世界資源戦争 51 米国のエネルギー政策 石炭回帰

2008年7月に原油価格が1バレル147ドルの最高値を記録したのは、まだ記憶に新しい。その裏で密かに熱い視線を集めていたのが石炭だ。石炭は150年以上の埋蔵量があり、石油や天然ガスと比べて安価だ。アメリカやロシア、中国、オーストラリアなど政情の安定している国の埋蔵量が多いため、価格も安定している。


コスト面での優位性により石炭を発電燃料・産業燃料として用いている国は少なくない。たとえばアメリカ、中国、ドイツだ。アメリカとドイツの発電燃料は石炭が首位。中国でも全エネルギーのうち7割以上を石炭が占めている。中国で原子力発電が進まないのは、石炭依存が高いからである。

2004年から始まった資源高。多くの人が原油価格の高騰に目を奪われていた頃、製造業と大手商社に「石炭回帰」の動きが静かに進行していた。石油代替エネルギーとしての石炭の旺盛な需要を反映し、日本は世界最大の石炭の輸入国となった。中国は石炭の生産大国でありながら、国内消費が伸びたことで、2007年中に石炭の純輸入国に転じたのではないかと予想される。中国と並び経済成長が続くインドでも、石炭の消費量が増大、中国同様に世界各地からの石炭調達の動きを加速させている。こうして「黒いダイヤ」「燃えるダイヤ」と呼ばれる石炭の争奪戦が始まったのである。

石炭のメリットは豊富な埋蔵量と価格だが、デメリットもある。カロリー(発熱量)の低さ、採掘・運搬・貯蔵にかかるコスト、燃焼した際のCO2排出量の多さである。

しかし、乱高下する原油価格に右往左往されるより、安定して低価格な石炭のほうが魅力的だ。さらに石炭が燃焼する際のCO2排出量を削減できる技術や、石炭液化やガス化の技術も進んだ。これらの技術開発は日本が先行している。

石炭液化技術とは、石炭を分解して液体の炭化水素、すなわち石油製品に変える技術だ。取り扱いにくい固体で、しかもカロリーが低く、炭種によって灰分やカロリーのばらつきがある石炭の欠点は消え去り、扱いやすくカロリーの高い液化油に転換することで、輸送や貯蔵がしやすくなり、CO2排出量も少なくなる。一方の石炭のガス化とは、石炭をガス化炉でガス化し、燃料ガスにかえてガスタービンをまわして発電する際に使われる。この場合、ガスを燃料とすることで熱効率がグンと上がる。熱効率が上がるということは、石炭と比較しCO2排出量の発生が減るということだ。

アメリカが石炭の環境負荷を低くして燃料として使う「クリーンコール」事業に本腰を入れ始めたのは、環境がビジネスになることをブッシュ大統領がようやく気づいたからであろう。あるいは石炭会社からの圧力があったのかもしれない。石炭の需要を伸ばすには、資源高は格好の追い風となった。

石炭利権はもともと共和党の縄張りであった。石炭生産量の多い州は、ワイオミング、ウェストヴァージニア、ケンタッキー、テキサス、モンタナなど2000年の大統領選挙でブッシュが勝利した州ばかりである。ブッシュ政権下で石炭回帰が起こったことは、当然の結果ともいえる。


前述したような技術が実用化され、導入されれば、世界最大の石炭埋蔵量を誇るアメリカは、エネルギーを自給自足できるようになる。現在は経済が低迷しているが、先進国で唯一人口が増加している国であり、燃料としての可能性を秘めた石炭を有している。そのポテンシャルはすこぶる高いといえる。

世界のトレンドとしては、代替エネルギーは燃料電池とガスだ。アメリカは両者の開発に巨額の予算を計上している。それと同時に、クリーンコール発電にも大きな期待を寄せている。それは温暖化対策というより雇用対策の色合いが強いようにも思われる。


By Master K/益田 慶