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ヨーロッパの財閥と企業グループ 58 欧州財閥の系譜(34)

ウラン価格の高騰や世界的な原子力業界の再編で、原発ビジネスを取り巻く環境は大きく変化しています。

ロシア政府が設立を進めている国営原子力独占企業体アトムエネルゴプロムは、完成した暁にはウランの採掘や濃縮、原発燃料の製造と輸出、原発の国内運営や海外での建設など、原子力関連企業を統合する大企業になります。ロシアの原子力発電ビジネスを一手に引き受ける巨大なグローバル企業グループが誕生するわけです。天然ガス独占企業「ガスプロム」の原子力版に相当する巨大戦略企業になることでしょう。その傘下にすべての平和利用原子力エネルギーに関する計画を集中させ、原子力分野のすべての民間企業を統合させる連邦所有の会社が誕生するのです。


こうしてロシアのエネルギー分野は、軍事部門とエネルギー部門の2つの巨大核部門から成り立つことになります。軍事部門は不透明ですが、エネルギー部門の「アトムエネルゴプロム」は原子力技術をグローバル市場で競う巨大企業グループになり、その協力企業が日本の東芝になりそうなのです。


視点を変えるなら、東芝が原子力発電所の大型機器の合弁生産工場建設で大筋合意していることから、有望な原発市場であるロシア市場に日本企業が進出する大きな足がかりになるというわけです。アトムエネルゴプロムの建設時期や建設地、投資額は未定ですが、出資比率はロシア側が51%、東芝が49%とする案が有力。東芝によるロシア国内の原発保守事業への参加やアトムプロムに対する原子炉の技術供与も交渉の議題となる見通しで、年内決着を目指しています。

ロシアは今後25年間で、40~60基の原発建設を新たに予定していますが、主要部品の生産力や技術力不足が課題となっています。このため東芝の技術を活用して、原発整備を急ぎたいという背景があるのでしょう。一方の東芝は、ロシア政府やアトムエネルゴプロムとのパイプを築くことで、ロシアでの原発ビジネス拡大につながると判断したようです。ロシアは米国や中国に並ぶ有望市場です。合弁工場で生産した機器が採用されれば、保守管理などの原発関連ビジネスの拡大も期待できます。


東芝が合弁工場で生産を予定している発電機や大型タービンは、原発の中核機器です。さらに東芝は米露政府間で協議中の原子力協定成立をにらみ、昨年買収した米原発大手ウェスチングハウス(WH)や、WHに共同出資する石川島播磨重工業にも提携への参加を促す方針とのこと。その先に「東芝-WH-アトムエネルゴプロム」の日米露にまたがる、大型提携への拡大の可能性が見えてきました。

東芝のWH買収に対しては、三菱重工業が仏アレバと提携、日立が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と事実上の事業統合で合意するなど、ライバル各社が包囲網を築きつつあります。東芝はロシア企業と手を組むことで、世界の原発ビジネスで優位に立つ狙いもあるようです。


さらに東芝の決断の背景には、日本政府の意向もあったようです。未開発のウラン埋蔵量が豊富にあるロシアは、日本のエネルギー戦略にとっても重要な位置を占めています。日本政府が2月末、国内の原発から回収されたウランの濃縮をロシアに委託することを前提にロシア政府と交渉に入ったのも、エネルギー源確保とロシアへの原子力ビジネス拡大の足場作りが目的でした。東芝が発電機などの原発用機器の工場をロシア国営企業と合弁で設立することは、日本政府の後押しがあったからだと判断したほうがよいでしょう。


一方、ロシアはサハリン沖の資源開発事業「サハリン2」では、政治的な圧力などを駆使して、国際石油資本のロイヤル・ダッチ・シェルや三井物産、三菱商事から事業の主導権をロシア国営企業に強引に移管することに成功しています。そういった前例があるだけに、見方によっては東芝にとってリスクの高い試みともいえるでしょう。


By Master K/益田 慶