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世界資源戦争 29 新興産油国・石油企業の躍進  PEMEX(メキシコ石油公社)の攻防

メキシコは原油生産量世界第5位の産油国だが、2005年まで原油埋蔵量は上位10カ国にランクインしていなかった。メキシコの生産量の60%を占めるカンタレル油田が斜陽化し、2006年より減退に向かうことから、2016年には石油の純輸入国になるのではないかと懸念するアナリストもいた。しかし、2004年、PEMEX(メキシコ石油公社)がメキシコ湾での3年におよぶ探査の結果、約540億バレルを埋蔵する新たな大油田を発見し、事態は変わった。メキシコは、サウジアラビア、イラン、イラクに次ぐ世界第4位の埋蔵量を有する国に浮上したのである。


PEMEXはメキシコ政府が100%出資する国営企業で、石油・ガス関連プロジェクトを一元的に実施する独占企業だ。1990年代を通して公的収入の約3割、対GDP比の約7%に達するなど国家経済に貢献してきた。しかしその反面、PEMEXは高い税率によって開発資金の調達がスムーズにできなかった。大水深域における油田開発の技術に乏しく、外資の参入が不可欠だとされてきたが、税率がネックになっていたので。そこに大油田の発見をきっかけに、税制改革が進められ、PEMEXに追い風が吹いた。


2007年9月、PEMEXに対する税財政改革が議会を通過し、従来79%だった税金が2008年度から74%に減税され、2009年~2011年の間に0.5%ずつ、2012年には1%減税され、最終的に71.5%となる。この減税によってPEMEXは2008年に約300億ペソ(約27億5000万ドル)、その後3~4年間は年間500~600億ペソ(約46~55億ドル)の追加資金を得ることになる。


この一連の法案が可決されたことで、メキシコはエネルギー改革に着手し、PEMEXと外国石油企業との技術提携を進めることに弾みがついた。まず、ロイヤル・ダッチ・シェル(英国/オランダ)がPEMEXと共同開発への参加を表明し、シェブロン(米国)も深海掘削のトレーニングプログラムに協力することを発表した。メキシコはこれまで外資の受け入れに消極的だった。ここで方向を転換したのは、前述したようにカンタレル油田が枯渇しつつあることで、政府が危機感に包まれていたからだ。


もうひとつ、メキシコ政府はエネルギー問題を抱えていた。メキシコは発電用に天然ガスを大量に消費している。電力の約7割が天然ガス発電で、年率約6%ずつ増えているという。2005年に発生した米国ハリケーンの影響から天然ガス輸入価格が高騰した。メキシコは天然ガスの全消費量の約2割を米国からの輸入に依存している。アメリカからすればメキシコは「裏庭」だが、メキシコ政府は米国からの輸入依存からの脱却を目指してきた。


一方、アメリカはメキシコから原油を購入している。メキシコは米国への原油供給で3位(カナダ、サウジアラビア、メキシコ、ベネズエラの順)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場にも大きな影響を与えている。たとえば2007年10月29日、ニューヨーク原油先物相場は、同日の時間外取引で過去最高値を更新し、初めて1バレル当たり93ドル台に乗せたが、これはメキシコ湾に暴風雨が接近していることから、メキシコが1日当たりの原油生産の約20%を停止したことが要因だった。米国からすれば「裏庭」の暴風雨がそのまま母屋に及んだ形だが、米国をはじめ外資系もメキシコ湾の石油開発に力を注いでいる。


2008年4月には、丸紅が100%出資する米国子会社マルベニ・オイル・アンド・ガス・ユーエスエー社を通じて権益を保有している米国メキシコ湾コディアック鉱区において原油の発見に成功したというニュースが飛び込んできた。メキシコ湾を中心とした米国、メキシコ、そしてメジャーの攻防から目が離せない。

By Master K/益田 慶