルテルを結んでいたため、原油価格は低水準で安定していた。産油国側と石油メジャーの対立が始まるのはそのあとである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 2 石油開発の歴史 石油ビジネスのはじまり

石油の利用自体は古い。紀元前4000年のメソポタミアで彫刻の素材として、また紀元前2500年のエジプトではミイラの防腐剤として天然アスファルトが利用されていたという記録がある。地下から湧く「燃える水」の存在は、古代から各地で知られていた。「日本書紀」には天智7年(668年)越の国(現在の新潟県)から「燃える水・燃える土が近江大津宮に献土された」とあり、おそらく石油のことであろうと推測される。17世紀からルーマニア産の石油が灯油用に用いられたとされている。しかし、大量生産はずっと後のことであった。


石油は19世紀半ば頃から「何か汚いけどよく燃える液体がある」という理由から明かりを取るための燃料として使われていた。それが本格的に商業ベースで生産され始めたのは19世紀の初頭のアメリカにおいてだ。つまり、石油開発の歴史はまだ200年しか経っていないのである。
産業革命までさかのぼれば、当時の最大の動力は石炭を燃料とする蒸気機関である。石炭で動く蒸気機関車がその最たる例だが、石油が発見され、利用されるようになると産業構造も一気に変化した。


石油を最初に巨大ビジネスに展開したのはかのロックフェラーである。機械掘りの油井の出現が、石油生産に革命をもたらしたのだ。エドウィン・ドレークが1859年8月にペンシルベニア州タイタスビルの近くのオイル・クリークで採掘を始めたのが世界最初とされているが、定かではない。歴史に残っているのは1863年、ジョン・D・ロックフェラーが二人の弟ともにオハイオ州クリーブランドで石油精製業に乗り出し、1870年にスタンダード石油を設立したことだ。


ロックフェラー兄弟は、次々と精油業者を口説いて談合シンジケートを設立。9年後には全米の石油の95%をスタンダード石油が握り、またたく間に財閥にのぼりつめる。独占企業のスタンダード石油に対し、世論の反発が起き、1890年に成立したシャーマン反トラスト法により、同社は解体するが、その頃のロックフェラー財閥の手練手管は、いずれこの連載で紹介していく。


ヨーロッパでいち早く石油の将来性に目をつけたのはパリのロスチャイルド家だった。すでに1860年代末より、アメリカ産の石油をフランスに輸入していた。まだ市場が小さく、競合が少ない状況にあって石油に着目したのは、ロスチャイルドの先見性だろう。ロスチャイルドは、アドリア海の港町フィウメ(現クロアチア)に石油精錬工場を建設。その後、次第に石油の需要が高まっていく。その背景には、石油を利用する内燃機の利用が盛んになっていったことがある。1876年にドイツのニコラウス・オットーがガソリンで動作する内燃機関(ガソリンエンジン)を発明。ダイムラーがそれを改良し、1885年にダイムラーによって特許が出される。同年、ドイツのカール・ベンツは、ダイムラーとは別にエンジンを改良。こうして自動車の本格利用が始まり、一方ではアメリカ軍・イギリス軍が第一次世界大戦において石油を燃料とした艦船を導入し、ドイツ海軍に大勝した。需要が伸びれば供給も求められる。石油ビジネスは一部の企業に莫大な利益をもたらしていく。


ヨーロッパでは1873年、スウェーデン発明家ノーベルの兄弟がカスピ海沿岸のバクー油田を開発し、大規模な製油所へ発展させた。1876年には世界初の石油パイプラインを完成し、1877年には世界初の石油タンカー「ゾロアスタ号」を完成。1878年、ノーベルも兄たちの事業に参加し、「ノーベル兄弟石油会社」が発足した。ノーベル兄弟は、ロシアの石油産業の生みの親になる。
同じ頃、パリ・ロスチャイルド家もロシアに目を転じていた。カスピ海西岸が油田地帯として知られていたが、バクーからの石油は「ノーベル兄弟石油会社」 がロシア市場へ運んでいた。
1880年代初頭、バクーと黒海とを結ぶ鉄道工事が始まった。事業主が資金不足に陥った時に資金提供を申し出たのがパリ・ロスチャイルド家である。そして石油採掘権を確保し、石油生産・販売会社を起業。こうしてロシアの石油開発も活性化した。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 1 はじめに

今週からスタートする「世界資源戦争」は、世界経済が化石燃料や金、ダイヤモンドのように経済的な価値の高い資源の奪い合い、資源を有する国の利権争い、資源の売買によって動いてきたこと、そして現在も動いていることを説明し、投資ライフの参考にしてもらうためのコラムである。金融や投資とは一見関係ないように見えるかもしれないが、各国が有する資源量や流通ルートによって相場が動いていることや、世界の企業グループや財閥の資金源が、石炭や石油、天然ガス、ダイヤモンドなどの利権から生まれ、その資金をもとに金融ビジネスが行われているケースは少なくない。つまり、資源と金融は深くむすびついているのである。


「資源」といった場合、知財や技術、ノウハウといった無形のものを比喩的に含めるケースや、森林、河川、湖など自然環境を「産業資源」「観光資源」などと呼ぶケースがあるが、このコラムでは、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料、チタン鉄鉱やウラン鉱石、ダイヤモンドといった鉱物、鉄に代表される金属、金に代表される希少金属、ウランのような核燃料などを対象とする。主に地中や海底に埋蔵されている地下資源で、特に人間に有益であるものの総称と定義しておく。


これらに共通するのは、いつかはなくなる消滅型資源であること、特定の目的のために加工されて使われることが挙げられる。また、生産地は地理的に偏りがあり、採掘や加工に専門技術や莫大な費用がかかるため、世界のすべての国がその資源の恩恵を享受しているということではない。特定の国や地域、企業が生産と販売を独占したり、価格決定権を有したりすることから、資源によって富める国や企業とそうではない国や企業の格差は、すこぶる大きい。


わかりやすい例が石油産出国だ。石油産出国の利権を守るために1960年に誕生したOPEC(オペック)は、国際石油資本(オイルメジャー)が産油国の了承なしに原油公示価格の引き下げを発表したことに不満を抱いたことから設立された石油輸出国機構だが、加盟国はイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、カタール、リビア、アラブ首長国連邦などアラブ諸国に集中している。石油の埋蔵量、採掘量とも世界一とされる、OPECの盟主サウジアラビアは、石油の掘削と輸出が主な外貨獲得源(石油が外貨収入の約90%を占める)となっており、石油で獲得した外貨を世界各国で投資、運用しているのは周知のごとくだ。仮にサウジアラビアの王族に属する一人の王子がそのケタ違いの全資産を投資に注いだとしたら、世界経済はやはり大きな影響を受けるであろう。その王子の資産の源は石油の利権でしかないというのに、世界経済を水面下で動かすだけの資金を有しているのである。


産業革命以降に起こった多くの戦争の原因をひもといてみれば、宗教や民族の対立だけでなく、豊かな地下資源を有する国をなんとか支配したいとする国と、資源を渡してなるものかと抗う国の思惑から生まれたものが多いことに気づくだろう。人類は資源の保有をめぐって戦争にまで発展するのである。いや、実際の武力による戦争にまで発展しなくても、利権の独占や企業買収などは経済界を戦場とした資源戦争である。世界資源戦争が各地で、各国の間で、さらに各企業の間で繰り返されるのは、とりもなおさず資源が莫大な金になるからである。


「世界資源戦争」は、各国が有する資源を紹介しながら、その資源を商品化、産業化して資産を増やしてきた国や企業を取り上げていく。そこには石油シンジケートやダイヤモンドシンジケートといった闇の世界史も同時に横たわっている。各国の経済・金融支配者たちの横顔も見えてくるかもしれない。同時代的に展開している「世界資源戦争」の中身を知ることが投資ライフの参考になれば幸いである。


By Master K/益田 慶