ヨーロッパの財閥と企業グループ 65 エネルギー資源をめぐる攻防(3)
EUが進めてきたエネルギー市場の自由化にともない、欧州の電力会社、原発企業は、すさまじい数の買収、合併を展開しています。
海外資本の進出攻勢にさらされているのは、スウェーデンやドイツだけではありません。欧州で最も早く1990年から自由化された英国では、最大手のイノジー社がドイツのRWE社に、第2位のパワージェン社が同じくドイツのエーオン社によって買収。英国には米国やフランスからの資本進出もあり、今や主要電力会社の大半に海外資本が入っています。日本でたとえるなら、東京電力や関西電力が外資系企業になったようなものです。
欧州の電力業界は今、フランスのEDFを筆頭に、ドイツのエーオン社とRWE社、スウェーデンのバッテンフォール社、イタリア電力公社(ENEL)の5社が売り上げの上位を占めています。そしてこの5社の下に、各国の電力会社が再編されつつあります。つまり、新たな企業グループが構築されつつあるのです。
電力業界再編の背景にあるのが、欧州全域にクモの巣のように張り巡らされた送電線網と電力取引市場です。EUが単一通貨ユーロの登場によって金融市場が一体化されたように、電力も国境を越えて自由に取引される時代を迎えているのです。その動きを最も象徴しているのが、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの北欧4カ国で設けている北欧電力取引所「ノルドプール」です。世界の電力取引所の「成功例」とされています。
ノルドプールは、1991年に自由化したノルウェー国内の電力取引所が発端となっています。他の3国が自由化と共に加わり、ノルウェー160社、スウェーデン65社、フィンランド30社、デンマーク20社をはじめ、ドイツ、英国、フランスなども含む計300社が参加し、電気を株式や為替のように売買しています。翌日の電力について入札するスポット市場や週、季節、年単位の先物市場などがあり、今や北欧4カ国の電力のうち、ノルドプールを通して売買される電力が20%を占めるまでになっているのです。ここで決定される価格はノルドプール外での相対取引価格の指標となるほか、ノルウェーでは小売価格に連動させることが認められているため、スポット価格の変動は大きな影響力を持っています。
北欧は国ごとに水力や原子力、火力などの電源構成が異なっており、相互に補完しやすい関係にあります。それがノルドプールでの取引を円滑にし、取引量を増やす一因になっているようです。各国間の長期契約に基づいた輸出・輸入も盛んで、その最大の拠点となっているのが、世界でも米国に次ぐ原発58基を保有するフランスです。
フランス電力公社(EDF)は80年代から、増えすぎた原発によって生み出される大量の余剰電力をさばくため、輸出契約を隣国のドイツやイタリア、スイスなどと結んでいます。欧州高圧送電線運営者連合によると、主にドイツ、イタリア、スイスに電力を輸出しています。
輸入側のスイスでは、フランスからの安い電気を使い、下のダムから上のダムに水をくみ上げて落下させて発電する揚水発電に利用。そこで生産した電気は、今度はイタリアへ再輸出しているといいます。
スイスからすれば「輸入した安い電気を高い価格で輸出し、差額が得られる」というしくみです。またイタリアへ輸出しているのは水力発電に変えた電気なので、原発がないイタリアの国民も受け入れやすいと見ているようです。
日本のような島国は国内で電力のすべてを賄わなければなりませんが、欧州では各国間で自由に電力をやりとりできる体制が整っています。ドイツやスウェーデン、ベルギーなどが脱原発へと踏み出せたのは、万一電力が足りなくなっても輸入に頼れる欧州の利点があったということでしょう。
By Master K/益田 慶