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世界資源戦争 56 実用レベルに近づいたCO2回収・貯蔵技術

大気中に排出されたCO2を科学技術によって回収し、海洋や地中に貯蔵する技術の研究開発が世界各国で活発化している。コストダウンが可能になり、どの国でも実用化できるようになれば、技術の特許を擁する企業が莫大な利益を得ることになる。


CO2回収・貯蔵技術を逸早く活用したいと計画しているのは、火力発電所や大規模工場などCO2排出量の多い施設と温室効果ガスの排出量の多い国だ。それらの電力会社や国は近い将来、数億円から数兆円のコストを使って排出権を購入せざるを得ない立場にある。京都議定書で温室効果ガスの削減目標を課せられた先進国は、自国でのCO2回収・貯蔵技術開発に数億円規模の国家予算を使っている。


一方、民間企業も独自にCO2回収・貯蔵技術を開発し、ビジネスチャンスを広げようとしている。世界で最も早く実用化にこぎつけたのは、意外なことに石油大手のシェルである。同社は2006年、発電所から排出されるCO2を回収してノルウェー沖の油田とガス田に貯蔵する計画を発表した。2010~2012年にかけて段階的に実施される予定で、現時点では世界最大規模の事業だ。計画どおりに進めば、年間200万~250万トンのCO2の回収・貯蔵ができるという。


ノルウェーの石油大手スタットオイルと共同で実施する同プロジェクトは、ノルウェー中部の発電所およびメタノール製造施設で発生するCO2を回収し、海洋の油田とガス田に貯蔵するというものだ。CO2を回収する発電所の電力を海洋油田・ガス田に供給するため、石油・ガス採掘に伴うCO2排出量をほぼゼロにできるという。この計画のポイントは、石油の回収率を向上できることにある。シェルは1970年代からCO2を使って石油の回収率を向上させる技術開発を進めてきた。一方のスタットオイルは北海やアルジェリアなどでCO2貯蔵プロジェクトを手がけた実績がある。


日本企業もCO2回収・貯蔵技術の開発を積極的に進めている。民間では三菱重工業、東芝、IHI(旧石川島播磨工業)、中部電力、関西電力、中国電力などが活発に展開しており、政府機関では地球環境産業技術研究機構や産業技術総合研究所が大きなプロジェクトに関与している。


たとえば三菱重工業は関西電力と共同で排ガス中に含まれるCO2を特殊な吸収液を用いて分離・回収する技術を開発し、同技術を使ったプラントの初号機を1999年にマレーシアの尿素肥料工場に納入している。この工場では回収したCO2をアンモニアと合成し、尿素を生産しているという。ほかにインド最大の尿素肥料会社、アラブ首長国連邦の企業、バーレーンの石油化学会社などにCO2回収技術を提供している。


2008年11月には、IHI、Jパワー、三井物産、オーストラリア石炭協会、オーストラリア州営電力会社などオーストラリアと日本の企業が共同で、オーストラリアリアの石炭火力発電所でCO2回収・貯蔵技術実証プロジェクトを始動すると発表した。


一方、国としてCO2回収・貯蔵技術の開発に取り組んでいるのがイギリスだ。同国は中国やインドなど経済成長が続く国の石炭火力発電に着目し、火力発電とCO2削減が両立する方策としてCO2回収・貯蔵技術の実用化を進めている。またノルウェーと協力して北海におけるCO2の輸送と貯蔵を検討中だ。


この背景には、EUが2020年以降建設されるすべての化石燃料発電所にCO2回収・貯蔵技術を導入することに合意していることが挙げられる。イギリスの強みは、北海の海底にCO2を貯蔵できるポテンシャルがあることだ。イギリスは温暖化をビジネスチャンスと捉え、CO2回収・貯蔵技術において一気に国際的なリーダーになろうとしているようだ。

By Master K/益田 慶