ヨーロッパの財閥と企業グループ 14 ロスチャイルド家の興亡 パリ・ロスチャイルド家
今回はワインの話をしましょう。もちろん、ロスチャイルド家と深くかかわるワインにまつわるエピソードです。金融業を中心に幅広い事業を展開するロスチャイルド財閥の事業の中でひときわ異彩を放つのが、ワイン製造販売事業です。
ワインに詳しくない人でも、世界で最も有名なワインの産地「ボルドー」という名前を耳にしたことがあるでしょう。フランス南西部ボルドー地域で産出される赤ワインは、伝統と品質に裏づけされたワインとして世界中のファンに愛されています。では、その赤ワインの中でさらに美味とされる第一級(プルミエ・クリュ)の格付けはご存知でしょうか?
1855年に決定された4大ブランド(シャトー)が「シャトー・ラフィット・ロートシルト」「シャトー・マルゴー」「シャトー・ラトゥール」「シャトー・オー・ブリオン」です。最初に挙げた「ロートシルト」とは、ドイツ語で「ロスチャイルド」という意味です。
パリ・ロスチャイルド家がボルドー地方のメドックにある「ラフィット」のブドウ園を買ったのは1868年。フランスの鉄道事業に進出して成功し、“鉄道王”と呼ばれた2代目ジェームズが死去する直前のことです。売りに出されたブドウ園が高価であったために買い手がつかなかったものを、競売でパリ・ロスチャイルド家が購入したと伝えられています。金融業に長けたロスチャイルド家だけに採算の見込みは十分にあったのでしょう。
実はその15年前の1853年、隣接する「ムートン」のブドウ園を、ロンドン・ロスチャイルド家のドン、ネイサン・ロスチャイルドの三男ナサニエルが購入していました。1855年の格付けでは、「ムートン」は二級という格付けでした。
パリ・ロスチャイルド家が「ラフィット」のオーナーになり、努力もせずに一級の格付けを獲得したことに、ロンドン・ロスチャイルド家は不快感を示します。欧州に放たれた五本の矢は、互いにライバル心を燃やしながら競い合っていたのです。そしてロンドン分家とパリ分家の「ワイン戦争」が始まります。
ロンドン・ロスチャイルド家は「ムートン」を第一級に格上げすべく、いろんな手を打ちます。土壌の改良や品質の向上に加え、ラベルを世界的な芸術家の絵に切り替えたのもそのひとつです。ピカソ、ダリ、ミロ、シャガール、ゴーギャンらの絵が毎年ラベルに登場し、ボトルを並べるだけで「名画コレクション」になったのです。ロンドン・ロスチャイルド家は古めかしい格付けを改定しようとフランス国内で呼びかけます。一方のフランス・ロスチャイルド家は「ムートン」を除いた4大ブランドと組んで、既得権の防衛に動きます。
そして1973年、ついに格付けの再検討が行われ、「ムートン」が第一級に格上げされたのです。他の多くのワインについても検討されたにもかかわらず、「シャトー・ムートン・ロートシルト」だけが昇格した背景には、ロンドン・ロスチャイルド家の政治力が使われたと見られています。
こうしてロスチャイルド家は、結果として「ラフィット」「ムートン」という二つの第一級ワインのオーナーとなったのです。これを好機と捉えた、パリ分家のエドモンはワインのカタログ販売で成功を収め、ロンドンのフィリップはムートンにワイン美術館を建設し、観光地として開発したほか、カリフォルニアにも進出し、現地に合弁事業を立ち上げ、カリフォルニアワイン「オーパス・ワン」に「ムートン」のノウハウを投入したのです。「オーパス・ワン」は現在“カリフォルニアワインの父”と呼ばれ、カリフォルニアが生んだスーパー・プレミアムワインとして日本では1本25,000円前後で販売されています。
一方「ラフィット」オーナーのパリ・ロスチャイルド家はポルトガル、チリでもワインビジネスに進出しました。ビジネスチャンスと見れば、どんどん先行投資をしていくのが、ロスチャイルド財閥の手法です。ロスチャイルド財閥には、「ワイン財閥」という横顔もあるのです。
By Master K/益田 慶