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世界資源戦争 39 原子力発電とクリーンエネルギー

原子力発電と太陽光発電、風力発電など自然エネルギーを燃料とする発電は、発電する際に温室効果ガスの排出が少ないという一点において共通している。温室効果ガスの排出量の多い発電方式は、1.石炭を燃料とする火力発電  2.石油を燃料とする火力発電 3.太陽光発電 4.風力発電 5.原子力発電の順だ。ただし、ウラン濃縮のための電力を加算すると原子力発電の排出量は多くなる。


日本もアメリカも原子力発電を推進する国だが、一方で温室効果ガスの排出量の少ないクリーンエネルギーの開発推進にも力を入れている。日本のクリーンエネルギー事業といえば、太陽光発電に欠かせない太陽電池の製造だ。しかし、国別の太陽光発電の累積導入量は、1位ドイツ、2位日本、3位アメリカといった順位となっている。ドイツは原発を放棄しており、風力発電も盛ん。


シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機といった太陽電池の製造メーカーは、国内需要より輸出に力を入れている。これは日本の制度の問題が大きくかかわっている。日本には、民間企業や個人が電力会社に売電する歴史が浅く、また売電事業で大きな利益が出ないしくみになっているからだ。ドイツの場合は、1991年に太陽光発電、風力発電などの買い取り制度によって投資を促す法律が施行されたことが、太陽光発電拡大の大きな要因となった。


一方、アメリカにおけるクリーンエネルギーといえば、原子力とバイオエタノールやバイオディーゼルなどバイオ燃料だ。しかし、ガソリンの代替燃料としてブッシュ大統領が事業を推進したバイオエタノールは、予想しなかった局面で「世界資源戦争」に首を突っ込むことになった。これは国策として進めているブラジルも同様である。


原油高騰によって負の連鎖が起こり、資源高、穀物高が発生した。サブプライムローンの焦げ付きにより、ファンドの投機マネーが穀物相場に流れた。また、近年の不作が重なり、バイオ燃料の原料となるサトウキビやトウモロコシ、小麦など穀物価格が高騰した。結果、日本ではこれらを原料とする食品、あるいは飼料とする畜産品が値上がりした。アメリカやブラジルでは、多くの農家がサトウキビやトウモロコシ、小麦などの作物に転作した結果、従来生産していた作物が不足し、バイオ燃料とは関係のない作物も高騰してしまった。


そもそも穀物の耕作面積は、急には増えない。現状の生産量の一部、あるいは大部分がバイオ燃料の原料用に使われたとすれば、つまり全体の生産量が同じで需要だけ伸びたのだとすれば、穀物の価格は上がって当然だ。バイオ燃料と農作物が競合状態となり、結果、穀物のみならず農作物全般が高騰することになる。ガソリンの代替燃料としてのバイオエタノール事業は、一方で他の産業と競合することになるということだ。


しかも他国で不作が続けば、世界の食用の穀物量は絶対的に不足し、社会問題に発展する。事実、2008年に入ってから、アフリカではコートジポワール、ブルキナファソ、セネガル、アジアではフィリピン、バングラディシュで資源高、穀物価格高騰を原因とする暴動やデモが発生している。


そして産業界が燃料を化石燃料から電力に切り替えるとすれば、どうなるか? 電力会社の株は上がるだろう。その際に原子力や太陽光発電による電力であれば、温室効果化ガスの排出量が少ないので、排出権を購入する必要はなくなる。反対に既存の自動車メーカーは、排出権を購入しなければいけなくなるので、同じ売上をキープしたとしても支出だけは増え続けることになる。世界資源戦争は、クリーンエネルギーという新たな局面にも発展している。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 38 世界で原発施設を売り歩く日本企業

原子力業界を牽引する三つのグループ、つまり1.東芝と米国ウエスチングハウス(WH) 2.三菱重工とアレバ(仏) 3.日立と米国ゼネラル・エレクトリック(GE)は、世界各国で原発施設の建設に動いている。東芝は米国を中心に原子炉建設の受注件数を増やしている。ライバルの三菱重工は、2007年2月テキサス州ダラス郊外のコマンチェピーク原発に増設される2基の受注が内定し、勢いをつけた。プラントは加圧水型軽水炉の最新型で、出力170万キロワットという大型の原子力発電所だ。日本企業が米国で原発を単独受注するのは初めてで、独自開発した原子炉の海外輸出としても最初のケースとなる。


さらに2008年2月、欧州の新規原子力発電プラント市場へ参入することが決まった。日本メーカーによる欧州の大型炉市場への参入はこれが初めて。そして2008年7月、三菱重工業とアレバの合弁会社であるATMEA社は、同社が開発を進めている新型第3世代原子炉「ATMEA1」の安全設計概念について、国際原子力機関(IAEA)による審査が完了したことを公表した。ATMEA1の基本設計は順調に進捗しており、許認可申請準備は2009年末までに完了する予定だ。ATMEA社は、新型原子炉ATMEA1の開発・販売を目的に三菱重工とアレバが2007年11月、パリに設立した合弁会社で、世界の中型原子炉市場で主導的なポジションを狙う。


欧州では地球温暖化防止や原油価格の高騰を背景に、原子力発電の再評価の機運が高まっており、2030年頃までに新設プラント数10基の需要が見込まれている。三菱重工は今後、欧州市場へ積極的な営業を続けていくという。


原発の市場規模なら中国が最大だと思いがちだが、中国では電力供給に占める原子力の割合が2030年までにわずか4%にしか達しない見通しだ。それでも、三菱重工業は2008年2月、中国山東省の山東核電有限公司から同省海陽に新たに建設される海陽原子力発電所向けのタービン発電機パッケージを受注。同原発は2015年までに運転を開始する計画だ。三菱重工業は2007年にも浙江省の三門原子力発電所で同様の設備を受注している。


経済成長を続けるインドはといえば、2050年まで原子力発電量を年率9%以上の割合で増加させる計画だ。インドは近年、慢性的な電力不足に陥っており、また原油の輸入大国にもなっている。


インド政府は、電力の需要急増に対応するため、現在9基の原子炉のほかに新たに原子力発電18基の建設を計画している。


インド原子力発電公社にアプローチしているのはアレバだ。フランス・サルコジ大統領自らトップセールスをかけ、アレバの受注を援護射撃している。


一方、2008年6月、ウラン生産最大手のカメコ(カナダ)と共同で提携すると発表した日立とGEは、2008年7月、原子炉の受注戦略を見直したことを明らかにした。両社は2007年に原子力事業を統合し、世界の電力会社に対して新型原子炉を売り込んでいた。しかし原子炉をめぐる受注競争が激化していることから、すでに稼働実績がある既存の原子炉を優先する戦略に転換したのだ。


日立-GEグループの既存の原子炉は、1997年から受注を開始し、GEと合わせた受注は8基(日本6基、中国2基)で、このうち4基がすでに稼働している。


日立-GEグループは戦略転換の第1弾として、両社の米合弁会社、日立GEニュークリア・エナジー(GEH)内に、改良型沸騰水型軽水炉を提案するための新組織を発足させ、受注活動に乗り出した。日立とGE は原子力事業で2015年に年間5000億円の売上高を目指している。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 37 日本、米国、フランス企業がしのぎを削る原子力事業

先に開かれた「洞爺湖サミット」でブッシュ大統領や仏サルコジ大統領がしきりに「地球温暖化対策には、温室効果化ガスを排出しない原子力発電が最適」と発言したので、原子力銘柄が勢いを増している。


現在、原子力業界は大きく三つのグループに分けられる。1.東芝と米国ウエスチングハウス(WH) 2.三菱重工とアレバ(仏) 3.日立と米国ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。すべてのグループに日本企業が名を連ねているのは偶然ではない。資源のない日本は、安い原料を輸入し、それを高い技術で加工して付加価値をつけ、海外に輸出することで外貨を得ている。


高度なスキルが必要な原子力事業は、太陽電池同様、日本企業が得意とする分野だ。海外の原子力メジャーと組んで、中国やインドなど新興国にプラントを販売する戦略は、半ば日本の国策ともいえよう。資源が乏しく、かつ世界屈指の資源消費国である日本が、「世界資源戦争」で生き抜くには、資源消費国に技術を販売するのが得策。その技術は様々な装置に形をかえ、エネルギー分野と環境分野で花開いている。


では、原子力業界の話を進めよう。2004年から始まった原油価格の高騰により火力発電に対する原子力発電の優位性が高まった。また、京都議定書で定められた各国の温室効果ガスの排出枠が、「1トン6ドル」といった金額に換算して排出権取引されるようになったことも大きく影響している。


温室効果ガスの排出枠を超過すると損益が生まれるのだから、化石燃料を燃やして温暖化を促進する火力発電所は立場がない。しかも売電事業で得た利益は排出権取引によって減ることになる。一方の原子力発電は、プラント建設の際に石油を使うものの、火力発電所と比べると、温室効果ガスの排出量が少ない発電施設だ。放射能もれのリスクはあるが、温暖化防止をプライオリティーとするなら、国や企業の大義名分も立つ。


東芝が英国核燃料会社(BNFL)の傘下にあったWHの全株式を取得したのは2006年のこと。買収額は約6000億円だった。WHは2006年時点、米国を含め世界34ケ所に技術・販売拠点を持ち、原発の建設実績は98基。従業員約9000人、売上高約18億ドル(約2100億円)だった。当時、その買収金額は「高い買い物」だと指摘された。三菱重工、GEを抑えて東芝が買収できた要因には、示金額のほか中国への原発ビジネスなどで東芝がWH経営陣の方針を尊重すると判断したことなどが挙げられた。


原子力ビジネスには、燃料となるウランの売買、発電所建設、売電ビジネスなどいくつかの側面がある。東芝はプラントメーカーとして実績がある。東京電力が運営する柏崎刈羽原子力発電所や、日本原子力発電が運営する敦賀発電所など約30施設にプラントを納品している。


2007年6月、東芝は初の海外での原発建設契約の内定にこぎつけた。米国電力大手NRGエナジーによる米テキサス州建設予定の原子力発電所建設だ。2015年に稼働予定。そして2008年3月、東芝はNRGエナジーの原子力発電プラント2基の主契約者に正式に選定されたと発表した。東芝は受注金額について明らかにしていないが、原発2基の建設にかかる事業費は8000億円規模とみられる。東芝はまた、NRGエナジーが2月に設立した改良型沸騰水型原子炉の事業開発会社に3米ドル(約300億円)、12%分を出資することも併せて発表。東芝は、今回受注した2基以外にも原子炉の受注獲得を狙っている。


米国はブッシュ政権が原子力発電推進に方向を転換したことで、原発建設申請が相次いでいる。米国市場が大きく成長することは明白で、米国でのシェアの半分を東芝・WHが取るのではないかといわれている。東芝にとってWHの買収額約6000億円は、今となっては「安い買い物だった」ということになる。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 36 資源メジャー側にまわる大手商社

大手商社が単独で海外の鉱山など資源開発に出資する先駆けとなったのが、住友商事のバツ・ヒジャウ鉱山(インドネシア)だ。住友商事は1996年に権益を取得したが、2001~2003年、銅価は低迷した。それでも、銅価はいずれ上昇すると判断し、権益を手放さなかった。この結果、現在では91億円の持ち分利益をもたらす事業に成長した。


伊藤忠商事が1994年代に権益を取得したアゼルバイジャンの油田は、2007年度に334億円の利益を同社にもたらした。アゼルバイジャンのカスピ海海域に位置するACG鉱区は、アゼリ油田、チラグ油田、グナシリ油田の3油田により構成される。可採埋蔵量は54億バレルだ。そのグナシリ油田深海部からの原油生産が2008年4月からスタートしたので、伊藤忠商事は次の決算で再び大きな利益を得るはずだ。さらに伊藤忠商事は2008年2月、メキシコ湾の油田の50%権益の取得に成功している。


もともと100%権益を持つ米中堅石油開発会社が単独で開発する予定だったが、サブプライム問題に伴う信用収縮の影響で資金調達が厳しくなり、伊藤忠に資金拠出の声がかかったのだ。日本の商社は、サブプライム問題で損失はあったが、副産物も多かったようだ。一方、丸紅は2008年4月、総額2000億円という、単独では同社最大となるチリの銅鉱山への投資に踏み切った。


世界経済は1970年代から2000年まで、ほぼ3%のペースで成長を続けてきたが、中国、インド、ブラジルなどの新興国が世界経済に組み込まれた結果、2002年から5%成長に加速した。これが世界の資源価格を押し上げた。日本の鉄鋼会社や銅精錬所、電力・ガス会社などへの原料供給を手掛けてきた大手商社は、資源価格が低迷していた90年代後半から、上昇し始めた2000年代初頭にかけて、少額出資から一歩踏み込み、リスクをとって大口の権益獲得に乗り出した。これが現在の好調な業績の土台となった。


いまや鉄鉱石の貿易に占める世界シェアでは、三井物産は約5%、三菱商事は石炭で15%と、BHPビリトン(オーストラリア)やリオ・ティント・グループ(英国、オーストラリア)などの世界の資源メジャーに比肩する存在となっている。


商社のたくましさは、タワシからミサイルまで、売れるとなればどんなアイテムでも輸出入することにあるが、資源価格の高騰で需要が拡大した鉱山開発向けの建設機械、タイヤや貨車、油田用の鋼管など、資源・エネルギーの周辺市場を取り込んだことも見逃せない。資源の開発と生産には、重機やパイプライン、道路などインフラ整備は欠かせない。日本の「コマツ」が製造する建設機械が海外で広く求められていることが、それを証明している。商社は新興国の経済成長をインフラ整備から支え、売上を積み重ねているのだ。

発電所、鉄道、水処理設備など、2002年以降、日本からのプラント輸出は毎年2兆円を超える水準で推移している。大手商社6社の機械部門の純利益は2004年3月期に1000億円に満たなかったが、2008年3月期には約2400億円にまで拡大した。4年間で2.4倍にもふくれあがったのだ。特に北京オリンピックを控えた中国向けの輸出は大きい。

商社の事業投資も軌道に乗り始めている。丸紅は1990年代に入って発電事業そのものに参入。現在では世界各国で持ち分発電量6600メガワットの発電事業を運営。民間の独立発電事業体では世界4位の規模となり、2008年3月期は純利益110億円を稼ぎ出した。


石炭や石油のように枯渇資源でなく、再生可能なエネルギー。すなわち、風力や太陽光を利用した自然エネルギーによる電力事業や原子力事業に参入するプラントメーカーも登場している。資源高でもうけた商社は、次にエネルギー産業に進出しようとしているのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 35 資源高で高収益の大手商社

2008年7月15日、燃料高騰にあえぐ日本全国の漁師たちが「スト」に打って出た。漁船の燃料の重油が3年間で3倍近く高騰したことで、「出漁すれば赤字」という状態が続き、各地の漁業者からは「廃業してしまうしかない」と抗議の声があがっている。しかし、その一方で、資源高の恩恵をこうむり、売上が急増している業界がある。資源会社と資源を輸出入する商社だ。


2008年3月期決算で、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商など大手6社がそろって最高益を更新した。権益を持つ資源価格がまんべんなく大きく値上がりしたからだ。大手6社そろっての最高益更新は3年連続。6社合計の当期利益は、4年前の約2200億円から約7倍の1兆5千億円まではね上がった。この4年間で、売上でなく、利益が7倍も増えた業界は少ないだろう。


たとえば三菱商事は海外に鉄鋼原料用石炭(原料炭の)権益、三井物産は鉄鉱石の権益を所有している。原料炭と鉄鉱石をめぐる鉄鋼会社との価格交渉が、ここ数年いずれも大幅な値上げで妥結し、利益を上乗せしてきたのだ。商社は世界のシンクタンクやアナリストを通じて、資源が高騰することを知っていたのではないか。そう疑いたくなる理由は、資源価格の高騰が始まる前に、各商社が鉱山や油田の権益に手を打ってきたからだ。


2007年3月期決算で、三菱商事に1081億円の持ち分利益をもたらしたオーストラリアの鉄鋼原料用石炭事業は、2001年にオーストラリアの資源メジャーBHPビリトンから約1000億円で権益を取得したものだ。そのBHPビリトンは2007年まで4年連続で史上最高益を更新中だ。鉄鉱石や原料炭の価格は1970年代から80年代にかけて長期間低迷し、90年代には鉱山会社の再編が相次いだ。三菱商事は割安なうちに資源の川上に権益を取得する「川上投資」に打って出たのだ。


三井物産も「川上投資」に成功した。2003年に、ブラジルに本社を構える世界最大の鉄鉱石生産会社「コンパニア・バーレ・ド・リオドセ」(現ヴァーレ)へ15%の間接出資をしたのが今になって非常に効いている。国営企業だった「リオドセ」は1997年に民営化されたが、持ち株会社である「バレパール」(ブラジル)の大株主だった現地の投資銀行は2003年、長く低迷する鉄鉱石価格に嫌気が差し、保有する「バレパール」株15%の売却を三井物産に打診した。同社が1000億円規模のバレパール株取得に踏み切ったのは、鉄鉱石の権益を取得できる、願ってもない機会だったからだ。


当時のリオドセの純利益は6億ドル、約630億円程度。これが5年間で今や約1兆500億円を超える優良企業に成長した。株価も順調に推移しており、2007年末の株式時価総額は約17兆円で、これはトヨタ自動車と肩を並べる規模だ。日本の最大手「新日本製鉄」や韓国最大の鉄鋼メーカー「ポスコ」は、このヴァーレから鉄鉱石を購入している。2008年の鉄鉱石価格は2007年と比べ65%引き上げられた。それでも合意せざるを得ないのは、鉄鉱石は売り手市場だからだ。そして2008年6月、ヴァーレの株式増資に対し、三井物産は追加出資を決定した。拠出金額は約750億円の見込み。それほどの出資をしても十分"元が取れる"ということを物語っている。


資源高に苦しめられる業界のその隣で、資源メジャーと商社は我が代の春を謳歌している。これが「世界資源戦争」の実態である。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 34 大手資源グループの攻防

世界のウラン生産と価格をコントロールしているのは5社。すなわちカメコ(カナダ)、アレヴァ(フランス)、多国籍グループのリオ・ティント・グループ(英国、オーストラリア)、カザトムプロム(カザフスタン)、TVEL(ロシア)。


世界中で資源生産を続けるリオ・ティントは、多国籍の鉱山・資源グループだ。出身母体を同じくする「リオ・ティント・ジンク・コーポレーション」(イギリス)とRTZ Ltd(オーストラリア)の合併によって誕生したRTZ-CRAが持株会社となり、1997年に設立。非鉄金属、鉄鉱石などの金属鉱業に加え、工業原料、石炭、ダイヤモンドなどを扱う総合資源グループとして君臨している。


起源は、ロンドンとパリの両ロスチャイルド家、銀行家、投資家が1873年、赤字経営の続くスペイン国営リオ・ティント鉱山を買収したことに始まる。ロスチャイルド資本が投入され、鉱山開発、製練事業を展開するとともに、鉱石運搬を目的とした鉄道経営にも乗り出す。1905年までにロスチャイルドの出資比率は30%を超えた。これが英国リオ・ティント社の本流だ。同社は1954年にはスペインの権益を処分し、カナダとアフリカ・ナミビアのウラン鉱山経営、南アフリカでの銅鉱山経営に転換した。


一方、1905年、オーストラリアに亜鉛鉱石の採掘を行なう「コンソリデッド・ジンク」が誕生。1962年、英国リオ・ティント社とコンソリデッド・ジンクが合併。両社の事業を整理・再編して、オーストラリアを本拠とする亜鉛生産業のCRA社と、イギリスを拠点に銅・石炭・ウランを対象とするRTZ社が誕生。CRA社は子会社を通じてアルミニウム事業にも進出した。この2社の株主は1995年、両社の株式のすべてを保有する持株会社RTZ-CRA社を設立し、「リオ・ティント・グループ」が誕生したのである。その後、CRA社は「リオ・ティント・ピーエルシー」、RTZ社は「リオ・ティント・リミテッド」と社名を改めた。

リオ・ティント・グループは、鉄鉱石分野では西オーストラリア州に多くの鉄鉱山を保有し、中国企業とも提携。鉄鉱石産出の世界第2位となっている。銅は、オーストラリア、インドネシア、南アフリカ、チリなどで産出。また、カナダに投資し、ウラン鉱山を確保。権益を増やし、ウラン生産でも業績を伸ばしてきた。この背景には、イギリス政府がアメリカの影響を受けないウラン供給源を求めていたことがある。つまり、政府の意向でリオ・ティント・グループはカナダでのウラン確保に動いたということだ。これは何を物語っているのか。一方、ダイヤモンド事業は、西オーストラリア州アーガイル鉱山で産出されるピンク・ダイヤモンドで知られている。同鉱山は世界のピンク・ダイヤモンドの総供給量の90%を占めている。

この大手グループが新たな動きを見せている。原油価格の高騰や中国、インドの破竹の経済成長が続き、世界の資源争奪戦が激化する渦中、リオ・ティント・グループは2007年12月、カナダのアルミ最大手「アルキャン」を 買収することで合意したと発表。買収額は381億ドル(4兆6500億円)。買収が成立すれば、世界の鉱業金属業界における史上最大のM&Aになる。そして両社のアルミ地金生産量は合計で420万トン強に達し、統合後は世界首位に躍り出る。これを機に世界の資源大手の再編が加速する可能性が出てきた。米アルミニウム大手「アルコア」もアルキャンに288億ドル超で買収を仕掛けていたが、アルキャン側は拒否していた。



リオ・ティント・グループは、アルキャンの発行済み普通株すべてを1株101ドルの現金で買い取る計画だ。最低3分の2の株式取得を成立の条件としてTOBを実施し、買収に成功すれば両社のアルミ部門を統合し、「リオ・ティント・アルキャン」を設立するという。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 33 地球温暖化と原子力銘柄の相関関係

原油価格の高騰と同時に地球温暖化対策の急務が叫ばれるようになった頃、原子力発電を見直すトレンドが浮上した。化石燃料を燃やす火力発電と比べ、CO2を排出しない原子力発電はエコロジカルだという展開になったのだ。口火を切ったのは、電力のほぼ100%を原発でまかない、隣国に電力を販売してきたフランスだ。「CO2を排出しない地球に変えよう。京都議定書を順守しよう」という政治的なメッセージは、原発を推進するフランスの経済的なメリットを見越したしたたかな戦略である。そしていま、原発事業がCO2削減と利益追求を同時にできる有力なビジネスであると判断した投資家が動いたからだろう、2007年から原子力銘柄がブームとなっている。


原子力産業のすそ野は広い。川上に位置するのがウラン鉱山会社だ。原子力発電コストに占めるウラン価格の割合は2~3%と小さかったが、2003年以降、ウラン価格が高騰。今後原発建設が加速すればさらに上昇し、発電コストにも大きく影響するだろう。増える需要をまかなうには新規鉱山開発が欠かせない。資源量は十分あっても、生産段階まで持っていくには5~10年かかるため、莫大な資金が必要だ。供給が追いつかなければ、ウラン価格は跳ね上がる。


ウランは金や石油、小麦のように取引市場が国際的に広がっていない。原子力発電所のある国が限定されているため、生産国との直接交渉がほとんどだ。世界の天然ウラン生産量の多い順をあげると、カナダ(26%)、オーストラリア(20%)、カザフスタン(14%)、ニジェール(9%)となる。


ロシアのチェルノブイリと米国スリーマイル島の原発事故のマイナスイメージから2000年以降、閉山する鉱山や廃業する原子力関連企業が相次ぎ、生産会社は淘汰された。その結果、現在はカメコ(カナダ)、アレヴァ(フランス)、多国籍グループのリオ・ティント(英国、オーストラリア)、カザトムプロム(カザフスタン)、TVEL(ロシア)など、わずか数社が世界のウラン生産と価格をコントロールしている。


カナダの「カメコ」はカナダ、アメリカでウランを採掘する世界最大手。近年ではウラン生産国カザフスタンにも進出し、国有原子力企業カザトムプロム社と組み、ウラン転換の新しい有限責任事業組合となる「ウルバ転換LLP」を設立した。日本の主なウラン調達先はオーストラリア、カナダ、アフリカのナミビアやニジェールなどだが、近年は官民一体となって、カザフスタンに急接近し、ウランをはじめとする原子力分野の協力関係を強化している。日本の電力会社(東京、中部、東北、九州)と東芝、丸紅は、カザトムプロム社やカナダのウラン鉱山開発会社と協力してカザフスタンのハラサン鉱山の新規開発・生産・ウラン販売をするプロジェクトに参画。2014年からフル生産を始める。約40年は生産できるという。


フランスの「アレヴァ」は、ウラン採掘のみならず、プラント建設、発電供給まで行なう原子力産業複合企業。フランスの原子力政策の転換によって誕生した持株会社だ。傘下に原子炉メーカー「アレヴァNP」、原料の調達と原子炉に燃料供給を行なう「アレヴァNC」、発電機供給と送電設備を担う「アレヴァT&D」などがある。アレヴァNPはドイツ・シーメンス社の原子力部門を買収して誕生した経緯から、66%の株式をアレヴァが、34%の株式をシーメンス社が保有している。


原発建設を凍結したドイツだが、ドイツを代表するシーメンス社は原子力産業最大手の大株主なのである。アレヴァNPは、フランス、ドイツ以外に中国での受注実績がある。三菱重工業の提携先としても知られている。またアレヴァNCは、カナダ、オーストラリア、カザフスタン、ナイジェリアにウラン採掘の権益を保有している。


フランスは、このアレヴァ・グループを全面的に支援するために「CO2を排出しない産業構造に転換しよう」というメッセージを世界に発したということだ。つまり国益を守るために「地球温暖化防止」に参加しているのである。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 32 レアメタル市場

レアメタルとは希少金属のことだ。プラチナ、ニッケル、クロム、コバルト、タングステン、マンガンなどが代表格で、鉄や銅、亜鉛、アルミニウムなどと異なり、天然に存在する量が少なく、生産量は限られている。これらレアメタルも2004年以降、急騰した。


プラチナの生産国の代表が、世界第1位の南アフリカと第2位のロシア。ともに資源によって潤っている国だ。プラチナは供給量が限られているうえ、自動車触媒、磁気記録媒体、液晶パネルなどハイテク産業用の需要増が見込まれている。日本はこれを輸入し、自動車やデジタル家電、産業機械の素材として大量に使用している。プラチナ消費大国だ。


ニッケルは、ニッケル鉱石として生産量され、地金に加工されて材料として使われる。主要鉱石生産国は、ロシア、カナダ、オーストラリア、インドネシア、ニューカレドニアだ。世界のニッケル地金生産量国は、ロシア、カナダ、日本、中国、オーストラリア。 世界のニッケル主要消費国は、中国、日本、米国、ドイツ、韓国だ。ニッケルは、中国・インド等の経済成長を主要因とする世界的な需要の拡大により2003年後半から価格が上昇に向い、特に2006年に入って価格が急騰した。


2006年に平均価格はトンあたり24,286ドルで、2001年平均価格と比べ4倍を超えた。2008年5月には、1トンあたり54,000ドルという過去最高値を記録。2007年1月と比べ3.5倍にも跳ね上がった。軒並み値上がりしているレアメタルのなかでも高騰率は著しい。ニッケルの主用途は、高級鋼材であるステンレス用。じつは中国のステンレス生産も5年間で5倍に急増している。ステンレスはで完全な先進国型商品とされており、中国の需要急増から国民の生活が向上していることがうかがえる。


クロムはクロム鉱石として採掘される。主要な生産国は、南アフリカ、 インド、カザフスタン、ジンバブエ、フィンランドなどだ。世界の生産量の 40 %以上を占める南アフリカの存在が圧倒的に大きく、レアメタル大国南アフリカは輸出で潤っている。クロムは「クロムメッキ」で知られるように、耐食性が高く、サビないことから、車両、機械、流し台、包丁などに用いられる。日本では産業上重要度が高いレアメタルのひとつだ。相場では、興味深い現象が起こっている。これまでステンレスの価格動向はニッケルの価格に左右されてきたが、2007年末からクロムの価格の高騰によりベース価格そのものが高騰しているのだ。つまり原料の値段が上がったので、ステンレスの値段も高騰しているのである。


タングステンは、膨張しにくく、硬質なのに容易に細い線に加工できることから、昔から電球のフィラメントに使われてきた。近年では鉄鉱石に混ぜて強度を上げ、金型や切削工具材料をつくる際に使用されている。本来、宝石、アクセサリーなどの高級ジュエリーに使われている金属で、やはり価格は高騰している。コバルトは超合金材に、マンガンは、乾電池に使われることで知られている。このほかにレアアース、カドミウム、インジウム、タリウム、シリコン、チタンなどレアメタルと呼ばれる金属は31種ある。


日本は、レアメタルを大量に輸入し、それを使って自動車や産業機械を製造し、輸出してきた国。不足した場合、日本経済の「アキレス腱」になりかねない。特定の素材だけは、民間と国が年間消費量の60日分を備蓄してきたとされている。はたして60日分でいいのか。日本の製造業の息の根を止めるには、レアメタルの不足が一番だ。そして価格が高騰し続ければ、危険信号が点滅する。素材の高騰分は製品に上乗せされる。技術は申し分なくても、価格競争では世界の競合に負ける可能性は高い。


By Master K/益田 慶



世界資源戦争 31 銅やアルミなど非鉄金属資源高騰の背景

高騰を続けているのは、原油と鉄鉱石だけではない。非鉄金属の高騰も著しい。たとえば銅地金。銅は耐食性が高く、古来貨幣の材料としても使われてきた。5円玉は黄銅製、10円玉は青銅製だ。銅は鉄に次ぐ最も重要な金属材料で、電気伝導性が高く、他の電気伝導性物質と比べコストが安いことから、現在、電線やケーブル、電気器具の配線、部品、回路などインフラ整備に欠かせない素材となっている。銅は銅鉱山で採掘された銅鉱石をコークスや石灰石などを加えて溶練炉で容融し、鉄分を除いて銅マットと呼ばれる中間製品に濃縮される。次に銅マットを精錬し、純銅に精製される。これを製造業が使いやすいように地金の形に加工したものが銅地金で、日本は銅地金生産の世界第3位だ。


銅鉱石の主要生産国は、チリ(38%)、米国(8%)、ペルー(7%)、インドネシア(7%)、オーストラリア(6%)、ロシア(5%)など。銅地金は2002年まで1トンあたり1500ドル台で推移していたが、2004年から上昇。2006年5月、8800ドルの史上最高値をつけた。その後、いったん5000ドルまで値を下げたたが、2007年7月に8300ドルを突破した。日本では2006年、銅地金の高騰により、住友軽金属工業が従来の定価制から銅建値連動制による価格設定に変更するなど緊急避難措置が取られた。


銅鉱石の世界の生産量は2004年1453万トン、銅地金の生産量は1575万トン。これが2006年には世界の銅の需要が1732万トンに拡大、2007年の合計はまだ出ていないが、1800万トンと推定されている。2004年から、銅の消費量が急増したのは中国の消費が拡大したからだ。GDPの成長に比例して原油、鉄鉱石、銅地金の消費が急増。ちょうど北京オリンピックに向けたインフラ整備、都市部での建設ラッシュ、住宅の増設にともない電線やケーブル、電気器具の需要が高まり、急激な需要増による国際的な価格高騰が発生したのだ。中国は現在も国内で鉄鉱石の生産をしているが、とうてい追いつかず、輸入に頼るしか方法はなくなった。


アルミ価格も高騰している。アルミは航空機や建材、自動車のパーツ、家電製品などに大量に使用される。かつて1トンあたり1300ドル台で推移していたアルミ地金は、2006年5月に3300ドルとなった。ロンドン金属取引所(LME)における2008年2月アルミ地金の始値は2660ドルなので、いったん落ち着いたようだ。それにしてもかつての倍の価格である。アルミ価格の高騰の要因も中国の消費量が伸びたからだ。2000年に332万トンだった年間消費量は、2007年には1072万トン、2008年には1231万トンまで増えると推定される。


アルミは、鉱石のボーキサイトを原料として生産される。世界の原産国は、オーストラリア、ブラジル、中国。ボーキサイトからアルミを精錬し、地金に加工したのがアルミ地金だ。こちらの生産国のベスト5は、中国、ロシア、カナダ、米国、オーストラリアの順。中国が世界の4分の1を占めている。アルミ地金は生産量同様、消費量も中国が第1位で、2位米国、3位日本、4位ドイツ、5位韓国と続く。生産・消費ともダントツで世界のトップを走る中国だが、アルミ地金の生産高は減少しているという。


中国政府の金融引締め強化や、原材料及び電力価格上昇のため、中国でのアルミ地金生産高が大きく減少、2008年1月の中国の生産高は前月比8%減となった。輸出アルミ地金に対する税率は10%ながらも、元高が続いているため、中国のアルミ製造社も輸出にはあまり積極的ではないようだ。さらにロシアの最大アルミ生産工場も輸出高を縮小している。これまで輸出を続けてきた中国での消費がさらに増え、輸入するようになれば、さらにアルミ価格は上昇していくだろう。「世界資源戦争」は、原料を消費し続け、経済成長を続けるための経済戦争という側面も見えてくる。しかし同時に、価格高騰により、特定の産業が低迷するという副作用もきちんと見極めなければ、うかつに投資できないのである。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 30 金属資源高騰の背景 中国が牽引する鉄鉱石市場

これまで石油の開発の歴史、OPEC諸国とメジャーの動向、資源ナショナリズムの影響による新興国の国営企業の発展などを見てきたが、「資源戦争」は石油や天然ガスだけに留まらない。近年、高騰している資源は原油だけではないことに注目してもらいたい。たとえば1980年代から2000年初めまで、トンあたり30ドル前後で推移していた鉄鉱石の国際価格もまた、2004年に突如37.9ドルに上昇、2008年2月には80ドル弱にまで高騰している。


鉄鉱石や石炭、銅、アルミなどはどれも原材料資源で、鉄鉱石は鉄鋼製品の原材料である。その鉄鉱石の国際価格が急に高騰したとは、いったいどういった世界情勢なのか。


世界の鉄鉱石市場の供給側のメンバーはほぼ固定している。鉄鉱石生産国ベスト5は、中国、ブラジル、オーストラリア、インド、ロシアだ。この5ヶ国が世界の鉄鉱石の生産の約7割を占めている。これに対して需要側のメンバーは大きく入れ替わっている。かつては米国、日本、欧州が主なプレーヤーだったが、近年、中国、日本、韓国の3ヶ国が世界の鉄鉱石輸入量の過半数を占めているのだ。中国は鉄鉱石の最大の生産国で最大の輸入国、加えて最大の消費国に急成長した。自動車やビル、家電向けの中国需要が急膨張した結果、鉄鉱石の国際価格は急騰し、2003年30%、2004年80%、2005年71・5%と驚くほどの値上がりを記録したのである。こうして中国が現在、鉄鉱石市場の価格を左右する最大のプレーヤーとなっている。


かつて鉄鉱石の国際価格は、3大メジャーと呼ばれるヴァーレ(ブラジル)、BHPビリトン(英/豪)、リオティント(英)と、世界の主要鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタル(ルクセンブルグ)、コーラス(英/オランダ)、ティッセン(ドイツ)、これに日本の企業グループ(新日本製鐵、JFEグループ)が加わり、相談して決定していた。日本の企業グループは、オーストラリアと中国を供給拠点とするBHPビリトンとリオティントと交渉してきた。ここ数年はメジャーと鉄鋼メーカーが個別に価格交渉を行ない、早く合意に至った価格が翌年の価格の標準となっていた。


ところが、需要側に中国・宝鋼グループ、韓国・ポスコが加わり、発言力を増すようになってきた。2000年以降、鉄鉱石の生産量は右肩上がりで増加を続けている。ご存知のように、世界の製造メーカーは安い人件費、安い生産コストを求めて生産拠点を次々と中国に移した。さらに2008年の「北京オリンピック」、2010年の「上海万博」など国家プロジェクトが続いている。中国はこの需要に追いつかなくなり、鉄鉱石を外国から輸入せざるを得なくなったのだ。現在、世界の鉄鉱石輸入量の約40%を中国が占めている。つまり、鉄鉱石の生産が中国の鋼材需要に追いつかなくなったことから鉄鉱石の価格が上がり、最も多くの鉄鉱石を消費する中国企業が国際価格決定権を握ったということだ。


2008年2月、新日本製鐵やJFEスチールなど鉄鋼大手各社は鉄鋼原料として仕入れる2008年度の鉄鉱石について、供給元の資源最大手ヴァーレと前年度比65%の値上げで合意した。1トン当たりの価格は80ドル弱となり、2007年度と比べ約30ドル上昇。鉄鉱石の値上げは6年連続だ。これは日本企業が招いたものでなく、中国の影響である。ちなみに鉄鉱石値上げによる国内鉄鋼メーカーの年間コスト負担増は年間約5000億円。


これで自動車や家電メーカーなどへの大幅な価格転嫁要請の機運が高まることは避けられないだろう。あるいは値上げを見送り、現在以上のコストダウンを試みるかもしれない。その場合、下請けにシワ寄せが集まる。鉄鋼大手各社と鉄を素材に製品をつくるメーカーは、厳しい状況に立たされる。


このように鉄鉱石市場をチェックしてみると、各国の経済動向や企業の思惑、悪戦苦闘ぶりが見えてくる。これも「資源戦争」のまぎれもない側面である。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 29 新興産油国・石油企業の躍進  PEMEX(メキシコ石油公社)の攻防

メキシコは原油生産量世界第5位の産油国だが、2005年まで原油埋蔵量は上位10カ国にランクインしていなかった。メキシコの生産量の60%を占めるカンタレル油田が斜陽化し、2006年より減退に向かうことから、2016年には石油の純輸入国になるのではないかと懸念するアナリストもいた。しかし、2004年、PEMEX(メキシコ石油公社)がメキシコ湾での3年におよぶ探査の結果、約540億バレルを埋蔵する新たな大油田を発見し、事態は変わった。メキシコは、サウジアラビア、イラン、イラクに次ぐ世界第4位の埋蔵量を有する国に浮上したのである。


PEMEXはメキシコ政府が100%出資する国営企業で、石油・ガス関連プロジェクトを一元的に実施する独占企業だ。1990年代を通して公的収入の約3割、対GDP比の約7%に達するなど国家経済に貢献してきた。しかしその反面、PEMEXは高い税率によって開発資金の調達がスムーズにできなかった。大水深域における油田開発の技術に乏しく、外資の参入が不可欠だとされてきたが、税率がネックになっていたので。そこに大油田の発見をきっかけに、税制改革が進められ、PEMEXに追い風が吹いた。


2007年9月、PEMEXに対する税財政改革が議会を通過し、従来79%だった税金が2008年度から74%に減税され、2009年~2011年の間に0.5%ずつ、2012年には1%減税され、最終的に71.5%となる。この減税によってPEMEXは2008年に約300億ペソ(約27億5000万ドル)、その後3~4年間は年間500~600億ペソ(約46~55億ドル)の追加資金を得ることになる。


この一連の法案が可決されたことで、メキシコはエネルギー改革に着手し、PEMEXと外国石油企業との技術提携を進めることに弾みがついた。まず、ロイヤル・ダッチ・シェル(英国/オランダ)がPEMEXと共同開発への参加を表明し、シェブロン(米国)も深海掘削のトレーニングプログラムに協力することを発表した。メキシコはこれまで外資の受け入れに消極的だった。ここで方向を転換したのは、前述したようにカンタレル油田が枯渇しつつあることで、政府が危機感に包まれていたからだ。


もうひとつ、メキシコ政府はエネルギー問題を抱えていた。メキシコは発電用に天然ガスを大量に消費している。電力の約7割が天然ガス発電で、年率約6%ずつ増えているという。2005年に発生した米国ハリケーンの影響から天然ガス輸入価格が高騰した。メキシコは天然ガスの全消費量の約2割を米国からの輸入に依存している。アメリカからすればメキシコは「裏庭」だが、メキシコ政府は米国からの輸入依存からの脱却を目指してきた。


一方、アメリカはメキシコから原油を購入している。メキシコは米国への原油供給で3位(カナダ、サウジアラビア、メキシコ、ベネズエラの順)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場にも大きな影響を与えている。たとえば2007年10月29日、ニューヨーク原油先物相場は、同日の時間外取引で過去最高値を更新し、初めて1バレル当たり93ドル台に乗せたが、これはメキシコ湾に暴風雨が接近していることから、メキシコが1日当たりの原油生産の約20%を停止したことが要因だった。米国からすれば「裏庭」の暴風雨がそのまま母屋に及んだ形だが、米国をはじめ外資系もメキシコ湾の石油開発に力を注いでいる。


2008年4月には、丸紅が100%出資する米国子会社マルベニ・オイル・アンド・ガス・ユーエスエー社を通じて権益を保有している米国メキシコ湾コディアック鉱区において原油の発見に成功したというニュースが飛び込んできた。メキシコ湾を中心とした米国、メキシコ、そしてメジャーの攻防から目が離せない。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 28 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドのパイプライン建設攻防

カナダのオイルサンドがメジャーに歓迎されたのは、石油開発会社にとって、むやみに掘削する地域が狭くてすみ、メキシコ湾やアフリカ沖の大深度の海底油田を掘り進む作業に比べればコストも危険度もずいぶん小さいことが挙げられる。中東や中南米、アフリカなどに比べ著しくカントリーリスクが少ないことも大きなメリットだ。そして何よりも、背後に米国市場という世界最大の石油消費マーケットが存在する意味は大きい。メジャーがカナダのオイルサンドを戦略的投資先として位置づけているのは、石油を大量消費し続ける米国に最も近い生産地だからだ。巨大なマーケットが生産地の隣の国にあることは、大きなメリットである。

長年、エネルギー調達先であるイランやイラクに代表される不安定な中東情勢に頭を抱えてきたブッシュ政権にとって、カナダは救世主であったに違いない。これまでカナダは米国に農産物と木材を届ける国だったが、エネルギー大国になったからには、ブッシュ政権の対応も異なってきている。米国にとっての最大のメリットは、地続きのカナダならパイプラインで輸送できるので、タンカーに比べて運搬のコストも時間も軽減できることが挙げられる。

ブッシュ政権がカナダを重視する前に、米国のメジャーは動いていた。エクソンモービルは2006年4月、カナダからメキシコ湾まで直結するパイプラインを完成させ、カナダ西部からテキサス州の製油所まで輸送するルートを確立した。これによりエクソンモービルは、米国最大の製油所地域に運びこむ原油ルートをひとつ追加することに成功したのだ。


また、カナダではコノコフィリップスや、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルなどメジャーと地元グループが主導する「マッケンジーバリー・ルートプロジェクト」も始動している。これはアルバータ州の既存のパイプラインと接続するガスのパイプラインだ。

一方で中国をはじめとするアジアからの需要拡大を背景に、壮大なパイプライン構想も浮上した。カナダの生産地アルバータからアジア向け輸出拠点となる西海岸までの輸送用に長距離のパイプラインを建設するという構想だ。パイプライン建設大手の「エンブリッジ」が、「ゲートウェイ」という名のプロジェクトを主導し、2012年頃に操業する見込みだ。石油開発各社はカナダ・アルバータ州のオイルサンドから抽出した原油を、州都エドモントンの製油所に集めている。パイプラインはエドモントンから西海岸まで全長1200キロをつなぐ計画で、そこからカリフォルニア州やアジアに海上輸送する。

この「ゲートウェイ」プロジェクトに中国はいち早く参加を決めた。2005年5月、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)とエンブリッジが合意したのだ。パイプラインが完成した後は、西海岸からタンカーを使い、カナダ産原油が中国に運ばれるのである。パイプラインは日量40万バレルの輸送が可能で、ペトロチャイナはその半分の量を獲得するといわれている。

米国では中国企業にエネルギー会社が買収されることに抵抗感があるが、カナダは外資を排除する空気は薄い。むしろ、米国だけでなく、中国やインドという石油消費国にもカナダの石油を購入してもらいたいと考えているようだ。もちろん、日本でも関心は高いが、いかんせんスタートダッシュに出遅れた。アルバータ州にある原油埋蔵量の多い土地は、すでにカナダの石油会社、欧米メジャー、そして世界の投資家に購入されている。

ノウハウのない日本企業が今後、オイルサンドの開発のみ参加するにはハードルは高い。今になって思えばカナダのオイルサンドへの投資は、原油調達先を中東一辺倒から脱却し、中東、ロシア、カナダと分散することで、万が一の確率で起こるかもしれない21世紀の「石油ショック」のリスクを大幅に軽減できるチャンスだったのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 27 新興産油国・石油企業の躍進  カナダのオイルサンドをめぐるメジャーの攻防

油田に代わる原油の供給場所として注目を集めていているオイルサンド。中でもカナダのアルバータ州に広がる鉱床から抽出できる原油の生産量は、2010年までにカナダ全体の50%、北米の10%を占めると予測されている。こういった事情があり、石油消費国中国の国有石油企業が真っ先に、カナダ企業の買収や業務提携に動いた。そして2006年、KNOC(韓国石油公社)がアルバータ州のオイルサンド鉱区の権益を取得。2010年から生産開始の予定だ。インドも動き始めた。インド石油天然ガス公社(ONGC)の参入が確実視されている。


アジアの国営企業ばかりではない。世界のメジャーもカナダのオイルサンドに大きな投資をしている。この背景には、2004年から始まった原油価格の高騰によって世界の産油国が強気の姿勢に移り、メジャーにとって投資環境が悪化していたことが挙げられる。たとえばベネズエラではロイヤリテイ比率が16.67%から30%に引上げられ、各プロジェクトには国営石油会社PDVSAが51%以上の資本率で参加。おまけに外国企業の所得税が34%から50%に引上げられた。


ロシアでは地下資源にかかわる外資進出規制が働き、カザフスタン、ナイジェリア、アルジェリアとも国営石油企業の参加比率がアップした。ボリビアでは石油産業は完全に国有化され、ベネズエラがそれを巧みにコントロールしている。これらはすべて2004年以降の起こった顕著な変化で、しかもごく一部だ。こういった「資源ナショナリズム」の盛り上がりによって、メジャーは各国から権益を失い、新たな投資先を探さざるを得なくなっていた。


そこで北米の動向に目を向けたい。米国の原油輸入国の推移を見ると、数年前から輸入先の首位はサウジアラビアではなくカナダとなっている。2005年には217万バレルとなり、2位メキシコの164万バレル、3位サウジアラビアの152万バレルを大きく引き離している。このデータは、欧米のメジャーがカナダの開発に力を注ぐようになったことの証明ではないだろうか。そしてカナダ・ドルの動向に詳しい投資家ならご存知だろう。2007年9月20日、カナダ・ドルと米ドルが等価になった事実を。カナダの経済力が、グンとアップしたのである。


カナダ・アルバータ州のオイルサンド開発の歴史は意外に古く、地元カナダの「サンコールエナジー」が1967年に開発開始、同じく地元企業の「シンクルート」が1978年に開発に着手した。1960サン年創業のサンコールエナジーは「会社創設以来の大ギャンブル」と呼ばれる巨額投資を行なった。シンクルートにはエクソンモービル(米国)、コノコフィリップス(米国)の関連会社や新日本石油などが出資している。


そして1999年、ロイヤル・ダッチ・シェル(英・オランダ)、シェブロン(米国)、トタル(仏)がオイルサンド開発事業に参入した。技術開発が遅れていたアルバータ州が、メジャー各社に事業開発への支援を依頼したのだ。たとえばシェルは2003年、オイルサンドの発掘や原油抽出に関して、膨大な量の特許を出願している。それが将来、この分野での事業で先行利益を得るための準備であったことがよくわかる。


2005年にはトタルが地元のオペレーター企業を買収。コノコフィリップスもトタルと共同で保有していた鉱区を2005年に追加取得し、2006年から原油生産を開始している。同年には、ロイヤル・ダッチ・シェルの子会社シェル・カナダがカナダの石油企業を買収。シェブロンも同年、オイルサンド鉱区75000エーカーを7000万カナダ・ドルで取得している。


カナダでは、1996年~2004年の9年間にオイルサンド事業に340億ドルの投資が成されたが、2005年~2010年の6年間には450億ドルの投資が予想されている。プロジェクトはまだ拡大するということだ。そして2020年には、オイルサンドの石油生産に占める割合が82%まで高まるとも予想されている。労働力不足やパイプラインの輸送能力不足、環境問題などの課題は多いが、一方で膨大な埋蔵量は大きな魅力だ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 26 新興産油国・石油企業の躍進  オイルサンドに活路を見出すカナダ

「世界資源戦争」では、まだカナダの地下資源を紹介していなかったが、同国に地下資源が少ないからではない。カナダは石油の生産量が世界第7位、天然ガスの生産量は世界第3位の大国である。ただし、どちらも埋蔵量が少ないと見なされてきた。つまり、枯渇しているということだった。しかし、ここ数年で認識は一変した。カナダでは近年、アルバータ州に分布する「オイルサンド鉱床」から莫大な量の原油が抽出されており、世界中から注目を集めているのだ。


オイルサンドとは、粘性の高い鉱物油分を含む砂岩のこと。超重量の原油がしみ込んだサンド(砂)や岩でできた地層だと考えるとわかりやすい。オイルサンド鉱床から原油を抽出する方式は、二つに大別できる。ひとつは、表土をはがしてオイルサンドものものを搬出して、加熱して石油を抽出する方法。これが従来の「鉱山方式」と呼ばれるものだ。もうひとつは、蒸気を水平の井戸に送り込み、数メートル下に平行に掘られた井戸から生産する方法。こちらは「SAGD法」と呼ばれ、近年大きな効果をあげていることから主流になりつつあるのだ。


オイルサンドが注目を集めている理由は、将来いずれ枯渇するはずの原油に代わる石油燃料資源だからだ。従来は、オイルサンドから1バレルの原油を得るのに数トンの砂岩を採掘し、乾燥させる必要があり、また大量の産業廃棄物を発生させていたことから、採掘と抽出、産廃に莫大なコストがかかった。そこで長い間、不採算資源として放置されてきたのだ。


しかし、前出した「SAGD法」が従来の方法よりローコストで運営でき、かつ2004年から始まった原油価格の高騰により、利益が見込めるようになってきたことで状況は一変した。莫大な利益が得られるとわかると、世界の投資家はすぐに動く。オイルサンド鉱床の埋蔵地や発掘権の買収に多額の投機マネーが集まる。だからカナダのアルバータ州に広がるオイルサンド鉱床が、世界中から注目されるようになったというわけだ。


オイルサンド鉱床の価値を数百倍、数千倍まで引き上げようとする投資家が、子飼いのアナリストやジャーナリストを使って、石油はあと数十年で枯渇するという「ピーク・オイル論」を世界中にどんどん流している、という説もある。あくまでも業界通の情報だが、おそらくは本当だろう。


それでは、オイルサンドに活路を見出すカナダの現状を見ていこう。アルバータ州のオイルサンドには、1兆7000億バレルの重油の一種が含まれており、そのうちの1740億バレルは現在の技術によって抽出が可能だとされている。すでに同州の原油総生産量の58%はサンドオイルから抽出されたものだ。オイルサンドからの原油生産が加速すれば、アルバータ州の生産量は2010年までにカナダ全体の50%、北米の10%を占めると予測されている。こういう好条件があり、カナダのオイルサンドを買収しようという動きが活発になってきたので。


2005年以降の主な買収や提携を挙げておこう。2005年4月、中国海洋石油公司(CNOOC)が、カナダのMEGエナジーの16.69%の株式を取得。CNOOCは株式取得に1.5億カナダドル(約9.49億香港ドル)を支払っている。MEGエナジーはオイルサンドをメインに扱い、推定40億バレル以上の原油を含有するオイルサンドの採掘借地権を100%保有している企業だ。2005年5月には、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)が、カナダの大手パイプライン会社エンブリッジに事業参画することに合意。


同月、中国石油化工集団公司(シノペックグループ)の子会社シノペック・カナダが、カナダのシネンコ・エナジー社がアルバータ州のノーザンライツに保有するオイルサンドの採掘権のうち40%を買収。買収金額は1.05億カナダドル。ここに挙げたのは、中国の企業ばかりだが、オイルメジャーもカナダの石油企業の買収に走りまわっているのだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 25 新興産油国・石油企業の躍進  中国、日本に影響を及ぼすインドの躍進

10億の人口を抱えるインドが2004年、カスピ海の油田開発に参加する意向を明らかにし、2005年には世界で最も多い潜在埋蔵量を保有するロシアの油田開発に参加することを公表したことで、極東における「世界資源戦争」は新たな局面に突入した。インドの石油・ガス事業を牽引しているのはリライアンス財閥だが、インド政府のバックアップを受けたインド国営石油ガス公社(ONGC)も積極的に海外進出している。


2008年、ONGCはロシアの国営「ロスネフチ」とコンソーシアムを作り、サハリン油田第3鉱区の共同開発を進めるとともに、インド南部マンガロールにあるガス田の共同開発とインド小売市場へのロスネフチの参入を柱とする協定に締結するという。インド政府は国内で大型油田を開発する一方で、高度成長を続ける経済のブレーキにならないよう、安定した石油の供給先を確保する必要性に迫られているようだ。


もともとサハリン油田は、日本政府と日本の商社が中東への依存度を軽減するために1990年代初めから集中営業をかけてきたエリアだ。また中国も「中国石油化学(シノペク)や中国石油天然気(ペトロチャイナ)などの有力石油会社を通じてカスピ海の油田に巨額を投資してきた。中国は、すでに解散した石油大手「ユーコス」の中核子会社である「ユガンスク」の買収にかかる60億ドルの資金をロスネフチに提供したと伝えられている。それはロスネフチが2010年まで4840万トンの原油を中国に提供することが条件であるらしい。


送油管の誘致に巨額を投じた日本は、シベリア送油管ルートの終着地を中国の大慶からロシア沿海州のナホトカに変えることに成功した。2008年4月、ロシアを訪問した福田総理は、難しい懸案の北方領土問題はなるべく避けながら、資源におけるロシアと日本のパートナーシップを強調して帰国したといわれている。


一方、インドはロシアに対し、極東のエネルギーを「日本や中国に売るより、インドに売った方が有利」と展開し、権益拡大を求めていた。すでに2001年には17億ドルを投資し、極東資源開発プロジェクト「サハリン1」権益のうち20%をONGCの子会社がロシア企業から購入している。


そしてさらなる権益拡大を検討しており、伊藤忠や丸紅などが参画する日本勢で構成する「サハリン石油ガス開発」が保有する30%の権益を買いに来ることは大いにあり得る。インドはロシアの石油・天然ガス部門に総額で250億ドル(約2兆7000億円)を投じる計画で、進行中の「サハリン3」については、外資規制の上限である49%の権益を要求している。石油関係者はインドの動向に「日本の極東におけるエネルギー戦略がインドに侵食される心配がある」と警戒を強めている。


「サハリン3」は、キリンスキー、ベニンスキー(ヴェーニン)、東オドプチンスキー、アヤシスキーの4鉱区で構成。原油の可採埋蔵量は6億トンを上回るとされる。このうち、ベニンスキー鉱区は国営天然ガス独占企業体「ガスプロム」が開発権を獲得。残り3鉱区についてロシアはインド企業の出資を誘致したいという意向を示している。


一方、インドはロシア政府に極東のエネルギー資源開発でインドの本格的な参加を認めてもらう代償に武器市場を提供しようとしている。インドの防衛装備をめぐっては、126機の多目的戦闘機を受注した米ボーイング社が優位に立っている。このためプーチン前大統領は、インドのシン首相との会談で、エネルギー協力を進める条件として、多目的輸送機の共同開発を提案し、インドが受け入れた経緯がある。


インドは陸軍110万人、海軍5.5万人、空軍16万人を擁する世界第3位の軍事大国(1位中国、2位アメリカ)。つまり大きな武器市場を抱えているということだ。プーチンの狙いは明確だ。ロシアはその市場に食い込みたいと考えているのだ。「世界資源戦争」は、武器マーケットとも深くつながっているという図式が見えてきた。


ともあれ、中国、日本といった世界の石油消費国に次いで、これまた世界の石油消費国になりつつあるインドがロシアに進出したことで、いろんな影響が出てくるだろう。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 24 新興産油国・石油企業の躍進  インド・リライアンス財閥

高い経済成長を背景に2006年のインドの石油需要は、日量240万バレル(前年対比3%増)と堅調に伸びている。特にガソリンは1998年以降毎年6%も需要が伸びている。かつてインドは石油製品の純輸入国だったが、インドの財閥系企業リライアンス・インダストリー社が1999年に世界最大級の製油所を建設して以降、2002年に東海岸沖合の深海で大規模ガス田を、2006年には同区内の深海鉱区で大規模な原油・ガス田を発見。2004年には西部ランジャスタン州で複数の油田が発見されるなど、インド全体の需要を上回る石油製品の生産能力を保有するようになり、今日では石油製品の純輸出国となっている。


リライアンス・インダストリー社を中核とするリライアンス・グループは、合成繊維、石油精製、石油化学など石油関連事業を包括的に行うインド最大の民間企業グループ。歴史はまだ新しく、1958年にディルバイ・ヒラチャンド・アムバニが設立した商社リライアンス・コマーシャル・コーポレーションが起源だ。以降30年ほどでインドの新興財閥に成長。現在では石油・エネルギー事業分野で一大帝国を築き、政府の全歳入の8%近くを税金として支払っているという。


リライアンス財閥創設者ディルバイのサクセスストーリーを紹介しておこう。1949年にイエメンに出稼ぎに行き、ガソリンスタンドに勤めた後、1958年にインドに戻り、香辛料や繊維を扱う貿易会社を資本金15000ルピーで創業。次いで1966年に資本金150万ルピーで繊維会社リライアンス・インダストリーズ社を設立。1977年に株式公開。ディルバイはそれまで機関投資家によって牛耳られていた証券市場に一般大衆投資家を呼び入れ、一大旋風を巻き起こした。インドで最も多くの株式を350万人もの一般投資家に開放したのである。


その後、リライアンス・インダストリーズ社はポリエステル繊維の生産で世界第2位、ポリマーの生産で世界第6位にランクイン。1992年には国際資本市場から約1.5億ドルの資金を調達。高い配当と無償増資を繰り返し、1993年にはインド企業で初めてユーロ転換社債を発行。2002年にディルバイが70歳で他界した際には、その死去を悼んでボンベイ証券取引所では2分間の黙祷が捧げられたという。


一代で新興財閥を立ち上げたディルバイの長年の夢が、世界最大級の製油所建設だったのである。欧米の先進技術を取り入れ、安価な重質原油を分解する能力を持ち、かつ大型の製品輸出タンクや桟橋を備えた国際競争力の高い設備が特徴で、この製油所から供給される石油製品の一部は、日本にも輸出されている。この精油所だけで全インドの石油精製能力の25%を賄っているというから驚くべき処理能力だ。


石油化学事業に乗り出したリライアンス財閥は、ディルバイの長男ムケッシュがグループの会長に就任し、次男のアニルがアニル・ディルバイ・アンバニーグループを運営している。2002年にはリライアンス・インダストリーズ社とリライアンス・ペトリウム社を合併させ、インド民間企業として初めて「フォーチュン500」に選ばれた。さらに近年、インド石油化学会社を買収し、傘下に収めた。


グループ企業は、石油・ガス田の発見によって相乗効果をあげている。従業員5500人を擁し、ムンバイやデリーなどの都市を中心に500万世帯に電力を供給する「リライアンス・エネルギー社」は巨大ガス田の発見によって、インドのガス生産の60%を賄えるようにまで成長した。さらに近年ではスーパーマーケット、コンビニエンスストア、専門店等を管理する子会社「リライアンス・リテール」を通して小売事業へ参入。


同じく子会社の「リライアンス・インフラストラクチャー」が経済特区の道路や建物など基盤施設を担うようになった。 インドは低コストで質の高い人材を入手でき、化学プロセス開発能力での実績に加え、早くからIT産業が発展したことや主な原料が国内で調達できることなど好条件が重なり、世界の投資家が注目する国。今後はエネルギー分野でも世界を席巻する日が来るかもしれない。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 23 新興産油国・石油企業の躍進 ベトナムの国営石油ガス会社ペトロベトナム

2000年以降の石油発見量を見ると、アジア太平洋地域で伸びているのはマレーシアとベトナムであることがわかる。ベトナムの石油生産は1986年に生産開始した大油田バクホー(Bach Ho)、新日本石油の石油開発部門である新日本石油開発が生産に携わっている1998年生産開始のランドン(Rang Dong)油田などが中心で、2000年までは目ぼしい発見はなかった。


2000年以降、ベトナムの石油発見量が増えたのは、米国コノコフィリップスや英国の石油探査会社SOCO Internationalがベトナムの国営石油ガス会社「ペトロベトナム」との共同で既存石油生産地域において次々と新規油田を発見したからだ。ベトナムは未探鉱地域の面積が広く、政府は近年探鉱鉱区入札の公開に力を入れてきた。こういう経緯があり、世界の石油関連会社がベトナムでの試掘に加わり、新たな海底油田を発見したのである。


2006年のベトナムの品目別輸出額を見ると、第1位は原油だ。金額にして82.64億ドル、輸出総額の20.8%を占めている。新興産油国ベトナムは東南アジアの原油輸出国で第4位にあり、石油・ガスセクターからの税収は毎年平均で国家歳入の25%にも上る。2008年第1四半期、ペトロベトナムグループの売上高は69兆3,900億ドン(約43億3,700万ドル)に達し、前年同期に比べ71%上昇した。納税額は30兆5,060億ドン(約19億700万ドル)となっている。第1四半期の生産量は石油換算で564万トン(原油377万トン、天然ガス18億7,000万m3)、備蓄量も石油換算で510万トンに引き上げている。


ベトナムの油田の特徴は、海洋油田が中心であることだ。海洋油田は陸上までパイプラインを整備する必要があるなど、陸上の油田よりも開発費や操業にかかるコストが高いことがネックだが、近年の原油価格の高騰により十分な利益が得られる環境が整ってきたといえよう。


近年毎年7~8%の経済成長が続き、電力需要が急速に拡大(前年比14%程度)しているベトナムだが、原子力発電所は建設されておらず、発電にはガスと石炭が利用されている。需要に比例して電力、石炭、石油・ガスは毎年10~14%の成長を続けている。原油は輸出し、天然ガスは主に国内の発電に使うという図式だ。


政府のエネルギー分野での課題は、もっぱら製油所の建設だ。自国内に石油精製設備を持たないため原油を全量輸出し、石油製品を輸入する状態が続いているのである。最初の大型製油所は2009年2月に完成予定だ。ペトロベトナム社から同国初となる大型製油所プロジェクトを受注したのが、プラントメーカーの日揮である。フランス、スペインの会社とジョイントベンチャーを形成し、丸紅や日本商社連合もバックアップしている。


そして2008年4月、ベトナム政府がベトナム初の原子力発電所の建設計画を明らかにした。計画によると、発電所は2か所でそれぞれ2基の原子炉(合計出力4000メガワット)を備える予定。総投資額は約60億米ドル(約6100億円)で、2015年の着工、2020年の操業開始を目指している。稼動後は全国の電力生産量の20%をまかなうことになる。


このようにエネルギー分野を見渡してみるだけでベトナムが経済成長を続けている様子が伝わってくる。高い成長率を牽引している要因には、工業生産高の伸びと投資の増加、安い労働力(賃金は中国の半分程度)などが挙げられる。ベトナム人の賃金は中国の半分程度という現状から「ポスト中国」を担う生産拠点化への期待が大きい。また、国土に占める生産・輸出拠点に適した沿岸部の割合の大きさと2007年1月にWTO加盟を実現したことも海外からの直接投資を拡大させる要因のひとつだ。今後は「ベトナム株」にも注目が集まるだろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 22 新興産油国・石油企業の躍進 PTT(タイ石油公社)とPTTEP(タイ石油開発公社)

アジア太平洋地域における2000年以降の新規石油発見件数で多かった国は、インドネシア、ベトナム、マレーシアで、それぞれ国営企業がオペレーションを進めている。それ以外の国の国営企業で元気なのが、新規ガス田開発によって収入の安定化を図り、近隣諸国でもオペレーション事業に投資しているPTT(タイ石油公社)だ。


2001年、タイ石油公団が株式会社に転換して誕生した企業で、タイ政府財務省による直接出資と政府が支援する基金を通じた間接出資分の合計が約7割を占める国営企業だ。フィリピンなど東南アジアの諸外国とも提携して石油・天然ガス関連の会社を経営しており、今日ではタイ証券取引所における取引の13%のシェアを占める最大級の大型企業として君臨。また傘下に数多くの子会社を抱え、単なるエネルギー企業としては収まりきらない規模にまで成長した。


天然ガスや石油の探鉱・開発・生産子会社として設立された子会社がPTTEP(タイ石油開発公社)だ。PTTによるPTTEP株式の所有比率は66.1%なので、PTTEPは法律上国営企業ということになる。同社の2006年の連結売上は1.2兆バーツ、総資産は7,510億バーツ。


PTTの収益の75%を占める天然ガス事業部門では、探鉱と生産、パイプラインによる輸送やガス分離と加工、下流の天然ガスやガス製品の販売を、石油部門では原油の探鉱と生産および輸送、精製と精製品の製造および販売などをカバーしている。2005年には中国海洋石油総公司(CNOOC)とその子会社である中国海洋石油有限公司(CNOOC Ltd)がPTTおよびPTTEPとの間で天然ガス田の探査・開発・生産に関する戦略的パートナーシップを謳った協定を結んでいる。


2006年時点でタイはエネルギー供給の62%を輸入に頼っており、そのほとんどは原油であった。原油高という背景があり、タイ政府は輸入エネルギーへの依存度を抑えるために国産エネルギーである天然ガスの優先的な利用を促したのである。こういった背景があり、天然ガスは主にタイ国内の発電に用いられている。


PTTEPは近隣・遠方にかかわらず積極的に海外進出を図っている。近隣諸国のガス資源開発は、ガス需要が増えつつある自国内市場に向けたガス供給源の拡充を目的としたもの。中東、北アフリカ、オセアニアなどへの進出は、異なる環境での操業経験や深海など高度な開発技術の経験ができる機会の創出だ。


2007年度にはバングラデシュ、エジプト、ニュージーランド、オーストラリア、バーレーンなどの国で探鉱に加わった。タイ経済の成長に伴って発電用ガスの需要は今後も中期的に増加する見込みであり、国産エネルギーを有効に活用する観点からPTTとPTTEPの重要性は一層増すものと考えられる。

PTTEPの所有する確認埋蔵量は天然ガスが中心で、2006年の生産量で計算した可採年数は13年と比較的長い。かつてはタイ最大のガス田であるボンコット・ガス田が総産出の約半分を占めていたが、新たに開発されたガス田の生産が本格化したことに伴って同ガス田への依存度は20%にまで低下している。2008年にはアーシット・ガス田の生産が始まる予定であり、同社の生産基盤はより広く分散化される見込みである。


PTTとPTTEPがアジアで大きな地位を占める可能性に満ちている二つの要因を挙げておこう。ひとつはタイ経済が堅調に成長する中で電力需要も安定的に伸びていること、もうひとつはタイ政府が国産エネルギーである天然ガスを有効に活用することを通じてエネルギーの輸入依存度を抑える方針を堅持していることだ。


現在タイ国内ではエネルギー取引の自由化が進行中だが、優良なガス田と長年に渡る実績を持つPTTEPは、自由化が進む中でも産業内における現在の地位を維持するものと予想される。PTTEPは今後も成長の機会を求めて海外の石油ガス田への投資を行なうだろう。今後中期的に中東や北アフリカといった地域における事業の比重が高まるのではないか、とアナリストは分析している。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争 21 新興産油国・石油企業の躍進 ペトロナスの躍進とインドネシア国営企業プルタミナの攻防

エジプトは、英国「BGグループ」やマレーシア国営企業「ペトロナス」など中堅会社と組んでガス田の開発を進め、LNG輸出国の仲間入りを果たしたガス新興国だ。ペトロナスはこのエジプトでの開発に成功し、海外進出に弾みをつけた。ペトロナスが英国のBGグループとともに英国に建設を計画しているLNG液化事業基地は、もともとオランダの「ペトロプラス」が計画していたものだが、後にBGグループとペトロナスが参加を決め、この二社が半分ずつ使用することになったといういきさつがある。


BGグループは、英国最大手「ブリティッシュガス」から分割された会社で、ブリティッシュガスが展開していた海外業務を引き継ぎ、ガス田の開発や生産、LNG事業、パイプライン事業、発電事業などを行っている。すでにエジプトをはじめ、インド、カザフスタン、トリニダートトバゴ、ボリビアなどに進出している。英国内の都市ガス事業については、同じくブリティッシュガスから分割された「セントリカ」が「ブリティッシュガス」ブランドを使用して営業を行っている。ペトロナスはそのセントリカと契約を締結し、天然ガスの15年間供給を決定した。


ペトロナスは、イランでもLNGプロジェクトに参加を予定しており、トタール(仏)、イラン国営石油会社(NIOC)と共同で、合弁会社「パルスLNG」を設立した。イランでは、ペトロナスの参加する事業を含め、複数のLNG事業が計画されており、販売先として大規模なLNG需要が見込まれる中国とインドがターゲットにされている。ペトロナスとNIOCの狙いは、中国とインドに天然ガスを輸出するという点で合致したということだ。さらにペトロナスは、インドでの受入基地の計画にも参加しており、当初東岸のカキナダでの受入基地建設を予定していたが、この沖合で大規模ガス田が発見されたことから、より南の海岸に受入基地を建設することが検討されている。


意外なことだが、ペトロナスは世界最大のLNG輸出国インドネシアにも進出している。ジャワ島西部でガスが不足しており、受入基地の建設が検討されてきたが、同社がインドネシア国営電力(PLN)と受入基地の建設について覚書を締結し、現在調査を行っているというのだ。インドネシアには国営石油ガス会社Pertamina(プルタミナ)が君臨している。しかし、インドネシアには複雑な事情があった。プルタミナは2001年まで油ガス田の開発実権を握り、国内石油天然ガス産業を独占してきた。


しかし、同年制定された新石油ガス法によって独占的権限と油ガス田開発実施許可などを失い、民間企業と同列の国有企業となった。国内に自社オペレーション油ガス田を持たなかったため、石油天然ガス生産における位置づけが大きく後退したのである。


その間隙を縫って米国シェブロンがスマトラ島の有力油田をコントロールし、トタール(仏)、中国海洋石油総公司(CNOOC)などの海外企業の後塵を拝することになった。このような背景があり、プルタミナは、しばらく低迷を続けてきたが、2008年1月には原油価格高騰によって24億ドルの純利益をあげた。同社の中心となっているのは、「エクソン・モービル」との共同事業によるジャワ島中部のチェプ鉱区開発だ。


東南アジア最大の産油国インドネシアの国営企業でありながら、隣国マレーシアの後発企業であるペトロナスに遅れを取っていたプルタミナは巻き返しに必死だ。石油生産量が減少傾向にあることから、同社は厳しい経営環境に置かれているようだ。同社の投資にはインドネシア政府の承認が必要であるため迅速な対応ができないのが弱点。隣国のプルタミナがインドネシアに進出できたのもこのような状況にあったからであろう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 20 新興産油国・石油企業の躍進 マレーシア国営企業ペトロナス

アジア太平洋地域は、ロシア、中東、アフリカに比べて大規模発見は少ないが、1996年~2005年の新規石油ガス発見量を地域別に見ると、発見量が世界で最も多い地域である。要因としてはライセンス付与や掘削数が多く、探鉱活動が活発であったことが挙げられる。アジア太平洋地域の2000年以降の新規石油発見で多かった国は、インドネシア、ベトナム、マレーシアだ。


マレーシアは、インドネシアと並ぶ伝統的な産油国で、1990年代半ば以降、生産量は横ばいだが、東マレーシア・サバ沖合海域で2002年から大規模発見が続き、インドネシアのカリマンタン島東沖合と並ぶ有望な深海油田地帯となった。2004年にはマレーシア国営企業の「ペトロナス」とオランダ「ロイヤル・ダッチ・シェル」をメインとする合弁企業「シェルマレーシア」が、パキスタンの「カリガリ石油」、米国の「コノコフィリップス」との共同事業として採掘中のサバ北西沖のガムス第1油田がマレーシア最大の原油埋蔵量を持つと発表した。


また、2007年半ばにマレーシア初の深海油田として生産を開始したキケー油田は、80%の権益を保有する米国「マーフィー石油」がオペレーターを務め、マレーシア国営企業ペトロナス子会社の「ペトロナスチャリガリ」が20%の権益を有する。2008年末には1日12万バレルの生産となる計画だ。マーフィー石油は、世界的な石油・ガス探鉱、生産会社で、米国と英国で精製、マーケティング事業を展開している会社で、現在、マレーシア以外では米国、エクアドル、カナダ西部、カナダ東岸、北海の英領海域、大西洋北縁海域を中心とし探鉱、生産事業を行っている。


さて、マレーシア国営企業ペトロナスだが、1974年にマレーシア政府によって設立され、国内の石油天然ガス資源の所有権をすべて保有、管理を行っている巨大企業だ。その事業領域は、石油・天然ガスの開発・生産から、石油精製、石油製品販売、ガス供給、LNG生産など多岐にわたる。 また、海外事業にも積極的で、現在では世界35カ国で事業を展開しており、他の国営石油会社のお手本とも言える存在となっている。クアラルンプールに建つ超高層ビル「ペトロナスツインタワー」(ハザマが建設した建築物世界第2位の高さ)に本社を置き、マレーシアの自動車メーカー「プロトン」の株主でもあることでも知られている。2007年には日本の潤滑油市場に参入を発表し、F1公式エンジンオイルであるSYNTIUMシリーズを発売した。


ペトロナス本体は現在も政府が100%所有する企業だが、グループ内には多くの合弁企業や上場企業を抱えている。液化天然ガス事業ではペトロナスがほとんどの株を握る「マレーシアLNG」を立ち上げ、サラワク沖のガス田で生産した天然ガスを日本向けに輸出してきた。この事業には三菱商事が参画している。1978年に第1プロジェクト、1992年に第2プロジェクトが、1995年に第3プロジェクトが稼働し、東京電力や東京ガス、大阪ガス、関西電力ら日本の大手ガス会社、電力会社が液化天然ガスを購入している。マレーシアLNG社から供給される液化天然ガスは日本の総輸入量の13%を占めている。マレーシアLNG社は、その拡大した生産量を背景に2003年の輸出量は1,520万トンになっている。これはインドネシア、アルジェリアに続く世界3位の規模である。


国内の液化天然ガス事業が軌道に乗った現在、ペトロナスは海外事業を積極化させている。海外事業を大きく飛躍させるきっかけとなったのが、エジプトでイタリアのエネルギー大手「エディソン」から大型のガス田とLNG液化事業を買収したことだ。これは「BGグループ」(英国)が中心となって進められているエジプト沖合のガス田開発とLNG液化事業の計画の一部で、このエジプトの液化天然ガスを輸出するために、ペトロナスはBGグループとともに英国にも受入基地の建設計画も進めている。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争 19 新興産油国・石油企業の躍進 中国海洋の原油・天然ガス生産地域と外資の導入

中国海洋石油(CNOOC Ltd)は、次の4地域で原油・ガス田の探鉱・開発事業を行っている。 (1)渤海 (2)香港南東沖合(南シナ海東部) (3)香港南西の海南島沖合(南シナ海西部) (4)上海沖合(東シナ海)。このうち生産量が増えているのが渤海で、中国海洋の原油生産量の57.6%(2006年度)を占めている。渤海では1999年、コノコフィリップス中国石油公司によって大型の蓬莱油田が発見され、2002年から生産が始まっている。


コノコフィリップスは、米石油大手のフィリップス・ペトロリアムとコノコが2002年に合併して誕生した大手。米国ではエクソンモービル、シェブロンに続く規模だ。その現地法人がコノコフィリップス中国石油公司である。コノコフィリップス社は中国との海底油田共同開発に最も早く参加した外国企業だ。


中国政府は海域における石油開発で外資系企業約30社と契約を締結している。大手ではBP、シェブロン、ENI(イタリア)、デボン・エナジー(米国)などがある。デボン・エナジーは米国最大の独立系石油会社で、黄海南部と東シナ海西部で開発を手がけている。同油田で採掘した原油、ガスの所有権51%を保有し、探査・掘削にかかる費用は同社が負担するという条件だ。


ベネズエラやメキシコは強烈な資源ナショナリズムをふりかざし、欧米メジャーを排除してきたが、中国はある程度外資系企業を受けて入れている。それは国内に探鉱開発技術が蓄積されていなかったことを物語っている。


内陸部にも外資系企業はどんどん進出している。2004年に中国石油化工(Sinopec Corpo)とエクソンモービル、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが調印した福建省の製油化学コンビナート工事は、投資額30億ドルを超える。3社は世界規模の製油科学工業一体化生産施設を共同で開発し、石油製品の販売会社を合弁で設立し、福建省でガソリンスタンド600店を展開する予定だ。また2007年にはシェブロンが四川盆地のサワーガス田の開発権を取得している。


外資系企業が中国に進出する背景にはカントリーリスクが少ないことに加え、中国が石油の生産地にして同時に巨大な消費地であることが挙げられよう。近年の世界経済、特に先進国にとってひとつの課題は、巨額の外資を貯め込む中国にいかに金を使わせるかということであった。


つまり、経済成長を続けている中国という巨大な市場を相手に大きなビジネスをするということだ。世界の自動車産業などその典型的な例で、これから新たに自動車を大量に購入してくれるのは12億人が住む中国と定め、世界の自動車メーカーはこぞって中国市場に乗り込んだ。現在ほとんどの車はガソリンで走っている。中国で自動車販売数が急増したということは、それだけガソリンの消費量も増えたということだ。北京オリンピックを控え中国の環境問題がとやかく言われているが、皮肉なことに中国に石油を消費してもらわないと困る国や企業は少なくない。


では、ここ3年間に中国で実施された石油関連の主な税制改革を記しておこう。2005年、資源税引き上げ。2006年、石油製品輸出にかかわる増値税の還付再開。国産原油販売にかかわる「石油特別収入税」導入。石油製品の輸出にかかわる増値税の還付制度廃止。製品輸入関税引き下げ。原油輸出関税引き上げ。2007年、沖合で生産する外国企業に原油輸出関税導入。


ここ数年、国際原油価格の高騰に対応するため、中国政府は石油特別収入税など一連の税制改革を実行し、投資環境は以前と比べると厳しくなった。中国政府は2006年、国内石油企業に対して5%の原油輸出税を徴収すると決定していたが、中国沖合で操作する外国石油企業は、外資導入の促進という観点からこれまで輸出税は免除されていた。


しかし2007年8月1日以降、外国の石油企業についても国内石油開発企業同様の輸出税が適用されることとなった。ただし2007年8月1日以前に探鉱開発契約を締結している外国の石油開発企業の現行契約分については、2012年まで5年間の猶予期間が設けられている。中国は国内にない技術力を国外から導入するために、外資のハードルを低くしてきたが、今後はやや様子が変わっていきそうだ。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争18 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の油田・ガス田開発

中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区にある中国石油天然気集団公司(CNPC) 傘下の独山子石油化工分公司(独山子製油所)とカザフスタンの北カスピ堆積盆地を結ぶ総延長約3000キロに及ぶ「中国-カザフスタン石油パイプライン」が2005年、両国が30億ドルを共同出資して完成した。


ここに至るまで中国は約10年前から布石を打ってきた。CNPCは1996年にカザフスタン国営石油企業の株式60%を取得し、油田の権益を手に入れた。株式取得は国際入札で行われたが、欧米石油メジャーを抑えてCNPCが落札できた理由は、カザフスタン政府に対し、「中国-カザフスタン石油パイプライン」の建設を約束し、カザフスタンがそこに大きな利益を見出したからだ。カザフスタンからすれば、ロシア経由以外の輸出ルートを持つことができ、販路が広がったことになる。


CNPCはその後も2005年に、カナダに本社を置くペトロカザフスタン社を41.8億ドルで買収するなど、カザフスタンのガス田や油田権益を取得していった。この買収をロシアの石油大手ルクオイルが阻止しようとしたが、カナダの裁判所は訴えを却下した。ここでもCNPCは勝利をおさめたといえよう。


中国にとっての最大のメリットは、本パイプラインの最終の供給地である蘭州市や重慶市、鄭州市など内陸部に低コストで石油を輸送できることだ。これらの内陸部はインフラ整備が進んでいなかったため、国内周辺油田からの原油はこれまで鉄道やトラックで運ばれていた。それによって他の地域に比べ輸送コストが割高となっていた。人口320万人の蘭州市は、石油・鉄鋼が盛んな工業都市。大気汚染で知られる重慶市は自動車産業と軍事設備生産の拠点。人口は3144万人。人口698万人の鄭州市は新都市建設が進む古都。内陸部のこれらの都市だけで約4162万人もの人口があること自体驚きである。それは同時に石油を大量に消費していることを物語っている。


中国は大量に石油を使いながら、足元で油田・ガス田の開発投資を行っている。その結果、生産量とともに埋蔵量も増加している。1996年から2005年までのアジア太平洋における主要産油ガス国の発見埋蔵量は、中国が圧倒的に多い。2位オーストラリア、3位インドネシアと続くが、豪州の倍以上の発見埋蔵量だ。中国で発見埋蔵量が増えている理由は、試掘井削数が多いからである。本来、消費すれば埋蔵量は減るものだが、大型油田・ガス田を発見していけば、一気に埋蔵量は増える。


中国では2005年から2007年にかけて、渤海の極浅海域で「ナンプー油田」、内陸の四川盆地で「ロンガンガス田」など大型の油田・ガス田が発見されている。CNPCは渤海「ナンプー油田」の原油の予想埋蔵量を14億7600万バレル、天然ガスの埋蔵量を1401億立方メートルと発表した。中国では1990年代後半以降、既存の油田(重慶、勝利、遼河)の生産量の減退が顕著になっていた。増加しているのは、西部地域のジュンガル盆地、タリム盆地、オルドス盆地などだ。天然ガスは四川盆地が最大の生産地である。


中国政府は陸上における外国企業と石油契約を締結する権利をCNPCの民間子会社である中国石油天然気(ペトロチャイナ)と、中国石油化工集団公司(Sinopec Group)の民間子会社である中国石油化工(Sinopec Core)だけに与えている。中国海洋では主に「中国海洋石油」(CNOOC Ltd)が、原油・ガス田の探鉱・開発事業を行っている。その海洋における原油生産量は渤海を中心に伸びており、2006年には中国生産量全体の約15%に達したという。中国は陸上だけでなく、海洋の開発にも力を入れてきた。


まだ記憶に新しい事件だが、2004年3月、日本の固有領土である尖閣諸島に、中国人7人が上陸するという事件が発生した。明らかに不法滞在である。尖閣諸島周辺を含む東シナ海一帯には、豊富なガス・石油資源が存在していると見られている。中国が調査船を日本海まで派遣してくる目的はいろいろあるのだろうが、ひとつには原油・ガス田の探鉱・開発事業の視察であろう。中国は大型油ガス田の発見に血眼になっているようだ。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争17 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業の躍進と政府の狙い

中国の石油関連企業が躍進している。国営の中国石油天然気集団(CNPC)は、パイプライン子会社の2008年の送油量が7000万トンを突破する見通しであることを発表した。2007年の送油量は6656万トンだったので、前年から345万トン増加することになる。同社は2001年から100億元(約1400億円)を投資し、西・中央アジア、北・西アフリカ、南米で石油開発を行い、アゼルバイジャン、オマーン、インドネシアなどで大型買収を実行してきた。これは国内の石油消費の増大に見合う国内の油田・ガス田の生産拡大が国難になったことを物語っている。中国には大慶油田という大型油田があるが、2000年を境に生産量が減少傾向にあり、労働環境がよくないことから労働者による大規模なデモも続いていた。またロシアに近い場所に位置することから輸送のコストや環境対策のコストが莫大にかかることから、中国は海外の油田に目を向けたのだろう。


国営の中国海洋石油総公司(CNOOC)は2002年にインドネシアの複数の油田権益を約600億円で一括購入して間もないが、今度はイラン北部のノースパースガス田の開発が決定したというニュースが入ってきた。イランはCNOOCが新設する天然ガスの陸揚げターミナル3カ所に1000万トンのガス供給を行うという。契約額は160億米ドルに達するとのことだ。


一方、CNPCの子会社で民営の中国石油天然気(ペトロチャイナ)は、新ガス田の発見に成功したことで、中国本土の天然ガスの生産量が今後10年のうちに2007年度の倍になると予測している。同社はシンガポールに数億ドル規模の製油所の建設を計画しているほかスーダン、トルクメニスタンに進出し、ガス田開発を、ロシア、ペルーでは油田開発を進めている。同社の2008年の投資額は1000億元(約1兆4000億円)を超えるという。


中国株に明るい投資家がペトロチャイナに注目したのは、2000年4月に香港(H株)、ニューヨーク(ADR)同時上場を果たしたのち、世界一の資産家である投資家ウォーレン・バフェットが経営する世界最大の投資持株会社パークシャー・ハサウェイが国外における筆頭株主となったことが引き金であった。「ウォーレン・バフェットが目をつけた銘柄なら安心だろう」と、多くの投資家がペトロチャイナに好感触を抱いたのだ。また、ペトロチャイナが社外取締役に外国人を起用し、顧問にキッシンジャー元米国国務長官を据えたことも投資家の心をくすぐった。同社の役員報酬が株価と連動することも知られている。そして2007年11月5日、上海株式市に上場し、同日、取引開始直後に新規公募価格(16.7元)を191%上回る48.62元をつけ、時価総額で世界最高を記録したこのように上場による資金調達が可能になったことで、中国石油企業はカントリーリスクの高い国へ投資するようになった。


中国は、ウズベキスタンからパイプラインを引いて天然ガスを買う計画を進めており、他の中央アジア諸国からも石油ガスを買っている。この動きが顕著になったのは、2001年10月に「上海協力機構」が設立してからだ。これはロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの6ヵ国による多国間協力組織で、第一回設立会議が上海で行われたことからそう呼ばれている。


中国とロシアは互いに警戒しつつも、中央アジアに対する欧米勢力の拡大を防ぐという点では利害が一致している。いわば「非米同盟」だ。ロシアの狙いはアラブ諸国や中国、ベネズエラなどの非米的な国々を連合して、エネルギーに関する新たな国際カルテルを作り、石油と天然ガスの世界的な利権を米英から奪うというものだろう。エネルギー消費国の中国には、エネルギー大国ロシアはもとより、中央アジアの石油・天然ガス産出国との関係を強化しておきたいという意図がある。


こういった背景を知っておれば、中国のウイグル自治区とカザフスタンを結ぶ全長962キロの「中国-カザフスタン石油パイプライン」が2006年に開通した意味が理解できるだろう。中国がパイプラインを通じて石油を輸入する初めてのケースで、パイプラインによる初期の年間輸送量は1000万トンだが、2010年には2000万トンに上昇するという。カザフスタンとロシアは現在、それぞれ50%の割合で石油を中国に提供している。

By Master K/益田 慶


世界資源戦争16 新興産油国・石油企業の躍進 中国石油企業

『フォーブス』企業ランキング200にランキングしている中国企業は数社ある。2007年度版で第41位に上昇したのが中国国営企業「中国石油天然気集団公司」(China National Petroleum Corporation 略称CNPC)だ。日本の新聞・雑誌媒体では「中国石油集団」と記されることが多い。中国企業はよく似た社名が多く、混同しやすいので、先にまとめておく。


■中国国内の国営石油企業ベスト3
〈1位〉中国石油天然気集団公司(英語名China National Petroleum  Corporation、 略称CNPC) 日本での略称「中国石油集団」
〈2位〉中国石油化工集団公司(英語名China Petrochemical Corporation (Sinopec Group)日本での略称「中石化集団」
〈3位〉中国海洋石油総公司(英語名 China National Offshore Oil Corporation、略称CNOOC) 日本での略称「中国海油」


■中国国内の民間石油企業2強
・中国石油天然気(英語名Petro China、日本では「ペトロチャイナ」と呼ばれる)
・中国石油化工(China Petroleum and Chemical Corporation、Sinopec) 日本での略称は「中国石化」


「中国二大国営石油企業」といった場合は、中国石油集団(CNPC)と中石化集団が該当する。国営3社のうち最初に設立されたのが、1982年、沖合の大陸棚の海底油田・ガス田開発のために設けられた中国海油(CNOOC)だ。同社は中国省庁に海底油田探索のための十分な技術がなく、外資と共同開発するための受け皿である。この時期、中国省庁の国営企業への分割化が進められ、1998年に中国石油集団と中石化集団が誕生した。

さらに中国石油集団は事業の再構築を進め、採算性の高い部門を民営化した。それが1999年創業の「中国石油天然気」(ペトロチャイナ)だ。原油採掘部門、原油精製部門、化学品製造部門、天然ガス部門の5部門からなり、採掘から石油化学製品の製造・販売まで、石油・天然ガス業界の川上から川下まで幅広く手がけている。2000年に香港証券市場とニューヨーク証券市場に上場し、投資家ウォーレン・バフェットが経営する世界最大の投資持株会社パークシャー・ハサウェイが国外での筆頭株主(88%を保有しているのはCNPC)となったことでも知られている。


中国株に詳しい人なら、ペトロチャイナが2007年9月、香港証券市場で史上最高値をつけたことを覚えているだろう。ニューヨーク証券取引所(NYX)ではペトロチャイナの米国預託証券の価格が過去3年間で3倍以上に上昇した。欧米のオイルメジャーを上回る実績に世界の投資家は着目した。


一方、中石化集団のうち油田・工場・販売などの部門を引き継いで発足した民間企業が「中国石油化工」である。こちらは2000年に香港、上海、ロンドン、ニューヨークの各証券取引所に上場している。石油化学製品の生産で中国1位、原油生産では2位である。「中国二大民間石油企業」といった場合は、ペトロチャイナと中国石化が該当する。


さらに中国海油(CNOOC)には、同社が株式の70%を保有する民間企業の子会社「中国海洋石油」(CNOOC Ltd)があり、実際の海中油田探査・採掘事業を行っている。こちらも香港、ニューヨーク証券取引所に上場している。


中国では、これら3国有企業と3民間企業が石油関連事業を分担する形になっている。事業区域ではペトロチャイナが中国北部、中国石化が中国南部とほぼ南北に分かれて担い、ペトロチャイナは採掘などの川上分野に強みがあり、中国石化は石油化学製品などの川下分野に強いという特徴がある。ガソリンスタンド事業はこの2社の独占状態。理由はこの2社だけが中国での新しいガソリンスタンドを開設する権利を得ているからだ。


1993年から石油輸入国に転じた中国は、国内生産に力を入れるのはもとより海外企業の買収や開発途上国への進出に大きなエネルギーを注いでいる。これよりしばらくは中国の石油開発を紹介していこう。


By Master K/益田 慶


世界資源戦争15 新興産油国・石油企業の躍進 ベネズエラのエネルギー外交

南米最大の産油国ベネズエラのすべての油田は現在、国営石油会社PDVSAもしくはその合弁会社の管理下となっており、2018年までに3000億ドル以上の増収が見込まれているとされる。ベネズエラ・チャベス大統領のエネルギー外交は、ロシア・プーチン大統領の手腕同様、潤沢な石油収入を背景にした強気でしたたかな外交だ。たとえばブラジルに30億ドルの予算でタンカーを発注し、その一方でブラジル石油公社Petrobras(ペトロブラス)と共同出資でブラジル北東部のペルナンブ州に石油精製設備を建設する。この精製所は「ブラジルで25年ぶりの新設プロジェクト」と呼ばれている。ブラジルに進出したPDVSAは、すでにブラジル東北部でのガソリンスタンド経営が認められている。


中南米の原油埋蔵量のベスト3は、メキシコ、ベネズエラ、ブラジルで、各国が国営石油会社を持っている。メキシコ石油公社PEMEXとベネズエラPDVSAの売上はほぼ同じで、ブラジル石油公社ペトロブラスは両社の約半分の売上高だ。一方、石油精製能力はブラジルが1位でベネズエラはメキシコに次いで3位。サトウキビを砂糖とアルコールに直接利用する世界屈指の国ブラジルは近年、石油精製、アルコールの生産が増大し、一大産業になっている。ベネズエラの石油精製能力は低い。その国内の処理能力不足を補うためにブラジルに石油精製設備を建設するということだ。このようにベネズエラとブラジルは足りない部分を互いに補って共栄共存するような関係を深めている。


ベネズエラは2005年、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイが加盟するメルコスル(南米南部共同市場)への正式加盟が承認された。メルコスルとは、域内の関税及び非関税障壁の撤廃などによる財、サービス、生産要素の自由な流通を図る「関税同盟」だ。見方によっては米国主導の米州自由貿易地域(FTAA)に対抗するグループといえる。さらにベネズエラは、ボリビア、キューバとの間で人民貿易協定(TCP)も締結している。これらのグループ化は