FXライフ25 中東・アラブ諸国の通貨 イラク、クウェート
互いに隣国となるイラクとクウェートは因縁が深い。1980年代以降、イラクのサダムフセイン大統領は「イギリスによって不当に分離されてきたが、クウェートはイラクの領土だ」といった内容の発言を繰り返し、イラク国境近くにある油田の所有権をめぐって紛争が続いた。
1990年、イラクがクウェートを不法に軍事占領し、湾岸戦争が勃発。さらにイラクは2003年には米国にテロ支援国家と名指しされ、大量破壊兵器保有の疑いでアメリカ、イギリス、オーストラリア連合軍が進攻。フセイン大統領は逮捕され死刑。米国主導の新政府が樹立したが、復興には至らず、国内の混乱は続いている。
一方のクウェートは世界第4位の埋蔵量を誇る産油国。湾岸戦争で大きな被害を受けたが、1994年には戦前の水準まで回復し、現在ひとり当たりのGDPは世界有数を誇っている。
両国とも通貨単位の名称は「ディナール」だ。イラクはイラク・ディナール(ID)、クウェートはクウェート・ディナール(KD)。このディナールを使用する国は多く、中東ではバーレーン、ヨルダン、リビアがあるが、価値はそれぞれ異なる。蛇足だが、イラク・ディナールはイラク戦争以後、フセイン大統領の肖像を描いた紙幣を廃止し、以前使っていた建物や風景を描いたものを復刻した。
国内の混乱が続くイラクとは反対に経済が好調なクウェートは、2005年に10%の経済成長を果たした。現在まで好況が続いているのは、原油価格の高騰による潤沢なオイルマネーの成果である。これによって産業基盤を整備し、福祉・教育制度の充実を図ってきた。またオイルマネーを利用した金融立国を目指して、外国からの投資環境を整えたことで雇用も促進された。この点はアラブ首長国連邦のアブダビやドバイと同じ方向にあるといえる。
余談だが、新年早々、北京オリンピックのアジア大会男子ハンドボール予選の再試合(日本対クウェート)決定のニュースが飛び込んできた。クウェートが正式に承諾したかは現時点で定かではない。ハンドボールのアジア連盟はクウェートの王族に事実上支配されており、審判員はクウェートに有利な判定をするようオイルマネーで買収されていたという報道もあった。ハンドボールの世界がオイルマネーにまみれていることをはじめて知った人も多いだろう。
ところで、いま世界の投資家が気にしているのは、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、オマーンで構成される湾岸協力議会議加盟6カ国が、2010年を目標に共通通貨「湾岸ディナール」の導入の検討を始めていることだ。ペルシャ湾岸諸国がユーロのような共通通貨を作るという構想は、IMFの通貨多極化構想に沿ったものである。6カ国の通貨はこれまで、すべてドルと一定比率の為替を維持する「ドルペッグ」の制度下にあったが、今後2010年までに6カ国の通貨を統合し、2015年にはドルペッグを外す可能性もある。
湾岸ディナールが実現し、ドルペッグを解除すればどうなるのか。中東・アラブ諸国の反米的なイスラム主義者にとっては、イスラム諸国が「米ドル」つまりアメリカに頼る度合いを低下させることにつながるので歓迎するだろう。湾岸ディナールの「ドル離れ」が実現すれば、通貨をドルペッグさせている他のイスラム諸国もペッグ先をドルから湾岸ディナールに変えるかもしれない。あるいは外貨準備保有高をユーロに移すかもしれない。
ご存知のように石油の取引は米ドル建てで行なわれている。イスラム諸国がペッグ先を米ドルから湾岸ディナールに変えれば、石油需要が急増している中国やインドも影響を受け、ドル離れが発生しないとは断言できない。ペルシャ湾岸諸国の巨額なオイルマネーのドル離れが顕著になれば、ドルの基軸性や備蓄通貨としての意味が失われ、世界中でドル売りが起こり、暴落するかもしれない。
あるエコノミストは次のように述べている。「ペルシャ湾岸の経済は石油によって支えられているが、石油価格は投機筋の売買によって予測困難なおかしな動きをすることがよくある。湾岸ディナールがドルペッグをやめ、市場原理に委ねて変動相場制に移行した場合、共通通貨は石油価格のおかしな相場の動きに感染し、湾岸諸国の中央銀行が制御しきれない乱高下を繰り返すのではないか」。
つまり、湾岸ディナールが変動相場制に移行すれば石油マーケットの変動によって経済が混乱すると警告しているのだ。
By Master K / 益田 慶