ヨーロッパの財閥と企業グループ 53 欧州財閥の系譜 北ヨーロッパ天然ガスパイプライン

今後の欧州におけるエネルギー市場を大きく塗り替える可能性のある「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」は、世界最大のガス会社、ロシア・ガスプロムとドイツBASFグループが進めている壮大な計画です。BASFグループの中核を成すのはヴィンタースハール社で、オランダやロシアで事業展開する掘削会社です。


西シベリア北部のガス田からバルト海の海底を通り、ドイツを経由して、英国までガスを運ぶパイプライン建設は、2010年の完成を目指しています。ガスプロムにとって欧州は、年率3.3%で成長し続ける巨大市場です。また、米国以外では最もガス価格が高く、生産者が執着したい地域でもあります。完成した暁にはガスプロムの欧州進出を一気に促進するものになります。


バルト海経由で西欧に西シベリアの天然ガスを送るパイプラインの具体的なルートは、フィンランド国境近くからバルト海底を通り、ドイツ、オランダ経由で英国まで至るものです。海底部分の総工費は約20億ドルと報じられており、従来のルートであるウクライナ、ベラルーシへの対抗力を発揮します。両国がロシアに泣きついても、この計画は実行されるでしょう。


また、この計画に伴い、西シベリアでのガス田新規開発が進められています。このガス田が「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」への主要な供給ガス田となるのです。


ドイツには、ヴィンタースハール社とガスプロムにより設立された合弁企業ウィンガスがあります。ドイツ国内のガスネットワークを扱うガス販売企業で、ガス配送ではドイツで第4位。このネットワークを「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」につなぎ、国内の配送を行う予定です。当初の出資比率は、ヴィンタースハール社65%、ガスプロム35%の出資でしたが、2005年末にはガスプロムのシェアが49%まで引き上げられました。これはガスプロム側にとって魅力的な提携であることを物語っています。ガスプロムは、ガスの生産、輸送、マーケティングまでの一貫体制をドイツ企業と組んで立ち上げようという意思表明とも言えるでしょう。


一方のドイツには、原子力発電の段階的廃止を受けて新たなエネルギー政策であるクリーンエネルギーの確保という意図があります。2000年当時のシュレーダー政権は、電力業界が原子力から撤退することを認めさせ、1960~70年代に運転を開始した原子炉を廃棄することを決定しました。ドイツばかりでなく、ベルギーやスウェーデン、スイス、オランダ、ブルガリア、リトアニア、イギリスなど欧州諸国が脱原発を目指したのは、1986年に勃発した「チェルノブイリ原発事故」の反省があります。欧州の地続きの各国は、原発事故が起こった場合、放射能汚染から逃げられないことから、欧州の電力政策は天然ガス発電、風力発電、太陽発電などクリーンエネルギーの確保に動いてきました。環境立国ドイツは、特に原子力に敏感であったということです。


オランダも「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」につなぐ国内ガスネットワークの整備に積極的な国です。そしてその先に最大のターゲットであるイギリスがあります。英国へのガスの販売は2002年に開始しましたが、ガスプロムの英国におけるシェアは低く、2010年までにイギリスでの消費量の10%のシェアを獲得したいと考えているようです。英国のガス需要は急増しており、2010年にはガスの純輸入国となる見込みです。


このように世界最大のガス会社ガスプロムは、欧州進出を確実にしつつあります。時価総額が伸びる要素はほかにもあります。ガスプロムには米国市場を念頭に置いた開発計画も浮上しているのです。これは情報が集まり次第レポートします。


By Master K/益田 慶