ヨーロッパの財閥と企業グループ 70 エネルギー資源をめぐる攻防(8)
ロシア最大の企業グループ「ガスプロム」が計画している、ブルガリア、セルビア、クロアチアを通過してトルコとハンガリーを結ぶ天然ガスパイプライン「ブルー・ストリームII」。そしてブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを通過し、トルコとオーストリアを結ぶ「ナブッコ天然ガスパイプライン」。両者は、トルコから中央ヨーロッパを通過し、コーカサスから西側諸国へ天然ガスを輸送するという点において競合するプロジェクトです。双方ともトルコと中央ヨーロッパをつなぎ、コーカサスの天然ガスを西側へ輸送するものです。
ロシアとEUの両方からパイプライン建設の参加を呼びかけられたブルガリアは、すでに「ナブッコ」建設のために設立されたコンソーシアムに参加することを示唆しているものの、ハンガリー同様、政府はロシアとの交渉も続けており、EUの不信を買っているのも事実です。ブルガリアのロウメン・オヴチャロフ経済/エネルギー担当大臣は、「我々は皆、ガスプロムとロシアの悪口を行っているが、それでもドイツ、オーストリア同様、フランスもロシアとの天然ガス供給30年契約に調印した」と語ります。
ロシアとのエネルギー取引は仕方ないという立場を示すのはブルガリアだけではありません。EUの強硬交渉にもかかわらず、EU加盟諸国の多くは「ガスプロム」との個別交渉を継続しています。ダブルスタンダードが成立しているのです。
EUは現在、エネルギーのロシア依存を減らし、供給源の多様化を目指しています。EUでは、ガス需要の3分の1をロシアに依存。中でも中東欧諸国は、バルト三国、スロバキア100%を筆頭に、ポーランド87%(91億立方メートル)、ハンガリー85%(110億)、チエコ73%(98億)、ドイツ41%(918億)、イタリア34%(614億)、フランス31%(371億)などロシア産の依存度が極めて高いのです。EUの中で対ロシア貿易では、ドイツが238.7億ドル(2004年)と断トツでトップ。イタリア152.9億ドル、英国77.1億ドル、フランス75.0億ドルと突出しています。米国は97.9億ドル、日本73.6億ドル、カナダ8.3億ドルとG7各国の中でも飛びぬけています。ドイツのシュレーダー前首相は、エネルギー分野を中心にロシアを欧州の経済につなぎ止めて置くことがロシアの近代化を促すと考えたようですが、反ロシア感情の激しいポーランド、バルト三国などはドイツの対ロ接近に不信感を抱いています。しかし、同時に欧州は、エネルギーと経済・金融についてロシアを組み込んでいかざるを得ないのも事実なのです。
それでは、ロシアと中央アジアの天然ガスの需供と輸出に目を向けてみましょう。ロシアの天然ガス需給は、生産6450億立方メートル。同時に中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンから550億立方メートルを輸入しています。国内需要・貯蔵は4500億立方メートルで、2500億立方メートルを欧州と旧ソ連邦へ輸出しています。中央アジア三カ国は、ロシア側に対して、現行価格より4~5割高い1000立方メートル当たり100ドル以上の輸出価格を提示しているといわれています。ロシア輸出量の約2割はこの中央アジアからの輸入に依存していますが、各国ともロシアのパイプラインに頼っているためにロシアに価格決定権を握られていました。
実はロシア既存の国内ガス田は生産頭打ちの状況で、今後中央アジア産のガスへの依存が高まることが予想されています。ロシアから欧州への輸出の8割がウクライナ経由で、ロシア産と割安な中央アジア産混合でコストを下げ、1000立方メートル当たり95ドルで5年間供給する契約が今年の年頭に締結されました。 中央アジア産の価格上昇に伴って、「ガスプロム」は年末までに160ドルに値上げする意向を示し、ウクライナに圧力をかけ始めたのです。
By Master K/益田 慶