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ヨーロッパの財閥と企業グループ 52 欧州財閥の系譜 ウクライナ財閥

政治・経済の両面でロシアの影響を大きく受けるウクライナは、2005年に改革派で親米派のユシチェンコ政権の成立後、暗転し始めました。それまでの好調な経済は、ロシアからの安価なエネルギー資源及び原料の供給、経済発展を続けるロシアや中国への輸出等によって支えられてきました。しかしユシチェンコ大統領は就任直後、ロシアとは距離を置き、EUやアメリカなどとの関係を強化する姿勢を示したのです。大統領はアメリカなど西欧諸国からの投資拡大を見込んでいたましたが、実際にはそれほど投資は増えず、逆にロシアからの安価な資源供給が受けられなくなり、またロシアに並ぶ輸出相手国であった中国の需要が減少するなど経済環境が悪化しました。


ロシアからの安価な資源供給が受けられなくなると、両国間で紛争が始まります。具体的にはロシア「ガスプロム」とウクライナの国営企業「ナフトハス・ウクライナ」との争いです。新政権が新米寄りの立場を明確にしたことで、ガスプムは天然ガスの供給量の減や料金アップをウクライナに申し出ました。
同じくロシアと西欧との中間にあるアルメニアに対してもロシアはガス料金改定を行い、ベラルーシにはガス料金を低価格のまま据え置く代償として、ベラルーシが保有するパイプラインの権益の一部をロシアに譲渡することが決定しました。


ガス料金改定のニュースは、ウクライナ経由でガスの供給を受けている西欧諸国にも影響を与えました。ガスの供給不安に直面したからです。ガスの調達先や輸入ルートの変更、原子力発電の見直しなども視野に入れたエネルギー政策の転換が模索され始めます。その具体的なもののひとつが、ウクライナを迂回してヨーロッパに天然ガスを供給する「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」の建設です。


今後の欧州におけるエネルギー市場を大きく塗り替える可能性のある「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」計画は次週詳しく説明しますので、ここでは概要だけ記しておきます。同計画は、西シベリア北部のガス田からバルト海の海底を通り、ドイツを経由して、英国までガスを運ぶパイプラインを建設しようというものです。2005年4月、ガスプロムはドイツBAFグループと連携し、ウクライナ、ベラルーシ経由でなく、バルト海経由で西欧諸国に直接、天然ガスの輸出を可能にするガスパイプラインの建設を進めると発表。ガスプロムはドイツの企業グループと組んで、ヨーロッパのエネルギー市場のシェアを拡大しようという目論見です。


さて、ロシアとの関係が急激に悪化し経済が失速する中で、特にウクライナ経済を牽引していた東部地域の住民を中心に、ロシアとの関係改善を望む声が急速に高まりました。危機感を覚えたユシチェンコ大統領は、まずティモシェンコ首相を解任。ついでモスクワを訪問し、「ロシアは我々の永遠の戦略的パートナーだ」と発言するなど、ロシアとの関係修復に奔走しました。2006年2月には、内閣不信任案を賛成多数で採択し、同年3月には総選挙で、ロシアとの関係強化を主張する野党が大幅に議席を伸ばし、ユシチェンコ大統領の与党は第三位党に転落し、同年6月に親ロシア派のヤヌコヴィッチを首相とする内閣が誕生し、現在に至ります。


一般的に「ロシア・ウクライナガス紛争」と呼ばれる政治・経済面での攻防は、ロシア側がウクライナに制裁を行ったとの見解があると同時に、ウクライナとの関係強化を狙うアメリカが当時のウクライナ政権を支持したことで紛争が拡大したという見方もあります。「北ヨーロッパ天然ガスパイプライン」が完成すれば供給ルートは大きく変わりますが、現時点ではウクライナへのガス供給が停止すると真っ先に深刻な被害をこうむるのはEU諸国であることも明白になりました。そしてエネルギー資源をめぐる欧州各国の綱引きが、各国の企業グループの明暗を分けることも見えてきたのです。


By Master K/益田 慶