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ヨーロッパの財閥と企業グループ 63 エネルギー資源をめぐる攻防(1)

欧州諸国、アラブ諸国、中央アジア諸国における紛争の火種は、表立っては民族の対立や宗教の対立のように見えますが、水面下では石油や天然ガスなど地下にエネルギー資源を有している国と資源のない国、そしてグローバルな展開を進める企業グループの攻防が繰り返されています。今週から軸足をエネルギー資源に移し、欧州財閥や企業グループのせめぎあいを見ていきます。


ドイツを代表するエネルギー会社「エーオン」は、電力・ガスなどを供給するヨーロッパ有数の企業グループで、世界最大規模の民営エネルギー供給会社です。ドイツ国内外で多数の原子力・火力・水力発電所を運営するほか、スウェーデンのシドクラフト社や英国のパワージェン社を買収し、それぞれ「エーオン・スウェーデン」「エーオンUK」に改名し、グループ化を進めてきました。2003年には、ドイツのガス会社「ルールガス」(後にエーオン・ルールガス)を買収し、ガス市場に参入。エーオン・ルールガスは現在、欧州20カ国以上で天然ガスを供給しています。今夏8月には、英蘭資本の石油メジャー、ロイヤル・ダッチ・シェルからノルウェー海にある2カ所のガス田の権益28%を取得することで合意したと発表しました。取引額は8億9,300万ドルとのことです。


石油や天然ガス、電力などエネルギーをめぐる欧州各国の駆け引きは熾烈を極めています。国益と企業の利益を優先し、企業買収・合併はもちろんのこと、大統領や首相もトップセールスを続けています。
2005年、当時のドイツ・シュレーダー首相とロシア・プーチン大統領の臨席のもとで「ドイツ-ロシア・ガスパイプライン」が締結されました。ロシア・ドイツ共同事業として47億ドルの予算を投下して実施されるこの天然ガスパイプライン開発計画は、詳しく言えば、世界屈指の天然ガス会社であるロシアの「ガスプロム社」と、ドイツの化学薬品会社BASFグループ、エーオン社の間で締結されたものです。2010年から操業開始の予定です。


ガスプロム社はパイプライン事業体の51%の株を保有し、残りはBASF社24.5%、エーオン社24.5%という保有率です。BASF社は従業員数8万人超という世界有数の巨大企業グループで、化学業界の売上げとしては世界第一位。一方のエーオンは、世界最大規模の民営エネルギー供給会社。さらにエーオン・ルールガス社はルールガス時代に当時のエリツィン・ロシア大統領令によってガスプロムの株主となり、ガスプロム社の株式を6.5%保有しています。ルールガスは、ガスの需要のほぼ3分の1をガスプロムの供給量でまかなえるようになり、2030年までの長期にわたる供給が保証されているのです。
ちなみに天然ガスパイプライン開発を担当するロシア・ガスプロム社の共同事業体取締役会長に就任したのは、シュレーダー元首相でした。シュレーダー元首相は現在、ガスプロム社の取締役も務めています。政界引退後に安定した就職先を見つけたということです。


さて、このガスパイプラインは、ロシアのヴィボルクからドイツのグライフスヴァルトに向けて敷設されるパイプラインで、全長約1200キロメートル。陸上ではなく海底に敷設されるため、バルト海を通じて直接ドイツ-ロシア間を結ぶパイプラインとなります。このためロシアとドイツの中継地となってきたポーランドやバルト三国が猛反発しましたが、当時シュレーダー首相は、このパイプラインは「誰かに対抗するという趣旨のものではない」とバルト三国の非難を一蹴しました。


ドイツが他国から天然ガスを供給しなければいけない理由は、ドイツが新しい原子炉の建設を許可していないからです。原発に代わるクリーンエネルギーとして、ドイツでは天然ガスの消費量が年々増加してきました。ドイツのセントラルヒーティングシステムの約半数はガスによって運転されており、新築住宅の4分の3までがガス式のセントラルヒーティングシステムを導入しているとも言われています。また、天然ガスは火力発電にも使用されています。

By Master K/益田 慶