ヨーロッパの財閥と企業グループ 49 欧州財閥の系譜 ロシア財閥 天然ガス
先週のコラムでロシアの天然ガス会社「ガスプロム」が時価総額世界第3位に躍り出たことを紹介しましたが、去る5月18日にベラルーシのガスパイプラインを管理する「ベルトランスガス」の株式12.5%を6億2500万ドル(約750億円)で取得したと発表していたことがわかりました。ガスプロムとベラルーシ国家資産委員会が同日契約書に署名した内容によると、ガスプロムは2010年までに段階的に50%を総額25億ドルで取得することで合意しており、今回の契約はその第一弾とのこと。
ベラルーシは日本になじみのない国なので少し説明しておきましょう。ロシア、ウクライナ、ポーランド、リトアニア、ラトヴィアと国境を接する東ヨーロッパの国で、日本ではかつて「白ロシア」と呼ばれていました。
ガスプロムがベラルーシのガスパイプライン管理会社を買収したのは、消費地としてだけでなく、欧州向けガス供給の経由地でもあるベラルーシの輸送網を支配下に置くのが狙いなのです。同社はベラルーシ向けガスの大幅値上げを抑える代わりに輸送網獲得を求めていました。
ロシアと欧州の間にあり、天然ガス輸送の通過点にあるウクライナ、ベラルーシ、モルドバなどは、ガスプロムから恩恵を受ける立場にあります。この3国は、石油やガスをロシアに依存しており、通過点にあることによってトランジット料を得ることができるので、政治的経済的にロシアに依存する形となっています。3国は近年、経済成長を続けるロシアに回帰する態度を鮮明にしているようですが、ガスプロムが果す役割は大きいようです。
ガスプロムは、同社からの税収がロシア政府歳入の約25%を占めている世界最大のガス会社。傘下には、天然ガス生産会社8社、ガス輸送会社13社、天然ガス輸出会社ガスプロムエクスポルトなどがあります。ガス以外の分野でも同社は、多くの傘下企業・組織を抱える巨大企業グループなのです。その分野は、鉄鋼、石油化学、機械、化学肥料、通信、マスコミと多岐に及んでいます。例えば、傘下には、大手化学会社シバー、窒素肥料生産で国内最大手のアグロヒムプロム・ホールディング、鉄鋼会社のオスコリスク鉄鋼コンビナート、ペルムスク・モーターなどがあり、民放最大手NTV株46%を保有しています。
ガスプロムには、国外資産も多いのでグローバル企業といえるでしょう。多くは、国外で天然ガスの輸送・販売を行う企業です。オランダ、ドイツ、フランス、イタリア、ユーゴスラビア、ギリシャ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、チェコ、ポーランドなどに、ガス販売会社、もしくは合弁会社を設立しています。
これには深い理由があります。ガスプロムの基本戦略は、外国市場におけるシェアの拡大です。国内市場は独占しているとはいうものの、政府によってガス料金は低く設定されており、収益を上げることが難しいのです。つまり、輸出を増加するしか方法はないのです。幸い欧州は天然ガスの供給をガスプロムに依存しつつあります。
同社は欧州市場において25%程度のシェアを占めており、「ゆくゆくは50%までシェアを拡大する可能性がある」と予測する専門家もいるようです。主要な輸出先はドイツですが、近年はフランスにも深く入り込んでいます。2006年、同社とフランスGdF社との間で、ロシア産のガスの供給契約を2030年まで延長する旨の協定が調印されました。ガスプロムはいくつかの株式を買う際の協力を期待してフランスGdF社と協定を結んだようです。同様の協定を結んだのは、イタリアとオーストリアのエネルギー会社です。
ガスプロムはこのように数年先のガス供給を安定的に保障することで、欧州でのガス分配網へ進出し、ガスの販路を安定させようとしています。ガスプロムによる欧州の輸送、保管、ガス配給セクターの買収はますます頻度を増してくるでしょう。
By Master K/益田 慶