世界資源戦争 28 新興産油国・石油企業の躍進 カナダのオイルサンドのパイプライン建設攻防
カナダのオイルサンドがメジャーに歓迎されたのは、石油開発会社にとって、むやみに掘削する地域が狭くてすみ、メキシコ湾やアフリカ沖の大深度の海底油田を掘り進む作業に比べればコストも危険度もずいぶん小さいことが挙げられる。中東や中南米、アフリカなどに比べ著しくカントリーリスクが少ないことも大きなメリットだ。そして何よりも、背後に米国市場という世界最大の石油消費マーケットが存在する意味は大きい。メジャーがカナダのオイルサンドを戦略的投資先として位置づけているのは、石油を大量消費し続ける米国に最も近い生産地だからだ。巨大なマーケットが生産地の隣の国にあることは、大きなメリットである。
長年、エネルギー調達先であるイランやイラクに代表される不安定な中東情勢に頭を抱えてきたブッシュ政権にとって、カナダは救世主であったに違いない。これまでカナダは米国に農産物と木材を届ける国だったが、エネルギー大国になったからには、ブッシュ政権の対応も異なってきている。米国にとっての最大のメリットは、地続きのカナダならパイプラインで輸送できるので、タンカーに比べて運搬のコストも時間も軽減できることが挙げられる。
ブッシュ政権がカナダを重視する前に、米国のメジャーは動いていた。エクソンモービルは2006年4月、カナダからメキシコ湾まで直結するパイプラインを完成させ、カナダ西部からテキサス州の製油所まで輸送するルートを確立した。これによりエクソンモービルは、米国最大の製油所地域に運びこむ原油ルートをひとつ追加することに成功したのだ。
また、カナダではコノコフィリップスや、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルなどメジャーと地元グループが主導する「マッケンジーバリー・ルートプロジェクト」も始動している。これはアルバータ州の既存のパイプラインと接続するガスのパイプラインだ。
一方で中国をはじめとするアジアからの需要拡大を背景に、壮大なパイプライン構想も浮上した。カナダの生産地アルバータからアジア向け輸出拠点となる西海岸までの輸送用に長距離のパイプラインを建設するという構想だ。パイプライン建設大手の「エンブリッジ」が、「ゲートウェイ」という名のプロジェクトを主導し、2012年頃に操業する見込みだ。石油開発各社はカナダ・アルバータ州のオイルサンドから抽出した原油を、州都エドモントンの製油所に集めている。パイプラインはエドモントンから西海岸まで全長1200キロをつなぐ計画で、そこからカリフォルニア州やアジアに海上輸送する。
この「ゲートウェイ」プロジェクトに中国はいち早く参加を決めた。2005年5月、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)とエンブリッジが合意したのだ。パイプラインが完成した後は、西海岸からタンカーを使い、カナダ産原油が中国に運ばれるのである。パイプラインは日量40万バレルの輸送が可能で、ペトロチャイナはその半分の量を獲得するといわれている。
米国では中国企業にエネルギー会社が買収されることに抵抗感があるが、カナダは外資を排除する空気は薄い。むしろ、米国だけでなく、中国やインドという石油消費国にもカナダの石油を購入してもらいたいと考えているようだ。もちろん、日本でも関心は高いが、いかんせんスタートダッシュに出遅れた。アルバータ州にある原油埋蔵量の多い土地は、すでにカナダの石油会社、欧米メジャー、そして世界の投資家に購入されている。
ノウハウのない日本企業が今後、オイルサンドの開発のみ参加するにはハードルは高い。今になって思えばカナダのオイルサンドへの投資は、原油調達先を中東一辺倒から脱却し、中東、ロシア、カナダと分散することで、万が一の確率で起こるかもしれない21世紀の「石油ショック」のリスクを大幅に軽減できるチャンスだったのだ。
By Master K/益田 慶