ヨーロッパの財閥と企業グループ 61 欧州財閥の系譜(37)
旧ソ連領のカザフスタンは、世界地図の上では「中央アジア」に属していますが、公用語はロシア語で、ロシア系住民が多数を占める国です。文化的にヨーロッパ化された国といえるでしょう。また、ロシアやウズベキスタン同様、地下天然資源が豊富なことで知られています。特に金属資源で世界的な埋蔵量を誇るものが多く、鉄の生産量は世界の8%に及ぶほか鉛、タングステン、モリブデン、バライトは世界一の埋蔵量、クロム、銀、亜鉛、マンガン、銅、金も世界トップクラスの埋蔵量を有しています。
この国から世界の億万長者ランキングにただ一人ランキング入りしているのが、カザフスタンにおける事実上の銅地金生産の独占企業「カザクムス」のオーナー、ウラジミール・キルです。名前からしてロシア系であることがわかります。ちなみに彼の純資産6600億円は、米アップル社CEOのステーブ・ジョブスとほぼ同額です。
97年に設立したカザクムスは、旧ソ連から独立した際に、ただ同然で償却済みの設備を手に入れたばかりでなく、ほぼ探鉱済みの超優良鉱区の優先割り当てを受けており、相当の含み資産を有していると思われます。精錬所や銅化学工場のほかに発電所、石炭鉱山を所有し、銅精錬関係企業群を傘下に置いています。
同社の売上の10%は、ヨーロッパ市場における販売によるものです。輸送はロシア経由で黒海、バルト海から積み出しているので、輸送コストはロシア情勢に左右されています。またロシア国内の製鉄企業との競合も激しくなっています。このような背景からロシア系の企業色が強いですが、実はカザクムス社は、韓国企業サムソンが権益の4割を保有する企業なのです。銅製品の大半はサムソンがカザクムス社に有利な条件で買い付けています。ですから、サムソンがカザフスタンの有力企業グループに資本を投入して多国籍企業グループを築いたとも表現できます。
ちなみにカザフスタンのアルミ系企業のトップ「アルミヌ・カザクスターナ」にはイギリス企業の資本、鉄系企業のトップ「ソコルボスコ・サルバイスコエ」にはアイスランド企業の資本、亜鉛のリーディング企業「カズジンク」にはスイス企業の資本が、それぞれ投入されており、外資系企業が目白押しです。たとえば97年に設立された、カザフスタン最大の亜鉛生産企業「カズジンク」は、翌年には政府所有の権益の6割をスイス企業グレンコア社に譲渡。それによってカザフスタンの亜鉛の輸出権はグレンコア社が独占的に支配することになったわけです。カズジンク社は世界の約3%の亜鉛を生産。主な輸出先は北アメリカと欧州です。
このように俯瞰して見ていくと、カザフスタンの金属資源をめぐって多くの外国企業が進出していることがわかります。こういった現象は欧州の他の国でも見られます。鉱物資源に恵まれた国にとって外貨獲得のために鉱業は重要な位置を占めているのです。
たとえば東ヨーロッパの小国アルバニアは、クロム、ニッケル、銅など鉱山資源に恵まれていますが、長年の鎖国政策や90年代に経済の混乱が続いたことから、開発が遅れていました。80年代に世界第3位の高品位クロム鉱石の生産を記録したものの、その後、施設の老朽化などで生産量は落ち込みました。そこに登場したのがイギリス、イタリア企業によるコンソーシアム(共同事業)です。アルバニアは地下資源の消費地である欧州に近いので、欧州企業が投資計画を練りやすいということでしょう。
同じく鉱物資源が豊富なブルガリアは国営企業の民営化を促進しているものの、近代的な鉱業法の整備が遅れて、外国企業の進出の足かせとなっていました。しかし90年代後半に民営化された製錬所をベルギーの企業が買収したり、アイルランド企業と米国企業が銅鉱山を合弁で買収に乗り出すなど、やはり外国企業が開発に進出しています。
今後はこういった地下資源をめぐる欧州企業の攻防にも着目していきます。
By Master K/益田 慶