世界資源戦争 49 食料自給率のアップと関税の撤廃
2007年下半期から2008年上半期にかけて日本を揺るがせた穀物価格の高騰は、「資源戦争」のひとつの側面であった。2007年までの好景気で資金を蓄えた投機マネーが穀物相場に流れ込んだことや、中国やインドなど新興国の成長による資源需要の急増、アジア諸国の人口増大、さらに最大の生産国であるアメリカが国策としてバイオエタノールの製造を本格的に始めたことに穀物大国のオーストラリアの干ばつが加わり、一時期穀物不足がささやかれ、一気に高値へ向かった。
中国では大豆が高騰し、大豆を肥料とする豚肉の価格が20%以上はね上がった。米国の大豆生産者が収益拡大を狙い、生産品目をトウモロコシに切り替えたことで起こった現象である。もちろん、鼻の利くヘッジファンドもトウモロコシの先物相場に資金を投じた。
洞爺湖サミットでも穀物価格の高騰は議題にあがった。アメリカやカナダなど穀物自給率100%の大国にとっては、痛くもかゆくもないことだろうが、穀物自給率の低い日本にとっては大きな痛手となった。小麦粉やマヨネーズのように資源高を価格に転嫁して値上げに踏み切った大手メーカーがいる反面、価格に反映すると売れ行きが落ちると懸念されることから、値上げに踏み切れないメーカーも多くあったと想像できる。原価が増えても売価は同じということは、収益悪化である。
一方、中国産食品の安全性が揺らいでいることから、日本国内では自給率のアップを図る運動も盛んになってきた。いわゆる地産地消である。政府も自給率の上昇をアナウンスしているものの、実態は大きく異なるようだ。
日本政府は、「国際貿易機構(WTO)の多角的貿易体制を補完するもの」と位置づけ、自由貿易協定(ETA)を重視している。世界の国々は、円滑な貿易によって互いに経済的利益を得るため、特定の国や地域間でいろんな国際協定を結んでいるが、その代表的なものが経済連携協定 (EPA)だ。これは関税や数量制限など貿易の障害を取り除くことを目的とした協定である。原材料や食料の調達を輸入に頼り、原材料を加工・製品化して輸出する日本にとって、自由貿易はとても重要だ。円滑な貿易を進めるために相手国と間に交わされる協定は、貿易をするうえで強い味方となる。
日本政府は、アジアを中心にFTA とEPAの締結を推進している。これまで8カ国とEPAを締結し、さらに数カ国と交渉中だ。
さらに2008年4月には、日本とASEAN10カ国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)。日本が電気機器や機械類を輸出したい国ばかりだ。
との間で日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)が署名された。これにより日本と各国との2国間貿易のみならず、日本を含めた11カ国間の三角貿易も自由化となり、地域内の貿易の促進が期待されている。
しかし、それらの諸国との貿易で関税がゼロになれば、国産品よりずいぶん安い農産物が大量に輸入されることになる。市場を自由化して競争すれば自給率が上がるという意見がある一方で、競争力がつく前に日本の農業は価格競争に負け、廃業せざるを得なくなるのではないか、という見方も強い。関税を撤廃しても農家に補助金を直接支払えばよいという政治家もいるが、その財源は税金である。税金で特定の産業を保護するのか、という批判も出るだろう。
しかし、住宅と住宅価格の高騰を担保に金を借り、日本の家電や自動車を購入してくれていたアメリカの消費が落ち込んでいる今日、政府はアジアの新興国に家電や自動車を販売したいと考えていることは確か。このように「資源戦争」は、貿易というもうひとつの側面を持ち合わせている。食料を「資源」と置き換えるなら、資源に乏しい日本が、ある程度の輸入に依存しなければいけないことは事実。工業製品を買ってもらうバーターとしてオーストラリアやアジア諸国の農作物を輸入せざるを得ない日本の苦悩はまだ続くだろう。
By Master K/益田 慶