2008年2月21日 20:20Vision 原油価格100ドル超
WTIの原油価格が100ドルを超え、新高値を更新した。直接的な原因は、需給逼迫のなか、サウジアラビアの増産の可能性が薄くなているという観測があるところにテキサスの石油精製設備の火災のニュースが重なった。
中長期的なファンダメンタルズに短期要因が重なっての高値更新であるが、需給逼迫が続く限り高値更新が続く状況に変わりはなく、100ドル超えは誰もが予測する数値であった。
この原油高はアメリカ経済に深刻な打撃を与える可能性がある。アメリカ・エネルギー省の高官は、現在の高値は一時的な供給不足によるもので、サウジアラビアなどが増産すれば問題はすぐ解決すると言っているが、問題はそんなに易しく解決しない。
アメリカは、サウジアラビアなどは増産の余地が多分にあると読んでいるようであるが、増産にも限界がある。現在の世界の原油生産量は1日1億バーレル前後である。サウジアラビアは1日の増産量を1000万バーレルほど引き上げることが可能であるといわれているが、10年後の石油消費量は、現在よりも20%多い1億2000万バーレルと推測されている。
この数値はもはやサウジアラビア一国では賄い切れず、これまで需給逼迫時に生産調整していたサウジアラビアの生産体制を超えるものである。したがって逼迫時の臨時供給をサウジアラビアに頼ることができなくなるのである。
さらに、サウジアラビアにも思惑がある。原油価格がこのまま上がり続けることが解っていながら産出高を増やして安く売り続けるだろうか。原油が有限資源であることは彼ら自身が最も理解しているところである。だからこそアブダビなどは石油産業以外の産業振興を図るために莫大な国内投資を行っているのである。サウジアラビアも同様である。これまでアメリカと二人三脚で原油価格の安定化を図ってきたサウジアラビアであるが、国内の産業はまだ未熟だ。国民人口1000万人に外国人労働者1000万人、国民に税金はなく、国土開発のための投資はすべて石油収入から賄っている。
中国の石油消費量は年々増加の一途である。国内の勝利油田、大慶油田、ユイメン油田はピークを越え、産油量は減少しつつある。このような状況を踏まえて、中国政府はイランなどの中東、独裁政権下のアフリカ諸国、反米政権のベネズエラなどと輸入契約、開発権の獲得、石油と武器・兵器の交換協定を結んでエネルギー資源の確保に躍起になっている。インドネシアの新規ガス田開発はことごとく中国が落札している。日本の天然ガス最大供給源であるインドネシアでさえもこのような状況なのだ。
原油価格が上昇することで、これまで不採算であった油田も積極的に生産、開発されるようになるのも確かであるが、これまで以上に困難な採掘作業になることは明らかで、増産は容易ではない。メキシコ湾には三次元法など高度な採掘技術を駆使すれば開発可能な油田がまだ多く残っていると予測されている。
このような高度の技術は、アメリカ、イギリス、ノルウェーなどの西側諸国が持つ秘術であり、ベネズエラ、ロシア、イランなどの反米的国家に手渡すことはない。石油埋蔵量の確認が増大したからといって、増産できるとは限らないのである。
さて、アメリカ人の生活は石油漬けであることはご存知でしょう。安い石油があってはじめて生活が維持できているのがアメリカ社会です。
GDP単位当たりの石油消費量は、日本を1とするとアメリカは8、中国は13になるといわれています。石油価格が上昇すると物価上昇に対する弾性値が大幅に違うことがここからわかります。
アメリカの貯蓄率は大変低く、場合によってはマイナス貯蓄率になったりもしています。ちなみに日本の貯蓄率は年々下降していて、現在では7%程度まで落ちています。これに対して中国の貯蓄率は44%にまで達しています。
日本や中国は原油価格上昇分を貯蓄率の低下である程度カバーすることは可能ですが、アメリカはそうはいきません。石油消費を控えれば景気にマイナスに働き、使い続ければ可処分所得が減少してやはり景気にはマイナスです。
個人、政府部門ともに借金が増大します。ドルは益々弱くなり、ドル安によってインフレは昂進します。
これまではアメリカが借金しながらも世界経済を牽引してきたため、ヨーロッパ諸国、日本、中国、アジア諸国、中東オイルマネーはアメリカに投資してきました。しかし、これ以上のアメリカの借金漬けにはついていかないかもしれません。中国、ロシアは外貨準備の相当分をドルからユーロを始めとした別の通貨に転換し出しました。
今後、原油価格の高騰とドル体制を観察する上で重要なのはサウジアラビアの動向です。サウジアラビアは現在、ドルペッグ制を採っていますが、リヤルがドルペッグを外すとドル離れが一気に昂進する可能性がある。サウジアラビアはこれまで常にドルをサポートする体制をとっていた。
ベトナム戦争などで財政が悪化したとき、破たんする危惧があった状況で、サウジ王家はアメリカの不動産、米国債を大量に購入しアメリカ政府を助けた。日本はニクソンショック以来の急激な円高に耐え、保有するドルの減価に耐えることで堪えてきたのです。
現在は、サブプライムローン問題に揺れるアメリカ金融機関の株式を購入することでアラブマネーはアメリカを支援しているが、いつまで続けられるかは疑問です。ドル体制の維持は中国の動向以上にサウジアラビアの動向が非常にに重要なのです。
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