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ヨーロッパの財閥と企業グループ 35 欧州財閥の系譜 ベルギー財閥

エジプトのカイロに場違いなヒンドゥ寺院風の宮殿があります。現地ではその建物を「カスル・アル・バロン」と呼んでいます。バロンとは地名や人名ではなく、「男爵」という意味です。

この豪邸を建設したのが、ベルギーの実業家エドワール・ルイ・ジョセフ・アンパンです。1929年に他界した彼は、一代にして銀行、電気、鉄道、都市開発などの事業で国際的な大成功を収めました。パリの地下鉄建設に果たした業績によって、フランス政府から「男爵」の爵位を贈られて以降、アンパン一族はフランスとベルギー両国で特別な存在になりました。


このアンパン男爵の子孫は今日、アンパン財閥と呼ばれ、金融と原子力分野で大きな影響力を持っています。ベルギーといえば原子力開発ビジネスの先端を走る国ですが、アンパン財閥は原子力分野に進出する前からロスチャイルド家と深い関係がありました。


初代アンパン男爵とフランス・ロスチャイルド家は、鉄道事業の利権を分け合っていました。アンパンがパリに乗り込んで地下鉄第一号を建設すれば、ロスチャイルドはベルギー鉄道に大きな投資をしました。その理由は、フランス北部まで地下鉄が完成すれば、そこがターミナルとなり、フランス北部とベルギーを結ぶ、ロスチャイルド家経営の「北部鉄道」が潤うからです。こうしてフランス・ロスチャイルド家はベルギーに進出し、アンパンはロスチャイルドの事業を利用しながら資本家にのぼりつめます。


その三代目アンパン男爵が打って出たのが、フランスの原子力産業最大手「フラマトム社」の買収でした。同社はもともと兵器会社で、武器商人として財を築いたシュネーデル一族が支配していました。フランスの原子炉メーカーといえば、実質的に同社のことになります。


原子炉供給メーカーの世界的企業といえば、米国ではGE(ゼネラル・エレクトリック)とWH(ウェスチングハウス)社が著名です。一方、欧州諸国のうちイギリスとフランスでは電力会社は公営で、フランスの電力会社は「フランス電力」しか見当たりません。

電力の供給を原子力に頼るフランス政府は、フラマトム社に資本を提供してきました。ちなみにフランス電力の前身は、フランス・ロスチャイルド家の「北部鉄道」から誕生した電気事業の「北部電灯」が母体となって誕生した「コンパニー・ジェネラル・デレクトリシテ」です。


原子力産業最大手フラマトム社の株は、1975年までWH社が45%、クルーゾ・ロワール社が51%所有していました。クルーゾ・ロワール社はフランスの大手武器メーカーで、そのクルーゾ・ロワール社の株式の半分を所有していたのが、アンパン男爵がオーナーを務めるアンパン・シュナイダー社なのです。
1975年にはWH社の持ち株45%のうち30%がフランス政府へ譲渡され、1982年には残りの15%をクルーゾ・ロワール社が取得。つまり、アンパン財閥が実質的にはフランス最大の原子炉メーカーのオーナーになったということです。


さらにフラマトム社は近年、合理化と多角化に務め、2001年、ドイツを代表する多国籍企業グループ「シーメンス」の原子力部門を統合し、共同子会社「フラマトムANP社」を発足しました。ほかにも核燃料サイクル企業を再編成するなどして、フラマトムを中心に据えた世界最大規模の原子力企業グループが誕生。現在ベルギーはもちろん、南アフリカ、韓国、中国に合計11個の原子炉を輸出しています。
こうしてベルギー出身のアンパン一族は、欧州の原子力開発分野を牛耳る一族になったのです。


By Master K/益田 慶