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ヨーロッパの財閥と企業グループ 67 エネルギー資源をめぐる攻防(5)

2006年7月にトルコの港町ジェイハンで開かれた「BTCパイプライン」の完成記念式典で、トルコのセゼル大統領は「エネルギー・ハブ」としての重要性を指摘し、同じくトルコのエルドアン首相は「資源を東から西へ運ぶ21世紀のシルクロード」と述べました。イラクで4番目の大きさを誇るキルクーク油田からのパイプラインが再開すれば、ジェイハンには2010年に年間約2億トンの石油が集まり、欧州最大の石油輸出ターミナルとなることが予想されています。そしてトルコは欧州連合加盟問題などで外交発言力を拡大することでしょう。


内陸の湖であるカスピ海周辺で採出された石油を大市場である欧米やアジアへ運ぶために、1990年代初めから運搬ルートとしてパイプラインの建設が進められてきました。ルートは大きく分けて次の3つがあります。(1)既存のロシア主導のルート (2)欧米主導のカザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンがロシアと対抗できるようにするルート(BTCパイプライン) (3)東からアクセスする中国ルート。


2001年末にロシアルートのひとつ、カザフスタンのテンギス油田からロシアの黒海沿岸のノボロシスクを結ぶ「CPC」(カスピアン・パイプライン・コンソーシアム:ロシア、カザフスタン、オマーン3カ国設立)ルートが完成しました。一方、アゼルバイジャンは、カスピ海バクーからロシア経由黒海沿岸のノボロシスク港に至るパイプラインとともに、ロシアを経由しないでグルジア経由でトルコのジェイハンに至る「BTCパイプライン」を通じても原油を輸出しています。


迂回路をつくられたロシアにとって「BTCパイプライン」の完成はおもしろくない事態です。ロシアは親欧米姿勢を強めるグルジアに接近しようとするアゼルバイジャンへのガスと電力の供給を2007年から6~8割削減すると脅しをかけてきました。これへの対抗措置としてアゼルバイジャンのアリエフ大統領は、2006年12月、ロシア経由の原油輸出に日量5万バレルを削減すると表明、完全停止の可能性も示して対抗してきました。


ロシアは関係悪化するグルジアに対して2007年から現行の2倍強のガス価格1000立方メートル当たり235ドルを受け入れなければ供給を停止すると通告、グルジア側はアゼルバイジャンとガスと電力供給で相互協力すべく交渉に入り、天然ガスを毎月100万立方メートル、価格1000立方メートル当たり120ドルで緊急輸入しました。しかし必要量全量の確保は難しく、ロシアの圧力を受け入れざるを得ない様相です。


一方、バクー油田からはグルジアの黒海沿岸のスプサを結ぶパイプラインが1999年に完成しています。ここにトルコが深く関与してきます。黒海からタンカーが地中海へ抜けるには、トルコ・イスタンブール市の真ん中を通る巨大な川のような海峡、約30キロの長さのボスポラス海峡を通過しなければなりません。海峡は狭い場所で幅700メートル。船舶は最大80度の角度で12回も方向転換を繰り返さなければならず、冬場は深い霧がかかり、大型船舶には危険極まりない地帯です。


年間5万隻の船舶通行に対して、トルコ政府はタンカー事故による原油流出、環境破壊により1200万人市民に被害が及ぶ事態を恐れ、長さ200メートル以上の大型タンカーの夜間通行禁止と1日当たりのタンカー通行量を制限しました。このため巨大なタンカーが何日も停泊順番待ちの状態が続いたのです。
「BTCパイプライン」の建設は、アゼルバイジャンにとってはロシアを経由しない石油の輸出ルートを確保する目的で実行されましたが、トルコにとってはこの輸送ネックの解消と、イラク情勢の泥沼化によってイラク北部からトルコに向かうパイプラインが何度も攻撃され、イラクの油田全面再開がかなり先になるとの見通しがあったので、完成を急ぐ必要があったのです。


By Master K/益田 慶