世界資源戦争 48 水不足がもたらす危機と水資源戦争
日本人は長い間「水と空気はタダ」と考えてきた。しかし、これからは石油のように高値で売買される時代が到来するかもしれない。特に水は貴重な資源として経済原理にゆだねられ、市場で取引される可能性が出てきている。
現在、世界の11億人が淡水の不足に直面しているといわれている。飲み水の不足や衛生状態の悪化による健康被害、かんがい用水の不足による農業の危機、国同士の水資源の奪い合いが各地で広がっている。
深刻なのは、アフリカ、中央アジア、中南米の農村地だ。パレスチナやスーダンでは水不足によって紛争が激化した。南アフリカの一部の地域では、汚染水を飲んだ住民の間でコレラが発生している。WHOの推計によれば、飲料水と衛生設備の欠如による死者は年間150万人にものぼる。
水不足の最大の要因は、人口増加だ。水の量が以前のままでも人口が増えれば、必然的に飲み水は足りなくなる。次にライフスタイルの変化と乱開発が要因として挙げられる。トイレの水洗化により大量の水が必要になった。また、都市化と工業化が進んだことで、大量の水が飲食店や工場で消費されるようになった。食肉や穀物の需要が高まったことも大きく影響している。小麦1キロを生産するには約1000リットル、100グラムの牛肉にはペットボトル3000本もの水が使われているという。
乱開発には、リゾート開発や森林伐採に加え、誤った農法による土地の砂漠化がある。アフリカ、アジア、オーストラリア、南アフリカなどの地域で砂漠化が進んでいるが、その要因は人為的なものが多い。中東では、誤った農法によって土壌が枯れ、灌漑によって農地に塩分が蓄積し、植物が育たなくなった。南アフリカでは、過剰な焼畑農業が行われ、土地の回復が追いつかなくなった。北朝鮮も誤った農法によって畑が荒廃し、食料不足に陥った。保水能力の高い森林や畑がなくなると、その土地から水もなくなる。その結果、食料不足と水不足に見舞われているのだ。
最後に気候変動による水不足も挙げておこう。氷河や雪を淡水の供給源としていた地域では、温暖化によって淡水が供給しづらくなり、土地の乾燥が進んだ。すると農業にも壊滅的な打撃を与える。
アジアやアメリカ中西部、サウジアラビア、イランなとどでは、地下水位が急速に下がっている。多くの井戸が掘削されて地下水がどんどん汲み上げられ、地下水が枯渇してきたからだとされている。
こういった水不足と無関係の国もある。カナダとロシアの二つの大国だ。ロシアは石油、天然ガスに続いて、水も輸出して利益を上げようとしている。ひとり当たりの水使用量が世界一のカナダでは、枯渇することがないため、自国の水に価格をつけて市場取引をすべきだという意見が出ている。すでにペットボトルの水は、先進国ではどの国のスーパーでも販売されている。物価が異なるので一概にはいえないが、同量のコカ・コーラより水のほうが高い値段がつけられているケースが多い。
一方、日本をはじめドイツやインドで開発が進められているのが、海水の淡水化装置と水の浄化装置だ。水問題を抱える台湾政府は、民間の工場に対して「使用する工場用水の85%以上を回収して再利用すべし」と要請している。
そういう事態に市場を見つけた日本のメーカーがある。中空糸膜(濾過機能を持つ中が空洞のストロー状の繊維)メーカーのクラレは新規事業として、台湾の化学工場として初めて純水に再利用できる設備を納品した。工場で使用した水は中水道としてトイレなどに再利用できるほか、さらにバージョンアップすれば純水にも戻せるという。中空糸膜を用いることでコストアップにはなるが、水のリサイクルというメリットが生まれる。
また、日本の技術者が取り組んでいる「持続可能な砂漠緑化」にも注目したい。緑化にはまず水が必要。海に近い地域では、太陽光発電によって海水を淡水化し、それを緑化に利用する。山岳地では、日中と夜の温度差を利用して、大気中の湿分から水を集める。発電施設や造水と砂漠緑化をセットで考えることで、より地域の復興に貢献できるプロジェクトに発展する。「世界資源戦争」は遂に水資源の奪い合いにまで発展しつつある。水不足がもたらす危機を救うのは、水の消費量を減らすことではなく、淡水をつくる技術なのである。
By Master K/益田 慶