世界資源戦争 25 新興産油国・石油企業の躍進 中国、日本に影響を及ぼすインドの躍進
10億の人口を抱えるインドが2004年、カスピ海の油田開発に参加する意向を明らかにし、2005年には世界で最も多い潜在埋蔵量を保有するロシアの油田開発に参加することを公表したことで、極東における「世界資源戦争」は新たな局面に突入した。インドの石油・ガス事業を牽引しているのはリライアンス財閥だが、インド政府のバックアップを受けたインド国営石油ガス公社(ONGC)も積極的に海外進出している。
2008年、ONGCはロシアの国営「ロスネフチ」とコンソーシアムを作り、サハリン油田第3鉱区の共同開発を進めるとともに、インド南部マンガロールにあるガス田の共同開発とインド小売市場へのロスネフチの参入を柱とする協定に締結するという。インド政府は国内で大型油田を開発する一方で、高度成長を続ける経済のブレーキにならないよう、安定した石油の供給先を確保する必要性に迫られているようだ。
もともとサハリン油田は、日本政府と日本の商社が中東への依存度を軽減するために1990年代初めから集中営業をかけてきたエリアだ。また中国も「中国石油化学(シノペク)や中国石油天然気(ペトロチャイナ)などの有力石油会社を通じてカスピ海の油田に巨額を投資してきた。中国は、すでに解散した石油大手「ユーコス」の中核子会社である「ユガンスク」の買収にかかる60億ドルの資金をロスネフチに提供したと伝えられている。それはロスネフチが2010年まで4840万トンの原油を中国に提供することが条件であるらしい。
送油管の誘致に巨額を投じた日本は、シベリア送油管ルートの終着地を中国の大慶からロシア沿海州のナホトカに変えることに成功した。2008年4月、ロシアを訪問した福田総理は、難しい懸案の北方領土問題はなるべく避けながら、資源におけるロシアと日本のパートナーシップを強調して帰国したといわれている。
一方、インドはロシアに対し、極東のエネルギーを「日本や中国に売るより、インドに売った方が有利」と展開し、権益拡大を求めていた。すでに2001年には17億ドルを投資し、極東資源開発プロジェクト「サハリン1」権益のうち20%をONGCの子会社がロシア企業から購入している。
そしてさらなる権益拡大を検討しており、伊藤忠や丸紅などが参画する日本勢で構成する「サハリン石油ガス開発」が保有する30%の権益を買いに来ることは大いにあり得る。インドはロシアの石油・天然ガス部門に総額で250億ドル(約2兆7000億円)を投じる計画で、進行中の「サハリン3」については、外資規制の上限である49%の権益を要求している。石油関係者はインドの動向に「日本の極東におけるエネルギー戦略がインドに侵食される心配がある」と警戒を強めている。
「サハリン3」は、キリンスキー、ベニンスキー(ヴェーニン)、東オドプチンスキー、アヤシスキーの4鉱区で構成。原油の可採埋蔵量は6億トンを上回るとされる。このうち、ベニンスキー鉱区は国営天然ガス独占企業体「ガスプロム」が開発権を獲得。残り3鉱区についてロシアはインド企業の出資を誘致したいという意向を示している。
一方、インドはロシア政府に極東のエネルギー資源開発でインドの本格的な参加を認めてもらう代償に武器市場を提供しようとしている。インドの防衛装備をめぐっては、126機の多目的戦闘機を受注した米ボーイング社が優位に立っている。このためプーチン前大統領は、インドのシン首相との会談で、エネルギー協力を進める条件として、多目的輸送機の共同開発を提案し、インドが受け入れた経緯がある。
インドは陸軍110万人、海軍5.5万人、空軍16万人を擁する世界第3位の軍事大国(1位中国、2位アメリカ)。つまり大きな武器市場を抱えているということだ。プーチンの狙いは明確だ。ロシアはその市場に食い込みたいと考えているのだ。「世界資源戦争」は、武器マーケットとも深くつながっているという図式が見えてきた。
ともあれ、中国、日本といった世界の石油消費国に次いで、これまた世界の石油消費国になりつつあるインドがロシアに進出したことで、いろんな影響が出てくるだろう。
By Master K/益田 慶