FX検定公認テキスト「外国為替FX投資の黄金律」 → 詳しくはこちら

ヨーロッパの財閥と企業グループ 51 欧州財閥の系譜 ウクライナ財閥

先週のコラムでウクライナにふれたので、今週はウクライナの経済情勢と新興財閥を紹介します。1991年、ソ連崩壊後、独立国としてスタートしたウクライナは、ロシアと欧州の間にあり、ガスや電気などエネルギー供給の大半をロシアに依存しながら、鉄鋼業、重工業、農業などの分野でロシアを戦略的な輸出先としています。ロシアからは、石油大手の「ルクオイル」、アルミニウム大手の「ロシア・アルミニウム」などが積極的に進出しています。


興味深いのは、将来的にEU加盟を狙って西欧寄りで親米派の政策を推進するウクライナの政治家と、ロシアとのつながりの強い工業地帯の東部地方(ロシア語圏)代表の政治家とでは、ロシアとのつきあい方に大きな差が見えることです。ウクライナを支配下に置いてロシア企業の進出、促進を意図するプーチン大統領にとって、親ロシア派の現首相ドクトル・ヤヌコービッチは使いやすい存在といえるでしょう。


ウクライナの新興財閥は伝統的な産業である鉄鋼業や石炭業からでなく、ロシアからの資源仲介業、つまりウクライナの製造業向け電力、ガスなどの輸入資源の仲介が源泉となりました。先週のコラムで紹介した“ガスの女王”ことティモシェンコ元首相は、ロシアの天然ガスの最大手「ガスプロム」からのガス供給権の3分の1を手にしたことで財を築き、政界に進出した人物です。いわば政商です。


1990年代半ば、ウクライナのロシアに対するガスの債務が10億ドルを超えました。そこで採用された政策が、民生用のガスは国家輸入、産業用ガスの輸入は民間企業に委ね、政府の認可を受けた国内の企業だけが産業用のガスの輸入ライセンスが与えられるというものです。その時期に誕生したガスの商社の利益を生み出すしくみは、まさにトレーダーといえるでしょう。


彼らの錬金術は巧みです。ガス商社が製鉄工場へガスを供給する場合、代金を支払えない製鉄工場側は、ガス供給停止の危機を回避するために、ガス代金の支払いとして市場価格はもとより、コストを下回る価格でその製品をガス商社に渡さざるを得なくなり、商社は破格の値段の製品を数倍の価格でガスの供給元、つまりガスプロムに引渡してガスの支払いに代えます。さらに残りを海外子会社を通じて欧米諸国に販売し、外貨を稼ぐのです。


このシステムが完成すると、製造業は独自に市場で製品を販売することができなくなり、完全に商社にコントロールされるようになります。商社は癒着する政府要人との関係を生かし、製造業の民営化の時点でその株式を有利に取得し、企業のオーナーになっていきます。こうして財を蓄え、新興財閥にのしあがっていくと、そのグループの総帥は自らが議会選挙に立候補し、国会議員となって直接国政に影響を与え、より多くの富を求めようとします。従ってウクライナの新興財閥の多くが国会議員なのです。だからこそ政治そのものが新興財閥の利害対立の場と化しているのです。


“ガスの女王”ティモシェンコ元首相のエネルギー政策に対立したのが、鉄管利権まで脅かされると察した新興財閥で、国会議員であるビクトル・ピンチュークでした。前大統領レオニード・クチマの娘婿である彼は、「ウクライナで2番目の富豪」といわれています。持ち株会社「インターパイプ」は世界トップレベルの鉄鋼メーカーを所有し、後述するSCMと組んで鉄鋼会社のグループ化を目論んでいます。また、ウクライナの多くのメディアをコントロールしています。


ウクライナ第1位の大富豪は、ウクライナGNPの13%を叩き出している鉱業地帯ドネツクを代表する、ウクライナ最大の鉄鋼鉱山会社「クリボリシスタリ」をはじめ、工作機械企業や鉄鋼所、コークス製造工場などを支配するリナト・アフメトフです。持ち株会社SCMの9割を所有し、資産総額は170億ドルとのこと。彼はウクライナの親ロシア派野党「地域党」の幹部で、「ウクライナ・サッカープレミアリーグ」の強豪チーム「シャフタール・ドネツク」のオーナーでもあり、将来は首相の座を狙っているとのことです。


By Master K/益田 慶