FXライフ 17 ユーロの歴史と欧州の通貨 スイス
ユーロを導入していない欧州の大国といえば、スイスが挙げられる。通貨はご存知スイス・フラン(CHF)。「金よりも堅い」と呼ばれるほど世界で最も安定した通貨だ。それは国際社会におけるスイスの地位の高さを物語っている。
国内の物価は高いが、賃金水準も高く、国民の貯蓄高も高い。輸入関税率が低く、高級外車が比較的安く購入できるのも魅力のひとつだ。EU加盟の賛否を問う国民投票において、国民の過半数が反対票を投じたのは、すでに裕福な暮らしをしている国民がEU加盟にメリットを見出せなかったということだろう。スイスの主な産業は、精密機械工業(時計、光学器械)、化学薬品工業、金融業(銀行、保険)。日本への輸入品の大半も高級時計、医薬品が占めるなど日本との共通点の多い「ハイテク立国」だ。
2007年3月に連邦経済省経済事務局(SECO)が発表した経済見通しによれば、2006年の実質GDPは前年を上回る2.7%であった。民間設備投資が6.9%増、個人消費が1.9%増と内需が好調だったことに加え、米国、ユーロ圏およびアジア向けの輸出が好調だったことから、純輸出も0.7%とプラスになり、成長に貢献した。2007年については、内需は引き続き堅調だが、輸出の伸びが鈍化することから06年ほどの成長は期待できず、2.0%と予想している。2003年~2004年は失業率が4%台を記録したが、その後の好調な経済を反映して2006年には3.3%まで下がった。そういった意味では、スイスは基礎体力にすぐれた国といえよう。
歴史をひもとけば、山岳地帯にあり、特別な産業のないスイスは17世紀頃から各国の戦争に傭兵を派遣し、外貨を稼いできた。その各国の通貨を両替する必要からスイスでは金融業が発達した。また、戦乱に揺れる欧州各国の王族や貴族、ロイチャイルド家のような金融資本家が資産の安全な預け先としてスイスを選んだことが、スイスで銀行が発展した源流である。
一般に「スイス銀行」と呼ばれる大手プライベートバンクがマネーロンダリングの中継地として使われることでも知られている。口座を開くのに「小国の国家予算に匹敵するくらいの資産が必要」とか「口座維持のため最低でも1000万円(為替相場による)以上の預金が必要である」など、まことしやかに言われることや、多くの国際機関の本部か置かれる特殊な国であることも、すべてスイスが永世中立国であることが大きく影響している。
他国から攻められる不安のない国に国際機関やプライベート銀行が集まるのは必然といえよう。しかしスイスは「国民皆兵」を国是としている重武装の国家で、正規軍は高度な装備を有している。徴兵制度により20~30歳の男子には兵役の義務がある。学校やビルに核シェルターが装備され、男性の大半が予備軍人であるため各家庭には自動小銃と銃弾が支給されるなど、民間防衛力があるから永世中立が維持できるのである。ちなみに地区単位で設置されている武器庫には、対戦車火器や追撃砲などが収められているという。日本人にはにわかに信じがたい光景である。
隣国の小国リヒテンシュタインもスイス・フランを通貨として使用している国だ。小豆島ほどの面積で、人口は約34,000人。非武装永世中立国を自称しているが、実質的にはスイスの保護国であり、スイスとの間にパスポートは必要なく、住民も旅行者も自由に行き来できる。
リヒテンシュタイン家が元首であることから、欧州では数少ない絶対君主制の国だ。外交と国防はスイスが代行している。起源をドイツ系貴族家に持ち、14世紀からはオーストリアの領主ハプスブルク家に仕え、自らも領土を保有した同家が国外に持つ所有地は国の何倍もの面積になるという。国から歳費を支給されておらず、経済的に完全に自立しており、同家の資産総額は約30億ユーロ(約4800億円)とのこと。ドイツに本拠を持つ資産管理銀行リヒテンシュタイン銀行が、同家の財政を支えているといわれている。小国とはいうものの、現在ではスイス同様、精密機械産業や義歯、銀行・投資のビジネスが盛んな国で、これらの産業がリヒテンシュタインのGDPのほとんどを占めている。
By Master K/益田 慶