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ヨーロッパの財閥と企業グループ 66 エネルギー資源をめぐる攻防(4)

今週から数回に分けて、カピス海周辺のエネルギー資源をめぐるロシアと欧州、そして西アジア、アメリカをも巻き込んだ攻防を紹介していきます。

この地域はチェチェン紛争や、アルメニアとアゼルバイジャンの「ナゴルノ・カラバフ紛争」などの民族紛争が起こり、その陰で列強と巨大企業グループの利権争いが繰り広げられてきました。
カピス海にはサウジアラビアに匹敵する大きな油田地帯があります。最も有名な油田は、ダイナマイトの発明で名高いノーベル兄弟が開発したバクー油田です。油田のある都市バクーはアゼルバイジャン共和国の首都で、旧ソビエト連邦の国です。また、カピス海周辺には膨大な天然ガスの埋蔵量も確認されており、ソ連邦崩壊後、米国をはじめとする西欧諸国は、様々な形で資本を投入し、この地域における資源開発のプロジェクトを推進してきました。


この地域には資源開発そのものとは別に輸送ルート(パイプライン)の確保が重要な課題となっています。その背景には、旧ソ連邦であるこれら諸国(アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)を通る既存のパイプラインのほとんどすべてがロシアを経由するものとなっているため、パイプラインの使用に当たってロシアと交渉し、パイプライン使用料を支払い続けなくてはいけないからです。


そこで油田を持つカスピ海周辺諸国は、ロシアを経由しない輸送ルートの確立を目指してきました。アゼルバイジャンは、ロシア経由で黒海に出る石油パイプラインの他に、グルジア経由で黒海に出るルートを稼動させ、グルジア、トルコ経由で地中海に出るルートを検討してきました。また、トルクメニスタンは、イランを経由してトルコに至る天然ガスパイプライン及びアフガニスタンを経由してパキスタンに搬出する天然ガスパイプラインを計画中です。著しい経済成長を続けるカザフスタンは、中国とパイプライン敷設を含む油田開発契約を結ぶなど、ロシアを経由しない輸送ルートの確保を図っています。これら実現すれば、ロシアに依存しないで欧州やアジアにエネルギー資源の輸出が増大する可能性が出てきます。


ロシアを経由しない石油のパイプラインとして名高いのが「BTCパイプライン」です。2006年6月、カザフスタンが「BTCパイプライン」への原油供給契約に調印し、やっと稼動に結びつきました。かつてソ連の支配下にあった国からすれば大きな決断です。このパイプラインは、カスピ海対岸のアゼルバイジャンとトルコの地中海岸を結び、ロシア領を回避し、ロシアの影響を排除する目的で敷設されたものだからです。こうしてロシアはもとより、ペルシャ湾岸も経由せずに国際市場への直送が可能となったのです。
BTCパイプラインの「BTC」とは、起点であるアゼルバイジャンのバクー(B)、通過するグルジアのトビリシ(T)、終点トルコのジェイハン(C)の頭文字をとったものです。全長約1760キロ。2005年に供用を開始し、1日約100万バレル、総工費36億ドルで米国がルートの選定や建設を主導しました。


その石油開発事業と輸送事業は、日・米・欧が国際企業連合を形成し、国際メジャー石油会社BP社(英国)が主な運営主体を努めています。日本企業は伊藤忠商事が参加していますが、ロシアの石油企業、たとえば国営の「ロスネチフ」や新興財閥「ルクオイル」の名前はどこにも見当たりません。石油はアゼルバイジャン領にあるバクー沖合いのカスピ海底の鉱区「アゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)」から供給。可採埋蔵量は54億バレルで、それはインドネシア1国分を超える量です。こうしてメジャーのBP社は、カピス海周辺の石油ルートの争奪戦において、ロイヤル・ダッチ・チェル(オランダ)やエクソンモービル(米)を寄せつけず勝利を収めたのです。


By Master K/益田 慶