ヨーロッパの財閥と企業グループ 50 欧州財閥の系譜 ロシア財閥 天然ガス

サハリン沖の天然ガス開発には大別して二つのプロジェクトがあります。いや、正確にいえば、二つのプロジェクトがありました。エクソン・モービルと伊藤忠商事、丸紅商事、日本石油資源開発などが出資している「サハリン1」とシェルグループ、三菱商事、三井物産などが出資している「サハリン2」と名づけられたプロジェクトのうち、後者は2006年9月、「環境破壊」を口実にロシア政府が事業中止を命じ、日本企業などが持つ経営権はロシア最大の天然ガス会社「ガスプロム」へ譲渡させられました。


「サハリン1」と「サハリン2」の二つの開発グループは、天然ガスの輸送手段が、それぞれ独自の方式を考えていることでも特徴的でした。「サハリン1」は海底パイプラインの敷設を第一義的に取り入れており、「サハリン2」は、液化天然ガスとして搬送することを掲げていました。


そして数日前にこんなニュースが飛び込んできました。地下資源の国家管理化を進めるロシアは6月1日までに世界メジャー英国BP社が参加する東シベリアのコビクタ・ガス田開発の事業会社から開発ライセンスを剥奪する方針を固めたというものです。経営権をガスプロムに移すのが狙いで、6月6日から始まる主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)後に正式決定される見通し。日本企業が出資していた「サハリン2」に続く強引な国有化方針には、サミットでも批判が出そうです。


コビクタ・ガス田は14兆立方メートルもの埋蔵量が確認されているロシアで最大級のガス田。事業会社にはBP社の現地合弁会社が63%、残りをロシアの投資会社などが出資し、1992年からライセンスに基づいて開発を進めてきました。ところが、ロシア天然資源省は今年1月、開発・生産状況を調査した結果、ライセンスでは2006年に90億立方メートルのガス生産が義務づけられていたにもかかわらず、生産量が3300万立方メートル以下にとどまっていたとして、ライセンス剥奪の方針が事業会社に伝えられたのです。


十分な生産能力があるにもかかわらず既定量に届かなかったのは、ガスの独占輸出権限を持つガスプロムが新たなパイプライン敷設や輸出を認めないため、当初計画していた中国などアジア向けの輸出ができず、生産縮小を余儀なくされたからです。BP社はガスプロムを事業に参画させ、ライセンス剥奪を免れるべく水面下での交渉を開始していますが、最終的に何らかの形で権益がガスプロムに移行するのは確実とみられています。時価総額でBP社を追い抜き、世界第1位のエクソン・モービルにも迫りたいガスプロムは、ロシア政府と一体となってなりふりかまわぬ攻防に出ているようです。


こういった動向に敏感なのは、イギリス、アメリカ、供給先の中国、出資先の日本だけではありません。ガスプロムが欧州に天然ガス輸送する際に通過するウクライナは、常にロシアの動向を気にしながら政策を展開しています。


ウクライナはガスプロム社によって大きな恩恵を受けていると同時に新興財閥が誕生する要因にもなりました。1995年から1997年までロシアからの天然ガスの主要な輸入・卸売業者「ウクライナ統一エネルギーシステム」の社長を務めた“ガスの女王”ユリア・ティモシェンコは、のちに副首相、首相を務めた女性実業家です。1960年生まれの彼女は大学卒業後、レンタルビデオのチェーン店を設立し、最初の成功を収めます。ソ連崩壊後にいくつかのエネルギー関連企業を経営し、ガスの貿易に乗り出します。ここで巨額の財を築き、1996年に政界に進出します。


1999年から2001年まで燃料エネルギー部門担当の副首相を務め、電力市場取引を近代化させ、電力産業から国庫収入を増加させます。しかし、ウクライナ統一エネルギーシステム社長時代の文書偽造・ロシア産天然ガスの密輸入の容疑で逮捕されるものの、釈放後には野党に転じて再起。2005年1月から半年間、短命ではあったものの遂に首相にまでのぼりつめます。現在は政党の代表として活躍しています。

By Master K/益田 慶