世界資源戦争15 新興産油国・石油企業の躍進 ベネズエラのエネルギー外交
南米最大の産油国ベネズエラのすべての油田は現在、国営石油会社PDVSAもしくはその合弁会社の管理下となっており、2018年までに3000億ドル以上の増収が見込まれているとされる。ベネズエラ・チャベス大統領のエネルギー外交は、ロシア・プーチン大統領の手腕同様、潤沢な石油収入を背景にした強気でしたたかな外交だ。たとえばブラジルに30億ドルの予算でタンカーを発注し、その一方でブラジル石油公社Petrobras(ペトロブラス)と共同出資でブラジル北東部のペルナンブ州に石油精製設備を建設する。この精製所は「ブラジルで25年ぶりの新設プロジェクト」と呼ばれている。ブラジルに進出したPDVSAは、すでにブラジル東北部でのガソリンスタンド経営が認められている。
中南米の原油埋蔵量のベスト3は、メキシコ、ベネズエラ、ブラジルで、各国が国営石油会社を持っている。メキシコ石油公社PEMEXとベネズエラPDVSAの売上はほぼ同じで、ブラジル石油公社ペトロブラスは両社の約半分の売上高だ。一方、石油精製能力はブラジルが1位でベネズエラはメキシコに次いで3位。サトウキビを砂糖とアルコールに直接利用する世界屈指の国ブラジルは近年、石油精製、アルコールの生産が増大し、一大産業になっている。ベネズエラの石油精製能力は低い。その国内の処理能力不足を補うためにブラジルに石油精製設備を建設するということだ。このようにベネズエラとブラジルは足りない部分を互いに補って共栄共存するような関係を深めている。
ベネズエラは2005年、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイが加盟するメルコスル(南米南部共同市場)への正式加盟が承認された。メルコスルとは、域内の関税及び非関税障壁の撤廃などによる財、サービス、生産要素の自由な流通を図る「関税同盟」だ。見方によっては米国主導の米州自由貿易地域(FTAA)に対抗するグループといえる。さらにベネズエラは、ボリビア、キューバとの間で人民貿易協定(TCP)も締結している。これらのグループ化は、ラテンアメリカにおけるベネズエラの影響力の拡大を物語っている。南米最大の産油国で最大の天然ガス埋蔵量を誇るベネズエラの眼目は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイなどラテンアメリカ諸国に原油と天然ガスを自由に販売することだ。事実、メルコスルへの正式加盟後、PDVSAはアルゼンチン国営企業と合弁でガソリンスタンドを経営し、アルゼンチン国内のガソリンスタンド115店を支配下に置いた。
ブラジルやアルゼンチンのように天然ガスを他国からの輸入に依存するしかない国にとって、天然ガス供給国のベネズエラとボリビアは親密にしなければいけない国。そういう関係があり、ブラジル石油公社ペトロブラスがボリビアのエネルギー分野に15億ドルの投資をし、ボリビア最大の投資企業となっているのである。こういった資源をめぐる各国の関係性の見取り図を描いたのがチャベス大統領であったと見るべきであろう。
さらにチャベス大統領はアジアやアフリカ、中東などとの関係強化を目指して外交を続けている。その顕著な例が開発途上国と連携する油田開発だ。チャベス大統領は、国内からフランス・トタル社やイタリアENL、米エクソンモービルなど欧米メジャーを追い出した一方で、新興国企業とは合弁会社を築いている。パートナーに選んだ企業は、中国ペトロチャイナ、インドガス石油公社のオイル・アンド・ナチュラル・ガス社(ONGC)、イランの石油天然ガス企業ペトロパース(Petropars)などだ。
ベネズエラがこれらの企業をパートナーに選んだ理由はどこにあるのだろうか。イランは同じく反米派で、イランのアフマディーネジャード大統領とチャベス大統領は、ブッシュ米大統領を名指して批判する急先鋒だ。では、中国とインドはといえば、ベネズエラは世界第2位の石油消費国である中国、そしておそらく中国に次ぐ石油消費大国になると予想されるインドに原油を輸出することを念頭に置いて連携しているのではないだろうか。
By Master K/益田 慶