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ヨーロッパの財閥と企業グループ 56 欧州財閥の系譜(32)

先週のコラムで「ロシア鉄道」社長ウラジミール・ヤクーニンをプーチン大統領の側近の新興財閥として紹介しましたが、ヤクーニンは鉄道事業だけでなくロシアの主要な海港の利権をほとんど押さえ、確実に財を築いてきました。次期大統領の隠れた有力候補として名前が挙がるのも当然でしょう。ロシア式資本主義を実践するには大統領にも優れたビジネス感覚がなければいけません。

新興財閥出身の大統領候補といえば、クラスノヤルスク地方知事のアレクサンドル・フロポニンがいます。「ネオクシム・バンク」を経営した後、クラスノヤルスク地方を拠点に置く巨大金属会社「ノリリスク・ニッケル」の社長に就任。プーチン大統領の強い支援を受け、2002年にクラスノヤルスク地方知事に就任してからは、これまで地下資源の開発が遅れていた東シベリアに眠る石油・天然ガスの埋蔵量の調査に力を注いできました。一説によれば同地方の確認埋蔵量は石油26億トン、天然ガス1.5立方メートルにも及ぶとされており、これはロシアの石油生産量の5.5年分、天然ガス生産量の2.5年分に当たるとのことです。

それだけの埋蔵量が事実だとすれば、外国企業が東シベリアの地下資源開発にこぞって協力を申し出るところですが、フロポニン知事は「外国企業がロシアの地下資源を開発するのが良いことだとは思えない」と発言しています。石油や天然ガスなどの地下資源を国家統制下に置き、それを外交上の武器とするプーチン政権の方針どおりのコメントです。
この財閥知事の強気の背景には、同地方が石油・ガスのみならず、金やプラチナ、アルミニウム、ニッケルといった非鉄・貴金属に富んでいることもあります。ロシアのニッケルの80パーセント、コバルトの75パーセント、銅の70パーセント、石炭の16値パーセント、金の10パーセントを産出しています。金属市場の高騰により同地方内の各企業の業績も絶好調で、地方税収は4年間で4倍増にまで伸びています。「ノリリスク・ニッケル」社長時代の財を築いたフロポニン知事は、次に東シベリアの開発でビジネス感覚を発揮しているようです。

新興財閥出身の知事はほかにもいます。ロシアのダイヤの99パーセントを産出するシベリア・サハ共和国の大統領は、地元ダイヤモンド企業「アルロサ」元社長のビャチェスラフ・シトイロフです。プーチン政権が擁立していたことから、この財閥大統領もまたロシア政府の意向を体現しています。

アルロサ社はロシア連邦大統領令にもとづき設立された企業で、戦略指導にあたる最高機関は総数15名からなる監査役会で構成されています。監査役会のメンバーは主に政府高官、ロシア連邦です。主要な株主はロシア政府37パーセントとサハ共和国政府40パーセント。同社は「ダイヤモンド生産・輸出公団」といったところでしょうか。ロシアの大地に眠っているのは、石油と天然ガス、ニッケルやコバルトばかりではなく、ダイヤモンドもあったのです。世界全体の23パーセントの採掘量を誇るとのことなので、サハ共和国は「ダイヤモンド共和国」とも呼べるでしょう。

同社は生産を多角化するために一連の子会社を設立すると同時に既存の事業会社の株式を取得しています。現在アルロサ社は、30以上の事業会社に参加しており、従属する子会社のコングロマリットを「アルロサグループ」と呼んでいます。アルロサ社を多国籍の各部門企業に変えるプロジェクトが実現されつつあり、同社はサハ共和国の域外、すなわちクラスノヤルスク地方、アルハンゲリスク、イルクーツク、ボロネジの各州、カレリア共和国、アフリカ大陸などのダイヤモンド探鉱業務に乗り出しています。そして輸出のターゲットがいま日本に向かっていることもまた事実なのです。


By Master K/益田 慶