ヨーロッパの財閥と企業グループ 69 エネルギー資源をめぐる攻防(7)
2007年3月、ロシア、イギリス、ギリシャの三カ国が調印したパイプライン建設、すなわちロシア・ノボロシスクからブルガリアとギリシャの領土を通る「ブルガス-アレキサンドロポリス石油パイプライン」の建設が完成すれば、ギリシャおよびブルガリアは欧州のエネルギー・ハブとなりますが、ブルガリア国民は「ロシア・エネルギーへの大幅依存に懸念を抱いている」と言われています。ブルガリアは天然ガスの95パーセント強をロシアに依存しており、2006年にロシアの一時的供給削減の結果、価格の45パーセント増を飲まざるを得なかった経緯があるのです。
過密化するボスポラス海峡へ石油を輸送するための代替ルートを提供する同プロジェクトは、ロシアの諸企業が51パーセントを所有することになります。実はロシアは、採算性に自信が持てないと主張して、自国企業が同プロジェクトの51パーセントを取得するまで14年間調印を避けてきたのです。完成の暁には、毎年3500-5000万トンのカスピ海およびロシア石油が、欧州、米国、アジアでの販売のため輸送されることになります。
プーチン大統領はアテネで「同パイプラインは世界のエネルギー安全を高めるもので、建設はできるだけ早期に開始する。世界市場は、カスピ海地方からの輸送増加が望めることから、同プロジェクトに関心を寄せている」と語りました。また、ギリシャのディミトリス・シオウファス開発担当大臣は、「同プロジェクトの重要性は、ギリシャおよびギリシャ国民、ブルガリアおよびブルガリア国民すべてにとって明らかである。ギリシャおよびブルガリアは、同パイプラインの建設、オペレーションによりグローバル・エネルギー地図の重要地点となる」と述べています。
しかし、ブルガリアのコズロドゥイ原子力プラントの元エンジニア、ペタール・アポストロフは「ブルガリア国民は、昨年の冬にロシアの脅威に曝された西ヨーロッパと同じ境遇に置かれるのではないかと、ロシア・エネルギーへの大幅依存に懸念を抱いている」と語ったようです。アポストロフは、ブルガリアの現政府はクレムリン寄りで、ロシア連邦企業と安易にエネルギー契約を結んでしまうと考えているのです。
事実、ロシアは天然ガスの供給に関してブルガリアを支配しています。ブルガリアはロシア企業の「隠れ家」であるだけでなく、東西を繋ぐロシアのエネルギー・インフラ建設プロジェクトの理想的パートナーとなる地理的要件を備えているのです。
ロシア最大の企業グループ「ガスプロム」は、「ブルガス-アレキサンドロポリス石油パイプライン」に加え、同様の天然ガスパイプライン「ブルー・ストリームII」にもブルガリアを加えたい意向を示しています。この計画はブルガリア、セルビア、クロアチアを通過してトルコとハンガリーを結ぶものです。オランダ系企業が「ガスプロム」とイタリアの企業と共同して建設しようとしているラインです。
しかし、ブルガリアを口説いているのはロシアばかりではなく、EUもブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを通過し、トルコとオーストリアを結ぶガスパイプライン「ナブッコ天然ガスパイプライン」建設のためブルガリアを必要としているのです。
オーストリアは天然ガスの60パーセントをロシアに頼っています。ロシアからのガス依存を打開しようと、オーストリア最大のガスと石油企業OMVが中心となり、「ナブッコ天然ガスパイプライン」の建設計画を進めているのです。オーストリア有数のゼネコンを、ロシアの新興財閥ロシア・アルミニウムのデリパスカが買収したばかりなので、オーストリア企業に反ロシアの傾向が強いのかもしれません。OMVにとっては「ガスプロム」などロシアのエネルギー企業の進出を防ぐ意味もあるでしょう。
オーストリア最大のエネルギー起業OMVは今春、イラン国営石油会社と天然ガス開発に関する仮契約に署名しています。年間220万トンの液化天然ガスを欧州向けに供給するほか、ペルシャ湾岸の大規模ガス田の開発にも資本参加するとのことです。この仮契約に不満を示したのが米政府です。本来、米企業が結びたかった契約をOMVが先に結んだからです。しかし天然ガスの供給をロシアに依存するオーストリアにとっては、イランの天然ガスがどうしても必要なのです。イランの天然ガスは、2011年に完成予定のクロアチアKRK島の天然ガスターミナルへ船で輸送されるとのことです。
By Master K/益田 慶